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四月:終わりの始まり
第9話:恋って…何…
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「あの男…いつか殺してやる」
鳥束は確かにそう言った。鋭く冷たい冷涼な眼で。この状況をどうにかしたい、スナイパーは閉じきった口を無理矢理こじ開ける。
「あ、あんたの過去に何があったのか知らねえが!落ち着けよ!」
自分でも以外なほど大きな声が出ていたと思う。そうでもしないとこの男は止められない。
そしてその言葉に鳥束はハッとする。殺意にまみれ、血走った目も、最初の頃へとゆっくり変わっていく。
だが、鳥束から溢れて止まない憎しみは依然として感じられる。
「──すまない…僕としたことが。頭に血が登っていたようだ」
人離れした狂気的な殺意と憎しみ。何か特別な意味でもあるのか。どちらにせよ、触れてはいけない何かがあるのは確かだ。
「いや…誰だってそうゆうことは…あると思うけど」
一瞬、聞こうか迷った。だがなぜか鳥束翼からは自分と同じ何かを感じる。だからつい口を開いてしまう。
「その男に恨みでもあるのか?」
「ああ、あるね。殺しても、肉も全部剥ぎ取って、骨も燃やして完全にこの世から抹消しても憎しみは、殺意は消えない、と思う」
それはそうだ。殺したい程に憎む相手は殺しても心からは消えない。
「だから忘れない。ヤツはいずれ僕が葬る」
同じことを言っている。今は、さっきの激情ではなく、静かな殺意だった。
「君は充分すぎる情報を教えてくれた。もう用はない。好きな所へ行ってくれ、ただし、また彼らの邪魔をしたら…分かるよね?」
「うっ…分かってる」
鳥束は振り返り、恐らくはその先に帝英学園があるであろう方向を見る。聞きたいことはまだあった。スナイパーは最後に口を開いた。
「あんた…こっち側の人間だろ?」
鳥束はその双眸でスナイパーを見据える。そして優しい微笑みを浮かべ答える。
「──そうだよ。僕は善人の仮面を被った、狂人だ。」
そう言い残し、鳥束は空へ飛んでいく。スナイパーはその後ろ姿をどこか吹っ切れた笑顔で見届けていた。
時は少し遡り、鳥束が例のビル付近に到着した頃、
「祐希君の推理だとここで仕掛けてくるって言ってたのに…」
「きっととりつばがどーにかしてくれたのよ!気にしない、気にしない!」
とりつば?有都は首を傾げる。数秒考えてやっと"とりつば"なるものが鳥束のことであると理解する。
「んなことよりさーあの亜里沙ちゃんに会えるんだよ?もー楽しみ!事件のこと以外にも色々聞きたいことあるなー!例えば顔小さくする方法とかースタイルよくする方法とか!あとは胸を…」
話が止まらない。有都は目を輝かせる糸永を呆れ顔で見る。
「でも良いよねーいろねんは!顔可愛いし、声可愛いし、スタイル良いし肌白いし歌上手いし肌すべすべだしおっぱいでかいし!」
そう言われて有都は自分の体を見る。確かに…と思いかけるもすぐに首を振る。
「彼氏もう決まってるようなもんだし!」
「ブッ!ちょ、あなた何を言ってるの?そ、そんなわけないじゃない」
慌てて反論する有都を糸永はえ?といった顔で見てくる。
「え?違うの?だって電k…」
「わー!ちちち違うの!そんなんじゃなくて…」
明らかに図星を突かれたという反応の有都を見て糸永はニヤリと笑みを浮かべる。
「いいなー電樹は!あたしが男だったら毎日抱いてるわよ。このナイスバディを電樹は独り占めかー」
「やめ、やめて!そんなこと言わないで!本当にそんなんじゃないから!」
「いいなー、二人して夜にあんなことやこんなことを、羨ましいなー」
「キャーーー!やめて!本当にやめて!ちょっと想像しちゃったから!」
有都は言われて少し想像してしまう。そんなことはないと、すぐに気を取り直す。
「てゆうかなんで電樹?男なんて他にもいるじゃない!」
「でも電樹だけ態度違うよね?何かかしこまってるっていうか…」
