エリザベートは悪役令嬢を目指す! <乙女ゲームの悪役令嬢に転生したからと言って悪女を止めたら、もう悪役令嬢じゃないよね!1>

牛一/冬星明

文字の大きさ
15 / 63

14.悪党シャイロックを従わせる。

しおりを挟む
悪路じゃなく、悪臭の町だ。
居住区でも相当な臭いが漂っていたが、悪路に入ると鼻をつまみたくなる臭いが漂っている。
これは排出物だけの臭いではない。

「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。でも、オーガーの血より酷い臭いだわ」
「よくこんな所に住めるものです」
「ダンジョンで酷い暮らしも慣れましたが、それ以上です。ここに住んでみたいと思いませんね」

貴族の家ではスライムを飼って汚物の処理をさせている。
臭いの方は清浄の魔法で清潔を維持している。
魔法士の数は限られているのでどうしようもないが、スライムと上下水道で解決できる部分が大きい。
その前に清掃か!
いろいろとやることがありそうだ。

悪路(下町)には安い飲み屋や宿などがあり、石造りの家からバラック小屋まで無秩序に溢れている。
王国民になれないスラム民が溢れている。
イザコザは日常茶飯事であり、警邏隊も相手にしない。
所謂、無法地帯になっている。

「ねぇ、そこのお嬢ちゃん! ここがどこか判っているのか?」
「えぇ、小汚い小悪党のシャイロックという者の仕切っている地区と窺っているわ」
「ぎゃははは、シャイロックさんに何の用事だ」
「下っ端に話すことではありません。案内しなさい」
「いただくものを頂けば、案内をしてやらんこともない」
「下郎に渡す物など何もありません」

三下の男がいやらしく笑みを浮かべると、横に座っていた男が立ち上がり、さらに後の路地から二人が現れた。

「出すものを出しな!」
「貴族という者がどういう者か、教えてあげるわ」

ヤレ!
三下の声で三人の男が一斉に掛かってきた。
アンドラは後ろの二人に合わせと、突き刺してくるナイフをかいくぐって腹に一撃、軽くステップで体をズラすと、ハーフターンで体を捻ると裏拳で吹き飛ばした。

いいわね!

風の魔法は使い勝手がいい!
風使いのアンドラは手の周りに風の護符を撒いているので、触れるだけで相手を吹き飛ばせる。

その点、私は面倒臭い。

向ってくるナイフを扇子で受け流し、さっと足を払って体制を崩すと、扇子を真一文字に顔に落として意識を刈り取った。
一人の相手で三手も掛かってしまう。

なっ、三下がおどろいて言葉を失っている。
次の瞬間には逃げ出した。
否、逃げたのではなく、逃げたフリをして誘っている。
こうしてあっさりとシャイロックの待っている空地に案内してくれた。
何となく、見覚えのある場所だった。

「お嬢様、どんなご用件でございましょうか?」

少し小太りのシャイロックがにやにやと笑みを作って礼儀を払った。

「お嬢様、やはりこいつは信用できません。今の内に殺しておきましょう」
「信用など必要ありません。言う通りに従わなければ始末するだけです」
「お嬢様、ここがどこか御存知でしょうか?」
「ドブねずみの住処でしょう。違うかしら?」
「違いありません。だが、窮鼠猫を噛む。そのドブねずみに殺されると考えませんか!」

シャイロックが手を上げると、隠れていた部下達が一斉に姿を現わした。
資材に身を隠していた部下は剣と弓を装備しており、10人が四方から取り囲んでいる。
マリアの時の5倍増しだ。

「動けば、容赦しません」
「ふふふ、シャイロック。貴方は優秀だけれども貴族のことを知らな過ぎるわ」
「こう見えても、いくつかの貴族様にはご贔屓させて頂いております」
「お馬鹿さんね! 無能な者はいらないのよ」
「お嬢様、やはり始末して方がよろしいのでは?」
「そうね!」

私は手を上げて、パチンと指を弾いた。
黒薔薇の騎士様は呼べないけれど、黒装束の騎士ならすぐに呼べた。

なぁ、馬鹿な!
シャイロックが目を白黒させた。
どこから現れたから判らない黒装束の者が部下の首元にナイフが突きつけられていたのだ。

「貴族の令嬢が一人で町をうろうろする訳がないでしょう。そんなことも知らないなんて、まったくお粗末ね」
「判った。みんな、下がれ!」

シャイロックが部下を下がられると、私の部下もどこかに消えた。
意識障害の魔法だ!
宮廷魔法士クラスの高位の魔法士か、特殊なアイテムを持っていれば、簡単に阻止できるが、悪路の悪党では用意できない。

「お許し下さい」

シャイロックは跪いて謝った。

「最初からそうしておけば、よかったのよ」
「申し訳ございません」
「あれを!」
「はい」

アンドラが魔法袋の中から金貨100枚が入った袋を21個置いた。

「1袋は貴方の手数料です。指示書が入っています。それに従って動きなさい」
「畏まりました」
「もし、裏切るようならば………」

私は壁の方に手を翳し、魔力を腕の辺りに流した。

ずごぉぉぉぉぉ、手の平から産まれた炎が石壁まで放たれて炎上した。
何をない所で火柱が走り、派手に燃えて消えていった。
派手な炎の魔法にシャイロックが唾を呑みこんだ。

「消し炭になりたいならば、裏切りなさい」
「滅相もございません」
「貴方の働きを期待していますよ」
「お任せ下さい」
「あっ、それから。指示はその都度出します。私に連絡と取ろうとか、私が誰かなど詮索しないようにね」
「畏まりました」

そう言うと私はその場を離れた。
アンドラが何か言いたそう顔をしていた。

「何かしら?」
「お嬢様はいつ火の魔法を習得されたのですか?」

私は袖を少しだけめくって見せた。

「オリテラ帝国のおもちゃよ。殺傷能力のない派手な魔法を撃ち出せるのよ」
「先ほどの魔法は凄い威力に見えましたが?」
「見かけ倒しよ。人に向けても怪我もしないわ。オリテラではパーティーの席で使う座興のアイテムらしいわ」
「オリテラは魔法具が発展していると聞きましたが、これがおもちゃですか?」
「そうね」

オリテラは武器になる魔法具の輸出は禁止されている。
だから、実用的な魔道具は私達の手に入ることはない。
これもおもちゃだから持ち出せた。
でも、そんなおもちゃをイレーザに命じて買えるだけ買うように命じておいた。
こちらには発明王がついている。

「シャイロックは巧く騙されてくれますかね?」

大貴族の少女で、金髪、青い目、左目の下に泣きホクロ、そして、炎の使い手となると、人数は限られてくる。

はっきり言おう。

王国の双璧と言われるラーコーツィ家令嬢のカロリナしかいない。
シャイロックはカロリナに会って指令を受けた。
そう誰もが勘違いしてくれるといいのだけれど?

「どうかしら」

私達は迎えに馬車に乗ると王都から姿を消した。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...