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38. カロリナ、心の涙を流す。
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日が暮れるとティンポル・ディムスの村の衆が集まって大宴会となった。
持参した香辛料を使った料理は大変喜ばれた。
不満もないが楽しみも少ない村では、お客が来るのを楽しみにしていた。
持参した酒で夜が更けきるまで呑み明かした。
これと同じことをキャリハッド・ヴィコルス、ティンポル・コナン、イムログ・ファダでもすることになる。
急げば、2日で到着できないこともないが、手伝いをしないと村に泊めて貰えない。
片道5日。
往復で10日も掛かる長旅であった。
「このティンポル・ディムスははじめの村と呼ばれ、逃亡してきた者が飢えて死んだと言われます」
「それで掘る場所がなかったのね!」
「今では火葬にした後に小さな壺に入れて家ごとの共同墓地に埋めるそうです」
「墓を大きくしなかった?」
「土地は狭く、墓を大きくできなかったのでしょう」
馬車の中で講義がはじまった。
カロリナは郷土料理の講義が聞きたかったが、ラファウも知らないようだ。
ラファウの講義を一人で聞くのは辛いのでアザを呼んだ。
「死体を背負って歩くとか、罰ゲームですか?」
「かもしれないわね」
「カロリナは馬車を一日掛かる距離を歩いたのよね。その男は死体を背負って何日も巡った」
「そうなるのかしら? 凄く長い感じたわ。でも、辛いとは思わなかった。どうしてかしら?」
「その妖精が掛けた夢かもしれません」
カロリナもかなり歩いたと認識していたが、意識と距離は曖昧だった。
時間にすると、左程経っていなかった。
記憶を頭に押し込まれただけで体は疲れていなかったのかもしれない。
「次のキャリハッド・ヴィコルスは草原があり、亡命貴族が住んだ場所です。後から来た貴族と抗争になり、敗れた方は追いやられることを繰り返した土地です」
草原に山羊を放って食糧にしたらしい。
草原の広さは限られ、山羊の数にも限界がある。
勝った方の兵士の手で丘の上の教会に葬られた。
ミスホラ王国にある唯一の教会であった。
「じゃあ、教会に入れなかったのは?」
「背負っていた死体が妖精だったからでしょう」
「心が狭いのね?」
「アザ、聞かなかったことにしましょう。教会にしれたら住む場所を失います」
「ラファウ、アザを脅かして駄目よ」
「カロリナ様も普段から言動にはご注意下さい」
「は~い」
教会は絶対神ユーリに従わない妖精王を認めていない。
邪神を信仰する魔族など存在すら認めない。
絶対神ユーリを信仰しない土人や妖精族・亜人が虐げられる原因でもあった。
「現在のキャリハッド・ヴィコルスは草原の南側の原野を開拓して作られています」
「ラファウ、どうして町を丘に作るのかしら?」
「それ、私も思った。川の近くに町を作った方が便利よ」
「でしょう!」
川から水を引いた方が何かと便利なのに丘の上に村や町を作っていた。
「簡単な理由です」
理由は二つあった。
新年を迎える前くらいに雪が解けて、山の麓は雪崩が起きやすい。
山の裾に町を作ると大惨事が起こった。
次に、夏になると雪解け水で川が増水して丘の近くまで水が上がってくる。
川の水量は10倍近くに増えて、川ではなく湖が生まれる。
最後に氾濫が起きると家があれば流されてしまう。
ゆえに、丘か、低い場所に山から土砂を削って高台にするのは、そういう理由からであった。
「氾濫が起こるとすべてが流されます。そんな土地に家は建てられません。しかし、その後の土地には作物がよく育つのです。そこで手入れをして畑として使っているそうです」
「氾濫はいつ起こるのですか?」
「大雨が降るのは、春と秋の2度だけですよ」
「そうよ、アザ。夏は西風、冬は東北風が吹いて大雨は降らないでしょう」
「カロリナ様、その通りでございます」
「えへん!」
カロリナも無駄に勉強をしている訳ではない。
その次のティンポル・コナンは敗れた貴族様が行き着く場所であった。
岩場に住むイモリを取って暮らし、足りない時は人肉を喰らって生きていた。
最後の一人まで喰い尽くしたと伝わる。
「生き残りおらず、丘が墓になっております。岩だらけであった丘に土を盛り、花を植えて鎮魂しているそうです」
「一人も残らなかったのですか?」
「タイグ王の時代には誰もいなかったと伝わります。ティンポル・コナンを逃れた者もイムログ・ファダで力尽きて亡くなったそうです」
タイグの時代、ティンポル・コナン、イムログ・ファダ、キル・ブリージャには生きた人が住んでいなかった。
タイグ王はキャリハッド・ヴィコルスを仮の都と定め、50年後にキル・ブリージャに移って、王都ミスホラと命名したらしい。
こうして、カロリナは王都に入って郷土料理を食べることができた。
「これのどこが郷土料理というのですか?」
出てきた料理は普段食べる料理と変わらない。
少し古臭い料理ばかりであった。
カロリナは心で泣いていた。
ミスホラ王国にある珍しい食べ物は? 果実は?