有都はそこで電樹が鳥束に激昂した時のことを思い出す。それ以外も柔らかな口調で会話した記憶を見つけることはできない。
「そんなつもりはない…ないの…でも話すと緊張しちゃって…でもでも違うよ?好きだからとかじゃなくて!ね?」
「それを恋と言うのでは?ま、これ以上詮索はしないわよ」
耳まで赤くなっている有都を見兼ね、その話題を終わらせる。話題を取り止めたと同時に二人は目的地へと到着する。
「着いたわね。ここからは仕事の時間だ」
先刻まで色恋沙汰に華を咲かせていた二人の顔色が変わる。
「それから…感じる?」
帝英を出てすぐにそれはずっと着いてきている。その気配は感じ取れていたし、不意打ち回避性能は鍛えられている。
「ええ、ストーカーかしら?解華?お願いできる?」
事務所から出てくる一人の少女。彼女は二人のすぐ横を通り、
「了解」
少女・薔薇解華はストーカーのいる方へ向かっていった。
「ええ?ストーカー?」
二人は人気女優の意外な秘密を聞かされる。まさか報道番組よりも先にこの事実を知ることになるとは。
「はい…一ヶ月前からずっと…警察に言おうか迷ったんですけど実際、直接的な被害に遭ったわけでもないし…それで結局言わなかったんですけど…」
(そのストーカーがさっきの男?とりあえずストーカーの方は解華に任せておいて、問題は…)
「答えられる範囲で答えて下さい。この人知ってますよね?」
そう有都が言うと、糸永が胸ポケットから本郷の写真を取り出し見せる。
「──白兎…くん?」
下の名前で呼ぶ、そのことから親しい仲だったのが伺える。
「例の事件、何があったか覚えていますか?」
「はい…あれは彼の能力の暴発で…それで前が見えなくなって階段から落ちたんです。突き落とされたような感じもしたんですけど」
「え?突き落とされた?」
聞き捨てならない言葉に糸永が食いつく。
「あ!いえそんなはずないんですけど…白兎くんがそんなことするはずもないんですけど…もし白兎くんが一線を越えようとしていたら止めてください。お願いします」
「はい!この命に代えても!」
その言葉を最後に二人は事務所をあとにする。
「なーんか本郷って人が犯人じゃない気がしてきたなー」
「うん、仮に犯人だったとしても何か訳がある気がする」
淀みきった疑念を抱きながら、二人は帝英学園へと戻る。そしてその十分後、帝英への帰路の途中。
『おい、有都、糸永』
突然、イヤホンから声が響く。
「キャアッ、で、電樹?な、なんでしょう?」
「プッ!」
乙女の様な悲鳴が一転、真面目な理系女子のような口調になる。その様子を見て糸永が吹き出す。
『何でそんな緊張してんだよ、つーか何で俺だけそんな丁寧な…』
触れられたくない所を触れられ、慌てて取り繕う。
「そんなことないわ!あらやだ私ったら。それで何の要件なの?」
『有都達と佐々木亜里沙の会話は聞いてた。冬真が情報の整理がしたいって』
「ああ、わかったわ…です…」
「ククク」
どうやら糸永は笑いを堪えるのに精一杯なようだ。有都は頬を膨らませる。
「もう!何で笑うのよ!」
「あーごめんごめん、やー、慌ててんのが可愛くて。あーやべー腹いてー」
糸永は涙目になって答える。有都側からすると何が可笑しいの?と言いたいが意識はしていないものの 、相当な醜態を晒したことをようやく認識した。
「安心しなって。電樹には内緒にしといてやるからさ、あーおかしー」
「……ありがとう。てゆーかいつまで笑ってんの!」
「アハハハ!ごめんごめんって!」
数十分前、解華出動その当時、
「ねぇねぇおにーさん!」
耳に黒いイヤホンをねじ込んだ少女が閃光を放つ頭顱を特徴とした四十代の男に声をかける。
「ん?なんだい?」
「おにーさんかっこいいから~遊んでいかない?」
この男性の目的は別にあった。だがそれすら揺らがす少女の悪魔的な魅力に思わず口が滑る。
「ああ、いいよ」
男性は出来るだけ柔らかな対応をする。男は先月、妻に離婚を告げられた。彼女はその穴を埋めてくれるかもしれない。今はそのチャンスを掴んで離したくなかった。そして少女は無邪気に喜ぶ。
「やったー!じゃあお兄さん前歩いて?」
「?なぜ?」
