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20.カロリナ、慈善事業が好きな訳ではない。
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冒険ギルドと言えば、荒くれ者が溢れ問題を起こす者ばかりと思われがちだが、実の所は何でも屋であり、城壁の補修から家の修理、迷子探しの手伝いまでする。
町に無くてはならない職業だ。
だから、普通の人を訪れる。
冒険科に行かなければ、怖いお兄さんとも会うことはない。
エディタ・エミルは父が行政区の住む職員であり、エディタも父とよく似た職業の冒険ギルドの普通科を受けて就職した。
町の為にこの身を奉げる。
ちょっと義務感の強い女の子であった。
「エディタ君、探したよ」
「部長、どうかしましたか?」
「その耳は本物だよね」
「どういう意味か知りませんが、確かに妖精種の血が少し混じっております」
「おそらく、その方が気に入られるということだ」
「はぁ?」
「さっき辞令が届いた。出世だ。特別窓口嬢を命ずる」
「特別窓口嬢って、花形じゃないですか!」
「ははは、喜んでもらって嬉しいよ。給料も10倍だ。がんばってくれたまえ!」
特別窓口とは貴族や大商人を相手にする特別な窓口で貴族との交渉もあり、礼儀作法ができないと務まらない。
エディタは父の教育方針で礼儀作法を習っていた。
いつか特別窓口に配属されたいと願っていたが、こんなに早くなれるとは思っていなかった。
選ばれた理由は妖精種の血が少し混じっているというのが気に入らなかったが、チャンスを捨てるほど無茶でなかった。
なんと言っても給料も高いが、副部長クラスの権限が与えられる。
…………と、ぬか喜びだった。
どうして冒険科の特別窓口があるのよ!
(答え、そこに貴族が来たからだ)
◇◇◇
「ややや、エディタちゃん。今日も可愛いね!」
「ありがとうございます」
「終わったら一緒にお茶しない」
「遠慮します」
「そのツレナイところが好きだよ」
冒険科の特別窓口は暇だった。
貴族か、大商人しか利用しない窓口だ。
余りにも暇なので情報部の各支部から送られてくる報告書のまとめなどをやっている。
これをリストアップするだけで金貨と交換してくれる稀有な貴族様がいるらしい。
一様、貴族の関係する仕事だからと言って奪ってきた。
そうしないと、暇で暇で死にそうになる。
もう辞職しようかしら?
「それは困るわ」
「カロリナ様、お帰りなさいませ」
「今、帰った」
「本日の獲物は隣の査定室に納品して下さい。すぐに算定させて頂きます」
「よろしく頼む」
なぜ、冒険ギルドの冒険科に特別窓口嬢が必要になったのか?
大侯爵家のカロリナ様が冒険者登録をしたからだ。
今まででも貴族が冒険者登録することはあった。
しかし、それは物好きな3男や4男といった領主と関わり合いのない方か、名を偽ったお忍びで登録される方しかいなかった。
ところが、カロリナ様はラーコーツィ侯爵家のご令嬢として登録された。
侯爵家の長女で王妃候補だ。
侯爵様なんて機嫌を損なっただけで首が飛ぶ。
もう余程の理由がないと窓口嬢を辞められない。
貧乏くじです。
この窓口に登録している冒険パーティは1組だけ!
週の1・2度しか仕事がない。
ずっと受付窓口で待っているだけであった。
でも、誰も給料泥棒とはいいません。
代わりたいという人もいません。
キルド長も優しく接してくれます。
「ねぇ、エディタ。私達にできる面白い仕事はないかしら?」
「申し訳ございません。F級の方には薬草採取などの簡単な仕事しか用意されておりません。ご容赦下さい」
「仕方ないわね。自分で調べましょう」
夕方の掲示板は空いている。
カロリナ様の邪魔をする者もいない。
朝、掲示板を見るとか言われると、冒険者を枠の外まで放り出さないといけないので大変な作業になる。
ただ、それだけの為にエディタの下に警備員が4人も配置されている。
「ねぇ、エディタ。この破れかけた依頼書は何かしら?」
「漁民からの依頼です。漁獲が減っているので、川の上流を調査して欲しいと言っているのです」
「報酬が銀貨8枚なら受けそうなものよね!」
「残念ながら6人以上のパーティという条件が付いています。日帰りで行ける距離ではございません。日当に換算しますと、銅貨7~8枚の仕事であり、誰も受けたがらないのです。王都内の調査依頼ですから、カロリナ様でもお受けになることができますが、金額的にはお奨め致しません」
「川の上流の調査ね!」
「川の異常を調べるのが仕事となります」
「面倒ね。止めておきましょう」
「それがよろしいかと思います」
エディタは少し胸を撫で下ろした。
調査は大変だったのに、報酬がしょぼいなどと言われかねない。
問題のある案件であった。
そういう危険な案件は回すことはできない。
少なくとも薦めることはできない。
査定が終わると、カロリナ様は報酬をすべて子供達に与えてしまう。
今、受けている常時依頼も屋台の店主の肉を格安で調達している。
金銭的に飢えている訳ではない。
そこが他の冒険者と違う。
慈善事業が好きそうに見えるが漁民が困っているなら助けましょうとは言わなかった。
