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閑話.エリザベート、机を叩いて悔しがった。
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ダン、エリザベートは冒険者から報告を読んで机を叩いた。
「どういうこと? どうしてこうなってしまうのよ」
「カロリナさん、冒険ギルドに貢献したことで『冒険ギルド双勲章』を受賞ですか」
「そんなものラーコーツィ侯爵がゴリ押しで作った賞ですから意味はありません。問題はカロリナが調査を行い、ラーコーツィ領兵と冒険者で王都の危機を救ったという美談になっていることよ」
「マグナ・クロコディールスを100頭近く討伐すれば、そうなりますね」
「怖カロリナが泣きべそをかいて逃げ帰り、騎士団が出動して終わるのが普通でしょう。どうして領兵と冒険者で討伐しているの?」
「報告書では侯爵自ら救援に向かったと!」
「ゴブリン退治の救援でしょう。それがマグナ・クロコディールス討伐にすり替わった?」
あり得ない。
心からエリザベートはあり得ないと思った。
誰かが先に湖を調査して、マグナ・クロコディールスの所在を把握し、討伐隊を事前に呼び寄せていた。
そうとしか思えない事態であった。
ラーコーツィ侯爵は領兵200人、一族から協力兵50人を集め、それでも足りないと冒険ギルトに赴いたと書かれていた。
侯爵は金貨1,000枚を持ち込み、冒険者の救援協力金に一人に付き金貨10枚を用意すると言った。
ケチで有名なラーコーツィ侯爵とは思えない派手な使い方であった。
親バカと聞いているが、正気と思えない。
その金に釣られてC級以上の冒険者が参加して100人強も集った。
まるで冒険者の性を知り尽くしているようなやり方だ。
船商人、漁民から船を調達し、夜半から渡河をすると早朝早くから出発。
到着時間を逆算した。
報告書では、先遣隊がカロリナの危機を知らせ、ラーコーツィ侯爵は絶叫した。
『褒美は望むまま、隊列無用。とにかく急げ!』
カロリナ達はマグナ・クロコディールスに追われて森の奥まで逃げていた。
そこに冒険者が到着して反撃がはじまり、100頭近いマグナ・クロコディールスを討伐した。
危機一髪!
カロリナの命を救った冒険者にラーコーツィ侯爵は感謝し、感謝状を贈った。
出来過ぎている。
沼地では討伐が難しい。
騎士団が赴いても半月以上は掛かる案件であった。
実際、1周目はそうなっている。
しかし、今回は?
マグナ・クロコディールスをカロリナ達が誘き出した。
美味そうな子供らを囮にした?
警戒心の強いマグナ・クロコディールスも釣れる訳だ。
そう考えれば、わずか半日でのマグナ・クロコディールス討伐も頷ける。
これを考えた奴は天才だわ!
エリザベートは知恵と勇気と努力で幸運を奪い取っていた。
マリアを除けば、神々が与える幸運など気まぐれだ。
そんなものを当てにすれば、身を滅ぼす。
ゴブリン、救援、誘き出し、これが偶然というなら悪魔に魂を売ったと言っても信じたくなる。
エリザベートは目に見えない策謀家の影に警戒を高めた。
冒険者の被害は少なくない。
運が悪かった。
違うな!
領兵の命を守る為に冒険者を生贄にした。
金で釣って前に出させた。
だが、冒険者が向ける侯爵の印象は悪くない。
ラーコーツィ侯爵はその家族に見舞い金として金貨10枚を支払った。
前金と合わせて金貨20枚だ。
しかも戦死で取り残された身内で身よりのない者は屋敷で引取ると言う。
至れり尽くセリだ
冒険ギルド双勲章の報奨金に金貨1,000枚。
感謝状を貰った冒険パーティは6組に報奨金の金貨100枚と貴族の称号、家臣に取り立てが付いた。
凄い出世だ。
断った冒険者にも追加で(1人)金貨10枚が支払われた。
その気前の良さにラーコーツィ侯爵の人気は上がった。
しかも厭らしい絡め手の一手を付け加えた。
そうだ、冒険ギルド双勲章はラーコーツィ侯爵がゴリ押しで自分の娘の為に作った賞である。
この報奨金の金貨1,000枚も自分の娘カロリナが受け取れば茶番で終わった。
終わったハズなのだ。
しかし…………だが、カロリナはその金貨1,000枚で屋台祭を開催すると言う。
「姉様、屋台祭とは何ですか?」
「知らないわ! 報告書に書かれている通りよ」
“10日後、大公園で出店したすべて屋台の費用を金貨1,000枚から支払う。参加者は呑み食いに一切の代金を支払う必要がない”
無償で飲み食いができるというイベントだ!