「えー、だってえ変な目で見られたくないもん!後ろ歩いてたらただの家族に見えるでしょ?」
それなら横の方がいいのでは?そう思ったが口には出さない。そして後ろに回った少女は微笑む。それは小悪魔のような、いやそれよりも死神のような笑みを浮かべる。そして舌舐めずりを一回。
少女・薔薇解華は罠にはまった獲物をこれから喰い殺す。
「どうした?界都」
その同時刻、一人同じ場所をくるくる歩き回る界都を快は不思議がる。
「うるさい、解華に何かあったらどうする。大体あんなことするようなもんじゃない」
潜入を得意として、演技の能力も抜群。そしてその全てを際立たせるその細身で滑らかな体躯。彼女に誘惑されたらついつい乗っちゃうのがオチだ。さらには普段の妖艶な雰囲気がより一層彼女を引き立てる。快自身も初めて会った時、誘惑に負けて散々手駒にされたことがある。その忌まわしい記憶を封じ、界都に言う。
「いや、特技なんだし仕方ないだろ」
「好きでもないおっさんに裸を見せつける特技があってたまるか」
そう、何より彼女の狂気ともいえる部分は、自らの全てを赤の他人に見せられる度胸だ。
(まあ、界都の気持ちが分からんでもないけど)
「じゃあ何だよ?あいつのこと好きなの?」
「馬鹿者。あんなド淫乱女なんて好きじゃない」
「じゃあ何でそんな心配してんだよ。お前そうゆうタイプじゃねえだろ?」
界都はその一瞬、返答を迷う。だが何食わぬ顔でそう答えた。
「あいつが大切だからだ」
「………………………」
(何言ってんだコイツ)
先の発現と綺麗に矛盾している。その事実に快は困惑する。もしかすると男性よりも女性に近しい見た目の界都は解華を友人と見てるのかもしれない。そうゆう意味での大切なのか、快は好きの定義が分からなくなった。
「恋って…何…」
「ウワッどうした快!遂に目覚めた?」
「うるっさい!」
ふとした呟きを怜奈に煽られる。仮に守りたい誰かが恋の対象ならば
(俺の場合は…いや、んなわけないか…)
快はフッと笑って幼少時から見続けてきた怜奈の背中を見る。今の快には少なくとも、特別な感情はきっとない、だがその内は。
快は本当に恋が理解できなくなった。
鳥束は確かにそう言った。鋭く冷たい冷涼な眼で。この状況をどうにかしたい、スナイパーは閉じきった口を無理矢理こじ開ける。
「あ、あんたの過去に何があったのか知らねえが!落ち着けよ!」
自分でも以外なほど大きな声が出ていたと思う。そうでもしないとこの男は止められない。
そしてその言葉に鳥束はハッとする。殺意にまみれ、血走った目も、最初の頃へとゆっくり変わっていく。
だが、鳥束から溢れて止まない憎しみは依然として感じられる。
「──すまない…僕としたことが。頭に血が登っていたようだ」
人離れした狂気的な殺意と憎しみ。何か特別な意味でもあるのか。どちらにせよ、触れてはいけない何かがあるのは確かだ。
「いや…誰だってそうゆうことは…あると思うけど」
一瞬、聞こうか迷った。だがなぜか鳥束翼からは自分と同じ何かを感じる。だからつい口を開いてしまう。
「その男に恨みでもあるのか?」
「ああ、あるね。殺しても、肉も全部剥ぎ取って、骨も燃やして完全にこの世から抹消しても憎しみは、殺意は消えない、と思う」
それはそうだ。殺したい程に憎む相手は殺しても心からは消えない。
「だから忘れない。ヤツはいずれ僕が葬る」
同じことを言っている。今は、さっきの激情ではなく、静かな殺意だった。
「君は充分すぎる情報を教えてくれた。もう用はない。好きな所へ行ってくれ、ただし、また彼らの邪魔をしたら…分かるよね?」
「うっ…分かってる」
鳥束は振り返り、恐らくはその先に帝英学園があるであろう方向を見る。聞きたいことはまだあった。スナイパーは最後に口を開いた。
「あんた…こっち側の人間だろ?」
鳥束はその双眸でスナイパーを見据える。そして優しい微笑みを浮かべ答える。
「──そうだよ。僕は善人の仮面を被った、狂人だ。」
そう言い残し、鳥束は空へ飛んでいく。スナイパーはその後ろ姿をどこか吹っ切れた笑顔で見届けていた。
