22 / 103
18.カロリナ、下町を大いに沸かせた。
しおりを挟む
カロリナを見送ったフベルトは落ちていた腕を持ってボレックに近づいた。
「おぃ、誰か腕を繋げてやれ!」
そう言うと腕を合わせて回復魔法を唱え始める。
「ボレック、俺からの命令だ。餓鬼共の面倒を貴様が取れ!」
「頭、どうして、ぐわぁ」
腕が繋がるときの痛みが走り、言葉が途切れた。
ボレックだけではなく、周りの者も不満そうだった。
力自慢の会頭が情けなく、媚び諂ったのだ。
「いいか、野郎共! 今、見送ったカロリナ様はラーコーツィ侯爵家のご令嬢だ。侯爵家だ。この国で王の次に偉いと言われるラーコーツィ家だ」
「あんなチビが!」
「どうして侯爵家の餓鬼が!」
「会頭、どういうことです」
「俺も判らん。だが、おまえらも聞いているだろう。誰かれなく噛みつく狂犬の黒虎会のシャイロックが尻尾を振って犬のように従っている」
「聞いたぞ。北で金山の採掘を手伝っているとか」
「それで最近は静かだったのか!」
「1ヶ月半ほど前の事だ。フードを付けた怪しい二人の子供が現れて、シャイロックを死の恐怖に落としたらしい。その子供は青い瞳に、美しい金髪、左目の下に泣きホクロがあり、耳の尖った妖精種の召使いが控えていた」
ざわざわざわと周り若い衆から血の気が下がる音が聞こえたようだ。
あのシャイロックが恐れた存在なのか?
ズル賢く、誰にでも噛みつき、手段を選ばない悪党だ。
信じられない。
蛇竜会も何度も煮え湯を飲まされた。
8党と呼ばれる悪党だが、黒虎会は頭1つ抜け出した存在であった。
少なくと蛇竜会は2つ悪党と連合を組んで睨みを利かせている。
そんなシャイロックが二人の餓鬼にやり込められたと聞いたときは胸がすっといた。
シャイロックも焼きが回ったと、喜んで乾杯した。
まさか、あの餓鬼らが?
「おい、誰か! こいつの腕が切られたのを見た奴はいるか?」
フベルトも見ていないが、その断面の鮮やかさから技量が図れる目を持っていた。
見た奴に説明させようと思ったが、誰も名乗りでない。
「おい、おまえは見たか?」
「俺は蹴られた所しか」
「おまえは目が良かっただろう」
「すいません。見えませんでした」
誰も見ていなかった。
おい、おい、目の前でいながら誰も見てないのか?
皆の背筋に冷たい物が走った。
子分達はやっと正気というか、完璧な実力差を感じた。
「あれは妖精種といって見た目通りの年齢じゃない。俺らより遥かに年上だ。技量も桁違いだ。おまえら、助かってよかったな!」
フベルトは呆れるように呟いた。
「これが貴族って奴か!」
貴族が化け物だと思い知った。
もう二度とお目に掛かりたくない。
フベルトはそう思った。
そう思ったが、カロリナとの出会いで運命を変わったことをまだ知らない。
◇◇◇
「拙いわ。こんな拙い肉は始めてよ」
「お嬢ちゃん、店先で『拙い』、『拙い』と文句をいうのが止めてくれ!」
「拙い物を拙いというのに、何がおかしいの?」
「貴族のお嬢ちゃんの口が合わないかもしれないが、せめて他で言ってくれ!」
店主の言い分ももっともであった。
肉串は銅貨3枚だ。
普通の肉ではその値段で売れない。
でも、そんなことはカロリナには関係ない。
これほど拙い肉を食べたことがなかったので驚いていた。
「カロリナ様、申し訳ございません。こんな店を紹介してしまい」
「ニナが悪い訳ではないわ。この肉が拙いのが悪いのよ」
「お嬢ちゃん、だから店先で騒がないでくれ!」
「店主、この肉を捌いて、もう一度焼き直しなさい」
「ウチはそういうサービルはしてないんだよ」
影はそっと近づいて大銀貨4枚を手渡した。
串100本分を超える対価だ。
「材料費を貰うつもりはない。捌いて焼いて貰えるか!」
「普通はやらないが仕方ない」
角一角兎を手早く解体すると、串に刺してタレを付けて焼き直す。
中々の手際であった。
焼き始めると、おいしそうないい香りが漂ってくる。
カロリナの思った通りだ。
「やはり、おいしくなったわ」
「カロリナ様、凄くおいしいです」
「そうでしょう」
影、エル、アザ、レフ、ジクがおいしそうに食べると、周りが涎を垂らしている。
「隠れていないで出ていらっしゃい。一緒に食べましょう」
風、木葉、花がつむじ風のように姿を現わす。
「お嬢様、感謝します」
「やった、美味しそうだ」
「わぁ~い、お嬢様は話せ~る」
突然に現れた少女らに周りの民衆が唖然としている。
「そこの者ら、皆も立ってないで食べるがよい。皆で食べた方が美味い」
「お嬢様、よろしいのですか?」
「構わん。好きなだけ食べよ」
「お嬢様」
「お嬢様、万歳」
「ありがとうござます」
皆が口々に礼を言うと串屋に群がった。
「これではすぐに無くなってしまうよ」
アザは串が無くなることが心配なようだ。
「アンブラ、残りの兎ときつねも捌かせよ」
「畏まりました」
串屋はまた大銀貨を受け取った。
大儲けだ!