そうだ、言わなかった。
貴族という生き物は気分で言うことが変わる。
今日の施しも、きっと気まぐれだ。
町に無くてはならない職業だ。
だから、普通の人を訪れる。
冒険科に行かなければ、怖いお兄さんとも会うことはない。
エディタ・エミルは父が行政区の住む職員であり、エディタも父とよく似た職業の冒険ギルドの普通科を受けて就職した。
町の為にこの身を奉げる。
ちょっと義務感の強い女の子であった。
「エディタ君、探したよ」
「部長、どうかしましたか?」
「その耳は本物だよね」
「どういう意味か知りませんが、確かに妖精種の血が少し混じっております」
「おそらく、その方が気に入られるということだ」
「はぁ?」
「さっき辞令が届いた。出世だ。特別窓口嬢を命ずる」
「特別窓口嬢って、花形じゃないですか!」
「ははは、喜んでもらって嬉しいよ。給料も10倍だ。がんばってくれたまえ!」
特別窓口とは貴族や大商人を相手にする特別な窓口で貴族との交渉もあり、礼儀作法ができないと務まらない。
エディタは父の教育方針で礼儀作法を習っていた。
いつか特別窓口に配属されたいと願っていたが、こんなに早くなれるとは思っていなかった。
選ばれた理由は妖精種の血が少し混じっているというのが気に入らなかったが、チャンスを捨てるほど無茶でなかった。
なんと言っても給料も高いが、副部長クラスの権限が与えられる。
…………と、ぬか喜びだった。
どうして冒険科の特別窓口があるのよ!
(答え、そこに貴族が来たからだ)
◇◇◇
「ややや、エディタちゃん。今日も可愛いね!」
「ありがとうございます」
「終わったら一緒にお茶しない」
「遠慮します」
「そのツレナイところが好きだよ」
冒険科の特別窓口は暇だった。
貴族か、大商人しか利用しない窓口だ。
余りにも暇なので情報部の各支部から送られてくる報告書のまとめなどをやっている。
これをリストアップするだけで金貨と交換してくれる稀有な貴族様がいるらしい。
一様、貴族の関係する仕事だからと言って奪ってきた。
そうしないと、暇で暇で死にそうになる。
もう辞職しようかしら?
「それは困るわ」
「カロリナ様、お帰りなさいませ」
「今、帰った」
「本日の獲物は隣の査定室に納品して下さい。すぐに算定させて頂きます」
「よろしく頼む」
なぜ、冒険ギルドの冒険科に特別窓口嬢が必要になったのか?
大侯爵家のカロリナ様が冒険者登録をしたからだ。
今まででも貴族が冒険者登録することはあった。
しかし、それは物好きな3男や4男といった領主と関わり合いのない方か、名を偽ったお忍びで登録される方しかいなかった。
ところが、カロリナ様はラーコーツィ侯爵家のご令嬢として登録された。
侯爵家の長女で王妃候補だ。
侯爵様なんて機嫌を損なっただけで首が飛ぶ。
もう余程の理由がないと窓口嬢を辞められない。
貧乏くじです。
この窓口に登録している冒険パーティは1組だけ!
週の1・2度しか仕事がない。
ずっと受付窓口で待っているだけであった。
でも、誰も給料泥棒とはいいません。
代わりたいという人もいません。
キルド長も優しく接してくれます。
「ねぇ、エディタ。私達にできる面白い仕事はないかしら?」
「申し訳ございません。F級の方には薬草採取などの簡単な仕事しか用意されておりません。ご容赦下さい」
「仕方ないわね。自分で調べましょう」
夕方の掲示板は空いている。
カロリナ様の邪魔をする者もいない。
朝、掲示板を見るとか言われると、冒険者を枠の外まで放り出さないといけないので大変な作業になる。
ただ、それだけの為にエディタの下に警備員が4人も配置されている。
「ねぇ、エディタ。この破れかけた依頼書は何かしら?」
「漁民からの依頼です。漁獲が減っているので、川の上流を調査して欲しいと言っているのです」
「報酬が銀貨8枚なら受けそうなものよね!」
「残念ながら6人以上のパーティという条件が付いています。日帰りで行ける距離ではございません。日当に換算しますと、銅貨7~8枚の仕事であり、誰も受けたがらないのです。王都内の調査依頼ですから、カロリナ様でもお受けになることができますが、金額的にはお奨め致しません」
「川の上流の調査ね!」
「川の異常を調べるのが仕事となります」
「面倒ね。止めておきましょう」
「それがよろしいかと思います」
エディタは少し胸を撫で下ろした。
調査は大変だったのに、報酬がしょぼいなどと言われかねない。
問題のある案件であった。
そういう危険な案件は回すことはできない。
少なくとも薦めることはできない。
査定が終わると、カロリナ様は報酬をすべて子供達に与えてしまう。
今、受けている常時依頼も屋台の店主の肉を格安で調達している。
金銭的に飢えている訳ではない。
そこが他の冒険者と違う。
慈善事業が好きそうに見えるが漁民が困っているなら助けましょうとは言わなかった。
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貴族という生き物は気分で言うことが変わる。
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