時は少し遡り、鳥束が例のビル付近に到着した頃、
「祐希君の推理だとここで仕掛けてくるって言ってたのに…」
「きっととりつばがどーにかしてくれたのよ!気にしない、気にしない!」
とりつば?有都は首を傾げる。数秒考えてやっと"とりつば"なるものが鳥束のことであると理解する。
「んなことよりさーあの亜里沙ちゃんに会えるんだよ?もー楽しみ!事件のこと以外にも色々聞きたいことあるなー!例えば顔小さくする方法とかースタイルよくする方法とか!あとは胸を…」
話が止まらない。有都は目を輝かせる糸永を呆れ顔で見る。
「でも良いよねーいろねんは!顔可愛いし、声可愛いし、スタイル良いし肌白いし歌上手いし肌すべすべだしおっぱいでかいし!」
そう言われて有都は自分の体を見る。確かに…と思いかけるもすぐに首を振る。
「彼氏もう決まってるようなもんだし!」
「ブッ!ちょ、あなた何を言ってるの?そ、そんなわけないじゃない」
慌てて反論する有都を糸永はえ?といった顔で見てくる。
「え?違うの?だって電k…」
「わー!ちちち違うの!そんなんじゃなくて…」
明らかに図星を突かれたという反応の有都を見て糸永はニヤリと笑みを浮かべる。
「いいなー電樹は!あたしが男だったら毎日抱いてるわよ。このナイスバディを電樹は独り占めかー」
「やめ、やめて!そんなこと言わないで!本当にそんなんじゃないから!」
「いいなー、二人して夜にあんなことやこんなことを、羨ましいなー」
「キャーーー!やめて!本当にやめて!ちょっと想像しちゃったから!」
有都は言われて少し想像してしまう。そんなことはないと、すぐに気を取り直す。
「てゆうかなんで電樹?男なんて他にもいるじゃない!」
「でも電樹だけ態度違うよね?何かかしこまってるっていうか…」
有都はそこで電樹が鳥束に激昂した時のことを思い出す。それ以外も柔らかな口調で会話した記憶を見つけることはできない。
「そんなつもりはない…ないの…でも話すと緊張しちゃって…でもでも違うよ?好きだからとかじゃなくて!ね?」
「それを恋と言うのでは?ま、これ以上詮索はしないわよ」
耳まで赤くなっている有都を見兼ね、その話題を終わらせる。話題を取り止めたと同時に二人は目的地へと到着する。
「着いたわね。ここからは仕事の時間だ」
先刻まで色恋沙汰に華を咲かせていた二人の顔色が変わる。
「それから…感じる?」
帝英を出てすぐにそれはずっと着いてきている。その気配は感じ取れていたし、不意打ち回避性能は鍛えられている。
「ええ、ストーカーかしら?解華?お願いできる?」
事務所から出てくる一人の少女。彼女は二人のすぐ横を通り、
「了解」
少女・薔薇解華はストーカーのいる方へ向かっていった。
「ええ?ストーカー?」
二人は人気女優の意外な秘密を聞かされる。まさか報道番組よりも先にこの事実を知ることになるとは。
「はい…一ヶ月前からずっと…警察に言おうか迷ったんですけど実際、直接的な被害に遭ったわけでもないし…それで結局言わなかったんですけど…」
(そのストーカーがさっきの男?とりあえずストーカーの方は解華に任せておいて、問題は…)
「答えられる範囲で答えて下さい。この人知ってますよね?」
そう有都が言うと、糸永が胸ポケットから本郷の写真を取り出し見せる。
「──白兎…くん?」
下の名前で呼ぶ、そのことから親しい仲だったのが伺える。
「例の事件、何があったか覚えていますか?」
「はい…あれは彼の能力の暴発で…それで前が見えなくなって階段から落ちたんです。突き落とされたような感じもしたんですけど」
「え?突き落とされた?」
聞き捨てならない言葉に糸永が食いつく。
「あ!いえそんなはずないんですけど…白兎くんがそんなことするはずもないんですけど…もし白兎くんが一線を越えようとしていたら止めてください。お願いします」
「はい!この命に代えても!」
その言葉を最後に二人は事務所をあとにする。
「なーんか本郷って人が犯人じゃない気がしてきたなー」
「うん、仮に犯人だったとしても何か訳がある気がする」
