紅の海戦

桑名 裕輝

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帝国の再会

海軍の再会

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2020年東京オリンピック開会式で俺は7歳といういい歳で完全に迷子になっていた。階段のところで涙目をして母親の名前を呼んでいる少女がいた。赤い長い髪に和服の姿。放置しているとかわいそうだったので声をかけてみた。
「おい、大丈夫か?」
 少女は泣きながら言った。
「お母さまとはぐれてしまったの。もう会えなかったらどうしよう」
 少女は不安に耐えきれずに泣きじゃぐった。
「君、名前は?」
「深雪よ。あ、あなたは?」
「俺は秋波」
 名前を言った時深雪が写真を撮ろうよ、と言い出した。バックから珍しいインスタントカメラを取り出した。深雪は満面の笑顔で、だがどこか不安そうな表情で言った。
「はい、チーズ」
 インスタントカメラのフラッシュが二回連続で焚かれた。インスタントカメラから続けざまに写真が2枚出てきた。そのうち1枚に深雪が深雪と書き、もう片方には秋波と書いた。俺に深雪と書かれた写真を差し出した。
「思い出。大事にしてね」
母親らしき女性が深雪と叫んでいた。それが聞こえると深雪が女性に向かって走った。
二人は何か話していて話し終わると手をつないで俺の方に向かって来た。母親が礼を言った。
開会式はとっくに始まっていて空中に爆音が響いた。
その時少女が母親に言った。
「お母さま、飛行機がいっぱいいるね」
 母親が笑顔で答えた。
「そうだね、深雪」
 深雪の声は美しく、今となっても耳に残っている。
 2033年3月4日自衛隊は本日付けで軍隊へと変わった。その年の入隊試験で合格して俺は日本海軍に入隊した。
 俺の名前は秋波恭平20歳。雪国育ちで沿岸部に住んでいて基地から出航する護衛艦に乗ることにあこがれて生きていた。東京オリンピック以来深雪に会ったことがない。
 呉鎮守府に召集されて路線バスに乗った。鎮守府前という停留所に停車するためか軍服うぃ着た人が多かった。その中にロングスカートの軍服を着て軍帽をかぶった赤い髪の軍人がいた。まさか深雪か、と思ったがまさか女子が軍人になることはほぼあり得ないので人違いと思って停留所で降りて赤レンガの建築物である呉鎮守府の正門に向かった。よく前を見るとあの軍服を着た軍人も鎮守府に向かっていた。
 日本海軍が定めた鎮守府は呉、佐世保、横須賀、舞鶴の四か所に限定され、横須賀鎮守府に次ぐ規模の鎮守府が呉鎮守府だった。正門で軍刀を持った上官と下士官が入隊証明書の提示を求めていた。あの女性軍人も入隊証明書を提示して入っていった。下士官に階級を言い渡され、スケジュール表を渡された。
 一時間後に入隊式で全員の氏名が呼ばれるものだった。夕食は上官たちなどと祝宴でその後にもすごい量の日程があり、不安しかない心境で軍人生活が始まった。
 入隊式では五十音順で最初に呼ばれて、最後まで呼ばれるまで直立不動のため途中で倒れそうになるもののいたが必死に耐えた。頭の中はあの女性軍人の名前だけでいっぱいだった。そしてとうとう彼女の順番がきた。鎮守府長官が読み上げるまでの時間が長く感じてイライラするが周りに悟られないように頑張った。そして鎮守府長官が読み上げて天地が逆転するほどの衝撃を受けた。
「神風深雪」
 壇上の後ろにあるスクリーンに投影された。
 俺はそれが信じられなくて名前の部分を凝視していた。まさに13年間探し続けてきた彼女だった。入隊式が終了すると最新鋭駆逐艦冬風の食堂へと向かった。食事をしているとき神風は写真を見ていた。よく見てみると東京オリンピックの時に撮った写真だった。
 裏には深雪が書いたはずの秋波という文字があった。それから少しして神風は食事を終えたらしく講堂へと歩いて行った。それを追いかけようとしてほぼ食べずに返却口に盆ごと放り込んだ。
冬風から階段を下りて陸に上がると30メートル先に神風が歩いていた。そこまで走って行って声をかけてみた。
「すみません。自分に見覚えありませんか?」
 神風は驚いたような顔で言った。
「見覚えがあるかないかの前に自分を知っているのですか?」
「はい。東京オリンピックで一緒に写真を撮ったはずです」
 神風は信じられないような顔で財布から写真を取り出した。
「まさか、あなたが写真に写っている秋波さんですか?」
「そうです。あなたと同じ写真を自分も持っています」
 そう言って俺はカードケースから神風と同じ写真を取り出して裏に書いてある名前を見せた。
「13年ぶりですね。どうして海軍に?」
 その質問をすると神風は顔を曇らせて言った。
「父が3年前に姿を消したからです」
 3年前海上自衛隊第二護衛群は突如音信普通となった。最後の通信はロシアの国旗を確認だった。この事件は自衛隊乙号事件と称されいまだ解決していない。この事件が今日の海軍の原因になったといっても過言ではない。
「申し訳ありません」
 俺は話が気まずくなっていることに気付き話を変えようとしたが講堂より開始5分前の鐘が鳴った。講堂に向かって走っているときに神風は気まずそうに言った。
「次の日曜日、近くの喫茶店でお話しませんか?」
 海軍の娑婆気があると異様な空気が発生するので話しにくかったのだろう。
 講堂で配属艦隊が発表された。神風とは同じ最新鋭軽巡洋艦阿武隈だった。入隊試験を終えた者たちは海軍大学を受験してそこで学び士官となって軍の表舞台に立つ。海軍大学の卒業成績順に階級が定められて神風は少佐だった。俺も少佐だったが、神風は指揮官。
 そして俺は北上艦長だった。参謀は海軍大学でライバル関係だった松下大尉だ。
 このような最高の状況で俺の海軍人生は始まった。
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