刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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41. カロリナ、服を選んで楽しいときを過ごす。

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精霊を巡る旅に行くことになった。
鎧をしてくるなと言われた通りドレスなどを身に付けた社交服でやってきていた。
とても精霊たちがいる深い森の奥に向かう装備ではない。
そこで案内されたのが宝物庫であった。

「報酬の前渡しだ。好きな奴を取ってくれ!」
「一人、一つですか?」
「けけけ、そんなケチなことは言わんさ」
「一式揃えて構わないのね」
「全部持ち帰るとか無茶を言わない限り、好きにするがいい」

ゴブリン・エンペラーが率いる大軍と対峙するのだ。
どれだけ装備を整えても足りない。
道具選びは大切だ。
宝具クラスの武器や鎧、楯、兜、帽子、ローブ、服にドレスに至るまで体育館のような広い場所に並べられている。
どこかの巨大なテナントのように綺麗に品揃えされた宝物庫。
最初に目に入ったのは色取り取りに並べられたドレスの一角だ。

「カロリナ様はこのドレスがお似合いと思います」
「ニナ、こっちね!」
「私はそんな可愛いのは似合いません」
「そんなことないわ。ねぇ、アザ」
「任せない。私が可愛くして上げる」

目的を忘れて服選びを楽しんだ。
コニは、どこから取り出した赤いとんがり帽子を被っていた。

「どうだ。凄いだろ!」
「素晴らしいドレスです。見ているだけでも楽しくなります」
「でも、残念です。これを着て冒険にはいけません」
「なら、お嬢ちゃん達はバトルドレスを着るといい。あっちにある奴だ。アラクネ(上半身が女性で下半身が蜘蛛の化け物)の糸で編んだドレスだ。綺麗な上に丈夫で長持ち、胸当てや腕の鏝の所がミスリルで出来ている。自然修復の魔法が掛かっているので色々と便利なドレスだ」
「可愛い服も沢山あるわ」
「あります」
「コニさん。色々と便利とは何?」
「汚れが勝手に落ちて、臭くならない」

おぉぉぉ、女性陣から声が漏れる。
ダンジョンに潜ったときの悩みはまさにそれだ。
香水やクリーンの魔法で誤魔化しているが、臭いは少しずつ強くなる。
光の魔法『清浄』を掛けないと完全に消えない。
しかし、魔力は貴重だ。
怪我の為に『ヒール』などの魔力を残しておきたい。
女性の服の臭いを消す為に使う訳にいかない。
バトルドレス。
これは一択であった。

でも、着替える場所がない。
ここで着替えればいい?
流石にできない。
布らしきモノを甲冑鎧に掛けて簡易の更衣室を作った。

「カロリナ様はこれがよろしいでしょう」
「アザに任せるわ」
「ご信頼。ありがとうございます」
「ニナはピンク一択ね!」
「はい!」

ニナはカロリナが選んでくれるだけで嬉しいらしい。
その可愛い笑顔にカロリナもにんまりだ。
さて、アザはどうしよう?

「私はこちらの灰茶色で」
「こちらの黄緑にしなさい」
「それは似合いません」
「では、こちらの黄色いバトルドレスでは?」
「それもいいわね」
「絶対に無理です」
「では、こちらのオレンジにしましょう」
「いえいえいえ、それは許して下さい。最初の黄緑にします」

アザをからかっている間にアンブラが着替えを終えていた。
バトルドレスではなく、男の召使いが着る服にズボンという装備だ。
これはない。

「アンブラ、何を勝手に着替えているのです」
「私はこちらの黒にします」
「アンブラもバトルドレスを着なさい」
「これなんてどうだい?」

赤とんがり帽子のコニさんが割り込んで来た。
着替えを覗くとは行儀の悪い妖精さんだ。

「言っておくが、儂は女じゃぞ」

意外な真実。
どう見てもおっさん顔だ。
小人は見た目で判らない。

「それより、どうしてですか?」
「バトルドレスと言えばバトルドレスだが、姫様が着る専用だ。見た目以上に防御力は高い。残念なのは動きが遅くなる」
「判るように言ってよ」
「触れば判る。アラクネの糸で編んだ生地のしたにミスリルのインナーや各所にアマダンタイトの鏝やコルセット、レースなどで守られている。美しい見た目と違ってかなり重い」
「重いのは論外です。私は接近戦を主にしますので丈の長いドレスも支障をきたします」
「では、こちらの丈の短い奴にすればいい」
「その通りです」
「カロリナ様」

アンブラは深紅のミニスカートのバトルドレスを着せられた。
ミニスカートのような丈が短いドレスと男物のズボンと組み合わせだ。
着替えが終えると、藍色のカロリナのバトルドレスが一番地味に見えるが、美しい金髪がより鮮やかに見える。
同じような美しい金髪を持つアンブラはその髪を黒いバンダナを撒いて隠した。

「それ、却下です」、「それはないわ!」、「駄目です」
「カロリナ様、私は任務がありますので」
「このリボンにしましょう」
「大きな深紅のリボンね!」
「アンブラさんにお似合いです」

