刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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40. カロリナ、妖精のきまぐれに付き合わされる。

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「おぉ、なんと美しい。貴方こそ私の理想の花嫁だ。我が妻に!」
「貴方は誰ですか?」
「声まで愛らしい。私は貴方に出会う為に生まれてきたことを実感しました。首なしのドユラハンが首を手で抱えてやって来ても邪魔はさせない、この運命なのです。そのつぶらな瞳なら判るハズだ。緑色の角笛を三度鳴らし、頭上の月と星に誓いを立ててもいい。私に後悔をさせないで欲しい」
「申し訳ございません」
「判っている。だが、その言葉を口にしてはならない」

謁見室に通されて待っていると、男が入ってきてアンブラにプロポーズした。
頼みとは婚姻か?
月と星に誓いとか、強引に誉めちぎっている。
アンブラは愛想笑いを出して断っているが、そんなことは歯牙にもかけない。
かなり強引な人であった。

「馬鹿者、何をやっておる」
「父上、遂に私は理想の女性を見つけました。彼女こそ、我が妻に相応しい」

ナンパな男は国王に向かって父上と言った。
頼み事とは婚姻の話か?
カロリナは一瞬そう思ったが、国王が最初からアンブラを知っている訳がない。

「(もしかすると、カロリナ様を婚約者にしたいのかもしれません。カロリナ様とアンブラさんを勘違いしたのかもしれません)」
「(私、まだ12歳よ)」
「(婚約ならおかしくない年でございます。実際、クリフ王子の婚約候補者でございます)」
「(そうでした。私が第一候補者でした)」
「(ただ、我が王に許可なく婚約すれば、大変なことになります。ご注意下さい)」
「(チャラ男は嫌いです。問題ありません)」

カロリナの理想はマズルのように頼りがいがあり、武術にも優れ、カロリナを理解できる包容力のある殿方だ。
でも、マズルは兄のようなものであり、恋愛の対象外。
クリフ王子は見かけだけで中身がない。
見かけを褒めるだけの詰まらない殿方であった。
どちらにしてもチャラ男は論外であった。

今日もカロリナは美しいドレスを身に纏っている。
悪戯でおめかしアンブラも美しい。
カロリナのお姉さん、二人の青い目と鮮やかな金髪を見て、姉妹と勘違いしても仕方ない。
チャラ男が嫌いなカロリナも認識阻害もアイテムを外したアンブラを見初めた眼力は褒めて上げてもよかった。
でも、嫌がっているアンブラをグイグイと押す姿は気分が悪い。
迷惑を掛けないようにアンブラの愛想笑いに勘違いし、耐えているのが判らないようでは先が知れている。

「いい加減にしろ!」

国王に引き摺られて檀上の下に連れられてゆく。
カロリナ達は脇に立っているように言われていた。
王妃と御祖母様が入って来て着席する。
正面の正門が閉まると霊的な意味で空気が変わった。
???

「我が愚息、ドムノ・ヒイリイよ」
「父上、私は理想の花嫁を見つけました。今度こそ、間違いません」
「もう遅い。もう遅いのだ」
「遅くありません。理想の花嫁です。父上なら判るハズです」
「あぁ、よく判っておる。彼女は森の妖精だ。間違いないであろう」
「おぉ、やはりそうであったか!」

この国では純粋な種族ほど高い評価を受けるらしい。
ドムノの鑑定眼は悪くない。
国王も大概だ。

「我が愚息、ドムノよ。なぜ、幼馴染のアンナに手を出した。妹のように可愛がっていたであろう」
「あれはアンナから誘ってきたのです」
「余は何があっても大切にせよと申しておったであろう」
「父上の親友の娘であることは承知しております。故に、我が家で預かっていた。私も大切に接していた。私のことを兄のように慕ってくれていました。一夜の夢を与えただけです」

一夜の夢、男にとって都合のいい言葉だ。
王様や領主は多くの愛人をそう言って抱きかかえる。
反吐が出る。
そういう意味でカロリナの理想は父親であった。
お母様しか妻に持たない。
お母様と仲睦まじい父親に理想像を持っていた。

でも、これは単なる勘違い。

イケメンであるカロリナの父には多くの恋人がいた。
カロリナが生まれるまでは屋敷に戻っている日が少ないくらいであった。
今日はどこの恋人と寝屋を供にしているのか?
母は辛い日々を送っていた。
しかし、5歳のカロリナが他の女の匂いをさせた父親を嫌がったことから浮気を止めた。
以来、家に居ることが増えた。
それから妻と仲を取戻し、2度目の新婚のようにラブラブな二人になった。
それをカロリナはそれを見て育った。
カロリナの奇行が目立つようになって以来、両親はとても息が合うようになって、二人目が生まれてもおかしくない。
残念なことに魔法使い同士は中々子供に恵まれないことが多いのだ。
夫にするなら一途な殿方を望みたいが、カロリナの立場ではそれも無理であった。
御婆様がそうであったように!
ラーコーツィ家の女性は誰しも独占欲が強いようだった。

