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24.反撃の土の棘。
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「ねぇ、ヴァルテル。いつになったら『大狩祭』ははじまるのかしら?」
「何か勘違いをされているようですが、我が領地では魔の森と隣接しておりますから一年中行っております」
えっ?
私、何か勘違いをしていた。
狩りが春と秋と決まっているのが王都のことであり、南方は含まれていなかった。
「魔の森とはここより東になります。西側のただの森でございます。領主様は森の害虫を駆除しているだけであり、ベテランの狩師は一年中『大狩祭』を続けています」
「父上がやっているのは見世物ですか?」
「領民を安心させる為にやっており、合同の軍事訓練です」
領民のパワーレベリングだった!
ヴォワザン家は領地が広い。
領軍がすべてを面倒見ることができないので、村は自警団を作って近くの森の魔物を狩っている。魔物が多い場合は冒険者を雇い、危険な場合は領軍を呼び、場合によっては村人が砦に避難する。
各村は南北の街道沿いに作られており、村と街道を守ることは同義だった。
「私達のやっていることは訓練なのね!」
「そうでもありません。立派な駆除でございます。私ならば1日で終わりますが、1ヶ月もすれば復活し、3ヶ月くらいで今くらいに繁殖します。一人でも多くの猟人を育てるのが我が領地の課題なのです」
「大変なのね!」
「数年後には楽になります。お嬢様が拾われた領民が3,000人も増えました」
そうだった!
中央領で大量の小麦を買う口実の為に、南領・南方諸領の無辜の民をかき集めた。
でも、土地は余っているから好きに使えと放り出す訳に行かない。
ここは王都ではない。
魔の森に隣接する地獄の一丁目だ。
自分達で狩りができないと、我が領地では住むことができない。
今、彼らを領軍が鍛えている。
自立して貰わないと、食糧がドンドン浪費されてゆく。
「ははは、ダンジョン攻略が失敗していれば、無辜の民を育てるのが早いか、我がヴォワザン家の財力が尽きるのは早いかの惨事になっておりましたからな!」
「成功してよかったと思っているわ」
「父上様は御心労で倒れそうになっていました」
「アンドラって、いつの間にか、父上の愚痴聞き役になっていたわね」
「信頼して頂き、ありがたいことです」
「明日も早いのでお早目にお眠り下さい」
「判ったわ」
「駆除が終わりましたら、次は無辜の民の訓練をして頂きます」
「屋敷に戻らないの?」
「奥方より次の社交シーズンの準備があるので、5月には返せとお達しを頂いております。それまでにはお屋敷に戻れます」
のぉ~~~!
大狩祭期間が終わっても帰れないってこと。
1年の内の半分が野宿ってこと?
私、大貴族のお嬢様よね!
どうしてこんな生活をしているの?
◇◇◇
1週間も囮役を続けると、ステータスが上がったのか、単に慣れてきたのか、微妙に判らないが、かなり死亡率が下がったと思う。
「アンドラ、行ったわよ」
「大丈夫です。ほいっと!」
アンドラは全身に風を纏い、大ムカデが襲ってくると、風の力を使って右に左に華麗に避けた。
蝶を捕まえようすると、風圧で手から零れる感じだ。
風の魔法は大ムカデに通じないが、逃げるのに便利な魔法に変わった。
えっ、最初からできなかったのかって?
できなかったのよ。
アンドラは足に風の護符を巻いて逃げ足の速度を上げた。
でも、大ムカデは逃げた方に器用に体を捻って追い駆けてくる。
アンドラも苦労した。
私なんて風の護符がないから何度も死に掛けた。
「姉様、そちらに行きました」
「判っています」
『アース・ルート』(土の泥)
私の後方に泥の地帯を作り上げる。
大ムカデは100本も足があるから、泥で足を取られることはない。
でも、前足の踏ん張りを奪ったので、器用に体を捻って方向転換できないようになる。
右に回って、体を捻って左に方向転換しようとした瞬間!
