刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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63.カロリナ、やってしまった。

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中央領都に到着するとセンテ侯爵はすでに王都に行かれており、カロリナ達は王都に急いだ。
カロリナが罪を問わないと言ったが、公爵令嬢に剣を向けたのだ。
誰かが責任を取らないと終わらない。
絶対にそう考える。

急がないと処分がはじまってしまう。

大領主代行に事情を説明して、絶対に処分を行わないように使者を送って貰う。
時間を稼いで王都で急ぐ。

王都に帰還。
喜ぶ侍女たちを軽くあしらって面会の予約を取りに走らせた。
大領主であるセンテ侯爵を同席させて、フォト伯爵と会談を持たなくてはならない。
カロリナは面倒臭い事に巻き込まれたと思った。

「カロリナ様、この度は我が領兵がご迷惑を掛けて申し訳ございません」
「事前にお伝えしましたように、私はそうなるように仕向けたのです。誰も罪を問いたくございません。私の為に誰か死んだなど、その方が心苦しいのです」
「噂通り、心優しいお方でございます。このシルヴェステル、感服してございます。ご希望に沿い、誰一人として処分は致しません」
「そう言って頂いて、ほっとしました」
「このご恩は一生忘れません。我が息子トマシュにも言い聞かせておきましょう」

ちょっと武人で堅物という前評判を聞いていたので心配していた。
いい領主でよかった。
終わった!
カロリナは喜んだ。
意外と話せる人だったわ!
カロリナは浮かれた。
5日後に、シルヴェステル・ファン・フォト伯爵が毒を飲んで死んだと聞かされるまでは!

 ◇◇◇

カロリナはラファウを呼んだ。
話が全然見えない。
どういう事か説明させる。

「フォト伯爵はカロリナ様との会談の後に国王陛下との謁見も求められました」
「謁見が必要なの?」
「自らは引退し、10歳のトマシュ殿に家督を譲りたいとの申し出であります」
「つまり、引退して責任を取った事にしたのね!」
「カロリナ様はご生母様のご寵愛を受けております。カロリナ様や国王陛下が罪を問わないと申されても、周りの貴族達が誰も処分しないことに納得しません」
「私がいらないと言っているのよ」
「カロリナ様が介入しなければ、両領兵は争いを始め、反逆罪で両家は御取り潰しになっておりました」
「誰がそんなことを言ってのです?」
「自害されたシルヴェステル殿です。国王陛下に謁見した席で自ら説明されております」

やられた!
ご恩とか言っていたのは、そういう意味か。
カロリナは両家を救った救世主にされた。
褒めておけば、ご生母様から罰を受けることはない。
だが、領兵がカロリナに斬り掛かった事実は隠せない。

「もしかして、あの領長やその指揮官を処分できないせいかしら?」
「…………」

ラファウは黙った。
侯爵令嬢に斬り掛かった罪は軽くない。
あの家の家系はそう考えた。
少なくとも命令を下した貴族の首がいるらしい。
しかし、カロリナとの約束で部下に責任を負わせることができない。
あぁ~、やってしまった。

部下を処分できないとなれば、他の貴族から誹りを受ける。
だから、伯爵の首を差し出した。
カロリナに襲い掛かれば、伯爵クラスの首がいると値が付いた。
ご生母様はその忠義を褒めたそうだ。
フォト伯爵家を悪くいう者はいなくなった。
たぶん。

「センテ侯爵を通じて、フォト伯爵にお詫びとお悔やみと感謝の言葉を伝えて来て! 直接にお詫びしたのですが、それをするとまた波紋が広がりそうです」
「それがよろしいかと。丁度、この不作の対策を相談に行く所です。その時に申し上げておきます」
「対策というのが、税の減免ですね」
「はい、明後日に控える貴族会議の下準備です」

6月から大貴族が集まって税のことを論じる。
5月中旬から下準備を始めているのだが、今年は王国全土で大不作に見舞われた。
収穫予想は中央・東領は6割減、王都領は5割強減、ラーコーツィ・セーチェー領は5割減という大不作だ。
但し、南・南方諸領は5割増という大豊作が笑えない。
多くの領主が妬んでいる。

「そんなことをすれば、南の方々が怒り出しますわ」
「その通りですが、多くの領主がそれを要望しているのです」
「飢えることはなく、教会の備蓄庫から食糧を融通して頂けると、貴方が言ったのでしょう」
「借りる金は少ない方がいい。そういうことです」

王国中が苦しんでいる。
共に助け合うのが王国国民の義務だ。
これが建前だ。

南・南方諸領は5割増分を王宮に差し出し、それを再配分する。
それで2割相当の負債をチャラにする。

「まさか、お父様も賛同している訳ではありませんわよね」
「賛同はしておりませんが、反対もしておりません」
「後で苦情を言っておきます」
「優しい言葉でお願いします」
「それはお父様次第です」

カロリナがラースロー侯爵に文句を言えば、その八つ当たりがラファウ達に跳ねかえてくる。

阻止しなければ!
ラファウは考えていた案を急いで組み直す。
減税の訴状を上げる。
不足分と南・南方諸領から安値で買い上げる。
被害領主に小麦を供給する。
減税は1割、それ以上は無理だ。
大蔵大臣のラースロー様は1割でも反対するだろう。
ならば、カロリナ様が3ヶ月は口を聞いて貰えない罰が来ると脅そう。
それで折れる。
南の小麦は相場の半額ですべてを買い取る。
不満は出るな!
妥協案は、南にも減税を適用する。
後は強気で押し通す。
被害があった各領主には相場の半額で小麦を売り下げる。
元々、無茶な要求をしている。
全員が納得する必要はない。

問題は話を煮詰める時間がない。
数字を算出はできない。
既成事実を先に作って叱られるしかない。
被害が大きい中央領と東領が納得するのが絶対だ。
センテ侯爵との会談で、この要求を飲んで貰う。
次に東領も説得してから大臣を説得する。
よし、これだ!

南は少しばかりの金を入れる。
他は税の減額し、安値の小麦が買える。
王宮は減税を1割しかしない。
誰が得か損か判らない状況を作り出す。
三者一割損で話を付ける。

思考するラファウをカロリナが信頼に満ちた目でにやにやと眺めていた。

「考えはまとまりましたか?」
「可能な限り、努力致します。カロリナ様も協力をお願いします」
「もちろんです。お父様にはラファウのお願いはカロリナの願いだと申しておきましょう。もし聞いて頂けないなら、これからの残り一生をラーコーツィ侯爵様と呼びますとも脅しておきます」
「流石にそれは!?」
「1日だけでも泣き崩れていました。絶対に効果的です! 好きなようにやりなさい」
「お手柔らかに!」
「大丈夫よ。それで駄目なら御婆様に泣き付きに行きます」
「お待ちを! 必ず、成功させます。では、さっそくですが、行って参ります」
「よろしくお願いします」

大蔵大臣のラースローが荒れれば、どんな罰が待ち受けているか判らない。
ラファウ一人の問題でなくなる。
御生母様が介入すれば、どんな余波が生まれるか判らない。
この幼く美しい令嬢はトンでもないジョーカーを2枚も持っている。
冗談じゃない!
ラファウはそう思った瞬間に閃いた。
カロリナ様はこれを脅し文句に使えと言っているのだ。
中央領のセンテ侯爵、東領のエスト侯爵、他の領主も御生母様が介入してくることを望まない。
あの方が反対するだけで首が飛ぶ。
常識が通じない。
条件を飲まなければ、カロリナ様がそう動く。
これは大きな取引材料だ。
カロリナ様には敵わないと、改めてラファウは思った。
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