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【第二章】魔王の子は魔王
【第九節】魔女の苦悩
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未来を視ル。予言すル。望む結果を手繰り寄セ、叶えル。けれド、未来は現在進行形で常に変わり続けていテ
、無数に枝分かれしている未来と過程を全て見るには時間が足りなイ。例え神々が恐れ忌み嫌う【魔女】だとしてモ、一つの脳で処理を抱えるには限界があるのダ。だからウチはある程度視るべき未来を絞リ、結果までの過程は【その場の状況判断】で行動していル。
今回の失敗は完全にウチの詰めの甘さだネ。スピカを救おうと躍起になッテ、本来の目的であるヴォルガードの国を救うことへ力を注ぐことが疎かになっていタ。【勇者】の力を見くびリ、多くの命が失われタ。その数は一万以上にも上リ、殆どが炭と灰になってかつての面影どころか肉一片の名残すら無イ。工房に残っていた死体のお陰デ、この場で襲われた三人の身元は分かったガ……こうも魂まで焼き尽くし溶かされては蘇生もできないヨ。
注意一瞬、死者一生。友情や愛は目を曇らせル。他者の為ではなく自分の為だけに力を使い続けれバ、自分自身を確実に守る選択肢はすぐに出てくル。何があってもその通りに行動できるからネ。でも他者は違ウ。巧みに誘導シ、予想外の行動をとらないよう先手を打たなけれバ、簡単にこちらの望む結果からを外れてしまうのサ。
「……過ぎた時間は二度と変えられなイ。過去を切り捨テ、前へ進み続けるしかなイ。結果を視る力がある故ニ、悔しい思いをすることもあるのだヨ」
作業台へ縫い針を投げ捨テ、手足の入った麻袋へ腰を下ろス。防腐措置はしてあるが痛み始めているのカ、骨の折れる小さな音が尻の下から聞こえタ。こいつらもウチが帰るまでに処理してやらないとネ。このまま腐らせて蛆や鼠の餌にするには惜しイ。繋ぎ合わせて手の減った煉瓦工場の労働力として使うカ、対【勇者】と【天使】用【死肉ゴーレム】として再雇用するカ。
「邪魔をする、【魔女】よ」
「……ン? アー、誰かと思えば君カ」
四本腕の【天使】――【シス】が工房の入口で立っていタ。【勇者】の様子でも見に来たのカナ? それともウチ相手に決闘を申し込みニ? 彼女は鼻をスンスン鳴らすト、部屋の中央にある作業台の前へ立ッタ。
「……台の上へ載せられた骨と肉塊……【物の怪】の物か? まさか本当に神の力を取り除き、滅せたのか?」
「イーヒッヒッヒッ!! 【魔女】に不可能は無いヨッ!! マァ、四日もかかったけどネ。少しでも目を離しちゃうト、拘束具で括りつけた手足を千切ってでも起き上がろうとするシ。骨と筋肉、臓器をそれぞれ分けて寸刻みにした後、デタラメに縫い合わせタ。正しく結合し合わないト、強い再生力は仇になル。正しく戻ろうと反発して接地面は融解シ、ドロドロと溶けて完全に繋ぎ合わさらズ、細胞単位で死ヌ」
「………………」
「魂だけを引き剥がしテ、別の肉体へ移そうとしたが無理だッタ。完全に肉体や【神器】と溶け合わさっちゃッテ……結合が強過ぎたんだヨ。どちらか片方ならともかク、三つを別々に分離させるのは無理な話ダ。彼女は全く別の存在になっちゃってたからネ。それこソ、【物の怪】みたいニ」
「……非礼を詫びよう」
