勇者リスキル

ラグーン黒波

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【第三章】計略神との知恵比べ

【第一節】トリックスターな神様

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「――――へぇ? それは本当かい?」

「はい。アーヴェイン国内での【勇者】の働きはすさまじく、死亡した魔物は大小合わせ一万以上。国内全体の士気は下がり、特に工場区画が叩かれたことで復旧は遅れる見込み。しかし、共に潜伏していたと思われる【シス】からの連絡は無く、【勇者】と彼女の魔力も弱まり先日完全に辿れなくなりました。死亡したと考えてよいでしょう」

「そうか……そうかぁっ!! ああっ、ヴォルガードっ!! 君は今どんな気分に浸っているのかなっ!? 是非とも直接訪ねてその表情を拝見したいよっ!!」

 【天使・ククリ】の報告を聞き、心と声が歓喜に震えた。ようやくこちらの用意した駒が君へ届いて、君の大切な物を壊せたんだ。難攻不落にして平和の象徴とも言われる君の国を穢し、壊す。これ以上に愉快な遊びなんてない。ただ……気掛かりなのが、どうやって【勇者】とシスが短期間で【祠】から遥か遠くの国内へ侵入したかだ。【勇者】へ与えた【神器】も想定外に力が膨れ上がっていたようだし、選別した魂に何らかの特異な素質があったのか?

「ククリ。今回は初めて手段を変えてみたわけだけど、この結果をどう思う?」

「? と、言われますと……」

「僕はもっとこう、ゆっくり攻め上げていくものだと思っていた。欠点はあるが強力な【天使】を随伴させてたし、【勇者】の急激な成長と戦果も目を見張るものがあった。けど、これじゃない。彼の国へ直接火を注いでも、それ以上外へは燃え広がらないんだ。【神々の祠】を始まりの地に、戦火を世界中へ広げさせる。そして初めて僕の【歴史】は創られるんだ」

「では、どのようになされますか? 純度の低い魂より優秀な魂を選別し、【勇者】へ仕立て上げることも神々の目を掻い潜れば可能ですが」

「そうしたいのは山々だけど、それをやったら流石の僕も頭のお固い奴らに咎められる。それになるべく【何もない】方が素直に従ってくれ易いしね。刺激や特別に憧れる凡人は幾らでもいる。狡い奴ほど力を悪用しようと模索するし、何も秀でていないぐらいでいい」

 かつて火を扱う事を人々へ諭し、【神々の火】を無償で分け与えたプロメテウス。彼の管理下にあった【地上界】は、原初の【神々の火】を求めた戦争により混沌を極め、ついには神を堕とさんと【地上界】から【天界】へ進軍してきたことが過去にあった。プロメテウスは捕らえられ権能を剥奪。彼の玩具と彼の管理していた【地上界】は、【ラグナレク】で綺麗に消滅させられた。玩具如きが神々へ反逆し、その力を奪おうなど浅ましい。
 僕は彼の様にならない。【勇者】へ与えるのは、あくまで匙加減内でこちらに逆らえない程度の偽りの力。だが、それだけでは戦火を広げることは出来ず、随伴の【天使】までも未だに使命を完遂した者はいない。やはり随伴者の【天使】をより強力な者へ変えるか、もしくは【勇者】を同時に【地上界】へ送り出すか。

「やぁっ、タナトスっ!! 遊びに来たよっ!! 俺のあげた【チェス】は楽しんでくれてるかい?」

 ククリの背後から歩いて来る、青い旅行帽にサンダル姿の明るい緑髪の男神――同盟者であり、友である【ヘルメス】だ。やんちゃで好奇心旺盛な彼は、神々の使いっぱしりとして【天界】の【天使】達を取り纏めたり、知恵に遅れのある他の神が管理する【地上界】へ降りたっては人になりすまし、些細な浅知恵から文明一つを築き上げるまでの発展へ関わるなど、一部の神々からは煙たがられる青年神。
 僕にとっては様々な遊具や玩具、愉快な話を提供してくれる楽しい友だ。今日はどんな話題を届けに来てくれたのかな。