群がった皆も大喜び。
カロリナは冒険ギルドに行くことを忘れて胸を張っていた。
そして、食べそこなった子供達に串をごちそうすることを誓った。
「じゃぁ、みんなで角一角兎を取りに行きましょう」
角一角兎は魔物であり、東の山にはいない。
カロリナの行動範囲が広がりそうであった。
「おぃ、誰か腕を繋げてやれ!」
そう言うと腕を合わせて回復魔法を唱え始める。
「ボレック、俺からの命令だ。餓鬼共の面倒を貴様が取れ!」
「頭、どうして、ぐわぁ」
腕が繋がるときの痛みが走り、言葉が途切れた。
ボレックだけではなく、周りの者も不満そうだった。
力自慢の会頭が情けなく、媚び諂ったのだ。
「いいか、野郎共! 今、見送ったカロリナ様はラーコーツィ侯爵家のご令嬢だ。侯爵家だ。この国で王の次に偉いと言われるラーコーツィ家だ」
「あんなチビが!」
「どうして侯爵家の餓鬼が!」
「会頭、どういうことです」
「俺も判らん。だが、おまえらも聞いているだろう。誰かれなく噛みつく狂犬の黒虎会のシャイロックが尻尾を振って犬のように従っている」
「聞いたぞ。北で金山の採掘を手伝っているとか」
「それで最近は静かだったのか!」
「1ヶ月半ほど前の事だ。フードを付けた怪しい二人の子供が現れて、シャイロックを死の恐怖に落としたらしい。その子供は青い瞳に、美しい金髪、左目の下に泣きホクロがあり、耳の尖った妖精種の召使いが控えていた」
ざわざわざわと周り若い衆から血の気が下がる音が聞こえたようだ。
あのシャイロックが恐れた存在なのか?
ズル賢く、誰にでも噛みつき、手段を選ばない悪党だ。
信じられない。
蛇竜会も何度も煮え湯を飲まされた。
8党と呼ばれる悪党だが、黒虎会は頭1つ抜け出した存在であった。
少なくと蛇竜会は2つ悪党と連合を組んで睨みを利かせている。
そんなシャイロックが二人の餓鬼にやり込められたと聞いたときは胸がすっといた。
シャイロックも焼きが回ったと、喜んで乾杯した。
まさか、あの餓鬼らが?
「おい、誰か! こいつの腕が切られたのを見た奴はいるか?」
フベルトも見ていないが、その断面の鮮やかさから技量が図れる目を持っていた。
見た奴に説明させようと思ったが、誰も名乗りでない。
「おい、おまえは見たか?」
「俺は蹴られた所しか」
「おまえは目が良かっただろう」
「すいません。見えませんでした」
誰も見ていなかった。
おい、おい、目の前でいながら誰も見てないのか?
皆の背筋に冷たい物が走った。
子分達はやっと正気というか、完璧な実力差を感じた。
「あれは妖精種といって見た目通りの年齢じゃない。俺らより遥かに年上だ。技量も桁違いだ。おまえら、助かってよかったな!」
フベルトは呆れるように呟いた。
「これが貴族って奴か!」
貴族が化け物だと思い知った。
もう二度とお目に掛かりたくない。
フベルトはそう思った。
そう思ったが、カロリナとの出会いで運命を変わったことをまだ知らない。
◇◇◇
「拙いわ。こんな拙い肉は始めてよ」
「お嬢ちゃん、店先で『拙い』、『拙い』と文句をいうのが止めてくれ!」
「拙い物を拙いというのに、何がおかしいの?」
「貴族のお嬢ちゃんの口が合わないかもしれないが、せめて他で言ってくれ!」
店主の言い分ももっともであった。
肉串は銅貨3枚だ。
普通の肉ではその値段で売れない。
でも、そんなことはカロリナには関係ない。
これほど拙い肉を食べたことがなかったので驚いていた。
「カロリナ様、申し訳ございません。こんな店を紹介してしまい」
「ニナが悪い訳ではないわ。この肉が拙いのが悪いのよ」
「お嬢ちゃん、だから店先で騒がないでくれ!」
「店主、この肉を捌いて、もう一度焼き直しなさい」
「ウチはそういうサービルはしてないんだよ」
影はそっと近づいて大銀貨4枚を手渡した。
串100本分を超える対価だ。
「材料費を貰うつもりはない。捌いて焼いて貰えるか!」
「普通はやらないが仕方ない」
角一角兎を手早く解体すると、串に刺してタレを付けて焼き直す。
中々の手際であった。
焼き始めると、おいしそうないい香りが漂ってくる。
カロリナの思った通りだ。
「やはり、おいしくなったわ」
「カロリナ様、凄くおいしいです」
「そうでしょう」
影、エル、アザ、レフ、ジクがおいしそうに食べると、周りが涎を垂らしている。
「隠れていないで出ていらっしゃい。一緒に食べましょう」
風、木葉、花がつむじ風のように姿を現わす。
「お嬢様、感謝します」
「やった、美味しそうだ」
「わぁ~い、お嬢様は話せ~る」
突然に現れた少女らに周りの民衆が唖然としている。
「そこの者ら、皆も立ってないで食べるがよい。皆で食べた方が美味い」
「お嬢様、よろしいのですか?」
「構わん。好きなだけ食べよ」
「お嬢様」
「お嬢様、万歳」
「ありがとうござます」
皆が口々に礼を言うと串屋に群がった。
「これではすぐに無くなってしまうよ」
アザは串が無くなることが心配なようだ。
「アンブラ、残りの兎ときつねも捌かせよ」
「畏まりました」
串屋はまた大銀貨を受け取った。
大儲けだ!
群がった皆も大喜び。
カロリナは冒険ギルドに行くことを忘れて胸を張っていた。
そして、食べそこなった子供達に串をごちそうすることを誓った。
「じゃぁ、みんなで角一角兎を取りに行きましょう」
角一角兎は魔物であり、東の山にはいない。
カロリナの行動範囲が広がりそうであった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる