刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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46. カロリナ、光の精霊と闇の精霊を誑しこむ。

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えっ、これでいいのか?
カロリナは無邪気に笑い、ラファウは慌てた。
光の精霊は幼女のような姿をした優しい精霊であった。

最初の会うとごめんなさいと謝った。
最初は3日間近くの村の子供らと遊べば、加護を上げようと思っていたらしい。
たぶん、簡単な課題なのだろう。

誰でもできそうだ。
悪い意地悪な精霊ではない。
でも、確実に三日も村で拘束される。
それは嫌かもしれない。
カロリナはそうと思った。
しかし、風の精霊がやり込められてしまった。
そんな優しい課題では他の精霊から怒られてしまうらしい。
難しい課題を出させて貰うと言った。

「そういう訳で、光の宝具を取ってきて見せて下さい」

皆の目が点になる。
光の宝具と言ってもFクラスからSSSクラスまでの多くのクラスがあり、妖精の国の宝具はどれもBクラス以上の国宝クラスだった。
簡単に手に入るモノではない。
ラファウの持つ精霊石でも交換してくれる人はない。
一度、町に帰って交渉をし直す必要がある。
真面目な精霊は厄介だと思ったが、カロリナが首からネックレスを取って見せた。

「これでもいいですか?」
「はい、結構です。では、加護を与えましょう」

えっ、ラファウは慌てた。
カロリナが差し出したのは『光の護符』というネックレスだった。
少しだけ防御力が上がるアイテムで貴族の男性が女性にプレゼントとして送られる。
金が掛かるが、意外とポピュラなアイテムだった。
ホントに気持ち程度に守備力が少しだけ上がるだけ!
実用性ゼロ。
この妖精の国ではおもちゃ以下だ。

「どうぞ、お受け取り下さい」
「そんな高価な物は受け取れません」

えっえええ?
ラファウが取り乱して、心の中で「おもちゃですよ」と突っ込んでいる。
光の精霊は少しだけラファウを見るとにっこりと笑った。
どういう意味だ?

「何を拭抜けた顔をしているのか知らんが説明してやろうか?」
「コニさん、お願いします」
「妖精の国にいる精霊は下級精霊でも位が高い者しかおらん。位が高いほど対価も大きくなる。そんな膨大な対価を払って手に入れようとする妖精はいない」
「つまり、価値はあるが、見合う対価が出せない」
「その通りさ。だから、妖精の国では精霊のアイテムは貴重になる。お嬢ちゃんにとって最下級のアイテムでも、こちらでは相当の価値になる」
「我々でも安物ですが?」
「妖精にとって精霊のアイテムは全部おもちゃだよ。持っているだけで価値があるのさ」

所が変われば価値も変わる。
大精霊から見るとFクラスもSSSクラスもおもちゃだった。
妖精の国でも光の宝具を持つ者は少ない。
光の精霊の力を込めたアイテムは胡椒以上に貴重だった。
持っているだけでステータスが上がるらしい。
知っていれば、もっと簡単に買い物ができた。
珍しい品を買い漁れたと後悔する。
ラファウはちょっと欲が張り過ぎた。
それをカロリナはぐいぐいと『光の護符』のネックレスを光の精霊に押し付ける。

「受け取れません」
「どうしてですか?」
「精霊は対価として力を授けます」
「加護を貰います」
「すでに課題という対価を貰いました」
「お願いです」
「困ります」
「そう言わずに!」

光の精霊は幼い容姿と違って律儀な性格であった。
手を口元に当てて、上目使いで困っている仕草が堪らない。
きぁ~、この子可愛いわ!
お持ち帰りしたい!
精霊にはカロリナの心の声がだだ漏れだ。
光の精霊は頬を赤くしている。

尊敬されてもあっても、可愛いなんてお持ち帰りしたいなんて思われたことはなかった。
始めてだった。
カロリナがぎゅうとネックレスを取ると、光の精霊の手を取って強引に握らせた。
大精霊を触れるとか、傲岸不遜も甚だしい。
その場で八ツに裂かれても文句が言えない。
でも、光の精霊はさらに頬を赤めた。

「ねぇ、お友達になりましょう。駄目?」
「友達!」
「友達も駄目?」
「それは駄目ではないです」
「お友達ということで、これはプレゼントします」
「貰えません」
「う~ん、では、預かって下さい。友達の証として預かって下さい」
「預かりましょう。では、私は友達として契約を交わします。これを返して欲しい時は申し出て下さい」
「うん、判った」
「いいえ、こちらこそ」

カロリナはうやむやに光の精霊と友達になり、10人は『光の契約』を頂いた。
カロリナは精霊を誑し込んだ。
それが終わると、金(木)の精霊、土の精霊も珍しい物を要求したが、ラファウが町で交換していたので楽々クリアーした。

最後の闇の精霊はマイペースな精霊であった。

「別に何でもいいよ。好きなものを出して! それを対価に加護で何でも上げるよ。そうだ、ショゴスの実を持っていない?」
「ラファウ、持っている?」
「いいえ、持っていません」」

残念、ラファウは持っていなかった。
それで引き下がるラファウではない。

「それはどういうものでしょうか?」
「そうだな~黒くって、ねちょねちょして、アメーバ―みたいにぶにょぶにょした果物かな?」
「黒くって、ねちょねちょして、アメーバ―みたいにぶにょぶにょした果物ですか」
「臭いが酷くって、食べると、口がざらざらして、喉の詰まり、後味も悪く、凄く拙いの!」
「それは本当に食べ物ですか?」