「今更そんな言葉貰ってモ、犠牲者達は戻ってこないのだヨ。君もウチモ、未然に防げたのにも関わらず防げなかった大量殺人犯サ。モットモ、君の場合は遅いか早いかの誤差にしか過ぎないだろウ。喜び給えヨ、敵の戦力を削れたのだかラ」
「否。そういう事では――」
「――そういう事サ。殺しに美学を求める輩はこれだから困ル。死は死でしかなイ。冒涜と思うことには声を上げるガ、誇りや尊厳の為と言い訳すれば許されるとでモ? 一人を救うのはこんなにも大変だというのニ、君はいともたやすく多くの命を殺めル。命を奪う行為へ自身は悪くないと理由付けするのは止し給えヨ。皆等しく背負っているのだからネ」
その言葉にシスはやや唇を噛み締めタ。ウチが嫌いなのはソレだヨ。自身の行為は無条件に全てを赦されると思っている【高慢】サ。自分の考えに逆らう他者を赦せない器の小ささハ、創造主とそっくりじゃないカ。死臭に満ちた肺の中の空気を口から吐き出シ、麻袋から立ち上がり彼女を見上げル。
「……サテ、ウチへ闘おうと声を掛けに来たのだろウ? ヴォルガード君や従者達はそれどころじゃないだろうしネ。やはり君は自己顕示欲のかた――」
「――そうだとも、否定はしない。だが……己の欲求は抗い難い感情なのだ。闘いのために創られた己に、道理など通用せぬ。この歌舞いた格好は、己の存在を見た者に焼き付ける為。命の奪い合いに喜びを感じ、相手の躯を足蹴にする事で愉悦に浸る。そこに倫理観などない」
「開き直りかイ?」
「【物の怪】は滅された。それは休戦の終わりでもある。己とこの国の者達は元より相容れぬ存在、そこへ善悪を見出そうとする方が愚かしい」
シスは小さく口元を歪ませて笑ウ。そんな強がり言ってモ、君がこの国へ来た時点で勝敗は決まっているのサ。ウチは君達【天使】の弱点を知っていル。【観察者】達ヨ、まだ観ているかネ? 望む結果の未来を手繰り寄せるというのハ、大掛かりな下準備と根回しが必要なのだヨ。それが【魔女・ベファーナ】の戦い方サ。
、無数に枝分かれしている未来と過程を全て見るには時間が足りなイ。例え神々が恐れ忌み嫌う【魔女】だとしてモ、一つの脳で処理を抱えるには限界があるのダ。だからウチはある程度視るべき未来を絞リ、結果までの過程は【その場の状況判断】で行動していル。
今回の失敗は完全にウチの詰めの甘さだネ。スピカを救おうと躍起になッテ、本来の目的であるヴォルガードの国を救うことへ力を注ぐことが疎かになっていタ。【勇者】の力を見くびリ、多くの命が失われタ。その数は一万以上にも上リ、殆どが炭と灰になってかつての面影どころか肉一片の名残すら無イ。工房に残っていた死体のお陰デ、この場で襲われた三人の身元は分かったガ……こうも魂まで焼き尽くし溶かされては蘇生もできないヨ。
注意一瞬、死者一生。友情や愛は目を曇らせル。他者の為ではなく自分の為だけに力を使い続けれバ、自分自身を確実に守る選択肢はすぐに出てくル。何があってもその通りに行動できるからネ。でも他者は違ウ。巧みに誘導シ、予想外の行動をとらないよう先手を打たなけれバ、簡単にこちらの望む結果からを外れてしまうのサ。
「……過ぎた時間は二度と変えられなイ。過去を切り捨テ、前へ進み続けるしかなイ。結果を視る力がある故ニ、悔しい思いをすることもあるのだヨ」
作業台へ縫い針を投げ捨テ、手足の入った麻袋へ腰を下ろス。防腐措置はしてあるが痛み始めているのカ、骨の折れる小さな音が尻の下から聞こえタ。こいつらもウチが帰るまでに処理してやらないとネ。このまま腐らせて蛆や鼠の餌にするには惜しイ。繋ぎ合わせて手の減った煉瓦工場の労働力として使うカ、対【勇者】と【天使】用【死肉ゴーレム】として再雇用するカ。