「よいか、アンナは身籠っておる。アンナの祖母はアンナを穢しながら、他の女にうつつを抜かすお前にご立腹だ」
「この国で一番偉いのは父上でございましょう」
「黙れ! 余はアンナを大切にせよと申した。それを破った罪は重い。お前を廃嫡に処する」
「父上、何故そのようなことを申されます」
「ドムノ・ヒイリイよ。貴方は本当にタイグに似ておりますね」
「我が愚息、ドムノ・ヒイリイよ。アンナに誨淫かいいんした罪で火刑に処す」

エッチな事を教えたから火炙りだって!
過激だ。
でも、それならカロリナ達が呼ばれた意味がない。

「だが、アンナが妖精王に温情の願いを出してくれた。アンナに感謝するのだ。一度だけチャンスを頂いた。アンナを妻とし、妖精王の課題を見事に果たしたならば、罪を許し、王の椅子を譲ってやろう」
「本当でございますか!」
「嘘は言わん」

しかし、ドムノは『はい』と言わずに、それでもアンブラの方をチラリと見た。
命が掛かっているのにいい根性だ。

「課題を果たした後に、その者を側室でも、妾でも口説けばよい」
「王様、勝手なことを言わないで頂きたい」
「カロリナ様よ。余は口説くのを自由と言ったまでだ。求めてきた馬鹿を煮て食おうが、焼いて食おうが好きにするがよい。殺しても罪に問わない」
「そういうことでしたら問題ありません」
「これで準備が整ったわね。コニ、お入りなさい」

ぎぃ~と横にあった大扉が開くと小人が入って来て跪いた。

「お嬢様、お久しぶりです」
「お嬢様は止めて。もう、おばあちゃんよ」
「私にとっていつまでもお嬢様です」
「この子達を案内してくれる。このままでは一瞬で死んでしまうわ」
「そうですな! ゴブリン・エンペラーが率いる2万匹の大軍を相手に、こいつらでは瞬殺されて終わりですな!」

突然、話に出てきたゴブリン・エンペラー。
何の話?
みんなの視線がカロリナに向いたが、カロリナは首を横に振った。
何も知らない。
カロリナは知らされていない。

「御祖母様にお聞き致します。ゴブリン・エンペラーと誰が対峙するのですか?」
「貴方達、10人よ。でも、大丈夫。七精霊の加護と妖精王のチートなアイテムを借りれば、簡単に掃除できるわ!」
「簡単って?」
「ははは、確かに掃除は簡単でしょう。ですが、精霊が気まぐれです。チートなアイテムを借りるには精霊の加護が欠かせない。あやつらは気まぐれで意地悪です。かなり難しいのでありませんか、お嬢様」
「気まぐれな貴方達がそれを言うの?」
「お嬢様、私達の気まぐれなどささやかものです」
「ふふふ、そうね!」

何か、不穏な話していた。
アザが慌てて、カロリナに駆け寄った。
襟を掴んでカロリナを上下に揺らしながら狼狽えた。

「私にゴブリン退治なんて無理よ。交代よ。交代!」
「そうね。ヴェン達と交代して貰いましょう」
「あら、あら、あら、ごめんなさい。この部屋に結界を張ってしまったので、今更の交代は無理よ。約束を果たさず逃げれば、10日で死ぬ呪いが掛かってしまうわ」
「嘘でしょう!」

アザが声を上げた。
御祖母様ににっこりと笑っている。
あっ、ワザとだ!
カロリナは判ってしまった。
この御祖母様はカロリナの一番大切なものを持ってきなさいと言った。
このおばあちゃんもいたずら好きのようだ。

「大丈夫よ。精霊に会って機嫌を取る簡単なお仕事だから」
「カロリナ、何てことしてくれるの!」
「私も知らなかったのよ」
「知らなかったで済まないわ!」
「本当に大丈夫よ。精霊の機嫌を取るだけのお仕事だから!」

ラファウ達は御祖母様の笑顔に恐怖を覚えた。
良い意味でも、悪い意味でも。
妖精王と繋がる方であることは推測できた。
厄介にことに巻き込まれた。
溜息を付くが、隣のルドヴィクは意味も解らず、ゴブリン・エンペラーと対峙できることに闘志を燃やし、マズルは予想していたのか泰然としている。

最初は慌てていたカロリナだったが、すぐに違う思考が働きはじめた。
精霊に会う。
御祖母様は精霊に会うと何度も言っている。
精霊に会えるのだ!

精霊と言えば、魔法を使う時に微かに感じる力の根源だ。
もし、魔力をコント―ロールできるようになると素晴らしい肉の焼き加減が実現する。
適度に瓜を冷やすこともできる。
それは魔力操作を習得するのが難しい技術であったのだが、裏技が存在する。
それが精霊と契約を結ぶのだ。
これはチャンスであった。
焦るアザの手を取って、まっすぐな目で言った。

「大丈夫よ。私に任せなさい」
「本当に大丈夫?」
「私にできないことがあったかしら!」
「一杯、あったわ」
「でも、何とかなったじゃない」

根拠のない自信に満ち溢れるカロリナがそこにいた。
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