上 下
38 / 63

36.優雅に午後ティーならぬ、午前ティーを。

しおりを挟む
朝方から優雅なお茶の時間を過ごしていた。
昨日ですべて終わった。
今日から社交界シーズンであり、お茶会と舞踏会に奔走する。
令嬢の時間だ!

春の庭園は美しい。
庭師もこの時期が一番に楽しいだろう。
咲き誇る花たちを眺めながら散歩を終えて戻ってくると朝のお茶会を始める。
お茶の相手はアンドラだ。
特に話すこともないので、時間がゆっくりと流れていった。

「母上のダンスの猛特訓が懐かしいわ」
「そうですね」
「そう言えば、母上に何をされているの? 今朝は一緒にお茶を楽しむと言われていましたのに」
「今日、着てゆくドレスを見直しております」
「また、母上にも困ったものね!」
「姉様はよろしいのですか?」
「必要ないでしょう。アンドラと一緒よ」
「僕と?」
「何を着ても美しく見えるでしょう」
「はい」

アンドラが妖艶な笑みを浮かべて微笑む。
何が素晴らしいかと言えば、エリザベートのスタイルの良さよ!
遠い過去の地味っ子よ、さようなら!
母親譲りの美貌とスタイルに感謝だわ。
アンドラと一緒に並べば、美少年と美少女のペアーが完成する。
はじめての舞踏会では、新着のドレスを何度も着直して自分に見惚れた。
ダンスの猛特訓も、ドレスを見れば耐えることができた。

「今年も赤ですか?」
「当然よ! 私のトレードカラーですもの」
「どんなドレスですか?」
「知らないわ!」
「もしかして袖を通しておられないのですか」
「職人を信じておりますもの」

というのが建前で、楽しみは最後まで取ってある。
春と秋に新着ドレスを10着ほど用意してくれる。
最初の2着は赤を基調にしたドレスと申し付けてあり、会議などでも着ることになるドレスにする。
残る8着は商人と職人に任せている。
使い終わると侍女たちに払い下げる。
金貨10枚(100万円)もするようなドレスを1シーズンしか使わないなんて!

なんて贅沢な仕様だ!

この世界に生まれ代わって辛いことが多かったけれど、これだけは幸せよ。

 ◇◇◇

舞踏会はちょっと飽きてきたかしら!
私はおじ様にモテるようで年配者が集まってくる。
ダンスのパートナーはそのご子息が多い。
野心的な子息か、嫌々で踊らされている相手しかいない。
いい感じの可愛い子が声を掛けてくれない。

婚約者が決まっていないアンドラは舞踏会の花役だ。
私と最初のダンスを終えると、女の子たちがアンドラに殺到する。
アンドラはすけこまし度が上がってゆく。

少し残念なこともある。
おいしいそうな料理が並んでいるのに貴婦人は余り手に取らないので味見ができない。
舞踏会の前に小腹を満たして向かわないと体が持たないくらいよ。
食事は屋敷に帰ってからになる。
もったいない。
もったないけれど、はしたないことはしない。

「姉様はさきほどから何を読まれているのですか?」
「舞踏会に参加される方のプロフィールよ」
「よろしいですか?」
「どうぞ!」

庶民に流れる情報は馬鹿にできない。
以前も思ったけれど、どこで仕入れてくるのかしら?
庶民と言っても侮れない。
アンドラがいくつかの中から私の情報を手に取った。

私は赤い色を好み、ドレスは派手なモノが好きらしい。
装飾は高価な宝石を使用しながら、ひっそりと飾るものを選ぶ。
送り物は高価な物より珍しい物を好む。

こんな風に見られているのね!
思い当たるので納得してしまう。

「1つ、間違っています。私は肉料理が特別に好きな訳じゃないよ」

から揚げ、ハンバーグ、とんかつ、すき焼き、牛丼などを肉料理に様々な食感を楽しむ方法を料理人に伝えた。
特に香辛料を使ったカレーやシチューがセンセーショナルだったようだ。
私が教えた肉料理を勝手に絶賛している。

「そうなのですか?」
「野菜を使った料理に文句がないから口を出さないだけなのよ」
「肉料理に拘っているのかと思っておりました」
「あれはメルルのせいです」
「そんなことをありました。でも、姉様が作られる料理は皆が絶賛しており、メルルだけではありません」
「あれは野営地だからです」

野営では料理ができる者がいない。
下処理もしない肉料理が不味過ぎた。
お風呂はクリーンの魔法で我慢できるけど食事は我慢できない。
余りの不味さに口を出した。
その料理と屋敷の賄いを比べて、メルルが料理長に余計なことを言った。

“この賄いはおいしくありません”
“不味いなら食わなけりゃいい”
“お嬢様の方が料理長の何倍もおいしい料理を作れるという話です”
“そんな訳あるか?”

メルルのせいで料理対決をする羽目になって料理長と料理対決し、料理長が交代することになり、晩餐会の監修を任されることになった。
あっ、追い出した訳じゃないですよ。
料理長は料理の研究ができる料理学校の校長になって貰っただけですからね!

報告書にも調理場に立つ変人と書かれている。
言っておくが、私は晩餐会やお茶会で料理を振る舞ったことはない。
貴族は料理人が作った物しか食べないという暗黙のルールである。
素人の料理を他の貴族に出すのは恥知らずだ。

あくまで私は監修だ!

「今度はどんな料理が出てくるのですか?」
「もう、私のレパートリーは尽きています。新しい料理は出てきませんよ」
「皆、期待していると思います」
「知りません」
「それは残念です」
「でも、すっぱくて食べられなかった苺ケーキが食べられるようになりましたよ」
「それは楽しみです。皆に言っておきましょう」

私達がお茶会をしている間、アンドラ達は狩りなどをしている。
そこで私達と同じように情報交換をするのだ。
ヴォワザン家の舞踏会は5番目で1週間ほど後だから、お茶会や狩りを2回ほど挟むことになる。

そんな些細な会話を楽しんでいると、母上が突然入っていた。

「エリザベート、アンドラ、すぐに準備をしなさい」

嫌な予感しかしません。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照
ファンタジー
 断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。  ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。  シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。  目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。 ※なろうにも投稿しています

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

処理中です...