上 下
27 / 110

満月の夜の秘密

しおりを挟む
ワイワイガヤガヤ

皆でエールを楽しそうに呑んでますね。
俺は骨付きの何かの肉にかじりついてます。
そして、また俺のかじっている肉を狙っている獣が一体。まあ、そいつの膝にいるんだけどね。
やはり、固い!!味はめちゃくちゃ美味しいんだが、噛み切れません…。
ムキーッと頑張っていると、目の前に皿が置かれた。
「コックさん?」
皿を置いてくれたのはクマのコックさんだ。
「ヒヨリ君が座ったテーブルの肉はヒヨリ君には硬いと思って煮てきたよ。」

コックさーん!!
「ありがとうございます!!」
俺は煮込まれた肉を見つめ、よだれを垂らす。
う、うまそう!
その瞬間、俺の手にあった硬い食べかけの骨付き肉はガルに取られました。

「ベアードさんと仲良くなったのね?」
俺はフォークで肉をハフハフ食べていると、アリアナさんがワインを片手に聞いてきた。

「コックさんがベアードさん?」
「そうよ、ベアード・クックマン。昔王国騎士で有名だったんだけど、コックになりたいからと辞めてここにいるのよ?」

「すごい人なんですね。いつも、パンをスライスしたり、噛みやすいようにしてくれるから、今日お手伝いしに、挨拶したんです。」
「優しいんだけど、寡黙な人だから気になっちゃって。さすがヒヨリ君。」

「ん?ヒヨは酒呑まねえのか?17歳だろ?」
ウランがジョッキをほっぺに押しつけてくる。 
「冷たい!呑まないよ!俺の世界だと、20歳からが成人なんだよ!」

「あれ?この世界のルールに!って言ってなかったか?」

うっ!!こいつはマジで痛いところつくな。

「ゆっくりって言っただろ?」
へいへいと、エールをウランは飲み干した。

あっ!モンスターの図鑑!
俺はダイナに話しかけようとして、ギョッとする。
ダイナはマスクをしたまま、エールを呑んでた。

どういう構造かジッと見ると、マスクに横に線が入り、そこからエールを呑んだり、食事をしているようだ。
俺が見ている事に気づき、一度マスクの横ラインをチャックの様なもので、閉めた。

「ヒヨリ、どうした?」
ダイナの声に、俺は、ハッとしてマスクから視線をダイナの目に変えた。

「モンスターの図鑑を持っていると聞いて、貸して欲しいんだ。」

「構わないよ、会が終わったら渡そう。」
「ありがとう!!」
よし!これで勉強できる!!

なんか、酒の強さも必要とか言っていたな…
テーブルには料理より、酒瓶とエールのジョッキが溢れていた。
確かに、この量呑んでも大丈夫なら、あん時は酔ってなかったな!
俺はギロッとシスを見る。言いたい事が伝わったのか、ウィンクされた!
あーやだやだイケメンは自分がイケメンってわかってんだから!

俺はプリプリ煮込み肉を頬張る。

*******

そろそろお開きのようで、人もまばらになった。俺は、空いた皿やジョッキをキッチンへ運んだ。

ガル、アリアナ、アル、シスは今日の討伐依頼の集計結果報告会を開いているらしい。

ダイナとガルは討伐で使った武器の修繕をしに行ったようだ。

なので、唯一暇な俺は皿洗いのお手伝い。
大量でクタクタ。
ご褒美にベアードさんにクッキーもらったけどね!

皆、まだ終わりそうに無いから、俺は裏庭で自主練する事にした。

今日は満月で明るくて、夜風が涼しい。
集中しやすく、バリアの高度も上がりそうだ。
全身を包むイメージをする。


グアっ!


ん?何か聞こえたような…



ぐっ!


やっぱり林の奥から聞こえた。
人のような獣のような…

俺は壁に立てかけてあったオノを取り、声のする方へ恐る恐る向かった。

すると、小さな池の辺りで蹲っている人がいた。
呻きながら、草を食べている?

