ファイナルトリック

黒崎伸一郎

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悪魔の囁き

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次の日弓川から携帯に連絡があった。
仕事のオファーをもう少し受けろとの事だった。
弓川には仕事の金半分を渡している。
まだ半年余りだが五千万円は下らない。
弓川はもともとギャンブル好きで多額の借金もあった。
ケントの成功のお陰で一度は全額返金した。
だがそのギャンブルの癖は治らず一層増したのだった。
ケントは弓川にギャンブルを止める様に何度も注意したが全く聞く耳を持たない。
ギャンブルをやらないケントには負けると分かっているゲームを何故やるのか理解できなかった。
TV番組でのテレポートのトリックを知っていたのは番組ディレクターの弓川とケントそしてジェーン岡田の3人だけだった。
弓川はテレポートのトリックをバラされたらケントのマジシャンとしての人生は終わりだと思っていた。
だからケントに対して無理難題も言うことが許されると思っていた。
ケントの人生は弓川が握っていると自分では思い込んでいた。
次回のTVでのマジックショーでは弓川の思惑は前回と同じ様なシチュエーションでいくつもりだった。
ただもっとスケールを大きくして視聴率を取らねばならなかった。
その弓川に誤算ができた。
次回のマジックショーではジェーン岡田が特殊メイクを断ってきたのだ。
ジェーン岡田は特殊メイクをすることによって弓川とケントが視聴者を騙すということになるのが嫌だった。
最初の特殊メイクの場合は弓川に事情を知らされていなかったがケントがテレポートをやった事で同じように騙した側にいることが耐えられなかったのだ。
ただしジェーン岡田はこの事はマスコミには話さないと約束した。
自分がやった事は視聴者を騙したことだったがマジックとしてはそういうトリックがあるのは理解していたからだ。
だがこれで弓川の思惑は崩れた。
次回のケントのマジックショーの出演に赤ランプが付いたかに思えた。
弓川には他の方法が思いつかなかったのだ。
焦った弓川はケントに何とかならないかと相談した。
ケントはこのチャンスを待っていた。
今回なんとか細工をしてテレポートを成功させたとしても弓川には必ず強請られ続けることになる。
ここで弓川がいなくなれば誰にも遠慮することなくマジックができる。
そういった悪魔の囁きがケントの心に湧いてきたのだ。
どうやってバレずに弓川を亡き者にすることができるか?
それだけをケントは毎日考えた。
必ずできるトリックがある筈だった。
  
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