勇者は可愛すぎるキメラたんに夢中です。

B介

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ジンクに感情を。

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じりじりと距離を詰めて来る村人達に睨みを効かせるジンク。


「おい、てめえら!!俺達は王宮からの司令で来た勇者様だぞ?武器向けたって事は覚悟は出来てるんだろうな!?」


王宮という言葉に一瞬戸惑いの表情を浮かべるが、ジンクの腕にいるキメラを見て、また意思を固める。


「こんな可愛い子をどうしようと!?」

「そうだ!!キュキュは無害だ!」


「ギャーギャーうるせえ!ぶっ殺すぞ!!」

ブチギレるジンクに代わり、ヨシュアが前に出る。

「キメラ、そして人化出来るのは上級モンスターです。成長も早い。貴方達ではいずれ対処出来なくなる。それにキメラの了承も得ています。」

ヨシュアの落ち着いた声に、村人達も耳を傾け、握りしめた武器をおろす。


「本当か?キメラが決めたのか?」

「キュキュ!村から出ていくのか?」


キュキュは指をしゃぶりながら村人を見つめ、キュポンッと抜くと、首を傾げた。

「きめら、あぶないの?いっしょあぶない。ばいばい。」

小さな手を振られ、村人達は泣き崩れた。

「キュキュー!!バイバイなんて言うなー!!」

「キメラたんがいないなんて生きていけないわー!!」

武器を捨て、泣き崩れた村人の間をズンズン進むジンクをヨシュア達は白い目で見る。

邪魔な奴の上は跨ぎ、気にせず進むジンク。


渡り切って村を出ようとした時、また凄い表情の村長が鎌を持って追いかけてきた。


鬼の形相に一瞬ビビる。

「ヴィート!!」

ジンクの声に魔法を発動し村長を動かなくする。


するとジンクは村長のポケットをあさり、小銭とジャムを奪う。

「討伐代にもらうぜ?今回は王宮からだからまけといてやる。」


鬼はこっちだった。


サモー村を後にした。


「いちごー」


ジンクの持つジャムに手を伸ばすキメラ。

「なんだ腹減ったのか?」


ジンクの問いに頷くキメラ。


「先程食べてそんな経っていませんが、成長期ですかね?」

ヨシュアが覗き込むと、キメラはくりくりの瞳で、首をコテンと傾げた。

「せーちょ?」

うっ!!あざと可愛い…

「コホンッ。成長期とは身体が大きく大人に育つ事ですよ?」

にっこりと伝えると、キメラはジッと考えたように俯き、チラッとヨシュアを見た。


「せーちょ、したら、きけん?」

少し困ったように眉を寄せるキメラのお腹がギュルギュル音を立てている。

「きけん…がまんしゅる。」

ひもじそうに指を咥えるキメラにズキューンと心臓を撃ち抜かれた。


「おい、キメラ。好きなだけ食え。お前が危険になったら俺が何とかしてやる!」

ジンクは耳を赤らめながら瓶を渡した。

すると、少し考えながら、ジンクと瓶を交互に見て、ふにゃっと笑った。

「たべりゅの。」

開けてと瓶をヨシュアに差し出す。

ヨシュアは開けて、瓶ごと渡すと、小さい手を瓶に突っ込み、ぺろぺら食べていた。


「あらら、ベタベタじゃねえか。キメラ用のスプーンとか買わなきゃな。」

ライラックが真っ赤なジャムを手と口の周りにつけて、ベタベタになっているキメラを見て、可笑しそうに話す。

「でも、本当にどうすんの?想像とは遥かに違うけどキメラでしょ?」

ヴィートはジャムを夢中で食べるキメラを見ながら、心配そうにジンクを見る。


「……一応王都に連れて帰る。それまでに調教するが、難しいようなら処分するしかねえだろ。」

冷たく言い放つジンクだが、いつもなら容赦なく泣こうが喚こうが気にせず処分する分、ヴィートはジンクを驚きの目で見た。

「…驚いた。本当にジンク?…そんなに気に入ったんだね。」


「……。」

ムスッと顔を顰めて、そっぽを見るジンクにより驚かされる。

「まぁ、確かにこんだけ可愛けりゃな。村人もおかしくなってたし。」

ライラックはキメラのほっぺをツンツンするとその柔らかさに驚いた。

「おわた。」

空っぽになった瓶を、ライラックに見せるキメラ。

何故ドヤ顔?

ドヤーとばかりに空っぽ瓶をライラックの顔の前にグイグイ持っていく。


「綺麗に全部食べたこと、褒めて欲しいんじゃない?」

ヴィートに言われて、空の瓶を受け取り、キメラの頭を撫でた。

「よしよし、綺麗に食べて偉いな。」

すると満足気にニコニコ笑い、口の周りをぺろぺろ舌を出して舐めとる。

「可愛すぎるじゃねえか!」

ライラックは口元を隠して顔を赤らめる。


「てめえ、キモイ顔してコイツを見るんじゃねえ!!」

顔を赤らめるライラックからキメラを隠すようして、睨みつける。

「べたべた。」

なかなか取れないベタベタにキメラは小さいお手手をジンクに見せた。

戸惑うジンクに、ヨシュアはクスリと笑う。

「水辺を探して拭いてあげましょう。」

ジンクは無言で歩き出した。

「私がキメラを抱きましょうか?」

水辺まで歩くのに、剣する持たない男にキメラを抱っこさせるのはと、確認するが、ジンクは無言でそのまま歩いていた。

「ふふ、あの男がね。」

ヨシュアは可笑しそうに笑う。

「いやいや、だったら神剣をまず持てよ!」

ライラックの言葉も無視をして、歩き続けるジンクの後を一同は追った。




暫くして見つけた水辺で布を濡らし、口周りをヨシュアが拭いてあげていると、
それをジッと見つめるジンク。

「ジンクも拭いてみますか?」

あまりの視線に居心地悪くて聞いてみると、ジンクは蹲み込んでヨシュアから布を奪い、キメラの手を拭いてあげた。

「マジかよ…人の世話するジンクなんて見たことねえ…」

ライラックは自分の目を疑った。


そんなライラックの顔に布を投げつけるジンク。

綺麗になったキメラはスッキリしたようで、気持ち良さそうにニコニコしている。

「あーとごじゃーましゅ。」

「何語だ?」

可愛い笑顔を向けられるが、何言ってるのか全く分からないとばかりに眉をしかめる。

「ありがとうございます。ってお礼じゃないですか?」

ヨシュアの言葉にキメラは頷く。

「あーとごじゃーましゅ。」

もう一度言われて、ジンクは戸惑う顔をして無言で頷いた。


今まで討伐してお礼など言われても嬉しくも何とも無かったジンクは、その言葉に気分が良くなる自分に戸惑っていた。

くそっ!この俺様が…何なんだよコレ!


小さいキメラを抱き上げ、ギュッと抱きしめるジンクにヨシュアは微笑んだ。


これは、ジンクにとって良い風に転びそうな逸材かもしれませんね。


キメラ、ジンクを人間らしくして下さい。






 
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