刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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閑話.ゴブリン・エンペラーは青い目の少女に恋焦がれる。

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赤い炎が燃え上がった。
村が燃えている。
金髪の青い目をした悪魔が村を滅ぼした。
憎い、憎い、憎い!
憎悪の炎が我が身を焦がす。
やって来た。
あの憎い女が目の前に!

ゴブリンは寿命が短い。
1日で生まれ、半日で立てるようになり、3日で成人する。
そして、3ヶ月後には朽ち果てる。
次の季節を迎えることがない。

寿命が短い為か、眠ることがない。
夜目が利くので夜に狩りをすることを好む。
昼に木の実などを集めることが多い。
あの日がやってきた。
金色の美しい髪を風にたなびかせた悪魔。

俺達はキングに命じられて村を捨てて逃げた。
炎に包まれる村を見下ろして。
逃走する途中で世代が変わった。
天敵が多く、その数も半分に減っていた。
襲ってくる敵を倒す。
逃げる。
また、倒す。
俺はいつの間にかリーダーに進化して寿命が1年に伸びていた。
山を越え、真っ黒な森に到達した。

森は危険だった。
もう逃げる所がない。
覚悟を決めて棲みついた。
ハイ・ゴブリンを頂点に恐ろしい魔物を狩る。
生きる場所を確保する。

「おまえが長だ!」

長が恐ろしい魔物を相打ちになると、俺を長に指名した。
長の力を貰って、俺はハイ・ゴブリンに進化して仲間と共に他の魔物を討伐する。
仲間を増やした。
ゴブリンは弱い。
弱いゆえに数で圧倒する。
仲間を雌に変化させて数を殖やす。
殖やす。殖やす。殖やす。

「取り囲め、一突きでいい。敵の力を削れ!」

今日倒れた仲間の倍を種付けする。
敵を喰らい、仲間を喰らい、とにかく繁殖させる。
どんな強い敵も疲弊する。
数の暴力の前では無意味だ。
気が付くとキングになり、森の主の一匹を倒すとロードに進化していた。

ははは、溢れ出てくる力に驚愕する。
寿命という呪縛から解き放たれた。
ロードになってから夕暮れのまどろむ時間になると白昼夢も見る。
村が燃える。
あの金髪の少女を思い出す。
憎い、憎い、憎い。
あの美しい金髪の少女を引き裂きたい。
犯したい。
苗床にしたい。
憎悪を欲望がどこまでも沸き上がる。
もっと力を!

黒き森の主の一人になると、別の主との抗争が始まった。
殖やす。殖やす。殖やす。
進化するゴブリンが増え、力の継承者を増やす。
俺がハイ・ゴブリンになったように!
強いゴブリンを殖やす。
戦って進化したゴブリンは力を次の者に与えることができる。
その死を無駄にさせない。
俺も魔石を喰らうことでより強い力を得る。
また、主を討伐し、力の泉(魔力スポット)を手に入れた。
殖やす。殖やす。殖やす。

俺らは他の魔物と違う。
一万匹で一匹のゴブリンだ。
キングを派遣して森の中を進む。
森の主を討伐し、次々と勢力を拡大した。
新しいロードが生まれ、俺はロードオブロードに進化する。
そして、四大怪物の一匹、地竜と対峙した。
強い、本当の化け物だ。
ゴブリンが塵のように消されて行く。
だが、恐れない。
殖やす。殖やす。殖やす。
今日、殺された同胞の倍を殖やす。
死んだ同胞の魔石を喰らう。
昼夜を問わずに攻める。

季節が変わり、力尽きた地竜が倒れ、俺はエンペラーへと最後の進化を遂げた。
すべてのゴブリンの力を感じる。
力の一部を与えて、ジェネラル、キングへと自由に進化させることができるようになった。
仲間のゴブリンが敵を倒すだけで力が湧いてくる。
さぁ、次の怪物を倒して森の支配者になろう。
あの憎い金髪の少女に復讐をするのだ。

ははは、笑いが止まらない。
最後の怪物を倒し、黒の森の支配者となった我の前にあの少女がやってきた。
より美しい少女となった悪魔がやって来た。
炎の狼煙を上げて、次の獲物となる狼煙を上げた。
この日をどれだけ心待ちにしたか。

「皇帝、よろしいのですか?」
「今は好きにさせろ!」
「数を減らしたと浮かれてさせろ!」

俺は戦いを急がない。
時間は俺達の味方だ。
殖やす。殖やす。殖やす。
今日、殺された倍のゴブリンを殖やした。
ゴブリンは1日で成長して産まれる。
半日で立つようになり、3日で成人する。
3万匹を切っていたゴブリンの群れが、6万匹に膨れ上がり、それを指揮させる為にキング、ジェネラルへと進化させた。
そろそろ反撃しようか!

少女は砦を次々と落としていた。
その日も鳥籠の中に金髪の小鳥が入ってきた。
次に狙う砦の進路を予測してゴブリンを配置する。
途中で気づかれたが問題ない。

うおおおぅぅぅ!
俺が吠えると周りのゴブリンも吠えて森を揺らす。
隠れていたゴブリンが立ち上がり、包囲戦を開始する。
森から攻略隊も動かす。
小鳥を掴まえる『鳥籠の罠』を発動する。
精々、小物を削って体力を使ってくれ!

