刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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22.カロリナ、ゴブリン討伐を失敗す。

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警戒は万全、日が暮れると半数の兵をつれて集落の近くに寄ることになった。
もちろん、貴族の子息であるイェネー、クリシュトーフ、カールの三人は待機を命じた。
もの凄く嫌がった。

「どうかアザをはじめ、私の友人達を守って頂けますか?」
「我らを警護としてお連れ下さい。命に掛けてお守りします」
「同じく、この身に掛けて必ずお守りします」
足手纏あしでまといは承知しております。しかしながら、お守りさせて下さい」
「感謝します」

カロリナがそう言うと三人に笑みが浮かんだ。
はじめから駄目だと感じていたというとそうでない。
カロリナと一緒に後方待機になると思っていたのに、カロリナが前線に出るというのでならば自分もというノリであった。
自分達の希望が叶えられたと思ったのちにカロリナは続けていった。

「そのお気持ちは感謝します。でも、貴方達も大切な友達です。傷ついて欲しくありません。私の為に命を掛けるなんて言っている内は連れていけません。もし嫌と言うならば、この場で護衛の任を解任します。あとは好きにして下さい」
「カロリナ様、どうかお考え直しを!」
「悔しいですが判りました」
「困らせてすみません」
「では、イェネーのみ解任でよいのですね」
「お待ち下さい。待ちます。待たせて頂きます」
「待つのではなく、この子達を守るのです。判りましたね」

嫌がっていたが、強く言うと子供達の警備に付いてくれると言ってくれた。
カロリナが少し離れると「うらぎり者」と相手をなじる声が聞こえてきたが、それはカロリナには関係ないので無視することにした。
あの三人は絶対にここに残すことは決定事項であった。
アンブラにも念を押された。
状況も考えず、後先を考えないで突撃などされたら最悪になりかねない。
護衛の子守の方も同意してくれた。

「まさか、僕にも付いてくるなとかいいませんよね」
「あら、エルは私の為に死んでくれないのかしら?」
「それは遠慮します。僕はカロリナ様をずっと見ていきたい。カロリナ様が嫌がって付いてゆくつもりです」
「ふふふ、勝手にしなさい」
「そうさせて頂きます」

エルが流暢にしゃべるようになってきた。
カロリナより少し背が低く、弟ができたみたいに可愛かったエルがいつの間にか肩を並べて歩くようになっていた。
まさか、抜かされないわよね?

「身長が同じになると、しゃべり方まで生意気になってきたのね」
あるじの教育の賜物です」
「それは素敵な主だわ!」
「はい、すべてを包み込む包容力があり、何事にも動じない勇気を持ち合せ、その優しさ水の女神のように滴り落ちます。素敵な主です」
「それは素晴らしいわ!」
「ただ1つ。食い意地が悪く、家臣の食べ物まで奪ってしまうのです。それさえなければ、完璧な主なのです」
「それは誤解よ。家臣の物を奪ったことなどないハズよ」
「ご安心して下さい。何か1つ欠けている方が可愛らしく。この人の為なら、どんな苦労も惜しくないと思えるのです」
「私は貴方の忠誠心を疑うべきね!」

下らない話をしている間にゴブリンの集落に近づいてきた。
他の者がいれば、こんな下らない会話もできない。
でも、皆、家族のような領兵であり、顔見知りばかりで気心も知れていた。

「では、段取り通り! 私が魔法で先制します。近づく敵を弓矢で撃ち、討伐はアンブラ達に一任します」
「お嬢様、任せて下さい。ここは死守します」
「お願います」

アンブラ達も攻撃魔法が得意ではない。
領兵は庶民であり、魔法は使えない。
攻撃型の魔法使いはカロリナだけというアンバランスな構成であった。
あくまで調査だったので気にしていなかった。

『我は汝を召喚す。おお、火の大精霊フェニックスよ。天上の深淵を見るものよ。業火の浄化によって不浄を払え。汝らは偉大なるマルタの命により。あらゆる罪を焼き尽くせ。始まりにして終わり。天空に吹き荒れる炎嵐よ。我、力を対価なし、ここの力となって具現せよ。すべてを焼き尽くせ、ファイラー・テンペスト!』

カロリナから撃ち出されて炎が四方の飛び!
それが着弾すると炎柱が無数に上がって天空に伸びる。
天に伸びた柱が渦となって天空を舞う。
辺りは炎をまき散らし、それが新たな炎となって渦巻いてゆく。
極地的な炎竜巻があちらこちらで起こって地上の物を舞い上げる。
まさに地獄絵図。
燃えるものがある限り、どこまでも広がってゆく、業火の魔法であった。

領兵達もびっくりだ。
まさか、お嬢様がこれほど魔法使いとは思ってもいなかった。
中級極大の炎の魔法の最上位の魔法だ。
これ1つで貴族学園を卒業できる。

魔法教師もビックリの魔法だ。
しかも魔法陣の補助をなしで撃ち出すなんてかなり無茶振りの魔法であった。
一発撃てば、魔力枯渇で目を回して倒れていた。

陣地死守が絶対と言われた訳だ。

300体ほどが棲むゴブリンの巣が一瞬で火の海に変わった。
四方に逃げてくるゴブリンをアンブラたちは四方に分かれて狩ってゆく。

たて

アンブラが叫ぶ。
炎の中から炎の魔法が飛んできた。

ファイラーだ。

やはり、メイジ・ゴブリンがいたらしい。

アンブラが近づくと、リーダー・ゴブリンらしい数体がメイジ・ゴブリンを守った。
もちろん、それはアンブラの敵ではない。
だが、数が多くすぐに近づけない。
続けてメイジ・ゴブリンの陣地を攻撃をさせる訳にいかないので、ヴェン木葉フォウフロスが援護に入る。
その後ろから炎で身を焼いているキング・ゴブリンのなりかけ・・・・が攻撃を仕掛けた。
なりかけはタダのなりかけ、リーダー・ゴブリンと大して力は変わらない。
図体が大きいだけであった。
その周りを生き残りのゴブリンが酷い火傷を負いながらも取り囲んでいる。
そこからは乱戦だった。
アンブラらが始終押しているが、決死の敵は侮れない。
確実に死に追いやらねいと止まらない。
厄介であった。

目を覚ましたカロリナにアンブラが頭を下げた。

「申し訳ございません。50体以上を討ち漏らしました」
「アンブラが駄目なら他の誰がやっても駄目でしょう。もし責任があるなら、討伐を急いだ私にあります」

敵のゴブリンはまるで人間のように味方を逃がす為に陣地を狙った。
生き残りの決死隊は必至だった。
味方を逃がす陽動と気づいても対抗する手段がなく、50体以上のゴブリンを逃がすことになったらしい。
アンブラらも陣地を守ることに必至だったのだ。
エルも1体のゴブリンを討ったらしい。
かなり危なかったということ?
怪我人は出たが死者ないなら問題ないだろう。

しかし、反省だ。
ファイラー・テンペストは見た目ほど、敵を瞬殺する威力はない。
大火傷を負わせ戦力を半減できるが、それだけだった。
中級魔法は所詮、中級魔法ということだ。
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