4 / 63
3.アンドラは無知で、私はお馬鹿さん。
しおりを挟む
アンドラとのあいさつを終え、廊下を歩き始めると頭がすっきりとしてきた。
ワクワクした気持ちが消えてゆく。
これから聞くことになる悲鳴と絶叫を想像するだけで暗い気持ちが追い駆けてくる。
声を出さずに「(ごめんね、ごめんね、ごめんね!)」と何度もアンドラに謝っていた。
心の声がどうか届きますように!
アンドラを部屋に案内した。
最初はおどおどとしていたが、今ははしゃいでいる。
綺麗に飾られた部屋が自分の部屋だと言われれば、驚くのも不思議ではない。
最後は馬小屋に住んでいたアンドラだ。
シンデレラにでもなった気分なのだろう。
「この部屋は?」
「アンドラ様の寝室でございます。隣に簡単な浴室と着替え室が用意されております。ですが、入浴には大浴場を使われる方がよろしいでしょう」
「では、こちらは?」
「こちらは居間でございます。普段は寛ぐ場所でございますが、お客様をおもてなしする場所でもございます」
「ここは?」
「修学室でございます。机と書斎、様々な楽器が用意されております。すべてアンドラ様の物でございます。ここにない書籍は書斎で読むことも、お命じになれば、取りに行かせることもできます」
「僕が命じていいの?」
「アンドラ様は私どものご主人でございます」
「あちらは?」
「お待ち下さい。お入りになってはいけません。あちらは私らの控え室となっております。身分あるアンドラ様が立ち入る場所ではございません」
「僕が身分のある人ですか?」
「私どものご主人であり、この領地の次期当主様でございます」
「えぇぇぇ、僕が?」
「はい、この領地でアンドラ様より上位者はご領主様、奥方様、エリザベート様しかおられません」
どうやらアンドラは父上が領主だと気づいていなかった。
アンドラは貴族としての知識が圧倒的に足りない。
貴族として知らないことが多過ぎる。
私も偏り過ぎと怒られているけどね!
えっ、誰って?
父上と母上と家令のヴァルテルだよ。
今後の予定を話すと怒られた。
「エリザベート、おまえは王族のことを知らな過ぎる。王家に無礼を働くだけで首が飛ぶぞ。悪目立ちし過ぎれば、介入を招いて滅ぼされる。もっと慎重にならなければいかん」
「父上、慎重に行うだけでは我が家に未来はありません」
「エリザベート、慎重に動くとは行動しないことではない。行動する為に貴族と貴族の繋がりを把握せねばならん。迂闊に動くと背中から刺される。それが貴族だ」
「面倒ですね」
「お前はすでに足を踏み入れた。引き返すことなどできん。知る限りの知識を教える。生きる術を身に付けろ!」
「はい」
「私が甘やかせ過ぎました。令嬢として振る舞いを教え直します。今のままで育てば、世間の笑いものです。一から教え直します」
「母上、それは大袈裟ではないですか?」
「いいえ、私が間違っていました。秋までに一通りの礼儀作法を教えます」
「私はまだ7歳ですから」
「言葉使いもやり直しですね!」
「母上」
「お嬢様、大変に申し上げ難いことですが一般常識が足りておりません。これから何か行われる場合は先に相談をお願いします。可能な限り、助言を致します」
「何が不味かったのかしら?」
「知識、風土、身分、習慣など様々でございます。部族の数だけあると思って下さい」
「必要ですか?」
「貴族が商人の真似事をするならば、絶対に必要となります」
「ヴァルテル、貴方の顔が凄く怖いのですが?」
「ははは、大丈夫です。それと護身術も必要ですな!」
「お手柔らかに!」
農地改革、武器製造、生活向上、金融システムの改善、私の提案を全否定された。
『そんな金はない』
その一言だ。
その上で駄目だしのお説教を受けた。
香辛料の交易で金が貯まるのを待ってはいられない。
ならば、ある所から取ってくるしかない。
ダンジョン攻略を最初に持って来て組み直しだ。
駄目出しされた後は猛勉強させられました。
教師曰く、『貴族学園で教えることですが……』だってさ!
