勇者リスキル

ラグーン黒波

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【第三章】計略神との知恵比べ

【第五節】君の苦しみに酔いしれる

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「――――以上が、本日の【勇者】とヘルメス様の動向にございます」

「ご苦労様、ククリ。最近は君からの報告がとても楽しみでね。早く君が僕の元へ来ないかワクワクして待っているんだ」

「光栄です」

 目の前に膝舞付くククリからの【勇者】一行の報告を聞き、神酒の入った黄金の杯に口付け余韻に浸る。ヘルメスが余計なことをすれば必ず大きな変化が生じる筈だが、現状はヴォルガードの統治する国へ緩やかに進行し続けている。町や村の人間達と交流し、周辺の脅威となる魔物達を排除。弱き人々はより強く結束し、神より力を授かった【勇者】を敬い、感謝する。実に……実に順調じゃないか、今回は。
 この調子で広げていけ。【勇者】の存在、神の力をより多くの民へ伝えていくんだ。たとえ今回も道半ばで倒れようとも、【勇者】を【魔王】や君に連なる魔物達が倒したなら、そこからより深く人間との関係に亀裂が生じる。君が彼を拘束するにしろ殺すにしろ、全てを包み隠し【温厚な魔物の王】として振る舞うことは今後より難しくなるのだから。

「ああ……君はどんな表情をし、どんな感情を抱いているんだろうっ!? 同族を殺されていく憎しみ? 今後の人間達との交流が難しくなっていく事への焦り? 今までは【勇者】と【天使】が表立つ前に密やかに対処できていたようだけど、一度表沙汰になれば取り繕って来たものは揺らぎ、人間との境界や均衡も崩れていく」

「………………」

「剣や槍を持って敵陣へ攻め込むのだけが戦いじゃない。僕はその後の事を含めて、ヴォルガードの国を確実に傾けようとしている。わかるかい、ククリ?」

「はい、タナトス様。土地、民、統治者。三者の均衡が保たれることで、大国は成り立ちます。そして神の加護を受けた【勇者】という一石、【魔王】を快く思わぬ民と慕う民とを衝突させるに十分な要素になり得ます」

「うんうん。だから【勇者】の進軍自体は【上手くいかなくてもいい】んだ。ただ己が守ろうとしている魔物の民さえ、判断をあぐねる平和主義の彼に苛立ち、内部から反旗を翻す可能性もある。人間も魔物も決して一枚ではないけれど、共通の【強大な敵】を仕立てあげれば団結も容易い」

「【地上界】の民にも狡猾な者はおります故、【勇者】の活躍を好機ととらえ、ヴォルガードへ攻めようと試みる他国もいるかと。因子を発見した場合はいかがいたしましょう」

「そうだね……ククリはこれまで通り、監視と報告してくれさえすればいい。彼らがどう【地上界】に変化をもたらし、新たな統治を行うか気にもなる。ただし、【勇者】を配下へ取り入れようとするのは僕が赦さない。彼は僕の駒だ。他人の手に渡るくらいなら、君とヘルメスで【勇者】を処分してくれ」

「承知致しました」

 盃の神酒を飲み干し、白い玉座の背もたれへ頭と背を預ける。本当に良い気分だ。ヘルメスを従者として、【勇者】と組ませた僕の判断は正しかった。気紛れな彼だけに、言いつけを守れるかどうか不安でもあったものの、ククリの報告を聞く限りなんら問題ない。君と友になれたことは幸運だ。気ままに【勇者】をそそのかし、周囲をかき乱してくれ。

「では、失礼いたします」

「……あ、一つ言い忘れてた。君が不在の間に言伝を頼まれていてね、【ルシ】が君の事を探していたよ。他の仕事へ赴く前に、彼の元へ立ち寄るのを忘れずにね」

「【ルシ】様が? ……承知致しました」

 【ルシ】の名前を聞いたククリの表情がやや曇る。彼女の交友関係は把握していないが、叩き上げる形で神々と同等の権限を手に入れた彼を快く思っていないのは取り巻く空気でわかる。かく言う僕も神に対し生意気に言伝を頼み、【地上界】の統治を一部任されているに等しい【ルシ】の存在そのものを目障りに感じる。

「神に代わる【天使】……彼という存在が面白くないのは、君一人だけじゃない。僕も同じだ。【天使】としては【非凡な才能の持ち主】であることは認めているけれどね」

「!! 私は……――――いえ、失礼致しました。」

「?」

 一瞬、彼女の目に憤りに近い感情を感じるも、直ぐに瞼を閉じ、再び開く頃には平静に戻ってしまった。物静かなククリをここまで燻らせるとは。……彼女の感情を育むうえで、【ルシ】と関わりを一つ二つあえて持つのは面白そうだ。
 さて、ヘルメス。【地上界】へ降りたことで神格が落ち、【勇者】のお守りも大変だろうけど、まだまだ僕の為に動いてもらうよ。
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