月に照らされた水色の髪…

「ダイナさん?」
俺の声に反応して、バッと顔を上げた。手には大量の草を握り締めて。

俺はダイナさんの顔を見た瞬間、目を見開いてしまった。その行為がダイナを傷つけた。

「見るな!見るなー!!」

ダイナさんはマスクを外しており、左の口が裂けて歯というより牙が剥き出しになっていた。そして、舌先は切れて、爬虫類のようだ。
この為にマスクをしていたんだ。それなのに、俺、驚いちゃった。

「ダイナさん、俺ビックリしちゃってごめんなさい。マスク取った姿、初めてだったから。どっか痛いの?俺、治療失敗した?」

ダイナは下を向いて顔を覆ったまま、首を横に振った。

「すまない、驚くの当たり前なのに、取り乱した。ガル達も知っていて、今更なのに…君にはまだ見せたくなかったんだ。….せっかく、かっこいいと、生まれて初めて言われたのに…。」

ダイナの切ない声が胸を締め付ける。俺が簡単に言った一言で、こんなにも……

だから、皆…ダイナにとって重大な一言だから、俺をタラシとか言ったんだな。

「近く寄っていい?」
俺が聞くと無言になった。

俺はゆっくりダイナに近づき、隣にしゃがむ。
「ダイナ、さっき呻いてた。どっか痛いんでしょ?」

「…普段はここまで酷くないんだ。満月の夜だけ、牙が疼いて、大きくなり、口が裂けるんだ。人の身体には耐えられないんだ。だから、痛みが止まるまで薬草を食している。ポーションで治しても、何度も裂けるから、満月の日は薬草にしていて…。まさか、帰ってきた日、ヒヨリに会った日が満月とは…ついていない。」

この人は50年間1人で耐えてたんだな。こうやって薬草食べながら、痛みを耐え、マスクして。恐れられるのが怖くて恋愛も出来ず。

「モンスター図鑑の為に探したのか?悪かったな、ちょっと外出たらこうだ。あの図鑑も、俺より酷いモンスターがいると安心するから持っているんだ。俺みたいな希少種はすごいと言われるが、爬虫類は体温調節出来ないのに、水属性だ。身体が冷えやすく気をつけないとすぐに死ぬ。それにこの顔だ…。全くかっこよくなんてないよ…。」

俯いたまま、語るダイナの身体は震えていた。
俺はゆっくり、そっとダイナの背中に触れた。ダイナはビクッと身体を震わせ、俺の手を払い除ける。

「同情はやめてくれ!!分からないくせに!!母ですら、俺の顔に恐怖するんだ!異世界から来た君が耐えれるわけないだろ!!」

辛い叫びに、俺は耐えられず、嫌がられたのに、ダイナを抱きしめた。
ダイナは一瞬驚き、怯んだが、すぐに引き剥がそうと俺の肩を持った。

「ごめん!同情だ!確かに同情だ!だって俺、ダイナじゃないもん!ダイナが今までどんなに辛かったかなんて、想像することしか出来ない!!でも、想像して俺も辛くなる!!ダイナが心配になる!どうにかしてあげたくなる!だから…同情しちゃうんだ…」

ひっく…なんで俺が泣くんだよ!泣くな!

俺を剥がそうとしていた手は止まり、震えが止まった。

俺はゆっくりと抱きついたまま顔を上げ、ダイナの顔を見た。灰色の肌、黒目の金の瞳、鼻筋は通って、右の口元を見た。やはり美形だ。そして、痛々しいくらい裂けた左の口、数本の巨大化した歯が鋭く光る、頬は血で濡れて、隙間から舌が見える。

「ごめんな、やっぱ、俺はダイナをかっこいいと思うよ。これは嘘じゃない、目も鼻も口も整っているよ。
左口以外ね!」

そう言って、涙めで笑った!

一瞬大きく開いた金色の瞳、俺の言葉に笑い、一筋の涙を流した。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

鳥籠の中の道化師

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:37

【本編完結】絶対零度の王子様をうっかり溶かしちゃってた件。

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:1,780

愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

BL / 完結 24h.ポイント:873pt お気に入り:2,855

堅物真面目な恋人がお預けをくらったらどエロいことになった件

BL / 完結 24h.ポイント:262pt お気に入り:68

転生してませんが、悪役令嬢の弟です。

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:1,602

君は魔法使い

BL / 連載中 24h.ポイント:562pt お気に入り:19

処理中です...