母のレクチャーも10歳の舞踏会に出るようになってから教えるものらしい。
私はマリアの生まれ故郷の教会で司教バートリー卿(男爵)と交渉し、クレタ子爵家で船の購入契約をした。
これが御冠(お怒り)の原因だ。
舞踏会を終えた子息・令嬢は社会勉強としてお使いを言い付けられる。
これを世間では貴族デビューというらしい。
舞踏会デビューより先に貴族デビューする令嬢は珍しいというか、変わり者、笑い者らしい。
母上は激怒だった。
「ヴァルテル、私に一言の相談もなかったのですか?」
「申し訳ございません」
「言ってくれれば、7歳でも舞踏会に連れて行きました。そんなことも判らない貴方ではないでしょう」
「まったく、不徳の致すところでございます」
そのときのヴァルテルは謝っていても誠意を感じられない。
我が家の面子とクレタ王家の存亡、どちらを優先するかなど決まっていた。
だから、父上は何も言わない。
その怒りの矛先は私に向けられた。
礼儀と常識のスパルタ教育です。
八つ当たりだ!
そして、一番危険なのが家令のヴァルテルだった。
「アンドラ様を裏切らせる訳にはいきません」
うん、うん、それは絶対だわ。
「これをエリザベート様にやって頂きます」
きゃあ、相談する人を間違った?
他にいないのよ。
アンドラはトラウマから心の寄り処としてマリアを信奉するようになる。
これは防がないといけない。
「お嬢様、人を躾けるには痛みが要ります。人を強くするには絶対的な屈辱か、悲しみが必要です。お嬢様もお覚悟下さい」
家令のヴァルテルがいう案は?
『躾けじゃない、調教だ!』
どちらでも構わないらしい。
家令のヴァルテル、怖い人でした。
鬼がいたよ、鬼が。
ホントにごめんね、アンドラ!
ワクワクした気持ちが消えてゆく。
これから聞くことになる悲鳴と絶叫を想像するだけで暗い気持ちが追い駆けてくる。
声を出さずに「(ごめんね、ごめんね、ごめんね!)」と何度もアンドラに謝っていた。
心の声がどうか届きますように!
アンドラを部屋に案内した。
最初はおどおどとしていたが、今ははしゃいでいる。
綺麗に飾られた部屋が自分の部屋だと言われれば、驚くのも不思議ではない。
最後は馬小屋に住んでいたアンドラだ。
シンデレラにでもなった気分なのだろう。
「この部屋は?」
「アンドラ様の寝室でございます。隣に簡単な浴室と着替え室が用意されております。ですが、入浴には大浴場を使われる方がよろしいでしょう」
「では、こちらは?」
「こちらは居間でございます。普段は寛ぐ場所でございますが、お客様をおもてなしする場所でもございます」
「ここは?」
「修学室でございます。机と書斎、様々な楽器が用意されております。すべてアンドラ様の物でございます。ここにない書籍は書斎で読むことも、お命じになれば、取りに行かせることもできます」
「僕が命じていいの?」
「アンドラ様は私どものご主人でございます」
「あちらは?」
「お待ち下さい。お入りになってはいけません。あちらは私らの控え室となっております。身分あるアンドラ様が立ち入る場所ではございません」
「僕が身分のある人ですか?」
「私どものご主人であり、この領地の次期当主様でございます」
「えぇぇぇ、僕が?」
「はい、この領地でアンドラ様より上位者はご領主様、奥方様、エリザベート様しかおられません」
どうやらアンドラは父上が領主だと気づいていなかった。
アンドラは貴族としての知識が圧倒的に足りない。
貴族として知らないことが多過ぎる。
私も偏り過ぎと怒られているけどね!
えっ、誰って?
