刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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67.真犯人はカロリナ、冗談じゃありません。

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王宮では正月1月1日(復活祭)と6月1日(感謝祭)が行われ、国王と共に神に感謝の祈りを奉げる。
それが終わると叙勲式、貴族会議、社交界と晩餐会が開かれた。
成人していないカロリナは晩餐会のみ出席する。
カロリナはこの王宮主催の晩餐会が大嫌いだった。
なぜなら、王宮料理人が作った名品を目の前にしてほとんど手に取れないからだ。

「エル、あちらの料理を取って下さる」
「畏まりました」
「う~ん、こちらの料理も美味しいわ!」
「よろしゅうございましたね。しかし、不思議です。誰もあいさつに来られないのは何故でしょうか?」
「終わってから聞きましょう。今、聞くと食事が不味くなりそうです」
「そのほうがよろしいと存じ上げます」

カロリナは淑女らしく優雅に食事を楽しんでいた。
王宮主催の晩餐会は国王と王妃にあいさつをすると、思い思いに食事を取る立食式のスタイルを取っている。
しかし、料理にはほとんど手を付けず、王族同士が情報交換を行う場となっていた。
例年なら王族達がひっきりなしにあいさつに来て、お預けを食らいながらカロリナは愛想笑いを浮かべて立っていなければならない。

「みなさん、どうされたのかしら?」

今年の晩餐会は静かだ。
ラーコーツィ家を取り巻くようにひそひそ声で囁かれ、カロリナとエルの聞き耳は「ご存知ないのかしら」、「なんて図々しい」、「やはり腹黒だったの?」などという言葉を拾っていた。
声の大きい方をエルが睨み返した。

「エル、気にしてはいけません。堂々と優雅にしているのが良いのです」
「申し訳ございません」
「このような事はもうないかもしれません。目の前の料理を楽しみましょう。エル、あちらのサラダを取って下さる」
「畏まりました」

ふふふ、何を言われようと平気ですわ。
どうせならすべての料理をコンプリートして、「なんて食い意地の張った」という言葉を増やしてやろうなどと考えていた。

向こうの方で『なにぃ~、誠か!』と叫ぶオリバー王子の声が聞こえた。

騒がしいオリバー王子と陰湿なクリフ王子があいさつに来ていない。
本来ならあいさつに行くべきなのだが、父から禁止されたままであった。
まぁ、カロリナも乗り気でないので丁度よかった。
オリバー王子は婚約者がいるのに毛嫌いしてカロリナに関わろうとするし、クリフ王子はセーチェー侯爵家のテレーズ令嬢との両天秤を止めない。

今年は騎士の勲章を貰ったので両王子が本気になって口説きにくると、ラファウから脅されていたので肩透かしを食らった気分だった。

などと、油断しているとオリバー王子が幼女達を引き連れてやってきた。
あの可愛らしい方はオードリー侯爵家のエラ令嬢だったかしら?

「久しいなカロリナ」
「ご機嫌麗しゅう存じ上げます。オリバー王子」
「カロリナも息災で何よりだ。ゴブリン退治も見事であった。我が王国の誉れだ」
「そのようにおっしゃられては恥ずかしくございます」
「謙遜することは、それでこそ我が妻に相応しい」

はぁ?
カロリナは返事をするのも忘れて、間抜けな顔を晒してしまった。
何言っているの、この馬鹿王子は?

幼女達がじっ~とカロリナの様子を伺っている。
カロリナも可愛らしい幼女が大好きだ。
でも、警戒されるような視線の『ノーサンキュウ』だった。
失敗、失敗、開いた口を閉じて姿勢を正した。

「不調法、申し訳ございません。しかし、王子には婚約者もおられ、そのような事を迂闊に申し上げるべきではないと存じ上げます」
「ははは、問題ない。俺の婚約者はいなくなった。もう、遠慮する必要もない。カロリナ、我が妃となれ!」
「兄上、何を勝手な事を申されているのですか? 僕の婚約者でございます。カロリナ、僕も決めました。僕の妃は君しかいない」
「クリフ、俺が話している邪魔をするな!」
「まさか、兄上が企んでのはございませんな!」
「愚弄するか!」

護衛達が走ってきて、二人の王子を制止した。
周りのひそひそ声が一段と高くなっている。
側近の護衛達が必至に止めている。

「王子、お声が大き過ぎます。このことはまだ公表してならないと申しました」
「俺は何も言っておらん」
「婚約者がいなくなったようなことを言って貰っては困ります」
「100年は帰って来ぬのであろう」
「王子、お声が大きい」

