エリザベートは悪役令嬢を目指す! <乙女ゲームの悪役令嬢に転生したからと言って悪女を止めたら、もう悪役令嬢じゃないよね!1>

牛一/冬星明

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42.秋はエリザベートにつきる。

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11歳の秋、王国を襲った日照りは王国中に大きな爪痕を残した。
その激務から心労で父上がお倒れになるほどだった。
私は父上にこの言葉を送った。

『神は天にありて 世はすべて事もなし』

「父上が回復されまして、エリザベートは嬉しく思います」
「もうおまえのことは諦めた。好きにするがいい」
「ホント、貴方って子は! 貴方って子は! 貴方って子は!」

母上もずっと怒っておられる。
どうしてこうなってしまったのかしら?
我が家は晩餐会と舞踏会を無事に終えた。

「どこが無事ですか? オリバー王子とは仲違い、クリフ王子を恐喝したと噂ですよ」
「仲違いとは酷いですわ!」
「一曲くらいは踊りなさい」
「それは王子に言って下さい。それともわたくしから誘えとでも言うのですか?」
「そんな恥ずかしいことをしてはいけません」

晩餐会ではオードリー侯爵の令嬢と揉め、翌日の舞踏会でオリバー王子を独占されるという痛恨の二連敗を喫したが、翌々日に開かれたラーコーツィ家で舞踏会でもオードリー侯爵の令嬢が病気で不参加になった。

オードリー侯爵令嬢 VS エリザベート嬢

オリバー王子を巡って、二人の令嬢が奪い合いをする。
ご夫人達にとってこれほど楽しい話ネタはない。
負けても勝っても母上は肩身が狭かった。

オードリー侯爵の令嬢だけがいないなら誰も不思議がる者はいなかった。
しかし、ラーコーツィ家の舞踏会でオリバー王子の取り巻きの王族令嬢たちが全員不参加という異常事態が起こったのだ。

次いで言えば、弟のクリフ王子は晩餐会の翌日から体調を崩して城に閉じ籠っていた。

オリバー王子は普通にダンスを踊れて満足したらしい。

「エリザベート、貴方は穏やかにことを進めるということを知らないのですか?」
「わたくしが指示した訳ではありません」
「だが、事実であろう。貴族に貸し出しを渋った商人を呼び出してみれば、『エリザベート様のご不興を買う訳に参りません』と口を揃えていうのだ」
「ですから、あれはオードリー侯爵の令嬢対策です。南方商人に申し付けただけでございます。王都の商人に申し付けた訳ではございません」

晩餐会から戻ってきた私はすぐに手を打った。
対象はオードリー侯爵のみだ。
しかも命じたのは南方の商人限定であった。
王都の商人の数からすれば、わずかな数で影響がないと思われるかもしれない。
しかし、香辛料のネットワークは広い。
その香辛料を大量に買ってくれるのが貴族様だ。

オリバー王子の取り巻きは王族というだけの貧乏王族であり、大口の取引ではない。
否、借財が目に余るものだった。
オードリー侯爵は領地持ちの中堅貴族であったが、派手な散財に比べて収入が少なく、借財が貯まる一方の赤字貴族だった。

私はもちろん承知している。

貧乏王族に借財返還と追加融資の拒絶が舞い散った。
商人は素早い。
翌日の午前中に使いの者が貧乏貴族の屋敷に走った。
目を丸くしただろう。
社交界シーズンはこれからだ。
金がいるのは今からだ。
王族という見栄で散財が絶えない。
それなのに追加の借財ができないと断られたのだ。
ほとんどが領地を持たない貧乏な王族、法衣貴族に蓄えなどあるハズもなかった。
無ければ、借りればいい。
王族ゆえに断れなかったのだ。
膨らみ続ける借財を気に掛ける様子もなかった。
王族という権威を借りて借財が膨らんでいった。

そこに『エリザベート様』という印籠が降って来た。

このチャンスを逃すようでは商人はやってゆけない。
一斉に追加借財を断りに走った。
オードリー侯爵だけでなく、取り巻きだったすべての貧乏王族の元にだ。
王族の舞踏会の裏で、父上に苦情が上がった。

『ヴォワザン家は王族を敵に回すか!』

オードリー侯爵を筆頭に王族連合(貧乏王族連合)が結成され、ヴォワザン家と直接対決のなるかと誰もが思った。

『ジョルト、お主の娘が我がオードリー侯爵を含む王族に喧嘩を売ってきた。この落とし前をどう取るつもりか?』

寝耳に水。
商人を使って借財を停止したなど聞いていなかった父上は焦った。
部下の長官をはじめ、誰も味方になってくれない。
誰も王族連合(貧乏王族連合)なんて敵に回したくない。
午前中は商人らを呼びつけて事情の確認を行う。
誰もが私のご不興を買いたくないと口を揃えていう。