金髪のポニーテールに大きな赤いリボンがとても似合った。
でも、目立ち過ぎる。
アンブラは涙目で訴えたが、カロリナは覆さない。

「カロリナ様」
「却下です」

最後にカロリナとニナは『身かわしのローブ』を羽織っておく。
これで素早さがアップする。
でも、逃げるのが苦手なアザには不向きなアイテムだ。
困っていると、コニが漆黒の『クー・シーのローブ』を手渡した。
クー・シーは妖精の森に近づく人間を喰う獣魔であり、黒クー・シーから取った毛皮で作ったローブは炎や氷から身を守り、衝撃のほとんどを吸収してくれる。

「アザさん、カッコいい黒魔法使いみたいです」
「魔法使いではなく、私は裁縫師よ」

アンブラの羽織るのは使い捨ての普通のローブである。
美しいドレルが台無しであった。

「アンブラ、もっと可愛いらしいローブにしましょう」
「お嬢様、私はこれで結構です」
「そうです。貴方のような美しい方は、こちらのドレスこそふさわしい」

ドムノが割り込む。
この国の人は着替え中に割り込むのが常識なのか?
カロリナはちょっとおこであったが、愛想笑いをなんとか維持する。
なぜなら、レベルの違う素敵なドレスを持っていたからだ。
ドムノは持ってきたのは晩餐会などでも貴婦人用のドレスであった。
しかも姫様専用ドレス。
アザの目の色が変わる。

「それはどこにあったのですか?」
「隣の部屋だよ」
「コニさん、私の分はいらないのでカロリナ様の分として頂けない?」
「う~ん、確かにそっちの二人はまだ大きくなりそうだな」
「コニ、少しくらい訳でもいいだろう」
「判ったよ。二人分は余分に持って帰ることを許そう」
「たった二着?」
「そんなケチなことを言っては駄目だよ。我が国の威信に関わるぞ」

ともかく、アザは許可を貰うと隣の部屋に駆け込んでドレスを見聞する。
あぁ、至福。
この世のモノと思えないドレスが沢山あった。

「これもいいわ。こちらのセンスも外せない。こちらは絶対だわ!」
「おい、いくつ持って帰るつもりだ」
「駄目?」
「目をうるうるしても駄目だ」
「駄目ですか?」
「コニ、俺の嫁のドレスだぞ」
「そうです」
「…………四着までだ」
「やった!」

アザは服のことになると遠慮がなくなる。
その時はカロリナともタメ口になる変な女の子だ。
カロリナが友達というだけのことはあった。

「これがいいと思いません」
「その色は合いそうだ」
「こちらもいいですよね」
「問題ない。きっと似合う」
「ですよね!」

アザが選んだ4着はカロリナの金髪に似合いそうなうすくて明るい茶色のベージュ、黒に近い深い藍色のネイビー、そして、定番の白と黒を基調にしたドレスを選んだ。
もちろん、すべてゴテゴテとした柄がないドレスだ。
カロリナの金髪に似合うということは、アンブラにも似合う。
ドムノは完全に勘違いしている。
アザ、敢えて訂正しない。
そして、ドレスの奥に生地を見つけた。

「ドムノさん、この生地を分けて頂けません。私は自分で素敵なドレスを作って上げたいのです」
「おぉ、好きなだけ持って帰るがよい」
「ありがとうございます」
「勝手なことを決めるな!」
「すぐに入ってくるだろう。そんなケチなことを言うな!」
「も~う、判った。好きにしな!」
「おぃ、ちょっと待て!」

アザはマジで棚にあった生地をすべて魔法袋に詰め込んだ。
アザの文字に『遠慮』という文字はなかった。
妖精に呆れられた。

服と装備を終えると次はアイテムだ。
防御力が上がる『守りの指輪』とか、無透明な楯が生まれる『防御の腕輪』、魔力を高めたりする魔法石で出来た首飾りなどもセットで貰えた。

「カロリナ様には、このティアラがお似合いです」
「アンブラさん、判っている」
「似合っております」
「そうかしら?」

素材はミスリル。
使っている宝石は魔法石のようであった。
ティアラを付けたカロリナは本物のプリンセスのようだ。
愛らしさも100倍だ。

女性陣がわいわいがやがやと騒いでいる間に男性陣も終わっていた。
マズルはドラゴンの鱗で作られた丈夫で軽い『青竜の鎧』と『青竜の楯』を選択し、ルドヴィクはオリハルコンが混ざった最強の硬さを誇る『聖装の鎧』と魔力を弾く『水鏡の楯』を選んだ。
ラファウは肉弾派ではないので軽装とローブを羽織った。
ジクもカッコいい鎧を選んでいたが、ラファウに指摘されて軽装で落ち着いた。
武器も一級品だ。
ドラゴンバスターソード、オリハルコンセイバー、炎の魔剣、ハヤブサの双剣等々。
カロリナ達は属性に合わせた魔石装着の杖と短剣をセットで貰った。
金貨に換算すると何百万枚に相当した。

こうして、楽しい服を選ぶ時間が終わった?

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