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41.11歳でもいるんです。

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小さな乙女と女の争いを繰り広げて最中に声を掛ける野暮で馬鹿な王子がいた。
第二王子クリフである。
顔立ちはそっくりで双子かと思うほど似ているが、兄のオリバーの髪が肩に掛かる感じの長さに対して、クリフはショートカットで決めている。
どちらも母親似の美しい容姿を受け継いでいるのが幸いだ。
大きなだんご鼻の王様似で生まれたら、おっさん顔でモブキャラに降格だわ。
いくら第一王子でもNOサンキュウー!
婚約なんて破棄よ。
どちらも母親似の美形でよかった。
クリフ王子の髪は王様に似た少し淡い金髪をしている。
髪でよかったね!

クリフ王子は年相応の令嬢を引き連れて登場した。
やっていることがオリバー王子と同じだ。

「兄上、幼女と戯れていると品格を落としますぞぉ!」
「黙れ! おまえの指図など受けん」
「これは、これは、クリフ王子。幼女とは私のことでしょうか」
「他に誰がおる」
「確かに今は幼いかもしれませんが、あと3年ほどお待ち下さい。立派なレディーになってみせます。それよりクリフ王子こそ、そのような下女を引き連れていますと、品格を落とすというものです」

おぉ~、エラちゃんは私に逆らっただけあって気が強い。
強烈なカウンターが放った。

「私達を下女ですって!」
「年下の癖に生意気よ」
「では、我がオードリー侯爵家と争いますか!」
「クリフ王子、言い返して下さい」
「お願いします。王子」
「クリフ様!」
「このチビを叱って下さい」
「王子に頼るなんてふざけた猿ね」
「猿ですって!」
「王子」
「王子様」

自分より年上の王族令嬢に一歩も引かない。
しかし、少女達は反論せずにクリフ王子に頼っている?
エラちゃんより立場が弱い証拠か。
全員の顔を知らないから気が付かなかったが、4~5人は法衣貴族の王族令嬢だと知っている。
つまり、他の令嬢も弱小王族の令嬢なのだろう。

「ねぇ、エラちゃん。婚約候補の令嬢はこの仲にいないのぉ?」
「いないわよ。エラちゃんって、誰のこと」
「貴方」
「うきぃ! まぁいいわ。教えて上げる。本命はカロリナ嬢とテレーズ嬢と決まっているのに争うなんて馬鹿げているでしょう。だからと言って側室でもいいなんて思う訳ないでしょう。つまり、クリフ王子の取り巻きになっても得になることなんてないのよ」
「おぉ~なるほど!」
「エリザベートって、抜けているわね!」
「王族には、まだ疎いのよ」
「すぐに知ることになるわ!」

かなり馬鹿にされたようだ!
エラちゃんは側室でもいいというお零れを狙った浅ましい令嬢を見下している。
婚約候補はいい所のご令嬢だ。
自力で伯爵や子爵の正妻夫人になれるからクリフ王子の庇護は必要ない。
婚約候補だったのはただの箔付けでしかない。
本命は他にある訳か。

「カロリナ様とテレーズ様がいないのはどうして?」
「当たり前でしょう。自分をはっきりと婚約者にすると言ってくれない男に媚びを売るほど安くないのよ。当然でしょう」

あっ、そういうことか!
クリフ王子がカロリナ嬢とテレーズ嬢のどちらかを選んだとは聞いていない。
選んでくれない王子に連れ添うつもりはいないのか。

「エラちゃんだけが側室でもいいのね!」
「そんな訳ないでしょう。私の舞踏会デビューはオリバー王子よ。王子は私を選んでくれた。貴方なんて蹴落として正妻になってみせるわ」

こういう女の子は応援したい。
思わず、拍手をしたくなる。
相手が第一王子じゃなかったらくれてやるのに!
お姉さん、本気には本気で相手しちゃうよ。
でもその前に共通の敵をやっつけましょう。

「はじめまして、クリフ王子。エリザベートと申します。以後、お見知りおきを!」
「聞いておるぞ。兄上の婚約者であるな! いずれは姉上とお呼びしよう」
「そうなる日を願っておきます」
「兄上はシャイなお方で心にもないことを言われる。エリザベートにキツく言っておるが気にする必要はないぞ」
「ご助言、ありがとうございます。ですが、オリバー王子を刺激されないようにお願い致します」
「私は兄上を心配しておるのだ。そのような幼女と戯れるようでは、精神が病んでおられないかと」
「何ですって!」
「ご安心下さい。エラ令嬢はりっぱなレディーでございます」
「エリザベートは心が広いようだな」
「ところで珍しい地図をお持ちだとお聞きしました。わたくしも各地の物産を探しております。珍しい地図が手に入った時はお声を掛け下さい」
「何のことだ?」
「クリフ王子は朝に地図を見るのがお好きだとお伺いしました」