なんと、見事な炎の壁が生まれる。
捨て石のゴブリンが近づけない。
ふふふ、金髪の少女がこれほど強くなっているとは嬉しくなってくる。
我が恨みをすべて受け止まるのに相応しい器だ。
地竜と同じく、殺しがいがある。
迂回先行した部隊が金髪の少女の前を防ぐ?

ずどどどっどど、3発の魔法が部隊を崩壊させた。

「なんだ?」
「おそらく、究極魔法の1つかと!」
「先攻した騎士も中々の強者と見受けられます」

斥候の報告で敵は少数。
援軍も皆無。
後背の貯水池を崩壊させて我らを一網打尽にする策など乗ってやらぬ。
平原に向かわせたのは雑魚ばかりだ。

部隊の構成が三00匹で一部隊とする。
キング・ゴブリン(王大鬼)、あるいは、ジェネラル・ゴブリン(将軍大鬼)一匹
ゴブリン・チャンピオン(小鬼王・英雄)二匹
ハイ・ゴブリン(小鬼王)二匹
ゴブリン・リーダー(小鬼)一〇匹
メイジ・ゴブリン(魔法使い小鬼)一〇匹
ゴブリン・アーチャー(弓使い小鬼)一〇匹
ゴブリン・ウォーリア(闘士小鬼)一〇匹
ゴブリン・ランサー(槍小鬼)一〇匹
ゴブリン・アサシン(暗殺小鬼)一〇匹
ゴブリン(鬼)〔下級の雑魚〕三〇〇匹

キングまでは俺の力を削って自由に成長させられる。
しかし、ロードはキングと違う。
ロードは経験値を積んで進化しないとなれない。
ロードは六匹しかいない。

一匹は参謀として控え、残る五匹が精鋭部隊の指揮を取らせ、森を迂回させて山裾から進軍させている。
俺の本隊は森の中で指揮を取りながら、毎日1万匹のゴブリンを供給する。
本隊には精鋭5,000匹、雌が一万匹、子供が三万匹、新兵一万匹だ。

ゴブリンの成長は早い。
3日で新兵に育つ。
水計で平原3万匹のゴブリンがすべて流されて死に絶えようと、精鋭が生き残っていれば問題はない。

だが、敵はその策を取らない?

平原から丘を上がらせて波状攻撃で砦を攻める。
数を減らしているといい気になるがいい。
そうしている間にロード達の部隊が丘の西中腹に拠点を置いた。

「皇帝、ネズミが這い回っております」
「ネロに指揮を取らせよ」
「判りました」

ゴブリン・ロードの一人ネロにネズミの追討を命ずる。
平原でうろちょろするネズミは少数だ。
慌てることはない。
取り囲んで押し潰す。

「ネロ様、討死」

何、あり得ない。
ネズミはロードを倒すほどの強者だったのか?
すると、
砦を守っている強者らが囮だったのか?
信じられない。

敵は大物を狙っている。
俺を誘き出す為の策と思ったが違うのか?
純粋にロード、キング、ジェネラルを狙っているとすると何が狙いだ。

「敵は何を狙っているのか?」
「恐れ多いですが、皇帝の力を削ぐのが狙いではないでしょうか」
「俺の?」
「地竜ならば、指揮官不在でも戦えました。しかし、人間相手で指揮官不在は致命的です」
「確かに、人間も数を頼り戦いを挑む種族だ」
「彼らは先遣隊であり、本隊が到着するまで我々を翻弄するのが目的と思われます」

まさか???
エンペラーのスキル『支配』の能力を把握している。
キング、ジェネラルに成長させるには多くの力を消耗する。
敵は少数の為に、こちらが得る経験値が少ない。
死んだゴブリンは敵の砦周辺の為に魔石の回収も儘ならない。
収入が少なく、支出が大きい。
大赤字だ!

「俺の弱体化を狙っているのか?」
「いいえ、皇帝が新たなキング、ジェネラルを成長させることができないようにするのが狙いではないでしょうか」
「なるほど!」

そう思わないと納得できない。
ゴブリンが10万匹に増えようと指揮官不在なら烏合の衆であり、組織的に戦ってくる人間の敵ではない。
それに食糧に限界があり、増やせる数も限りがある。

「そう考えねば、あれほどの強者どもが少数でやってきたことが不思議でなりません」
「その通りだ。あの数は不自然過ぎる」
「ネズミの目的は、キング、ジェネラルの首を狩ること」
「味方を分散させたのは間違いであったか?」
「はい、外を新兵で固め、内側で複数のキング、ジェネラルが集まって、互いに防衛し合うのが良策かと思います」
「判った。ロードの元に味方を集結させろ! キング、ジェネラルの10部隊を1つにまとめよ。さらに貯水池と山道の出口に二個大隊を送れ!」

貯水池と山道の出口を確保した報告を受けた時点で、ロード達に砦を包囲するように命令を送った。
本隊も森を出て進軍し、丘に登って後背に陣取る為に移動を開始した。
時間など稼がせない。
騙し合いは終わりだ。
本隊が来る前に終わらせる。

「総力戦だ。数の力で押し切る」

あの日から想い続けた。
もうすぐ終わる。
青い目の金髪の少女。
俺は復讐する為に強くなった。
死にそうになる度に思い出して、残る力を振り絞って敵を葬った。
いたぶり、引き裂き、殺し尽くしても足りない。
恋愛を超えた愛しい存在。
地竜と同じく、我が怨念をぶつけるだけに値する大物だ。
ふふふ、やはり楽しませてくれる。

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