父上と母上と家令のヴァルテルだよ。
今後の予定を話すと怒られた。
「エリザベート、おまえは王族のことを知らな過ぎる。王家に無礼を働くだけで首が飛ぶぞ。悪目立ちし過ぎれば、介入を招いて滅ぼされる。もっと慎重にならなければいかん」
「父上、慎重に行うだけでは我が家に未来はありません」
「エリザベート、慎重に動くとは行動しないことではない。行動する為に貴族と貴族の繋がりを把握せねばならん。迂闊に動くと背中から刺される。それが貴族だ」
「面倒ですね」
「お前はすでに足を踏み入れた。引き返すことなどできん。知る限りの知識を教える。生きる術を身に付けろ!」
「はい」
「私が甘やかせ過ぎました。令嬢として振る舞いを教え直します。今のままで育てば、世間の笑いものです。一から教え直します」
「母上、それは大袈裟ではないですか?」
「いいえ、私が間違っていました。秋までに一通りの礼儀作法を教えます」
「私はまだ7歳ですから」
「言葉使いもやり直しですね!」
「母上」
「お嬢様、大変に申し上げ難いことですが一般常識が足りておりません。これから何か行われる場合は先に相談をお願いします。可能な限り、助言を致します」
「何が不味かったのかしら?」
「知識、風土、身分、習慣など様々でございます。部族の数だけあると思って下さい」
「必要ですか?」
「貴族が商人の真似事をするならば、絶対に必要となります」
「ヴァルテル、貴方の顔が凄く怖いのですが?」
「ははは、大丈夫です。それと護身術も必要ですな!」
「お手柔らかに!」
農地改革、武器製造、生活向上、金融システムの改善、私の提案を全否定された。
『そんな金はない』
その一言だ。
その上で駄目だしのお説教を受けた。
香辛料の交易で金が貯まるのを待ってはいられない。
ならば、ある所から取ってくるしかない。
ダンジョン攻略を最初に持って来て組み直しだ。
駄目出しされた後は猛勉強させられました。
教師曰く、『貴族学園で教えることですが……』だってさ!
母のレクチャーも10歳の舞踏会に出るようになってから教えるものらしい。
私はマリアの生まれ故郷の教会で司教バートリー卿(男爵)と交渉し、クレタ子爵家で船の購入契約をした。
これが御冠(お怒り)の原因だ。
舞踏会を終えた子息・令嬢は社会勉強としてお使いを言い付けられる。
これを世間では貴族デビューというらしい。
舞踏会デビューより先に貴族デビューする令嬢は珍しいというか、変わり者、笑い者らしい。
母上は激怒だった。
「ヴァルテル、私に一言の相談もなかったのですか?」
「申し訳ございません」
「言ってくれれば、7歳でも舞踏会に連れて行きました。そんなことも判らない貴方ではないでしょう」
「まったく、不徳の致すところでございます」
そのときのヴァルテルは謝っていても誠意を感じられない。
我が家の面子とクレタ王家の存亡、どちらを優先するかなど決まっていた。
だから、父上は何も言わない。
その怒りの矛先は私に向けられた。
礼儀と常識のスパルタ教育です。
八つ当たりだ!
そして、一番危険なのが家令のヴァルテルだった。
「アンドラ様を裏切らせる訳にはいきません」
うん、うん、それは絶対だわ。
「これをエリザベート様にやって頂きます」
きゃあ、相談する人を間違った?
他にいないのよ。
アンドラはトラウマから心の寄り処としてマリアを信奉するようになる。
これは防がないといけない。
「お嬢様、人を躾けるには痛みが要ります。人を強くするには絶対的な屈辱か、悲しみが必要です。お嬢様もお覚悟下さい」
家令のヴァルテルがいう案は?
『躾けじゃない、調教だ!』
どちらでも構わないらしい。
家令のヴァルテル、怖い人でした。
鬼がいたよ、鬼が。
ホントにごめんね、アンドラ!
0
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】
ゆうの
ファンタジー
公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。
――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。
これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。
※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる