こんなはずじゃなかった

B介

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可憐な花

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ハア…最近必ず放課後の図書室に現れる可憐な花。

こんなにも図書委員をしていて良かったと思った事はない。

花は夕日の差し込む窓辺の席で、図書室を閉めるギリギリまで勉強をしている。

期末テストだからだろう。

皆が寮で行うのに、何故かと尋ねた。
花は1人部屋だと噂で聞いていたから、余計、僕なんかがいる図書室でなく、1人の方がいいのでは?と思ったんだ。

花は言った。自分の部屋からは夕日が見れない。この明るい日の光がオレンジ、赤、黒と変わる瞬間が好きだと。負けたくない相手がいるから、1番好きなものに囲まれながら勉強したいと。

その笑顔が花咲いたようで、自分が好きと言われた訳でもないのに、胸が高まる。
僕もこの1番好きな時間に、勉強をする事にした。
カウンター越しに花を見ながら。

ああ、ピンクアッシュの髪が、オレンジに輝く花よ。
君の好きだという景色の一部に僕の存在も入れてくれ。

ずっとこのまま、時間が止まればいいのに。

「先輩?」
凛とした声に、ハッと現実に戻る。
気づくと薄暗くなっていた。

「そろそろ閉める時間ですよね?」
花の声にうっとりと耳を傾ける。

「先輩?」
花が目の前で手を振る動作に、焦り、頷きながらも立ち上がる。
「ご、ごめん!そうだね!閉めないと!」

「先輩も勉強疲れですか?俺も疲れて…。」
確かに花の目が少し赤い。

僕は鞄をあさり、ハーブティーのティーパックを花に渡した。

「これ、僕の好きな紅茶。よく飲むんだ。ぐっすり眠れるよ?」

花は嬉しそうに微笑んでくれた。

「ありがとうございます。明日から期末ですね。図書室が閉まるから残念です。お互い頑張りましょう!」

そう言って花は図書室から出ようとした。

僕は咄嗟に聞いた。
「ねえ、負けたくない相手って?」

花は一瞬キョトンとしたが、少しいたずらっぽい笑顔で答えた。

「俺の前にいる奴らです!俺!負けず嫌いなんですよ!!じゃあ!先輩も頑張って!」

風のように駆けていく花の後ろ姿を見つめる。

今日、これで花と僕の時間は終わった。花には何気ない一時だろう。
僕にとっては宝物の時間。
花にとって僕は空気だろう。
僕にとっては太陽だ。

「負けたくない奴ら自分の前にいる奴ら…か…。」

僕の前にはとてつもない奴らがわんさかいる。その奴らは花を囲って、他に見せないよう、大事にしている。
最近、奴らは何故か花の周りにいない。
だが、奴らは目を光らせている。

「3年の木村先輩が、泣きながら寮にこもっていると聞いたが…まさかな。」
3年の木村先輩は、一度図書室で花に絡んでいた。あまりにもしつこい様子だった為、僕が間に入ったが…まさかな。

「僕は、勝てるかな?」

花の頑張れの言葉に気合を入れる。

そして、一時の夢の場所に鍵を閉めた。


******

期末後、やはり花は図書室に来なかった。時々見かけると、周りを囲うように守られている。
あれじゃ勉強どころじゃなさそうだ。
期末だから、解放されていたのか?

今日はテスト結果が張り出される。
いつもより出来た気がした。
好きなものを愛でながら勉強…確かに捗った。

昼休み、張り出されたようで、僕はあまり期待せず向かった。

えっと…僕は。

1番最初に目が入ったのは、代わり映えのしない、堂々たる一位。初等部からずっとだ。奴と同じ歳に生まれてしまったことを悔やむ。ずっと超えられない壁。

僕は大体20位あたりを行き来している。
あれ?無い?嘘だろ?下がったか!?
前より良い結果なはず……

「あー!!下がった!!ヤバイ!絶対転校生のせいだ!!」
「僕も!しかも一点差でキラに負けたー!!」
茗荷谷双子が下がった?

僕はその声に上位の表を見た。

あっ!!僕が…6位?