前足がすべて、体が流れた。
『アース・ルート』(土の泥)
定期的に足元を悪くする。
これだけで、大ムカデは直線的な攻撃しかできなくなる。
ぐげぇ、ぐげぇ、ぐげぇ、大ムカデはどうやら怒ったらしく、目の赤さがより深くなった気がする。
体を一度引いて、体を上に上げると一気に襲い掛かる準備に入る。
ぐげぇ、上から全身のバネを使って一気に距離を埋めてきた。
私の体を目掛けて一直線だ。
体を半身にズラし、地面を跳ぶ体勢を作る。
この瞬間を私は待っていた。
『アース・ピック』(土の棘)
大ムカデの固い外殻は私の魔法では通らない。
私は横に飛ぶと同時に全神経を杖の先に集中する。
魔力コントロール、可能な限り魔力圧を高めて、1本の土の棘を製作する。
硬い、ただ硬い、尖った硬い奴だ。
斜めの突き出した『アース・ピック』が大ムカデの口の中で突き刺さる。
ばきぃ、根元から折って私の横を通り過ぎてゆく。
口の中にずっぽりと『アース・ピック』が深く刺さったままにだ。
思った通り、外殻ほど口の中は硬くない。
ぐげぇ、ぐげぇ、ぐげぇ、口の内壁を突き破った。
ダメージ(大)で大ムカデが大暴れだ。
明らかにダメージが通った。
でも、それが致命傷とならないのが悔しい。
「姉様、お見事です」
「大したことないわ。わたくしなら当然です」
「ですが、魔力を高めたくらいで貫通するとは思えませんが?」
「杭打ち効果よ」
私はただ硬いだけの『アース・ピック』を作った。
後は、口を開けた大ムカデが自分の自重で突っ込んできただけだ。
串刺しの一撃だ!
この一撃で倒せると思いたかったが、流石にそこまで都合よく進まない。
暴れるだけ暴れると、体内で『アース・ピック』を処分したのか再び襲ってくる。
でも、十分の距離を稼いだので余裕でメルルの所まで辿り着ける
ぐろろろろぉ!
森の横から大きな影が現れ、大ムカデの首に喰いついてばきりと硬い外殻を噛み砕いた。
何ぃ、何が起こったの?
「何か勘違いをされているようですが、我が領地では魔の森と隣接しておりますから一年中行っております」
えっ?
私、何か勘違いをしていた。
狩りが春と秋と決まっているのが王都のことであり、南方は含まれていなかった。
「魔の森とはここより東になります。西側のただの森でございます。領主様は森の害虫を駆除しているだけであり、ベテランの狩師は一年中『大狩祭』を続けています」
「父上がやっているのは見世物ですか?」
「領民を安心させる為にやっており、合同の軍事訓練です」
領民のパワーレベリングだった!
ヴォワザン家は領地が広い。
領軍がすべてを面倒見ることができないので、村は自警団を作って近くの森の魔物を狩っている。魔物が多い場合は冒険者を雇い、危険な場合は領軍を呼び、場合によっては村人が砦に避難する。
各村は南北の街道沿いに作られており、村と街道を守ることは同義だった。
「私達のやっていることは訓練なのね!」
「そうでもありません。立派な駆除でございます。私ならば1日で終わりますが、1ヶ月もすれば復活し、3ヶ月くらいで今くらいに繁殖します。一人でも多くの猟人を育てるのが我が領地の課題なのです」
「大変なのね!」
「数年後には楽になります。お嬢様が拾われた領民が3,000人も増えました」
そうだった!
中央領で大量の小麦を買う口実の為に、南領・南方諸領の無辜の民をかき集めた。
でも、土地は余っているから好きに使えと放り出す訳に行かない。
ここは王都ではない。
魔の森に隣接する地獄の一丁目だ。
自分達で狩りができないと、我が領地では住むことができない。
今、彼らを領軍が鍛えている。
自立して貰わないと、食糧がドンドン浪費されてゆく。
「ははは、ダンジョン攻略が失敗していれば、無辜の民を育てるのが早いか、我がヴォワザン家の財力が尽きるのは早いかの惨事になっておりましたからな!」
「成功してよかったと思っているわ」
「父上様は御心労で倒れそうになっていました」
「アンドラって、いつの間にか、父上の愚痴聞き役になっていたわね」
「信頼して頂き、ありがたいことです」
「明日も早いのでお早目にお眠り下さい」
「判ったわ」
「駆除が終わりましたら、次は無辜の民の訓練をして頂きます」
「屋敷に戻らないの?」
「奥方より次の社交シーズンの準備があるので、5月には返せとお達しを頂いております。それまでにはお屋敷に戻れます」
のぉ~~~!
