ファイナルトリック

黒崎伸一郎

文字の大きさ
上 下
18 / 30

マジックショーまで…あと…10日

しおりを挟む
マジックショー開催まで後十日となった。
弓川の死んだ事件について警察が殺人事件と断定した。
弓川の死体からハルシオンの成分が出たのだ。
当時弓川は睡眠障害で医者から薬を処方されていたが弓川が処方されていた薬はレンドルミンという薬で成分が全く違う。
そして現場の足跡と車のタイヤの跡が殺人を裏付けることとなった。
まだ犯人は断定されてはいないが犯人は薬で弓川を眠らせて山中に連れて行って木の枝にロープを垂らし自殺に見せかけて殺したとらしい。
足跡が弓川以外に一つだったので犯人は男性の単独犯と思われた。
弓川は大柄ではないが六十キロはある。
それを一人で木にぶら下げて釣り上げるには女性の力ではできないと判断された。
スニーカーのサイズも二十七センチで男性と見るのが妥当だった。
弓川は恨まれることが多々あって警察はなかなか犯人を絞り込むことができなかた。

弓川がいなくなったことでサブディレクターからディレクターに昇進した岡島に警察の目が向いていた。
岡島は大学を卒業してすぐにNNNテレビに入社して長いことアシスタントディレクターを務めていた。
アシスタントディレクターとは名前は立派だがディレクターの手伝いをする人、言い方を変えれば使いっ走りみたいなものだった。
特にディレクターの弓川は傲慢で人使いが荒く小間使いのように岡島を使っていた。
岡島はディレクターになる夢を持っていた。
我慢して頑張っていけば何とかしてなれると思っていた。アシスタントディレクターはAD、演出補助、演出助手、演出補佐とも呼ばれ今ではアシスタントのまま一生終えるというのも珍しくはなかった。

年収はまちまちだからNNNテレビでは三百五十万円ほどで毎日休み無くこき使われ事あるごとに弓川に罵倒された。
警察は岡島を最有力犯人に入れていたが、
その日にはケントとスタッフとのミーティングというアリバイがあったため依頼殺人の可能性があると思いその線でも調べていた。
だが依頼殺人の場合は携帯かパソコンでの殺人依頼が一般だがいくら調べてもなかなかそれらしきことは出てこない。

警察は殺人と断定してから一ヶ月以上たった時に容疑者を三人に絞り込んだ。
ディレクター岡島、志村ケント、
そして山下クリニックの医師山下である。
山下クリニックの山下とはいったいどういう人物なのか…?
実は弓川は睡眠障害で山下クリニックに通っていた。神経質でなかなか眠ることができなくて病院で眠剤を処方してもらっていたのだ。
何故山下が容疑者として浮かんだのかといえばもちろんクリニックで処方していたレンドルミンとは別にハルシオンが弓川の胃から検出されたからである。
山下なら眠剤はすぐに手に入る。
警察が詳しく調べたところ山下クリニックの眠剤の量が合わなかった。
警察は山下の犯行として山下を逮捕した。

だが最初は山下には全く動機がないとして容疑者のリストにさえ入ってなかった。
繋がりがわからなかったのだ。
クリニックに毎月通っているとはいえドクターと患者の関係で全く関係ないと思われた。
実は弓川は五年前に山下の娘、美雪と付き合っていたのだ。
当時山下はまだ自分の病院を開業しておらず精神科の医師として働いていた。
美雪は大学生でテレビ局でアルバイトをしていた。
当時ディレクターになったばかりの弓川はディレクターとしての立場を利用して可愛いバイトばかりを狙い関係を持った。
ディレクターとしての手腕はあったが女好きで飽きっぽい性格だった。
美雪は割と平凡な女の子だったが一途で弓川と付き合っているとばかり思っていた。
遊びだと知った美雪はリストカットをして病院に運ばれた。
自殺未遂である。
幸い死には至らなかったがそれ以来仕事にも行けず自閉症の日々を送っていた。
山下は弓川を憎んだ。
殺してやりたいとも思った。
だが決して犯罪者ではない弓川を警察も法律も裁く事は出来なかった。
五年間過ぎた時に山下は弓川と再会した。
弓川が新しく開設した病院に患者として来たのだ。
山下の顔を見ても美雪の父親とはわからない。
美雪の名前さえも忘れていた。
もう五年も前のことで何人も女を変えていた弓川は覚えているはずはなかった。
五年たった今でも同じように女遊びをしていた弓川に山下は殺意が芽生えた。
今現在も美雪は外出することがなかなかできない。
それなのにこの男は……。
山下は通院に来た弓川を巧みに薬を飲ませて意識が朦朧とした弓川を車に乗せて山中に連れて行き殺したのだ。
山下が殺さなくてもケントが殺してしまったかもしれない。
もしくは岡島が……?
だが現実は山下が手を下してしまったのだった。
弓川は誰かに殺される運命だったのだろう。
いろんな人に恨まれることをおこなって来たのだから…。
ただ山下の逮捕でこの事件は終息した。
しおりを挟む

処理中です...