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第二章 魯坊丸と楽しい仲間達
二十三夜 とある中根南城の編成会議
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〔天文十七年 (一五四八年)夏四月十五日〕
毎日の夕食を使った報告会。
千代女が最初に周辺の状況と俺の予定を報告するのが慣例となりつつあった。
千代女のスケジュールは一切変更していないのに、熱田の隠者さんと知多千賀さんにいつ連絡しているのだろうか?
謎が増えつつあった。
「昨日、平手-政秀殿が美濃に出発されました。本格的な同盟の話がはじまるようです」
「千代女殿。同盟はまだですが、木曽の川賊の心配が減ったと考えてよろしいのでしょうか?」
「はい。熱田商人の一部ですが、東美濃経由の荷を木曽川経由に変えた方もいるそうです」
「では、灰の購入も木曽川経由にできないか、交渉をお願いします。おそらく半額以下になると思います」
「わかりました。出入りの商人に話しておきます」
千代女が報告をはじめると、監督らから伝言を頼まれることが多くなったようだ。
白石(石灰)の交渉に向かった熱田商人も購入の倍増に成功した。
掘れば掘るほど熱田商人が買ってくれるので掘り手を増やしているらしい。
しかし、今後のローマンコンクリートの使用料と織田領内のすべてに肥料を作るには、まったく足りていない。
周辺の情勢ごと調べてもらっているので報告待ちだ。
「昨日、信長様が金山を訪ねて鍛冶師の仕事を見聞したそうです。非常に関心を持たれたそうです。また、帰りに干されてあった朝着を、自分が着ている着物と交換されました」
「信長兄上は何をやっているのだ?」
「存じ上げません。しかし、最近ですが熱田によく訪れるようになっております。魯坊丸様と鉢合わせする可能性もありますが、避けた方がよろしいのでしょうか?」
「そうしてくれ」
天下の信長とこの世界の信長が同一人物とは限らないが、仕事の為に織田信長を調べた限りでは、限りなく面倒な性格であったと思う。
家臣を渾名で呼び、癇癪持ち、戦では先陣を切ったとか。
そうかと思うと、村を徘徊し、村人に女踊りを披露し、身体障害者に米などを与えて保護する。
当時の一般的な武将とは少し違う。
少し興味もあったが、くら姉様に会って確信した。
兄弟の付き合いは面倒だ。
主家筋の信長兄上とは会いたくない。
それが俺の結論だ。
「では、信長様が熱田方面にきた場合は監視を付けるようにします」
「できるのか?」
「幸い、酒造所の入り口を見張っている者がおります。那古野から熱田へ向かうならば、必ず見つけることになります。予備の人員を配置すれば、問題ありません」
「任せる」
「畏まりました」
夕食を進めながら報告会も進む。
今日の議題の一つが黒鍬衆だ。
黒鍬衆は土木作業を朝・昼に行って、夕方に俺の勉強会に参加している。
監督の下にローテーションを組んで派遣されているので一通りに作業ができる。
すべての知識を網羅した万能作業員だ。
俺が出掛けている日は、お仕事をお休みにして軍事訓練を行う。
戦が起これば、戦闘員となる。
最近、出掛けることが多くなってきた。
今後も増えそうで、月に十日程度しか授業が進められないと判明した。
月に二十日も作業をお休みすると、監督から苦情がくる。
何と言って新しい教材を書く時間が足りない。
この当たりが最初の限界と感じた。
定季に聞かすように俺は皆の前で宣言した。
「黒鍬衆は定季が選んだ三十人を加えた百人を一期生とする。十人を一組とし、一組は二期の黒鍬衆を育てる者とし、もう十人は定季の手伝いをしてもらう」
黒鍬衆の代表として参加していた者が声を上げた。
「他の者はどうするのですか?」
「他の八十人は今まで通りだ。監督の下で仕事に励んでほしい。但し、夕方の勉強会は中止だ」
「もう教えて頂けないのですか?」
「違う。今後は、中根南城周辺だけではなく、八事、薩田の酒造所、津島の酒造所と分散して仕事に従事することになる。夕方に集まるのは不可能だ。よって、今後は日時を決めて勉強会を開く、場合によっては三日ぶっ通しになるかもしれん」
