ファイナルトリック

黒崎伸一郎

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マジックショーまで…あと…13日

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ディレクターの岡島はプレッシャーに押しつぶされそうになる自分を平常心に持っていくことがなかなかできなかった。
岡島はケントを信用していたしなんとか信じ続けようとした。
だが今回のマジックショーのことだけはどう考えても無理だと思った。
マジックショーの日まで誰にも言わないとケントと約束をしていた。
ケントの今回のマジックは前回約束したテレポートだが今回は民間の飛行機を借りて静岡県の駿河湾の真ん中で上空から飛び降りて水面に落ちた後でテレポートで生還する企画だった。
何故駿河湾なのかと聞けばそこは日本一水深が深い場所として有名で最深部は二千五百メートルとも言われている。
そこに頑丈に鍵をかけた檻に入った状態で飛行機から檻ごと落とすということだった。
このマジックのトリックはどうするのかとケントに聞くとそれは答えられないと言ったのだ。
いろんなマジックを見てきたがそんな危険なマジックは見たことはもちろん聞いたこともない。
飛行機で上空に飛び上がり降りてくることでさえ万全の態勢で望まなければならないのに
それをリハーサルさえせずにぶっつけ本番でいくという。
岡島はそんな危ないことは自分にだけでも種明かしをしてもらわないとできないと告げた。
だがケントは絶対に大丈夫だからと言って聞かない。
せめて水面にスタッフを待機させてくれるように頼んだがそれもいらないと言い切った。
岡島はケントに何かあったらいけないので絶対に誰にも言わないから自分だけにはタネを教えて欲しいと何度も何度もお願いした。
だがケントはそれはいくら岡島さんでも言うことはできないの一点張りであった。
「岡島さん…。頼む。このとうりだ……!」
ケントは岡島の前で膝をついて土下座をして頼み込んだ。
岡島は万一にでも死人が出るかもしくは大怪我をされたらディレクターとして自分の責任になってしまう。
それだけは避けなければならなかった。
「ケントさんが百パーセントの確率とおっしゃらないとこのショーは許可することはできません!」
岡島は万一にでも失敗するということは絶対に許されないのだ。
何度も同じ質問をケントにしたがケントは絶対に戻ってくると約束をした。
今回の特番はケントのショーが目玉の半年前から告知してきた番組である。
岡島としてもパフォーマンスは大きい方がいい。
ケントの自信に賭ける他なかった。


岡島はケントに了解を得てスタッフに今回のケントのショーについて大体の概要を話した。
「ケントさん今回のテレポート、飛行機から檻に入ったまま落とされるってマジックだけど海面にスタッフ誰も置かなくていいっていられてるんだけどリハーサルもなくてぶっつけ本番なんて大丈夫ですかね?」
スタッフの一人が岡島に疑問をぶつけた。
「こっちが聞きたいくらいだよ…!
昨日ケントさんと話をした時に、いくらお願いしてもそのトリックを話してもらえないんだ。マジシャンにとって種明かしはタブーなのはわからないでも無いけど今回のは命が懸かってるから気が気じゃないんだ」
岡島は心配そうな顔つきでそう話した。
「だけどケントさんが万に一にも失敗しないっていうんだから僕たちはそれを信じて精一杯ショーの成功の為に頑張っていくしかないんだけどね…」
岡島を囲むスタッフ全員は岡島の顔を見ながらただ頷くのが精一杯だった。
とはいえゴーサインを出していたのだから一大イベントの大成功に向けて準備は怠らないようにしていた。
ケント以外のショーのメンバーは本番の一週間前にリハーサルをする予定でその場にケントも出席する予定になっていた。
現場はリハーサルに向けて慌ただしさを増していた。
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