ラファウが聞き返した。
それを聞いていたエル達が青い顔をしていた。
別名『知性の実』と呼ばれる。
りんごが腐ったような臭いがして、その強烈な臭さに卒倒する者も多い。
魔女などが薬の材料としてよく使うと聞いていた。

「カロリナ様」
「もしかしてあれですか?」
「ちょっと待って!」
「駄目、出しちゃ駄目だからね!」
「…………」

カロリナが魔法袋に手を入れた。
慌ててアザとジクが後ろに下がた。
滅茶苦茶に慌てている。
ルドヴィクが顔を歪めて真一文字に口を閉じた。
袋から出た瞬間、辺りに強烈な臭いが漂った。

「何ですか? これは流石に…………まさか!?」
「なるほど!?」

ラファウとマズルが腕で鼻を隠しながら、隠してもその臭いで気が遠くなりそうになる。

「それだ、それだよ、それ!」

闇の精霊がショゴスの実を指差して叫んだ。
やっぱり!
エル達が遠い目をする。
一口食べて気を失った。
案内役のドムノなど嗅いだだけで気を失っていた。
そして、今も気を失った。
コニの説明で食品と聞いたカロリナが交換したのだ。
探究する為に!?
アザとジクが必至に止めたが、カロリナは手に入れて仕舞っていた。

「この食べ物の食べ方をご存知ですか?」
「もちろんだ」
「神よ。感謝します」
「お嬢ちゃん、判っているね。気に入った。料理法を教えてやろう」
「ありがとうございます。みなさん、手伝って下さい」

そうなると思っていた。
料理が始めると、臭いはさらに強くなってゆく。
一人消え、また、一人が倒れ、そして、一人を残して誰もいなくなった。
アンブラも気を失いかけている。
しくしくしく、倒れたかった。
護衛でなければ…………でも、堪えねば!

「人間はダラシないな! お嬢ちゃんらは平気か?」
「余計なことをどうでもいいのです」
「手伝わないのか?」
「貴族は手伝うモノではありません。アンブラ、精霊さんもしっかり混ぜなさい」
「はい、カロリナ様」
「いい度胸だ」

大精霊すらこき使う。
そんな人間を見たことも、聞いたこともない。
えへへへ、不気味な声を上げて闇の精霊は喜んでいる。
様々な食材を一緒に入れて、煮込むこと3時間。
完成したスープは黒々としたこの世もモノと思えないほど、毒々しい色をしていた。

「さぁ、召し上がれ!」

皆、恐る恐るスプーンで掬い上げる。
ドムノは未だの気を失っている。
口に入れると、何とも言えない美味しいスープになっている。
体がぽかぽかし、全身が喜んでいた。
ステータスがすべて上昇し、特に知力が上昇していた。

「この臭いがなければ!」
「美味い、でも、臭い」
「カロリナ様に感謝します」
「コニ、駄目なら俺が…………」
「大丈夫です。美味しいです」
「精霊様、この臭いだけ何とかなりませんか?」
「それは無理だ」
「気にしなければいいのよ」

それができるのはカロリナだけであった。
鍋をかき回し続けたアンブラは倒れて横になっている。
カロリナは臭い音痴ではない。
むしろ、美食家であり、些細な匂いの違いを嗅ぎ分けられる超嗅覚を持っている。
謎であった。
闇の精霊はそんなカロリナを心から気に入って契約を結んだ。

「また、作る時は呼んでくれ!」
「ええ、お呼びしますわ」
「楽しみにしている」

こうして、精霊を巡る旅が終わった。
火・水・金・土の加護、光・闇・風の契約を貰った。
すべての精霊の加護を貰った人種は多くない。
稀な存在だ。
稀だが、いないことはない。
しかし、しかしだ。
光・闇・風の契約を持つ人種などおそらく出ないだろう。
精霊に好かれる体質の人種でも2つの精霊と契約するなんて聞いた事もない。
それが3つだ!
闇の精霊の祠を出てくると、上機嫌の妖精王のお姉さんが出迎えてくれた。

「ははは、笑えたぞ」
「ずっと覗いていたのね」
「何かあっていかんと思っていたのだ。他意はないぞ。だが、面白いモノを見せて貰った」
「悪趣味なお姉さんです」
「そう言うな! 褒美に妖精王の大守護をくれてやる。七属性の魔力を使って絶対防御を張るスキルだ。重宝するぞ!」

妖精王がくれた『妖精王の大守護』の絶対防御は、ほとんど(99%)攻撃をカットするらしい。
だが、魔力の消費量が半端ないので常時使えない。

「安心しろ! 妖精の国の裏側、ミスホラ王国の領内にいる限り、私が魔力を供給してやる。ほぼ無尽蔵に使って構わぬ。物理攻撃も魔法攻撃も通ることはあるまい。これでゴブリン・エンペラーも怖くないぞ!」

これに一人ずつ伝説級の武器を貸してくれる。
完全無敵モードだ。
妖精王は10人で3万匹の大軍を率いるゴブリン・エンペラーを本気で倒させるつもりだ。
どんな英雄伝だ!

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