刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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24.カロリナ、最高の肉を発見する。

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翌日、怪我人と留守番を残して上流に出発。
すでにヴェンが上流の偵察を終えて、イアスト山脈の中腹の湖が沼地化しているのを見つけていた。カロリナの仕事は調査なのでその報告だけ終了しているのだが、自分の目で見ないことには納得しなかった。

道案内がいると楽なものだ。
しかも先に狩りを済ましてあるので、ハイキングを変わらない。
お昼過ぎに到着した。

「ここは山の上流から流れて水で美しい湖にハズなのですが、見たように泥沼化しております」
「ホントね、泥沼だわ!」

上流は水が濁っている様子もなく、湖に入ると撹拌しながら流れてゆく。
西側は一面が土手のようになっており、その合間から水が滴り落ちて、目に入る限りの湾曲した坂を流れる水のカーテンのような滝を作って流れ落ちていた。
舞い上がった水滴が霧のように立ち上がり一面に泥の臭いを漂わせている。

「原因はまったく不明です」
「水が澄んでいれば、さぞ美しい滝が見られたのでしょうね」
「アザさんの言う通りで、山師の話では名所の1つと聞いております」
「ということは、泥沼になったのは最近なのかしら?」
「もういいでしょう。納得したなら帰りましょう」

東側は森林に囲われており、泥を流している所も皆無であった。
むしろ、小川から綺麗な水が補充されている。

「湖の上半分は完全に泥沼化しております。上流から流れる水で撹拌されて泥水という感じになっております。これ以上の調査は無理です」
「土砂崩れとか?」
「向こう側の斜面に木と草が生えているからそれはないわ!」
「そうか!」
「お嬢様、残念ながらここまでです。調査は他の方に任せましょう」
「魚が拙くなったのが、この沼だと判ったわ。原因を探させて何とかして貰いましょう」

カロリナは魚がおいしく戻れば、あとはどうでもよかった。
アンブラもカロリナがあっさり引いてくれたことに安堵した。
原因を調べるとか言われた日はどうしょうかと思っていた。
そもそも何を調べればいいかも判らない。
今日中にキャンプ地に戻れば安心だ。

「カロリナ様、変な虫を見つけた」

子供が持っている虫?
赤い甲羅を纏い、大きなはさみのある腕を持つ水中生物だ。
これは!

「ザニガニですわ!」
「カロリナ様、ザニガニって何ですか?」
「泥沼などに棲む生物です」
「私の知っているザニガニって、もっと小さいわよ」
「アザ、どうしてそれを言わなかったの? 町の近くにいましたの?」
「近くじゃないけど…………」
「どうしてもっと早く言って下さらないの!」
「これをどうするのよ」
「食べます」
「えっ? 泥臭くって食べられたものじゃないって!」

カロリナの目が輝いていた。
アザはびっくりした。
エルとアンブラの不安が急上昇する。
食べると言った。
しかし、目が輝いている。

「近年、このザニガニを綺麗な水でしばらく付けておき、それから食すると、芳醇な甘味のある肉になると発見されたのです。つまり、これは最高級の肉です」
「お肉!」
「お肉!」
「お肉だ!」

キラン、キラン、キラン!
駆け出し冒険者の子供達の目も光った。
カロリナと同じ目だ。
最近、感化され過ぎだよ。
これはもう止まらない。
乱取りだ!

「エル、網を作りなさい。ザニガニを入れる網です。丈夫な奴です。アンブラ、袋を用意しなさい。水を入れて、その中に網ごと入れます。水が漏れないなら箱でも構いません」
「僕(私)らは?」
「もちろん、取って下さい。足場には気を付けて!」
「判った」
「うん」
「あ~い」
「アザ、どこに行くのですか?」
「花摘みかな?」
「エルを手伝って下さい」

的確な指示をありがとうございます。
アザは逃げ損なった。
エルとアンブラも涙を流していた。
今日中のキャンプ地に戻れないかもしれない。
異変を感じた騎士見習いの貴族子息3兄弟が駆けつける。
3兄弟じゃないって?
カロリナはこの際、細かいことはどうでもよかった。

「カロリナ様、俺達は何をすればいいですか?」
「では、木を拾って下さい。それで檻を作るのです。捕ったザニガニを集める檻です。待ちなさい。ザニガニを手で直接掴もうしてはいけません。指が切れます。棒ではさみを掴ませなさい。そのあとに胴体を掴むのです」

的確な指示を次々と出してゆく。
春になれば8歳になるが、8歳と思えないほどキビキビとした指示を出している。

「エル君、カロリナ様はこういう知識をどこで仕入れているの?」
「少なくとも書斎の本ではありません」

カロリナの読む本を書斎から運ぶのはエルの仕事だ。
エルの記憶ではそういった本はなかった。

「カロリナ様に仕えて2年、それ以前もザニガニが食べられるとは聞いたことがないわ」

屋敷に入ってくる情報をチェックしているアンブラも知らなかった。
当然である。
近年は近年でも5年後のことだ。

カロリナの記憶は無くなっていない。
ただ、思い出せないように封印されている。
食欲が強引に封印をこじ開けて呼び起こした。
神様もびっくりの所業であった。

カロリナにどこで聞いた記憶かと聞いても無駄である。
“どこだったかしら”
そんな感じで答えるだろう。
どこで得た知識かは重要ではなかった。

水辺でばしゃばしゃと騒げば、沼の主も気づく。
静かに接近し、一気にがばっと大きな口を開けて寄った。

「何!?」

それはマグナ・クロコディールスと呼ばれる巨大なわにの魔物だった。
全長10mを超える巨大な体格を持ち、大きな口を開けて子供達の前に現れた。

危ない!

がばっと大きな口が閉じる。
そのまま地面をえぐって半上陸をする。

あああああぁぁぁぁ、カロリナが大きな声を上げた。

「やりました、お嬢様」
「子供たちを確保しました」
「ふふふ、ギリギリでし~たが無事セーフだ~よ」

ヴェン木葉フォウフロスが子供を掴んで脱出していた。
アンブラみたいに仕事を与えなくて正解だった。
全然、意図していなかったが、それが幸いした。

だが、カロリナの震えは止まらない。
子供に危害を出したのは嬉しい。
でも、怒りが込み上げて魔力が暴発寸前まで跳ね上がった。

“私の最高食材が!”

せっかく捕まえたザニガニがマグナ・クロコディールスの腹の中に消えてしまった。
どんなときもブレなかった。

「許しません!」

カロリナは怒った。
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