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77. カロリナ、一瞬で終わりました。
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カロリナは肩を落として寂しく笑った。
捕まえた敵兵を影が尋問すると、プリムス村(第一開拓村)の村民は女子供に至るまで殺したと言う。
だが、自分達は命令されただけ、いい思いしていないとか騒いでいる。
何を言っているのかしら?
カロリナは乾いた笑いしか出てこない。
村人達も泣いていた。
プー王国の凌辱は有名な話で驚きもしないが、間に合わなかったと後悔だけが残る。
風、木葉、花の三人が戻ってきた。
ラファウに命じられて周辺の警戒とプリムス村(第一開拓村)の偵察だ。
敵は油断しており、割と楽だったようだ。
「生き残りはおりませんでしたか!」
「ほとんどの者が背中から刺されて絶命しておりました」
「でも、家の中に生存者がいるかもしれません」
「えぇ~、その家もほとんど燃やされていたから~やっぱり無理じゃないか~な?」
「フロス、黙りなさい」
「隠れているかもしれないでしょう」
「無理だよ。追い出す為に火を掛けたのでしょ~う」
「フロス」
「構いません。続けなさい」
「…………」
「カロリナ様、怖い~です」
「何か言いましたか、続けなさいといいました」
「あっ、は~い」
家のあちこちに火災の後があり、隠れている者をいぶり出したようだ。
また、死体の中にまだ生暖かいモノもあった。
今朝まで生きていた人もいたかもしれない。
動かなくなった者から殺していったのではないか?
花の声が段々と小さくなってゆく。
カロリナの威圧に怯えていた。
ひぇ~、カロリナ様が怖いよ。
もちろん、花を睨んでいる訳ではない。
ここを放置して助けに行った方がよかったのか?
もっと早く到着できていれば!
影とルドヴィクで先行した方がよかった?
「お嬢様、あちらを助けに行けば、こちらの怪我人が死んでおりました。お気に掛けない方がよろしいと存じ上げます」
「ありがとう、エル」
「どうすれば、よかったのでしょう。私は先行した方がよかったのでしょうか?」
「判りません。ですが、お嬢様ががんばってもどれほど早く着けたのでしょうか? 連絡に鳩を使わず、魔道具を使うようにするなどした方が現実的な対応となります」
「そうね、お父様に相談するわ」
「はい、それがよろしいと思います。ただ、まだ終わった訳ではございません」
「そうね。終わってからにするわ。ヴェン、フォウ、フロス、ご苦労さまでした」
本当の戦いはまだ終わっていない。
プリムス村(第一開拓村)に敵はまだ駐留している。
カロリナが静かに怒っていた。
「カロリナ様、ラファウ様からでございます」
「ありがとう」
ラファウからの手紙を読むと影を渡した。
村を襲ったのは先遣隊らしい。
「私はラファウと合流します。影《アンブラ》達は水無台(扇状地)まで偵察をお願います」
「承知しました」
「水無台(扇状地)の向かう側に山道があるそうです。敵が駐屯しているのではないかと書いてあります。数を減らして欲しいと言っていますが、無理をする必要ありません」
「畏まりました」
「ラファウ様って、地味に私達をこき使うよね」
「私もそう思えてきた」
「絶対にそ~だよ。鬼だ!」
休みなく続く命令に三人が不満そうだった。
だが、影が承知したなら付いて行くしかない。
影が偵察に向かっても、カロリナはすぐに動けない。
カロリナは村人の治療を続けた。
残念ながらカロリナは光の魔法は初級魔法しか使えない。
回復魔法はヒールのみだ。
光の精霊と契約を結んで得た力は成長しない。
「カロリナ様、楽になりました」
「そうですか、それは良かったです」
「カロリナ様、お疲れでしょう。どうか休んで下さい」
「私は大丈夫ですわ。気になさらずに!」
回復は組織活性であって再生ではない。
潰された臓器は再生されない。
深い傷を完全に治す事もできない。
手持ちのハイポーションはすべて使い切った。
「ありがとうございます。カロリナさぁ…………」
また、一人を見送った。
判っているが、やはり辛い。
中回復や大回復を使えれば、助かった命だ。
だが、貴族が涙を見せる訳にいかない。
後回しなった軽い怪我人の治療を終えて、カロリナは村人と別れを告げた。
◇◇◇
「えっ!? ニナとジクの二人で監視させているのですか?」
「二人はレンジャーです。万が一もないでしょう」
カロリナはラファウと合流する。
プリムス村(第一開拓村)の監視をしているのはニナとジクの二人らしい。
影の弟子であり、気配遮断や隠匿技術を持っているから適任だった。
能力的に納得だが、しっくり来ない。
カロリナの目が「ニナに何かあったらどうするのですか?」と訴えているが、ラファウは軽く流した。
カロリナは15歳で成人したニナに過保護過ぎるのだ。
レフも昼過ぎに到着した。
帆船ならほぼ直線に目指せるので馬より早く到着すると言っていた通りになった。
風がいつも通りで到着できた。
皆、船の中でぐっすり寝たようで元気そうだ。
アザは村長の家でまだ寝ていると言う?