「邪魔をする、【魔女】よ」
「……ン? アー、誰かと思えば君カ」
四本腕の【天使】――【シス】が工房の入口で立っていタ。【勇者】の様子でも見に来たのカナ? それともウチ相手に決闘を申し込みニ? 彼女は鼻をスンスン鳴らすト、部屋の中央にある作業台の前へ立ッタ。
「……台の上へ載せられた骨と肉塊……【物の怪】の物か? まさか本当に神の力を取り除き、滅せたのか?」
「イーヒッヒッヒッ!! 【魔女】に不可能は無いヨッ!! マァ、四日もかかったけどネ。少しでも目を離しちゃうト、拘束具で括りつけた手足を千切ってでも起き上がろうとするシ。骨と筋肉、臓器をそれぞれ分けて寸刻みにした後、デタラメに縫い合わせタ。正しく結合し合わないト、強い再生力は仇になル。正しく戻ろうと反発して接地面は融解シ、ドロドロと溶けて完全に繋ぎ合わさらズ、細胞単位で死ヌ」
「………………」
「魂だけを引き剥がしテ、別の肉体へ移そうとしたが無理だッタ。完全に肉体や【神器】と溶け合わさっちゃッテ……結合が強過ぎたんだヨ。どちらか片方ならともかク、三つを別々に分離させるのは無理な話ダ。彼女は全く別の存在になっちゃってたからネ。それこソ、【物の怪】みたいニ」
「……非礼を詫びよう」
「今更そんな言葉貰ってモ、犠牲者達は戻ってこないのだヨ。君もウチモ、未然に防げたのにも関わらず防げなかった大量殺人犯サ。モットモ、君の場合は遅いか早いかの誤差にしか過ぎないだろウ。喜び給えヨ、敵の戦力を削れたのだかラ」
「否。そういう事では――」
「――そういう事サ。殺しに美学を求める輩はこれだから困ル。死は死でしかなイ。冒涜と思うことには声を上げるガ、誇りや尊厳の為と言い訳すれば許されるとでモ? 一人を救うのはこんなにも大変だというのニ、君はいともたやすく多くの命を殺めル。命を奪う行為へ自身は悪くないと理由付けするのは止し給えヨ。皆等しく背負っているのだからネ」
その言葉にシスはやや唇を噛み締めタ。ウチが嫌いなのはソレだヨ。自身の行為は無条件に全てを赦されると思っている【高慢】サ。自分の考えに逆らう他者を赦せない器の小ささハ、創造主とそっくりじゃないカ。死臭に満ちた肺の中の空気を口から吐き出シ、麻袋から立ち上がり彼女を見上げル。
「……サテ、ウチへ闘おうと声を掛けに来たのだろウ? ヴォルガード君や従者達はそれどころじゃないだろうしネ。やはり君は自己顕示欲のかた――」
「――そうだとも、否定はしない。だが……己の欲求は抗い難い感情なのだ。闘いのために創られた己に、道理など通用せぬ。この歌舞いた格好は、己の存在を見た者に焼き付ける為。命の奪い合いに喜びを感じ、相手の躯を足蹴にする事で愉悦に浸る。そこに倫理観などない」
「開き直りかイ?」
「【物の怪】は滅された。それは休戦の終わりでもある。己とこの国の者達は元より相容れぬ存在、そこへ善悪を見出そうとする方が愚かしい」
シスは小さく口元を歪ませて笑ウ。そんな強がり言ってモ、君がこの国へ来た時点で勝敗は決まっているのサ。ウチは君達【天使】の弱点を知っていル。【観察者】達ヨ、まだ観ているかネ? 望む結果の未来を手繰り寄せるというのハ、大掛かりな下準備と根回しが必要なのだヨ。それが【魔女・ベファーナ】の戦い方サ。
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