ファイナルトリック

黒崎伸一郎

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セカンドトリック①

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ケントは後2ヶ月で開催されるマジックショーについてはまだ弓川には考えが決まっていないと伝えていた。
だがケントには弓川の知らないトリックをもう用意していたのだ。
だがこれを弓川に知られてしまうとまたこれからも弓川の言いなりになり続ける。
それはケントにはもう耐えがたい事であった。
まだまだエスカレートする弓川の要求に従っているフリをしながらチャンスを待つケント。
弓川はケントのマジックショーはテレポート無くして成功はないと確信していた。
マジックショーの開催までもう2ヶ月と迫る中ケントと会う約束をしていた。
番組のスタッフ3人と合わせて5人でのミーティングの予定だった。
時間が過ぎても弓川だけ出席して来ない。
「どうしたんですかね?
携帯に連絡しても電源が入ってないんですよ!
いつもあれほど時間には厳しい弓川さんにしては珍しいですよね…」
スタッフの1人が今までミーティングでは遅れたことのない弓川が連絡もして来ないことに不安がっていた。
30分以上待ったところでサブディレクターの岡島が痺れを切らしてこれ以上待てないとの事でマジックショーの進行について話を始めることにした。
ケントの出演は番組の最後、つまりトリを務めることになった。
番組としてはメインがケントのショーであることは間違いなかった。
岡島は「ケントさん、前の回と同じようにリハーサルなしでの本番でよろしかったですよね…!」
「ああ…、リハーサルをやるだけの製作費はこの番組にはないだろう…?」
今回のテレポートは飛行機を使って行うとケントからの要望があり一回にかかる費用が数千万円かかるとされていた。
それをリハでかける金は番組から捻出できない。
だからぶっつけ本番でしかできないのだ。
弓川がいなくてもサブの岡島は本番の段取りを決めていかなくてはならなかった。
「どうしたんでしょうね?弓川さんは…?」
岡島を退けた2人のスタッフが同時に口にした。
こんな大事なミーティングに弓川が
来ないはずはない。
弓川にとってこの番組は自分のディレクターとしての全てを賭けると言ってもいいくらいの大切な番組である。
それに出席しないばかりか連絡すらないなんて、皆考えられなかったのだ。

結局その日弓川からの連絡はなく携帯も電源が入ることはなかった。
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