「カロリナ様、起こさないのですか?」
「放置して下さい」
「判りました」
「弔い合戦です。ラファウ、よろしいわね!」
「いくつか条件があります」
「そう言う気分ではありません」
「必要な事です」
「判りました」
「カロリナ様、我々も連れて行って下され!」
村長が同行を願い出た。
はっきり言えば、足手纏いであった。
だが、気持ちは判る。
カロリナはラファウの方を見る。
むしろ、好都合らしい。
「戦える人は準備して下さい。すぐに出発します」
うおぉぉぉぉ、漁民達がやる気になった。
漁民達は200人ほど集まり、横にならんで道を塞ぐように行進してゆく。
カロリナは派手な魔法を禁止された。
ルドヴィクの蹂躙もなしだ。
地味に戦って漁民達に村人の仇を取らせる。
火計や水計が大好きなラファウにしてはめずらしく人間的な作戦だった。
「どうすれば、一番の弔いになるのでしょうか?」
「死んだ人間は戻ってきません」
「承知しております」
「死んだ人間の事は判りませんが、この後の親しい者達に仇を取らせて上げることが、手向けとなると思います」
「そうですか!」
幸い船が間に合ったので、カロリナは冒険者用の身軽な装備から戦場仕様に変更した。
カロリナの鮮やかで見事な刺繍が施されたバトルドレスだ。
華やかさから見た目だけで圧倒する。
その後ろにルドヴィクとラファウが続く、二人の鎧は白銀の鎧だ。
これに兜を被れば、完全な守護騎士の正装になる。
ルドヴィクは冒険者スタイルの皮の鎧の方が動き易いらしい。
鎧を身に付けると巨体がより大きく見えて威圧が凄い。
強そうだ。
続くのが、イェネー、クリシュトーフ、カール、イグナーツの四貴族子息達だ。
兜も被って完全武装。
貴族様の鎧は派手なモノが多く、4人が横に広がっているので壮観だ。
エルは黒の執事服をまとった。
生地はカロリナと同じバトルドレス仕様であり、見た目以上に強度がある。
カロリナの後ろを一歩下がって歩いている。
少し間を取って、レフ達の森人30人が隊列を組む。
集団戦は慣れており、前衛の盾隊と後衛の弓隊が分かれて歩く。
軍隊ではないので盾隊は剣隊に早変わりするし、弓隊も接近戦に参加する。
6人の小集団に別れて、組織戦を展開できる。
その後ろに漁村民200人が銛や鍬を持って付いてくる。
盾もなく、装備も布の服だ。
小袋に石を積めてあり、投石ができる。
その護衛に偶然にいた冒険者8人を雇った。
プリムス村(第一開拓村)に近づくとニナとジクが合流した。
侍女達はオルガと一緒にお留守番だ。
ご学友のゾフィアも貴族なので『高貴な義務』を背負っている。
しかし、戦いは素人であり、本当の意味で足手纏いだ。
今回は護衛を付ける余裕もない。
そこで漁村の防衛総指揮官を命じた。
手薄な漁村民を守れだ!
本人も納得、むしろ喜んだ。
アザはお昼寝中。
侍女が何度か起こしたが一向に起きない。
カロリナはアザを放置した。
ゾフィアに困った時はアザを起こして助けを求めるように言ってある。
堂々と接近したので、村の手前で敵が出てきた。
門が壊れているので籠城戦の意味がない。
しかも数は圧倒的にカロリナ達の方が少ない。
逃げ出す意味もない。
そう、考えたのだろうか?