その瞬間、クリフ王子の顔から血の気がすっと下がっていった。

「何を知っている?」
「いいえ、何も知りません」
「誰から聞いた!」
「いいえ、誰にも聞いておりませんし、言ってもおりません」

扇子で口元を隠して、軽く目を逸らした。
信じられない。
でも、信じたい。
その思いが交錯して混乱している。

「行くぞ」
「王子!?」
「王子様」
「クリフ王子!?」
「王子」

慌てて、クリフ王子が去っていった。
取り巻きの令嬢を置き去りにして歩いていった。
ふふふ、私は慌てるクリフ王子がおかしくて手を当てて笑いを堪えた。

「あんた、何をやったの?」
「何もしていませんわ」
「嘘よ」
「王子除けのまじない・・・・です」
「よく判らないけれど覚えておくわ」

クリフ王子は本当に何もやっていない。
水の精霊に好かれていただけだ。
幼い頃は水場で遊び、その才能の片鱗を見せていたらしい。
オリバー王子の様に我儘に育ったのに対して、素直な子供だったと自分で言っていた。
どこまで本当かは知らない。

ところが7歳になって環境が変わり、王としての気構えなんて言われるようになると勉学や剣術などと急に忙しくなる。
自由にしていた時間が急激に失われ、森で遊ぶ時間が減っていった。
その頃から水の夢をよく見るようになった。
目が覚めると腰辺りが温かく感じ、次の瞬間にクリフ王子の心臓が止まる。
王子は寝る前に水を飲まない。
おトイレにも行く。
どんなに気を付けていても中々に治らない。
クリフ王子は悩んでいた。
治る訳がない、水の精霊の悪戯だったからだ。
魔法を本格的に習得するようになった13歳になるまで気が付かなかったのだ。
これがクリフ王子のトラウマに1つだ。

11歳のクリフ王子はおねしょで悩んでいる真っ最中であり、この秘密は絶対に隠さなければならないトップシークレットだ。
どうして私が知っているのかと、頭の中がパニックになっているに違いない。

ちょっとズルっ子だ。

ゲーム内のクリフ王子は水の精霊と喧嘩しており、水の魔法が巧く使えないと悩んでいた。
朝早く、学園の森の奥で練習をするクリフ王子を見つけて、マリアは友達になったのだ。
マリアは光の精霊を感じることができる。
水の精霊の苦情を聞くことで、クリフ王子のおねしょの話を聞くことになった。

『どうか怒らないであげて下さい』
『俺はずっと悩んでいたんだ!』
『ただ、昔みたいに構って欲しかっただけなのです。一緒に戯れてくれないので拗ねていたのです。水の精霊はクリフ王子の分身です。自分のことを責めないで下さい。自分を好きになって下さい』
『水の精霊が俺自身だというのか?』
『はい、そうです。幼い王子は水の精霊と契約を結び、水の精霊と1つになったのです。どうか、その子(精霊)を心の中で閉じ込めないで下さい。解き放って下さい。そうすれば、水の精霊は王子に応えてくれるでしょう』

クリフ王子は皆の期待に応えようと時間を惜しんで勉学、剣術とがんばったが、何一つ勝てるものがなかった。
クリフ王子は心歪めていった。
いつしか兄を言葉でさげすむ以外の方法がなくなっていたのだ。

でも、学園に入学すると、嫌でもはっきりと差にでた。
最初のイベントは、『清浄の杖』を手に入れたマリアがトップで、エリザベートが2位、オリバー王子が3位、クリフ王子は4位だった。
中間テストではオリバー王子がトップで、マリアが2位、エリザベートが3位、クリフ王子は再び4位だった。
魔法の実習でも兄に勝てない。

クリフ王子は追い詰められてゆく。

どうでもいいことだけど!
2周目からは中間テストでマリアが1位になることができる。
中間テストの順位はゲームに影響しないけどね!
ワザと全問不正解にして補習を受けるような馬鹿なことをすると、朝寝坊してクリフ王子との出会いイベントが起こらない。
ここだけが注意だ!

マリアと出会ったクリフ王子は精霊と和解する。
精霊と仲直りしたクリフ王子は魔力が一気に増大して、マリア、アンドラ、クリフの『トップスリー』と称されるようになってゆく。
クリフ王子ははじめて兄に勝てるモノを手に入れた。
それをキッカケにクリフ王子は兄の呪縛から解き放たれる。
これをクリアーしないとクリフ王子の攻略が始まらない。

まだ、11歳のクリフ王子は精霊の悪戯を知らない。

私におねしょのことを聞かされたクリフ王子は、パニックになったままで会場から出ていってしまった。

ははは、やり過ぎたかな?

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