「わかりました」
「今まで書いた教材を読み返して、完璧にマスターするように言っておけ」
「はい」
「二期生の教育も怠るな。人材はいくらいても足りない」
「はい」
「十人には、今後、九十人の鍬衆を付けるつもりだ。そのつもりで仕事に従事しろ」
「はい」
その元気な返事と別に定季が問い掛ける。
「魯坊丸様。十人に九十人の兵を付ければ、一千人になります。清酒が売れれば、一千を召し抱えることになります。不可能ではありませんが早急ではありませんか?」
「掛かった費用は、すべて津島衆に払わせる」
「津島衆ですか?」
「熱田の酒造所の帳簿に熱田貸しがあるだろう。津島の酒造所に津島貸しを付ける。三千貫文で済むか、一万貫文を超えるかは知らんが、俺を使うと高くつくことを教えてやる。親父に頼めば、何でも言うことを聞くなどとか思われてもかなわんからな」
「怒っておられるのですね」
「怒ってないぞ。津島貸しは酒が儲かれば精算される。損をさせるつもりもない。精々、俺の財布として使ってやり、思い知らせたいだけだ。この魯坊丸は使うのは安くないとな」
「さぞ、出された額をみて、津島衆が青い顔をされるでしょう」
「出せない額を請求するつもりはない。五郎丸には、伊勢・近江・西美濃の清酒販売は津島を通して行えと言っておいた」
「清酒を人質にして、銭を出させるつもりですか?」
「人質ではない。加藤、荒尾、佐治に続いて、津島衆が俺の後援会に入ってくれたのだ。後援会特典の安値で清酒を卸すだけだ」
「津島衆が儲けた銭をすべて吸い上げる気ですか」
俺はにやりと笑って、次の議題に話を進めた。
測量衆の予定を聞いた。
天白川の測量が終われば、周辺の精密地図をつくるつもりだったが予定変更だ。
今の測量が終わり次第、津島周辺の調査と測量をしてもらう。
調査の内容は湧き水がある場所だ。
その湧き水がわく場所を中心に地図を作成して縄張りを考える。
すでに、数珠屋には追加の伊賀者二十人を頼んでおいた。
津島まで視察に行くとなると、二泊三日の予定を組む必要があり、来月からその予定でスケジュールを調整している。
向こうに宿舎でも立てさせようかな?
毎日の夕食を使った報告会。
千代女が最初に周辺の状況と俺の予定を報告するのが慣例となりつつあった。
千代女のスケジュールは一切変更していないのに、熱田の隠者さんと知多千賀さんにいつ連絡しているのだろうか?
謎が増えつつあった。
「昨日、平手-政秀殿が美濃に出発されました。本格的な同盟の話がはじまるようです」
「千代女殿。同盟はまだですが、木曽の川賊の心配が減ったと考えてよろしいのでしょうか?」
「はい。熱田商人の一部ですが、東美濃経由の荷を木曽川経由に変えた方もいるそうです」
「では、灰の購入も木曽川経由にできないか、交渉をお願いします。おそらく半額以下になると思います」
「わかりました。出入りの商人に話しておきます」
千代女が報告をはじめると、監督らから伝言を頼まれることが多くなったようだ。
白石(石灰)の交渉に向かった熱田商人も購入の倍増に成功した。
掘れば掘るほど熱田商人が買ってくれるので掘り手を増やしているらしい。
しかし、今後のローマンコンクリートの使用料と織田領内のすべてに肥料を作るには、まったく足りていない。
周辺の情勢ごと調べてもらっているので報告待ちだ。
「昨日、信長様が金山を訪ねて鍛冶師の仕事を見聞したそうです。非常に関心を持たれたそうです。また、帰りに干されてあった朝着を、自分が着ている着物と交換されました」
「信長兄上は何をやっているのだ?」
「存じ上げません。しかし、最近ですが熱田によく訪れるようになっております。魯坊丸様と鉢合わせする可能性もありますが、避けた方がよろしいのでしょうか?」
「そうしてくれ」
天下の信長とこの世界の信長が同一人物とは限らないが、仕事の為に織田信長を調べた限りでは、限りなく面倒な性格であったと思う。
家臣を渾名で呼び、癇癪持ち、戦では先陣を切ったとか。