村をバックに戦闘体制を取り、カロリナ達と対峙した。
『悪逆・非道な極悪騎士のみなさん、おしおきの時間ですわ!』
びっしっと指を差して、カロリナが機先を制した。
敵は大隊480人、カロリナ達を含めて250人ほどだ。
漁民の武器は銛や鍬などと貧相だ。
防具らしいモノを身に付けているのはカロリナ達と冒険者のみ、敵は完全に舐めていた。
「がははは、おしおきだってよ」
「ははは、お尻ぺんぺん」
「楽しみじゃないか!」
ラファウが言う。
敵の兵力バランスがおかしいらしい。
攻城戦では敵の魔法使いの攻撃があった。
しかし、村を襲った敵に魔法使いはいない。
ラファウが何を言いたいのかしら?
カロリナには判らなかったが、見た目の数ほど強くないのは判る。
その気になれば、カロリナ一人でも倒せる。
それじゃ駄目だ!
それでは溜飲が下がりそうもない。
自分の感情を持て余していた。
カロリナはゆっくりと差した指を仕舞って手を広げた。
『ファイラー・アロー』
白く光った光線が飛び、盾を貫いて一人目の敵兵を瞬殺した。
カロリナが無表情のままで微笑む。
凍り付くような笑みだ。
下品に笑っていた敵兵の顔から笑みが消えた。
『掛かれ!』
敵の指揮官が兵を進ませた。
守りを固めずに無闇に突っ込んでくる。
夜盗と同じだ。
精錬された騎士団の戦いとは思えない。
無防備過ぎる。
アール王国の騎士は魔法使いだ。
四貴族子息が頼りないと言っても殺傷能力のある魔法が使える。
レフ達の森人は弓や投げナイフなどの遠距離攻撃を用意していた。
「ウインド・カッター」
「ウインド・カッター」
「アイス・ピック」
「ファイラー・アロー」
魔法と矢が飛び交う中に敵兵が闇雲に進んでくる。
無茶苦茶だ。
魔法、矢、投石が当たっても歩みを緩めない。
数で圧倒するつもりだ。
『ファイラー・ボール、ファイラー・ボール、ファイラー・ボール』
カロリナが連続詠唱で火玉を三連発で放つと、小爆発に兵が吹き飛ばされた。
仲間が吹き飛ばされて押し戻されれば、流石に足も止まる。
足を止めれば、ただの的だ。
戦闘開始から一瞬で大勢が決まった。
ラファウはこめかみを抑えた。
カロリナのやり過ぎにどうしたものかと考えているようだ。
ファイラー・ボールは派手な魔法じゃないよね?
ルドヴィクも腕を組んだままで動こうしない。
四貴族子息が放つ魔法と冒険者の矢が敵を襲っていた。
捕まえた敵兵を影が尋問すると、プリムス村(第一開拓村)の村民は女子供に至るまで殺したと言う。
だが、自分達は命令されただけ、いい思いしていないとか騒いでいる。
何を言っているのかしら?
カロリナは乾いた笑いしか出てこない。
村人達も泣いていた。
プー王国の凌辱は有名な話で驚きもしないが、間に合わなかったと後悔だけが残る。
風、木葉、花の三人が戻ってきた。
ラファウに命じられて周辺の警戒とプリムス村(第一開拓村)の偵察だ。
敵は油断しており、割と楽だったようだ。
「生き残りはおりませんでしたか!」
「ほとんどの者が背中から刺されて絶命しておりました」
「でも、家の中に生存者がいるかもしれません」
「えぇ~、その家もほとんど燃やされていたから~やっぱり無理じゃないか~な?」
「フロス、黙りなさい」
「隠れているかもしれないでしょう」
「無理だよ。追い出す為に火を掛けたのでしょ~う」
「フロス」
「構いません。続けなさい」
「…………」
「カロリナ様、怖い~です」
「何か言いましたか、続けなさいといいました」
「あっ、は~い」
家のあちこちに火災の後があり、隠れている者をいぶり出したようだ。
また、死体の中にまだ生暖かいモノもあった。
今朝まで生きていた人もいたかもしれない。
動かなくなった者から殺していったのではないか?
花の声が段々と小さくなってゆく。
カロリナの威圧に怯えていた。
ひぇ~、カロリナ様が怖いよ。
もちろん、花を睨んでいる訳ではない。
ここを放置して助けに行った方がよかったのか?
もっと早く到着できていれば!
影とルドヴィクで先行した方がよかった?