大狩祭期間が終わっても帰れないってこと。
1年の内の半分が野宿ってこと?
私、大貴族のお嬢様よね!
どうしてこんな生活をしているの?
◇◇◇
1週間も囮役を続けると、ステータスが上がったのか、単に慣れてきたのか、微妙に判らないが、かなり死亡率が下がったと思う。
「アンドラ、行ったわよ」
「大丈夫です。ほいっと!」
アンドラは全身に風を纏い、大ムカデが襲ってくると、風の力を使って右に左に華麗に避けた。
蝶を捕まえようすると、風圧で手から零れる感じだ。
風の魔法は大ムカデに通じないが、逃げるのに便利な魔法に変わった。
えっ、最初からできなかったのかって?
できなかったのよ。
アンドラは足に風の護符を巻いて逃げ足の速度を上げた。
でも、大ムカデは逃げた方に器用に体を捻って追い駆けてくる。
アンドラも苦労した。
私なんて風の護符がないから何度も死に掛けた。
「姉様、そちらに行きました」
「判っています」
『アース・ルート』(土の泥)
私の後方に泥の地帯を作り上げる。
大ムカデは100本も足があるから、泥で足を取られることはない。
でも、前足の踏ん張りを奪ったので、器用に体を捻って方向転換できないようになる。
右に回って、体を捻って左に方向転換しようとした瞬間!
前足がすべて、体が流れた。
『アース・ルート』(土の泥)
定期的に足元を悪くする。
これだけで、大ムカデは直線的な攻撃しかできなくなる。
ぐげぇ、ぐげぇ、ぐげぇ、大ムカデはどうやら怒ったらしく、目の赤さがより深くなった気がする。
体を一度引いて、体を上に上げると一気に襲い掛かる準備に入る。
ぐげぇ、上から全身のバネを使って一気に距離を埋めてきた。
私の体を目掛けて一直線だ。
体を半身にズラし、地面を跳ぶ体勢を作る。
この瞬間を私は待っていた。
『アース・ピック』(土の棘)
大ムカデの固い外殻は私の魔法では通らない。
私は横に飛ぶと同時に全神経を杖の先に集中する。
魔力コントロール、可能な限り魔力圧を高めて、1本の土の棘を製作する。
硬い、ただ硬い、尖った硬い奴だ。
斜めの突き出した『アース・ピック』が大ムカデの口の中で突き刺さる。
ばきぃ、根元から折って私の横を通り過ぎてゆく。
口の中にずっぽりと『アース・ピック』が深く刺さったままにだ。
思った通り、外殻ほど口の中は硬くない。
ぐげぇ、ぐげぇ、ぐげぇ、口の内壁を突き破った。
ダメージ(大)で大ムカデが大暴れだ。
明らかにダメージが通った。
でも、それが致命傷とならないのが悔しい。
「姉様、お見事です」
「大したことないわ。わたくしなら当然です」
「ですが、魔力を高めたくらいで貫通するとは思えませんが?」
「杭打ち効果よ」
私はただ硬いだけの『アース・ピック』を作った。
後は、口を開けた大ムカデが自分の自重で突っ込んできただけだ。
串刺しの一撃だ!
この一撃で倒せると思いたかったが、流石にそこまで都合よく進まない。
暴れるだけ暴れると、体内で『アース・ピック』を処分したのか再び襲ってくる。
でも、十分の距離を稼いだので余裕でメルルの所まで辿り着ける
ぐろろろろぉ!
森の横から大きな影が現れ、大ムカデの首に喰いついてばきりと硬い外殻を噛み砕いた。
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