『それほど小娘が怖いのか!』
『当然でございます。エリザベート様を怒らせれば、明日から商売ができません。どうかご配慮をお願い致します』
『地方の貴族の分際で王族に逆らうのか?』
『地方? とんでもございません。エリザベート様は大司教様のお気に入りでございます。エリザベート様に逆らって破門されては商売もできません。王族の方とは言え、不条理を通せば破門されますぞ!』
『そんな馬鹿な!』

王族連合のみなさんより、私一人の方が怖いというのだ。
商人って正直だね!
王族連合なんて言っても、所詮は貧乏王族の寄り集まりとタカをくくっていた。
商人は大司教様の名を出して王族を脅し返した。
王族連合は矛先を父上に集めた。

父上は素晴らしい。
青い顔をしながら、その圧力に屈しなかった。
無礼にならないように礼儀正しく、それでいて要求を飲まない。
ぬらりくらりとする父上に王族連合が痺れを切らしてゆく。

「オードリー侯爵の言われることが判る。しかし、儂もエリザベートを怒らせるのが怖いのだ」
「娘が怖いとはどういうことだ」
「父上なんか嫌い、一生口を聞きませんとか言われると、もう胸が裂けそうになってしまう」
「話にならん。それでも父親か!」
「そう申されるが娘が可愛い」

午前中の事情聴取が終わり、午後から弾劾裁判が行われそうとなっていた。

王族達が連名で訴状を上げたとして王が訴状を受け取るだろうか?

小麦事件で王に大きな貸しを作った父上だ。
しかも商人が借金を拒絶したから困っているという訴状だ。

エリザベート嬢と貧乏王族のどちらが偉いか?

そんな情けない訴状を公文書に残したいだろうか。
私なら拒絶する。
騒ぎが大きくなると、王族筆頭で宰相とラーコーツィ家、セーチェー家の主だった者がやってきた。

王族連合は味方がやってきたと思ったようだが、然にあらず、王宮の高官ほど商人の苦情に頭を悩ませていた。
宰相も王族というだけで傍若無人の振る舞いをする貴族に苦慮していたのだ。

しかし、借財程度で王族を処罰する訳にもいかない。

ヴォワザン家とオードリー家の騒動は、宰相にとっても渡りに舟であった。
宰相は私の出した指示をすぐに撤回させるように命じた。
同時に、新たな貸出は王宮を通じて許可を貰うと判決した。
これでヴォワザン家に貸しを返し、すべての貧乏王族の手足を縛ることができる。

一石二鳥だ。

父上は宰相の判決に感謝した。
困ったのはオードリー侯爵を筆頭にする王族連合の方々であった。
返す当てのない借財の申請は通さないと宰相が断言する。
事実上、追加借金の禁止だ。

私の命令が宰相に変わっただけ!

宰相のアポニー家は王族筆頭であり、王族の権威が通じない。
貧乏王族はそれで改心するほど甘くなかった。
身の周りを簡素にして、生活改善をするなんて考えない。
手の平を返したように父上に和解を申し出たのだ。
貧乏王族は逞しい。
借金が駄目なら融資があるさ!

「エリザベート嬢は素晴らしい!」
「オリバー王子の妃になるのに相応しいと思うぞ」
「貫録を持ち合わせておりますな」
「王族として支持いたしますぞ」

露骨な手の平返しも恥と思わない。
父上の手を取って、一緒にがんばりましょうと寄り添ってくる。
金のなる木によってくる寄生虫だ。
返さないでいい融資という名のお金を無心する。
これを無下にしないのが父上らしい。

翌日、オードリー侯爵令嬢のエラちゃんが和解(無心)の手紙を持ってきた。

 ◇◇◇

小麦事件にはじまり、王子争奪戦まで!
この秋で私の話題が上がらない日がない。

・エリザベート嬢は嫉妬深く、目障りなオリバー王子の取り巻き令嬢を駆除した。
・エリザベート嬢はクリフ王子を恐喝して舞踏会の参加を禁じた。
・エリザベート嬢はお菓子好きのセーチェー家夫人をお茶菓子で取り込んだ。
・エリザベート嬢は金に物を言わせて王都で炊き出しを行い、自分を『聖女』と呼ばせている。
・エリザベート嬢は金を握らせて王族連合を取り込んで、オリバー王子との婚姻を支持させている。
・エリザベート嬢はオリバー王子が南領の新領主になるように進言している。
・エリザベート嬢はアポニー家の子息、エスト家の子息とも仲がよろしく年頃らしい。
・エリザベート嬢はその美貌でロリコンの大司教や司教を籠絡して好き放題している。

私が淫乱な令嬢のような噂まで流れている。
失礼だわ!
みんな好き勝手言ってくれている。
お茶会でそんな噂は全部嘘だとずっと否定しているのに柳に風だ。
母上はずっと御冠で肩身が狭い。

この秋はエリザベートにつきる。

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