「お嬢様、あちらを助けに行けば、こちらの怪我人が死んでおりました。お気に掛けない方がよろしいと存じ上げます」
「ありがとう、エル」
「どうすれば、よかったのでしょう。私は先行した方がよかったのでしょうか?」
「判りません。ですが、お嬢様ががんばってもどれほど早く着けたのでしょうか? 連絡に鳩を使わず、魔道具を使うようにするなどした方が現実的な対応となります」
「そうね、お父様に相談するわ」
「はい、それがよろしいと思います。ただ、まだ終わった訳ではございません」
「そうね。終わってからにするわ。ヴェン、フォウ、フロス、ご苦労さまでした」
本当の戦いはまだ終わっていない。
プリムス村(第一開拓村)に敵はまだ駐留している。
カロリナが静かに怒っていた。
「カロリナ様、ラファウ様からでございます」
「ありがとう」
ラファウからの手紙を読むと影を渡した。
村を襲ったのは先遣隊らしい。
「私はラファウと合流します。影《アンブラ》達は水無台(扇状地)まで偵察をお願います」
「承知しました」
「水無台(扇状地)の向かう側に山道があるそうです。敵が駐屯しているのではないかと書いてあります。数を減らして欲しいと言っていますが、無理をする必要ありません」
「畏まりました」
「ラファウ様って、地味に私達をこき使うよね」
「私もそう思えてきた」
「絶対にそ~だよ。鬼だ!」
休みなく続く命令に三人が不満そうだった。
だが、影が承知したなら付いて行くしかない。
影が偵察に向かっても、カロリナはすぐに動けない。
カロリナは村人の治療を続けた。
残念ながらカロリナは光の魔法は初級魔法しか使えない。
回復魔法はヒールのみだ。
光の精霊と契約を結んで得た力は成長しない。
「カロリナ様、楽になりました」
「そうですか、それは良かったです」
「カロリナ様、お疲れでしょう。どうか休んで下さい」
「私は大丈夫ですわ。気になさらずに!」
回復は組織活性であって再生ではない。
潰された臓器は再生されない。
深い傷を完全に治す事もできない。
手持ちのハイポーションはすべて使い切った。
「ありがとうございます。カロリナさぁ…………」
また、一人を見送った。
判っているが、やはり辛い。
中回復や大回復を使えれば、助かった命だ。
だが、貴族が涙を見せる訳にいかない。
後回しなった軽い怪我人の治療を終えて、カロリナは村人と別れを告げた。
◇◇◇
「えっ!? ニナとジクの二人で監視させているのですか?」
「二人はレンジャーです。万が一もないでしょう」
カロリナはラファウと合流する。
プリムス村(第一開拓村)の監視をしているのはニナとジクの二人らしい。
影の弟子であり、気配遮断や隠匿技術を持っているから適任だった。
能力的に納得だが、しっくり来ない。
カロリナの目が「ニナに何かあったらどうするのですか?」と訴えているが、ラファウは軽く流した。
カロリナは15歳で成人したニナに過保護過ぎるのだ。
レフも昼過ぎに到着した。
帆船ならほぼ直線に目指せるので馬より早く到着すると言っていた通りになった。
風がいつも通りで到着できた。
皆、船の中でぐっすり寝たようで元気そうだ。
アザは村長の家でまだ寝ていると言う?
「カロリナ様、起こさないのですか?」
「放置して下さい」
「判りました」
「弔い合戦です。ラファウ、よろしいわね!」
「いくつか条件があります」
「そう言う気分ではありません」
「必要な事です」
「判りました」
「カロリナ様、我々も連れて行って下され!」
村長が同行を願い出た。
はっきり言えば、足手纏いであった。
だが、気持ちは判る。
カロリナはラファウの方を見る。
むしろ、好都合らしい。
「戦える人は準備して下さい。すぐに出発します」
うおぉぉぉぉ、漁民達がやる気になった。
漁民達は200人ほど集まり、横にならんで道を塞ぐように行進してゆく。
カロリナは派手な魔法を禁止された。
ルドヴィクの蹂躙もなしだ。
地味に戦って漁民達に村人の仇を取らせる。
火計や水計が大好きなラファウにしてはめずらしく人間的な作戦だった。
「どうすれば、一番の弔いになるのでしょうか?」
「死んだ人間は戻ってきません」
「承知しております」
「死んだ人間の事は判りませんが、この後の親しい者達に仇を取らせて上げることが、手向けとなると思います」
「そうですか!」
幸い船が間に合ったので、カロリナは冒険者用の身軽な装備から戦場仕様に変更した。
カロリナの鮮やかで見事な刺繍が施されたバトルドレスだ。
華やかさから見た目だけで圧倒する。