そうかと思うと、村を徘徊し、村人に女踊りを披露し、身体障害者に米などを与えて保護する。
当時の一般的な武将とは少し違う。
少し興味もあったが、くら姉様に会って確信した。
兄弟の付き合いは面倒だ。
主家筋の信長兄上とは会いたくない。
それが俺の結論だ。
「では、信長様が熱田方面にきた場合は監視を付けるようにします」
「できるのか?」
「幸い、酒造所の入り口を見張っている者がおります。那古野から熱田へ向かうならば、必ず見つけることになります。予備の人員を配置すれば、問題ありません」
「任せる」
「畏まりました」
夕食を進めながら報告会も進む。
今日の議題の一つが黒鍬衆だ。
黒鍬衆は土木作業を朝・昼に行って、夕方に俺の勉強会に参加している。
監督の下にローテーションを組んで派遣されているので一通りに作業ができる。
すべての知識を網羅した万能作業員だ。
俺が出掛けている日は、お仕事をお休みにして軍事訓練を行う。
戦が起これば、戦闘員となる。
最近、出掛けることが多くなってきた。
今後も増えそうで、月に十日程度しか授業が進められないと判明した。
月に二十日も作業をお休みすると、監督から苦情がくる。
何と言って新しい教材を書く時間が足りない。
この当たりが最初の限界と感じた。
定季に聞かすように俺は皆の前で宣言した。
「黒鍬衆は定季が選んだ三十人を加えた百人を一期生とする。十人を一組とし、一組は二期の黒鍬衆を育てる者とし、もう十人は定季の手伝いをしてもらう」
黒鍬衆の代表として参加していた者が声を上げた。
「他の者はどうするのですか?」
「他の八十人は今まで通りだ。監督の下で仕事に励んでほしい。但し、夕方の勉強会は中止だ」
「もう教えて頂けないのですか?」
「違う。今後は、中根南城周辺だけではなく、八事、薩田の酒造所、津島の酒造所と分散して仕事に従事することになる。夕方に集まるのは不可能だ。よって、今後は日時を決めて勉強会を開く、場合によっては三日ぶっ通しになるかもしれん」
「わかりました」
「今まで書いた教材を読み返して、完璧にマスターするように言っておけ」
「はい」
「二期生の教育も怠るな。人材はいくらいても足りない」
「はい」
「十人には、今後、九十人の鍬衆を付けるつもりだ。そのつもりで仕事に従事しろ」
「はい」
その元気な返事と別に定季が問い掛ける。
「魯坊丸様。十人に九十人の兵を付ければ、一千人になります。清酒が売れれば、一千を召し抱えることになります。不可能ではありませんが早急ではありませんか?」
「掛かった費用は、すべて津島衆に払わせる」
「津島衆ですか?」
「熱田の酒造所の帳簿に熱田貸しがあるだろう。津島の酒造所に津島貸しを付ける。三千貫文で済むか、一万貫文を超えるかは知らんが、俺を使うと高くつくことを教えてやる。親父に頼めば、何でも言うことを聞くなどとか思われてもかなわんからな」
「怒っておられるのですね」
「怒ってないぞ。津島貸しは酒が儲かれば精算される。損をさせるつもりもない。精々、俺の財布として使ってやり、思い知らせたいだけだ。この魯坊丸は使うのは安くないとな」
「さぞ、出された額をみて、津島衆が青い顔をされるでしょう」
「出せない額を請求するつもりはない。五郎丸には、伊勢・近江・西美濃の清酒販売は津島を通して行えと言っておいた」
「清酒を人質にして、銭を出させるつもりですか?」
「人質ではない。加藤、荒尾、佐治に続いて、津島衆が俺の後援会に入ってくれたのだ。後援会特典の安値で清酒を卸すだけだ」
「津島衆が儲けた銭をすべて吸い上げる気ですか」
俺はにやりと笑って、次の議題に話を進めた。
測量衆の予定を聞いた。
天白川の測量が終われば、周辺の精密地図をつくるつもりだったが予定変更だ。
今の測量が終わり次第、津島周辺の調査と測量をしてもらう。
調査の内容は湧き水がある場所だ。
その湧き水がわく場所を中心に地図を作成して縄張りを考える。
すでに、数珠屋には追加の伊賀者二十人を頼んでおいた。
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