淀みきった疑念を抱きながら、二人は帝英学園へと戻る。そしてその十分後、帝英への帰路の途中。
『おい、有都、糸永』
突然、イヤホンから声が響く。
「キャアッ、で、電樹?な、なんでしょう?」
「プッ!」
乙女の様な悲鳴が一転、真面目な理系女子のような口調になる。その様子を見て糸永が吹き出す。
『何でそんな緊張してんだよ、つーか何で俺だけそんな丁寧な…』
触れられたくない所を触れられ、慌てて取り繕う。
「そんなことないわ!あらやだ私ったら。それで何の要件なの?」
『有都達と佐々木亜里沙の会話は聞いてた。冬真が情報の整理がしたいって』
「ああ、わかったわ…です…」
「ククク」
どうやら糸永は笑いを堪えるのに精一杯なようだ。有都は頬を膨らませる。
「もう!何で笑うのよ!」
「あーごめんごめん、やー、慌ててんのが可愛くて。あーやべー腹いてー」
糸永は涙目になって答える。有都側からすると何が可笑しいの?と言いたいが意識はしていないものの 、相当な醜態を晒したことをようやく認識した。
「安心しなって。電樹には内緒にしといてやるからさ、あーおかしー」
「……ありがとう。てゆーかいつまで笑ってんの!」
「アハハハ!ごめんごめんって!」
数十分前、解華出動その当時、
「ねぇねぇおにーさん!」
耳に黒いイヤホンをねじ込んだ少女が閃光を放つ頭顱を特徴とした四十代の男に声をかける。
「ん?なんだい?」
「おにーさんかっこいいから~遊んでいかない?」
この男性の目的は別にあった。だがそれすら揺らがす少女の悪魔的な魅力に思わず口が滑る。
「ああ、いいよ」
男性は出来るだけ柔らかな対応をする。男は先月、妻に離婚を告げられた。彼女はその穴を埋めてくれるかもしれない。今はそのチャンスを掴んで離したくなかった。そして少女は無邪気に喜ぶ。
「やったー!じゃあお兄さん前歩いて?」
「?なぜ?」
「えー、だってえ変な目で見られたくないもん!後ろ歩いてたらただの家族に見えるでしょ?」
それなら横の方がいいのでは?そう思ったが口には出さない。そして後ろに回った少女は微笑む。それは小悪魔のような、いやそれよりも死神のような笑みを浮かべる。そして舌舐めずりを一回。
少女・薔薇解華は罠にはまった獲物をこれから喰い殺す。
「どうした?界都」
その同時刻、一人同じ場所をくるくる歩き回る界都を快は不思議がる。
「うるさい、解華に何かあったらどうする。大体あんなことするようなもんじゃない」
潜入を得意として、演技の能力も抜群。そしてその全てを際立たせるその細身で滑らかな体躯。彼女に誘惑されたらついつい乗っちゃうのがオチだ。さらには普段の妖艶な雰囲気がより一層彼女を引き立てる。快自身も初めて会った時、誘惑に負けて散々手駒にされたことがある。その忌まわしい記憶を封じ、界都に言う。
「いや、特技なんだし仕方ないだろ」
「好きでもないおっさんに裸を見せつける特技があってたまるか」
そう、何より彼女の狂気ともいえる部分は、自らの全てを赤の他人に見せられる度胸だ。
(まあ、界都の気持ちが分からんでもないけど)
「じゃあ何だよ?あいつのこと好きなの?」
「馬鹿者。あんなド淫乱女なんて好きじゃない」
「じゃあ何でそんな心配してんだよ。お前そうゆうタイプじゃねえだろ?」
界都はその一瞬、返答を迷う。だが何食わぬ顔でそう答えた。
「あいつが大切だからだ」
「………………………」
(何言ってんだコイツ)
先の発現と綺麗に矛盾している。その事実に快は困惑する。もしかすると男性よりも女性に近しい見た目の界都は解華を友人と見てるのかもしれない。そうゆう意味での大切なのか、快は好きの定義が分からなくなった。
「恋って…何…」
「ウワッどうした快!遂に目覚めた?」
「うるっさい!」
ふとした呟きを怜奈に煽られる。仮に守りたい誰かが恋の対象ならば
(俺の場合は…いや、んなわけないか…)
快はフッと笑って幼少時から見続けてきた怜奈の背中を見る。今の快には少なくとも、特別な感情はきっとない、だがその内は。
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