その後ろにルドヴィクとラファウが続く、二人の鎧は白銀の鎧だ。
これに兜を被れば、完全な守護騎士の正装になる。
ルドヴィクは冒険者スタイルの皮の鎧の方が動き易いらしい。
鎧を身に付けると巨体がより大きく見えて威圧が凄い。
強そうだ。
続くのが、イェネー、クリシュトーフ、カール、イグナーツの四貴族子息達だ。
兜も被って完全武装。
貴族様の鎧は派手なモノが多く、4人が横に広がっているので壮観だ。
エルは黒の執事服をまとった。
生地はカロリナと同じバトルドレス仕様であり、見た目以上に強度がある。
カロリナの後ろを一歩下がって歩いている。
少し間を取って、レフ達の森人30人が隊列を組む。
集団戦は慣れており、前衛の盾隊と後衛の弓隊が分かれて歩く。
軍隊ではないので盾隊は剣隊に早変わりするし、弓隊も接近戦に参加する。
6人の小集団に別れて、組織戦を展開できる。
その後ろに漁村民200人が銛や鍬を持って付いてくる。
盾もなく、装備も布の服だ。
小袋に石を積めてあり、投石ができる。
その護衛に偶然にいた冒険者8人を雇った。
プリムス村(第一開拓村)に近づくとニナとジクが合流した。
侍女達はオルガと一緒にお留守番だ。
ご学友のゾフィアも貴族なので『高貴な義務』を背負っている。
しかし、戦いは素人であり、本当の意味で足手纏いだ。
今回は護衛を付ける余裕もない。
そこで漁村の防衛総指揮官を命じた。
手薄な漁村民を守れだ!
本人も納得、むしろ喜んだ。
アザはお昼寝中。
侍女が何度か起こしたが一向に起きない。
カロリナはアザを放置した。
ゾフィアに困った時はアザを起こして助けを求めるように言ってある。
堂々と接近したので、村の手前で敵が出てきた。
門が壊れているので籠城戦の意味がない。
しかも数は圧倒的にカロリナ達の方が少ない。
逃げ出す意味もない。
そう、考えたのだろうか?
村をバックに戦闘体制を取り、カロリナ達と対峙した。
『悪逆・非道な極悪騎士のみなさん、おしおきの時間ですわ!』
びっしっと指を差して、カロリナが機先を制した。
敵は大隊480人、カロリナ達を含めて250人ほどだ。
漁民の武器は銛や鍬などと貧相だ。
防具らしいモノを身に付けているのはカロリナ達と冒険者のみ、敵は完全に舐めていた。
「がははは、おしおきだってよ」
「ははは、お尻ぺんぺん」
「楽しみじゃないか!」
ラファウが言う。
敵の兵力バランスがおかしいらしい。
攻城戦では敵の魔法使いの攻撃があった。
しかし、村を襲った敵に魔法使いはいない。
ラファウが何を言いたいのかしら?
カロリナには判らなかったが、見た目の数ほど強くないのは判る。
その気になれば、カロリナ一人でも倒せる。
それじゃ駄目だ!
それでは溜飲が下がりそうもない。
自分の感情を持て余していた。
カロリナはゆっくりと差した指を仕舞って手を広げた。
『ファイラー・アロー』
白く光った光線が飛び、盾を貫いて一人目の敵兵を瞬殺した。
カロリナが無表情のままで微笑む。
凍り付くような笑みだ。
下品に笑っていた敵兵の顔から笑みが消えた。
『掛かれ!』
敵の指揮官が兵を進ませた。
守りを固めずに無闇に突っ込んでくる。
夜盗と同じだ。
精錬された騎士団の戦いとは思えない。
無防備過ぎる。
アール王国の騎士は魔法使いだ。
四貴族子息が頼りないと言っても殺傷能力のある魔法が使える。
レフ達の森人は弓や投げナイフなどの遠距離攻撃を用意していた。
「ウインド・カッター」
「ウインド・カッター」
「アイス・ピック」
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魔法と矢が飛び交う中に敵兵が闇雲に進んでくる。
無茶苦茶だ。
魔法、矢、投石が当たっても歩みを緩めない。
数で圧倒するつもりだ。
『ファイラー・ボール、ファイラー・ボール、ファイラー・ボール』
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仲間が吹き飛ばされて押し戻されれば、流石に足も止まる。
足を止めれば、ただの的だ。
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カロリナのやり過ぎにどうしたものかと考えているようだ。
ファイラー・ボールは派手な魔法じゃないよね?
ルドヴィクも腕を組んだままで動こうしない。
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