「やぁ、ヘルメス。この前は興味深い遊具をありがとう。ククリにみっちり教えてもらって、ようやくルールを理解できたよ」

「おっ、それは喜ばしいっ!! なら今度、時間がゆっくり取れる時にお手合わせ願おうかな? 君が勝つまで終われないってのは、こっちも理解してるからねっ!! ククリもご苦労様っ!!」

「いえ、差し出がましい事を致しましたことをお許しください」

「そんなことないっ!! 俺が悪戯――おっと、仕事で忙しいのが悪いんだっ!! 君は【天使】の役目を全うしたまでだよっ!! 知識が無ければルール有る遊具は遊べない、新しき遊びを知ることは神々にとってもいい刺激になるっ!! あっはっはっはっ!!」

 ヘルメスは僕の前まで来ると床へ直接座り、にこやかな笑顔を振りまく。いい機会だ。煮詰まった次の一手に、彼へ助言を求めても――……

「……ヘルメス。君は生き物に【なりすます】のが得意だったね?」

「ああっ!! 魂や魔力まで、そっくりそのまま擬態できるともっ!! でなきゃ管理してる神や【天使】の目を盗んで引っ掻き回すなんてできないっ!! そしてどうやら俺の力を借りたいと見たっ!! 力を貸そうっ!!」

「ありがとう。実は僕の【地上界】へ送り出している【勇者】が今一つ頼りなくてね。かと言って下手に狡い魂を選別したり、強大な力を与えるわけにはいかない。プロメテウスの二の舞にはなりたくないからね。……そこでだ。君には【勇者】へ随伴する【天使】になりすましてもらい、【勇者】と人間を先導する導き手になってもらいたい」

「なるほど、それは名案だっ!! 【天使】のふりをするのも面白そうだしねっ!! でも、俺が【勇者】になるのは駄目なのかな?」

「駄目だ。それだと君が世界を救ったことになってしまうし、うまくいかない程度がちょうどいい。君も一筋縄でいかない方が楽しめるだろ? 余計な知恵や技術は授けなくていいからね、本当に。折角ここまで綺麗に出来上がったんだ。今のままで壊したい」

「うーん、どうしても駄目かい? 君の【地上界】では魔物の方が賢いっ!! 人間達へ知恵を与えて均衡を創るのも、俺はありだと思うんだっ!!」

「そうなったら僕の力無しで、彼らは魔物達へと果敢に立ち向かってしまう。人間は弱い方が先導されやすくもあるし、愚かさにこそ利用価値があるんだ。だから本当に余計なことはしないでくれ、頼むよ」

 ヘルメスは納得いかなさそうに口を曲げ、腕を組んで宙を見る。あれこれと妥協案を言われたとしても、それは彼が好き勝手する為の罠。逆に妥協案をこちらが安易にのまなければ、彼は素直に従ってくれるだろう。うまくいかない程度が面白くても、様々な権能を持つ彼に文明規模で影響を与えられては面白くない。
 彼はしばらく無言で思案したあと深く息を吐き、両手で自身の両膝を掴むと真っ直ぐとこちらを見つめ返して口を開いた。

「心得たっ!! 君は真剣に神としての名を人々に刻みたいと見たっ!! このヘルメスの権能、是非役立ててくれっ!! ただ、もし仮に【天使】としての俺がやられそうになった場合は? 神が直接【地上界】へ降りていると、現地人に知られるわけにもいかないし……」

「うん、そうなったら【死んだふり】をして。【勇者】が蘇生できなくなった場合もだ。隙を見て【天界】へ戻って来てくれ。戦うのは一向に構わないけど、本気で戦うのは【異端者】と接触した時だけだ。いいかい? 君はあくまで【勇者】の先導役、そのことをくれぐれも忘れないで」

「あっはっはっはっ!! 善処しようっ!! 君が執心するヴォルガードとか言う奴に会えればいいなぁっ!!」
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