二人の王子が引き摺られて会場から出されてゆく。
宰相が国王に耳打ちすると、王と王妃が立ち上がって会場を後にした。
閉会のあいさつもなしで晩餐会は終わりのようだ。

馬車の前にラファウが待機しており、一緒に馬車に乗り込んだ。
しばらく、沈黙を守った。

「ご存知なのでしょう。説明して下さないのかしら?」

カロリナは黙るラファウに他人行儀たにんぎょうぎな言葉で黙っていることを批判した。

「国王陛下より他言無用の命が出ております。カロリナ様と言へども、お伝えすることはできません」

嘘だ!
伝える気がないなら一緒の馬車に乗らない。

「そうですか、それは仕方ありませんわ!」
「私は悩んでおります。悩み事が口から洩れるかもしれませんが、お耳に入れることはないようにお願い致します」
「風の精霊のささやきでしょうか? 私の耳には何も聞こえておりません」
「それはよろしゅうございます」

ラファウは一人事を話し始めた。
カロリナは国の尊厳を高めた褒美に第五等勲章『騎士:名誉勲章』を頂いた。
何を今更?

叙勲式では南方交易所会頭の手腕を讃えられてエリザベートはその二階級下の第五等勲章『騎士:殊勲勲章』を貰ったらしい。
微妙な所で差を付けているのね!

エリザベートの父は胡椒の国産栽培に成功したことを称して、第二等十字勲章『司令:殊勲勲章』が叙勲された。
ラーコーツィ家とセーチェー家は第一等十字勲章『元帥:黄金勲章』を頂いて大臣を退陣する。
ヴォワザン伯爵家は第3番目の貴族と国王が認めた事になる。

「国王陛下は、ヴォワザン伯爵家を侯爵家と同等と認めたのでしょうか?」
「さぁ、どうでしょう。それだけ高い勲章を上げた。それ以上は望むなと釘を刺したのかもしれません」
「カレーといい、ヴォワザン伯爵家は有能な方が多いのですね」

どうして、そこでカレーが出てくるのか?
ラファウもそう思ったが、カロリナ独特の言い回しと脳内変換をする。

「ご生母様も評価され、エリザベートに第四宝物庫の宝を1つ与えると言われたのです」
「まぁ、御婆様が! それは素晴らしい事です」

ご生母様もエリザベートを認めた。
エリザベートが王妃になれる可能性が一気に高まった訳だ。
知らない内に色々と決まっていた。

「午後から貴族会議がはじまり、予定通りにすべてが決まってゆきました」
「農民への対策が出たのですね!」
「すべて滞りなく調印されました」
「お父様を労ってあげましょう」
「…………」
「どうかしましたか?」
「会議が終わる頃にエリザベート殿が行方知れずになったと連絡が入ったのです」
「どういう事かしら?」

エリザベートは叙勲式の後に自宅に戻って、晩餐会のドレスに着替えて王宮に戻ってきた。
そこにご生母様の側仕えが待っており、約束の宝を贈呈する為に第四宝物に向かったらしい。
らしいというのは、ラファウは王城に居た訳で王宮の事は詳しくないのだ。
宝物庫に入ったエリザベートはそのまま消息を絶った。

「貴族会議中のヴォワザン伯爵もその報告を聞いて取り乱しました」
「どういうことですか?」
「判りません。おそらくはご生母様がエリザベートを消したと思われます」
「御婆様が!」
「ですが、案内した側近と宝物庫の管理者はご生母様が呼び出し、その場で首を切られました。故に犯人は不明。ご生母様が一番怪しいと思われますが、事実は判りません。次に、オリバー王子、あるいは、ラーコーツィ家も犯人と疑われております」
「今日の晩餐会に近寄って来なかったのはその為ですか!」
「近づけば、共犯を疑われます」
「ちょっと待って下さい。そのような重要案件なのです。当然、戒厳令が引かれていたのでしょう?」
「下級貴族ほど、社交会、晩餐会の出席に為に王宮に入っております。戒厳令が引かれる前にかなりの下級貴族が知ったと思われます」
「知った者はどうなりました?」
「国王陛下から他言無用の命が出されております」

カロリナはうな垂れた。
あの馬鹿王子、なんて事をしてくれたの!
大声でエリザベートさんが居なくなった事を喜ぶなんて自分が犯人と名乗っているような者じゃない。
巻き込まれた!
オリバー王子とラーコーツィ家が共同でエリザベートを亡き者にしたと思われてしまった。
拙い、いいえ、そんなことはないわ!

「おかしいですわ。ラーコーツィ家がエリザベートさんを陥れる理由がございません。むしろ、この度の件で協力しようと提案しているのです」
「まさにそれです。疑われる原因はカロリナ様がお作りになったのです」
「私ですか? 知りませんわ!」

カロリナも身に覚えのないことを言われて慌てた。
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