町の者は『カロリナ祭』と呼んでいる。
食材の調達金もすべて支払われるので、商業区や行政区の食堂も参加すると言う。
町を上げてのお祭りになりそうだ。
「皆、楽しみに飢えていますから、盛大な祭になりそうですね!」
「そうよ。それが一番気に食わないのよ!」
エリザベートは声を上げて、その報告書を握り潰して下に落とし、ダンダンダンと踏み付けた。
優雅さからかけ離れた行為だ。
ダ~ン、エリザベートは机を叩き、アンドラを睨み付けて尋ねた。
「ねぇ、アンドラ。民は楽しみに飢えているわ。炊き出しで今日の糧を得て喜んでいる貧困に苦しむ民に『祭り』に行くなと命令できるかしら?」
そう言われて、アンドラははっとした。
言える訳がない。
エリザベートの炊き出しは王国中の教会を通じて1年中を通して行われる。
その総額は金貨1,000枚を遥かに超える。
つまり、エリザベートの方が沢山のお金を使っている。
エリザベートの方が大規模で壮大な計画を進行している。
エリザベートの方がより多くの民を救っている。
でも、印象に残るのはたった10日間だけ開催した『祭り』だ。
いつだって民の心に刻まれるのは、腹一杯、好きなだけ飲み食いした『楽園(楽しかった時)』の思い出だ。
してやられた。
対抗して『祭り』を超える贅沢な食事を用意するなど自殺行為だ。
そもそも資金の無駄だ。
贅沢を覚えた民は麦粥で満足できなくなり、計画が狂う。
与えられることに慣れた民は堕落する。
貧しいから働き、現状を打開しようとする。
それがこの計画の原点。
だが、『祭り』に行くなと言うこともできない。
でも、エリザベートの事業が霞んでしまう。
はらわたが煮えくり返るほど悔しかった。
カロリナめ!
「どういうこと? どうしてこうなってしまうのよ」
「カロリナさん、冒険ギルドに貢献したことで『冒険ギルド双勲章』を受賞ですか」
「そんなものラーコーツィ侯爵がゴリ押しで作った賞ですから意味はありません。問題はカロリナが調査を行い、ラーコーツィ領兵と冒険者で王都の危機を救ったという美談になっていることよ」
「マグナ・クロコディールスを100頭近く討伐すれば、そうなりますね」
「怖カロリナが泣きべそをかいて逃げ帰り、騎士団が出動して終わるのが普通でしょう。どうして領兵と冒険者で討伐しているの?」
「報告書では侯爵自ら救援に向かったと!」
「ゴブリン退治の救援でしょう。それがマグナ・クロコディールス討伐にすり替わった?」
あり得ない。
心からエリザベートはあり得ないと思った。
誰かが先に湖を調査して、マグナ・クロコディールスの所在を把握し、討伐隊を事前に呼び寄せていた。
そうとしか思えない事態であった。
ラーコーツィ侯爵は領兵200人、一族から協力兵50人を集め、それでも足りないと冒険ギルトに赴いたと書かれていた。
侯爵は金貨1,000枚を持ち込み、冒険者の救援協力金に一人に付き金貨10枚を用意すると言った。
ケチで有名なラーコーツィ侯爵とは思えない派手な使い方であった。
親バカと聞いているが、正気と思えない。
その金に釣られてC級以上の冒険者が参加して100人強も集った。
まるで冒険者の性を知り尽くしているようなやり方だ。
船商人、漁民から船を調達し、夜半から渡河をすると早朝早くから出発。
到着時間を逆算した。
報告書では、先遣隊がカロリナの危機を知らせ、ラーコーツィ侯爵は絶叫した。
『褒美は望むまま、隊列無用。とにかく急げ!』
カロリナ達はマグナ・クロコディールスに追われて森の奥まで逃げていた。
そこに冒険者が到着して反撃がはじまり、100頭近いマグナ・クロコディールスを討伐した。
危機一髪!
