ファイナルトリック

黒崎伸一郎

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ファイナルトリック

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番組が終わった後ケントは憔悴し切った状態で何も喋れなかった。
岡島は救急車を呼んで病院に入院させた。
番組は大成功だったがケントはそれ以来マジックができる状態ではなかった。
しかしこれでまたケントの名は世界的に有名になり二十一世紀に名を残すマジシャンとなった。
ケントはあの番組を最後にマジシャンとして一切舞台に立つことはなくなった。
そして二度とテレビにも出ることがなくなったのだ。
岡島はこの番組で高視聴率を取ることができ、名ディレクターと言われて他のゴールデンでの番組も任されるようになり今も忙しく活躍している。
岡島にとってケントは自分をここまで上げてくれた恩人だから連絡を取りたいと思い連絡するが、あれから携帯をも変えたようで連絡すら取れない。
だがケントのマジックは本当にテレポートだったのだろうか?
世間ではそれは今もわからないままである。

最初の方でケントの母は三姉妹と告げていたが実は三つ子だったのだ。
しかもケントの父、未来はその中の二人を囲っていた。
まだ金を自由に使えていた時で二人を同じ頃に妊娠させたのだ。
焦った未来はリーナだけ認知する格好にして姉は認知さえもしないまま姿を消してしまったのだった。
結局姉は母国フィリピンで子供を産んだのだがその産んだ日はケントを産んだ日とほとんど変わらなかった。
しかしその事実はケントは知らなかったのだ。
TV<マジックで世界を取れ>はフィリピンでも放映され、それを見た姉の子供マッキーニがケントに連絡をしてきて初めて従姉妹であることをケントは知ったのだった。
ただこの事実でケントはテレポートはマッキーニを使ってすることに決めたのだがその時はまだ愛する志保がいた。
志保との温かい人生を夢にまで見ていたのだがそれを無残にも詐欺られてしまったのだ。
純情なケントはその愛が全てだと感じていた。
本当に志保が全てだったのだ。
その愛する人に騙されて何もかも終わったと感じたケントはせめてマジックだけでも、このテレポートだけでも成功させたいと思ったのだった。
そこでフィリピンからマッキーニを日本に呼び出し自分と入れ替わることにしたのだ。
マッキーニがケントになり変わりマッキーニの指紋でフィリピンに行きまた戻ってくる。
その時の指紋はマッキーニの指紋だったのである。
飛行機に乗り込んだのはケント本人で東京のスタジオにずぶ濡れで現れたのがマッキーニのだったのだ。
スタジオでほとんど喋らなかったのは喋らなかったのではなく喋れなかったのである。
その場でペラペラ喋るとケントではないことがすぐにバレてしまう。
だからずぶ濡れのまま救急車で病院に運ばれたのだった。
ではいったいケントはどこに行ってしまったのか?
上空千メートルからの落下はやはり衝撃は半端ないものだった。
ケントも百も承知であった。
だから命をかけたマジックであったことは間違いはない。
マッキーニにもその旨は伝えていた……。

そして
三年以上年月は過ぎ新しいマジックが次々とで出てくる中、新聞にある記事が小さく掲載されていた。
駿河湾の海上で漁をしていた船が人の骨が浮いているのを見つけた。
どこから流れてきたのかさえ不明であった。
ただその骨は腕に手術の跡があったことが記されてあった。
よく調べたが結局警察も誰の骨かはわからずじまいで処理されることになった。

それがケントであるかは……もう誰も知ることはできない!

        完
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