「堤ー!!やるじゃんー!負けたよー!」
鞠田が僕の肩になつく。

信じられず、もう一度見る。

1位西園寺 晴臣 
2位白樺 柳一郎
3位兵藤 雷仁
4位二階堂 風政
5位櫟原 仁士郎
6位堤 隆和
7位鞠田 真理音
8位茗荷谷 輝楽
9位茗荷谷 楽輝
10位錦戸 始

僕が6位……!!
最強の奴らには勝てなかったが!
胸がドキドキする。

すると、肩の重さが無くなった。鞠田が1年の成績が張り出されたのに気づいて、向かっている。

鞠田も変わったよな。ヘラヘラ何考えているかわからなかったのに。あんな真剣に誰かに興味持って…。

花を囲う奴らが全員、自分達の成績より、1年の成績表に集まった。

いつも、怖い顔して、他の存在など気にしていない奴らが、張り出された成績順位を見ながら優しく笑う。
愛おしいそうに笑いながら会話をしていた。

誰だあいつらは、クラスの時と違う。
そう思いながら、僕も1年の順位を見た。花が誰に勝ちたかったか、勝てたかが気になったからだ。現実は厳しい。もし、勝てなくても、君の頑張りは知っている。

ふと、順位を見て、僕は目を見開いた。

「ハハッ、本当に君は、すごいな…。」

花は誰にも負けていなかった。見事勝利をおさめたのだ。

「あっ、睡蓮張り出されてるよ?」
その声の方をみると、花が友人達に囲まれながら現れた。

「待てよ、小倉。ドキドキするから、自分で見る。」
可愛く両手を握りしめて、現れた花に奴らの瞳がより一層柔らかくなる。

「ゲッ、なんで1年の成績見てるんだよ!」
「気になってな、ほらっ。見てみろよ!結果言ってしまうぞ?」
西園寺の優しい笑顔に、驚きつつ、その光景を胸が締め付けられる思い出みていた。

「いや、待て!自分で見ます!」
そっと振り向き、順位を見て、花はガッツポーズをして、友人らを挑発するかの様にピースした。

「やった!見たか!洋一郎!豪!中間の借りは返したぜ!!」
ハハッと太陽の様に笑う笑顔をうっとりと見つめた。

「あー!!自信あったのに!!マジか!」
「…くそっ!」
ガックリする友人らに、笑顔を向ける花。それを見守る奴らにため息が出る。

やはり、僕は空気。花と関わったのは、夢としよう。

僕は、クルッと教室へ向かおうと、歩み出した。

「あっ!堤先輩!」
反射的に振り向くと、花が僕の元へ来た。
「先輩から貰ったハーブティーのおかげです!寝てスッキリ!!勝てましたよ!」
ニカッと白い歯を見せて僕に笑いかけてくれている事に、感動し胸が熱くなる。

「先輩は、どうでした?」
ふと、花は2年の成績順位を見た。

「先輩!!あの人達の中ですごいな!後少しじゃないですか!!次勝てますよ!!けちょんけちょんにしてやりましょう!!」

鼻息荒く言って、僕より燃えている花に、驚く。
僕が勝てると思っているの?
僕も君の視界に入れてくれるの?
僕も化け物達に挑んでいいの?

「おい!誰をけちょんけちょんにだ?」
「睡蓮ーちょっとお話するか?」
「僕たち負けたのに慰めてくれないのー!?」

「うるさい!会長!兵藤!キララキ先輩!!…堤先輩!応援してます!倒してくださいね?俺も頑張ります!」
花は俺の手を握り、そう言うと、友人の元へ駆けて行った。

うん。君が僕を見ていてくれるなら、僕は頑張る!もう、怖気つかない。

「頑張るよ!!崎原!」
叫ぶと花は手を振ってくれた。

「ほう…堤、いい度胸だな。面と向かって言ってくれないか?」

「てか、いつの間に知り合いになったのでしょうか?」

「てめえ、何睡蓮と手を握りあってんだよ!」

花よ…僕は本当に、本当にこの化け物達に勝てるんでしょうか…。

この後、暫く恐怖の視線に耐える事になった。

by 2年S組 堤 隆和

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