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半年間通い続けた窪田は既に一千万円以上の金をパープルに落としていた。
ただその程度の金は窪田にとってどうでもなる金額であった。
志保とねんごろになるのが窪田の望みであったが、アフターに誘っても毎回身体の関係はうやむやにされてしまう。
しかも酒で酔うことがないから、隙が見えないのだ。
その志保から携帯にメールがあったのは火曜日にパープルに行ってから三日がたった金曜日の夕方だった。
志保の方から連絡があるのは初めてではない。
同伴で出社する時には必ず連絡をあるいれてくる。
ただし今回のようにメールで来る事は初めてだった。
おそらくパープルに行く前に他の客との同伴中で、その時に他の男性と携帯で話をすることが失礼になると判断したのでメールにしたのだろう、と窪田は察した。
窪田の知っているところではこの半年間は週末の金曜日と土曜日は必ず同伴を入れていた。
もちろん上客としか同伴はしない。
しかも八時きっかりには店に一緒に入って出来るだけお金を落としてもらう。
それが無理な客とは同伴はしない。
銀座のクラブのママとはそういうものだと志保は悟っていた。
志保が窪田にそう話してくれたことがあったのだ。
志保はこのパープルに全てをかけているのかと窪田は思った。
できるならこのパープルをもっと一流にして金を儲けさせてやりたい思っていた。
その上で一緒になれるのが窪田の望みでもあった。
窪田は志保の目が一番好きだった。
志保に見つめられると全てを見透かされているみたいで、魂を吸い取られる感じがした。
でも自分に持っていないものを何か持っていそうで不思議な女だった。
(よし、今日は志保が同伴で店に入る八時前に店に行ってやろう!)
そう思った窪田は八時前にパープルに行き志保が店に入るのを待った。
窪田はだいたい一人でパープルに行く。
以前仕事の関係者と何人かで行った時に志保に一目惚れをした男がいて、それからその男とギクシャクしたことがあり、それ以来パープルに人を連れてくる時は志保と一度は体の関係を持ったのちに連れてこようと決めていたのだった。
その日からなんとか志保と付き合いたいと思って通っていたのだが、ようやくチャンスが巡ってきたかもしれなかった。
不動産の話がまとまれば金は入るし志保との仲も進展する可能性はある。
そう思っていると待っている時間さえ長く感じる事はなかった。
「クーさん、お待たせ!
同伴のお客さんがなかなか離してくれなくて、待たせちゃったわね…」
窪田の耳元に手をかざして他の人には聞こえないような小声でささやいた。
その仕草がなんとも言えないセクシーさで、それだけで窪田は少し笑みを浮かべるほどであった。
「ごめんなさいね!
そのかわりいい話を持ってきたから…」
そう言って先ずは乾杯をしてから本題に入った。
志保の話によると、今回取引対象になっている物件は恵比寿駅に程近い土地のことであった。
地積は三百五十平米を有し売価は八億円を下らない物件らしい。
坪単価は一千万円を超えるこの辺りの土地の相場で七億円で話が来ているとのことだ。
現況は築五十年以上経過した二階建ての空き家で庭の手入れとか全くできていないらしい。
都心の一等地でありながら古びた民家に独居老人が住んでいてなかなか売る意思を見せなかったのだが、ようやく売る意思を見せたと志保のところに連絡が入ったらしい。
どのような情報網を持っているのかを聞いたところでどうせ有耶無耶な答えしか返ってこないのだから、あえて聞く事はしなかった。
その土地は複雑な権利関係などなく、抵当権も設定されてはいない。
そこまで話を聞いたところで窪田は明日以降改めて話を聞くことにした。
土地に関する話は出来るだけ早めにしなくては商談が流れる事は多々ありうる。
出来るだけ早く、そして大金が動くので確実に行動することが求められる。
いくら志保が持ってきた物件だといっても、すぐに飛びつくわけにはいかなかった。
ただ、前回の塩松建設のこともあり、出来るだけ早く行動するつもりの窪田であった。
その日はそこで仕事の話は打ち切り、楽しく飲み直すことにした。
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