これでは来た意味がない。
持参した香辛料を使った料理は大変喜ばれた。
不満もないが楽しみも少ない村では、お客が来るのを楽しみにしていた。
持参した酒で夜が更けきるまで呑み明かした。
これと同じことをキャリハッド・ヴィコルス、ティンポル・コナン、イムログ・ファダでもすることになる。
急げば、2日で到着できないこともないが、手伝いをしないと村に泊めて貰えない。
片道5日。
往復で10日も掛かる長旅であった。
「このティンポル・ディムスははじめの村と呼ばれ、逃亡してきた者が飢えて死んだと言われます」
「それで掘る場所がなかったのね!」
「今では火葬にした後に小さな壺に入れて家ごとの共同墓地に埋めるそうです」
「墓を大きくしなかった?」
「土地は狭く、墓を大きくできなかったのでしょう」
馬車の中で講義がはじまった。
カロリナは郷土料理の講義が聞きたかったが、ラファウも知らないようだ。
ラファウの講義を一人で聞くのは辛いのでアザを呼んだ。
「死体を背負って歩くとか、罰ゲームですか?」
「かもしれないわね」
「カロリナは馬車を一日掛かる距離を歩いたのよね。その男は死体を背負って何日も巡った」
「そうなるのかしら? 凄く長い感じたわ。でも、辛いとは思わなかった。どうしてかしら?」
「その妖精が掛けた夢かもしれません」
カロリナもかなり歩いたと認識していたが、意識と距離は曖昧だった。
時間にすると、左程経っていなかった。
記憶を頭に押し込まれただけで体は疲れていなかったのかもしれない。
「次のキャリハッド・ヴィコルスは草原があり、亡命貴族が住んだ場所です。後から来た貴族と抗争になり、敗れた方は追いやられることを繰り返した土地です」
草原に山羊を放って食糧にしたらしい。
草原の広さは限られ、山羊の数にも限界がある。
勝った方の兵士の手で丘の上の教会に葬られた。
ミスホラ王国にある唯一の教会であった。
「じゃあ、教会に入れなかったのは?」
「背負っていた死体が妖精だったからでしょう」
「心が狭いのね?」
「アザ、聞かなかったことにしましょう。教会にしれたら住む場所を失います」
「ラファウ、アザを脅かして駄目よ」
「カロリナ様も普段から言動にはご注意下さい」
「は~い」
教会は絶対神ユーリに従わない妖精王を認めていない。
邪神を信仰する魔族など存在すら認めない。
絶対神ユーリを信仰しない土人や妖精族・亜人が虐げられる原因でもあった。
「現在のキャリハッド・ヴィコルスは草原の南側の原野を開拓して作られています」
「ラファウ、どうして町を丘に作るのかしら?」
「それ、私も思った。川の近くに町を作った方が便利よ」
「でしょう!」
川から水を引いた方が何かと便利なのに丘の上に村や町を作っていた。
「簡単な理由です」
理由は二つあった。
新年を迎える前くらいに雪が解けて、山の麓は雪崩が起きやすい。
山の裾に町を作ると大惨事が起こった。
次に、夏になると雪解け水で川が増水して丘の近くまで水が上がってくる。
川の水量は10倍近くに増えて、川ではなく湖が生まれる。
最後に氾濫が起きると家があれば流されてしまう。
ゆえに、丘か、低い場所に山から土砂を削って高台にするのは、そういう理由からであった。
「氾濫が起こるとすべてが流されます。そんな土地に家は建てられません。しかし、その後の土地には作物がよく育つのです。そこで手入れをして畑として使っているそうです」
「氾濫はいつ起こるのですか?」
「大雨が降るのは、春と秋の2度だけですよ」
「そうよ、アザ。夏は西風、冬は東北風が吹いて大雨は降らないでしょう」
「カロリナ様、その通りでございます」
「えへん!」
カロリナも無駄に勉強をしている訳ではない。
その次のティンポル・コナンは敗れた貴族様が行き着く場所であった。
岩場に住むイモリを取って暮らし、足りない時は人肉を喰らって生きていた。
最後の一人まで喰い尽くしたと伝わる。
「生き残りおらず、丘が墓になっております。岩だらけであった丘に土を盛り、花を植えて鎮魂しているそうです」
「一人も残らなかったのですか?」
「タイグ王の時代には誰もいなかったと伝わります。ティンポル・コナンを逃れた者もイムログ・ファダで力尽きて亡くなったそうです」
タイグの時代、ティンポル・コナン、イムログ・ファダ、キル・ブリージャには生きた人が住んでいなかった。
タイグ王はキャリハッド・ヴィコルスを仮の都と定め、50年後にキル・ブリージャに移って、王都ミスホラと命名したらしい。
こうして、カロリナは王都に入って郷土料理を食べることができた。
「これのどこが郷土料理というのですか?」
出てきた料理は普段食べる料理と変わらない。
少し古臭い料理ばかりであった。
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