カロリナの命を救った冒険者にラーコーツィ侯爵は感謝し、感謝状を贈った。
出来過ぎている。
沼地では討伐が難しい。
騎士団が赴いても半月以上は掛かる案件であった。
実際、1周目はそうなっている。
しかし、今回は?
マグナ・クロコディールスをカロリナ達が誘き出した。
美味そうな子供らを囮にした?
警戒心の強いマグナ・クロコディールスも釣れる訳だ。
そう考えれば、わずか半日でのマグナ・クロコディールス討伐も頷ける。
これを考えた奴は天才だわ!
エリザベートは知恵と勇気と努力で幸運を奪い取っていた。
マリアを除けば、神々が与える幸運など気まぐれだ。
そんなものを当てにすれば、身を滅ぼす。
ゴブリン、救援、誘き出し、これが偶然というなら悪魔に魂を売ったと言っても信じたくなる。
エリザベートは目に見えない策謀家の影に警戒を高めた。
冒険者の被害は少なくない。
運が悪かった。
違うな!
領兵の命を守る為に冒険者を生贄にした。
金で釣って前に出させた。
だが、冒険者が向ける侯爵の印象は悪くない。
ラーコーツィ侯爵はその家族に見舞い金として金貨10枚を支払った。
前金と合わせて金貨20枚だ。
しかも戦死で取り残された身内で身よりのない者は屋敷で引取ると言う。
至れり尽くセリだ
冒険ギルド双勲章の報奨金に金貨1,000枚。
感謝状を貰った冒険パーティは6組に報奨金の金貨100枚と貴族の称号、家臣に取り立てが付いた。
凄い出世だ。
断った冒険者にも追加で(1人)金貨10枚が支払われた。
その気前の良さにラーコーツィ侯爵の人気は上がった。
しかも厭らしい絡め手の一手を付け加えた。
そうだ、冒険ギルド双勲章はラーコーツィ侯爵がゴリ押しで自分の娘の為に作った賞である。
この報奨金の金貨1,000枚も自分の娘カロリナが受け取れば茶番で終わった。
終わったハズなのだ。
しかし…………だが、カロリナはその金貨1,000枚で屋台祭を開催すると言う。
「姉様、屋台祭とは何ですか?」
「知らないわ! 報告書に書かれている通りよ」
“10日後、大公園で出店したすべて屋台の費用を金貨1,000枚から支払う。参加者は呑み食いに一切の代金を支払う必要がない”
無償で飲み食いができるというイベントだ!
町の者は『カロリナ祭』と呼んでいる。
食材の調達金もすべて支払われるので、商業区や行政区の食堂も参加すると言う。
町を上げてのお祭りになりそうだ。
「皆、楽しみに飢えていますから、盛大な祭になりそうですね!」
「そうよ。それが一番気に食わないのよ!」
エリザベートは声を上げて、その報告書を握り潰して下に落とし、ダンダンダンと踏み付けた。
優雅さからかけ離れた行為だ。
ダ~ン、エリザベートは机を叩き、アンドラを睨み付けて尋ねた。
「ねぇ、アンドラ。民は楽しみに飢えているわ。炊き出しで今日の糧を得て喜んでいる貧困に苦しむ民に『祭り』に行くなと命令できるかしら?」
そう言われて、アンドラははっとした。
言える訳がない。
エリザベートの炊き出しは王国中の教会を通じて1年中を通して行われる。
その総額は金貨1,000枚を遥かに超える。
つまり、エリザベートの方が沢山のお金を使っている。
エリザベートの方が大規模で壮大な計画を進行している。
エリザベートの方がより多くの民を救っている。
でも、印象に残るのはたった10日間だけ開催した『祭り』だ。
いつだって民の心に刻まれるのは、腹一杯、好きなだけ飲み食いした『楽園(楽しかった時)』の思い出だ。
してやられた。
対抗して『祭り』を超える贅沢な食事を用意するなど自殺行為だ。
そもそも資金の無駄だ。
贅沢を覚えた民は麦粥で満足できなくなり、計画が狂う。
与えられることに慣れた民は堕落する。
貧しいから働き、現状を打開しようとする。
それがこの計画の原点。
だが、『祭り』に行くなと言うこともできない。
でも、エリザベートの事業が霞んでしまう。
はらわたが煮えくり返るほど悔しかった。
カロリナめ!
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