刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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16.カロリナ、黒パンがお好き?

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どうして、黒パンが好きと思ったのだろう?
どうして、肉串を気に入ると思ったのだろう。
カロリナは肉串に食いついたけどね!

ニナは10歳になって冒険ギルドで登録した。
それまで町の手伝いで銅貨1枚を稼ぐ程度の仕事しかなかった。
貧しい家の子は大抵がそんなものだ。
ニナは栄養失調からカロリナより小柄な女の子であった。
友達のジクと一緒に薬草摘みの仕事をして日銭を稼いでいた。
カロリナと会う日まで!

「おぉ、これが黒パンですか!」
「カロリナ様が食べてみたいと言っていたので買ってきました」
「固くて拙いよ」
「ホントね。固く拙いわ」!」
「カロリナ様の白パンは柔らくておいしいです」
「そうでしょう。たくさん持ってきたから食べなさい」

カロリナがはじめて東の山に入るとジクとニナが薬草摘みに行く所だった。
そのとき、アンブラが言った。

「カロリナ様、現地ではその土地の者を雇うのが貴族の礼儀であります」
「それはどうして?」
「カロリナ様は自分で薬草を摘むつもりなのでしょうか」
「まさか、その為にアザを連れてきています」
「では、アザ殿をお雇いになられる訳ですね」
「駄目よ。アザは友達よ」

友人とは主従関係がないと教わっていた。
アザを雇えば、主従関係になる。
それは駄目であった。
アザは首をぶんぶん振って否定していた。
貴族様とお友達と言われて喜ぶ庶民がどれほどいるだろうか?
況して、カロリナは侯爵令嬢だ。

「では、現地のこの子らを雇ってはどうでしょうか?」
「そうね! そうしましょう。 金貨1枚でどうかしら?」

子供達とアザが目を丸くして驚いた。
金貨1枚といえば、こちらの価値で10万円だ。
黒パン1個が銅貨1枚(10円)だ。
日当10万円って、どんな特殊技能者かと聞きたくなる。

でも、侯爵家の令嬢に正しい金銭の価値を期待する方が間違っている。

「流石に驚かれたようですので、銀貨1枚にしてはどうでしょうか?」
「そうね、アンブラがそう言うならそうしましょう」

カロリナの金銭感覚も大概であったが、アンブラの金銭感覚も当てにならない。

駆け出し冒険者なら大銅貨3枚(300円)が相場である。
ジクとニナが薬草摘みをがんばっても小籠4つが限界であり、一日の稼ぎは銅貨12枚だ。
二人で大銅貨1枚(100円)くらいの稼ぎしかない。
体が小さいこと、経験が乏しいことを差し引いて、一人大銅貨1枚でもよかった。

ジクとニナは大変な幸運を拾った。

いつ来るか判らないカロリナを待つようになった。

お昼はお弁当の交換だ。
ジクとニナが持ってくるお弁当は黒パンであった。
同じパンにならないように品を変え、店を替えるなど工夫をしていた。
カロリナが来ない日はパンを半分にして食べていた。

カロリナは「固い」、「拙い」と言いながら美味しそうに黒パンを食べた。

「ねぇ、カロリナ様は黒パンがおいしいのかな?」
「俺はカロリナ様が持ってくる白パンやハムやチーズの方が美味しいと思うぞ」
「私も!」
「カロリナ様は貴族様だから俺達と違うんだ!」
「そうか!」

誤解もいい所であった。
食い意地が張ったお嬢様は美味しくならないかとハムやチーズを乗せてみるなど模索を続けた。
カロリナの努力の結果、
砂糖入りミルクに浸すと黒パンも食べられる程度には美味しくなると判ってきた。
その砂糖は高価だ。
砂糖入りミルク1杯で銀貨3枚もいる。
白パンを素直に買った方が安い。
でも、侯爵令嬢のカロリナは気にしない。
カロリナの努力はどこに向かっているのだろうか?

因みに、イェネー、クリシュトーフ、カールの三人はそんなカロリナの努力を見て、逆にカロリナを尊敬していた。

「カロリナ様はどうして庶民と食事を交換されるのだ?」
「イェネー、そんなことも判らんのか!」
「クリシュトーフ、貴様は判っていると言うのか?」
「当然だ。カロリナ様は民のことを知ろうとされている。我々貴族は民の上に立っているが民のことを知ろうとしない。それでは義務が果たせないであろう」
「義務とは、民をどう統治することか?」
「カール、君は中々に察しがいいね! 民はどう生き、何を望んでいるかを知ることから始める。カロリナ様は民を知るという高貴なる者の義務レジアス オッフィキウムを実践されているのだ」
「そんなことは知っている」
「僕たちも見習うべきですね」

大誤解であった。
クリシュトーフは頭が良く、カロリナの行動を都合よく歪曲していた。
信頼は人を盲目にするらしい。
イェネーは実直な馬鹿であった。
そして、カールは素直な子であった。

その日、すっぱくて食べられない木苺を見つけた。

「鳥はおいしそうに食べるのにおかしいわ」
「熟すると少しすっぱさが消えて食べられます」
「人参と同じね」
「でも、熟すまで待っていると鳥で全部食べられてしまいます」
「それは問題ね! いい事を思いつきました。ジャムにして保管すればいいのよ」
「流石、カロリナ様です」

エルは褒めたが、子供達は砂糖なんて知らない。
甘い物と知っているが食べたこともない。
屋敷に帰ってオルガに相談すると木苺のジャムを出してきた。
レシピもあった。
木苺を煮込んで砂糖を大量に入れると出来るらしい。
誰も考えることは同じということだ。
カロリナはこの木苺ジャムを持ってゆき、皆に振る舞うと大好評だった。

「カロリナ様、おいしいです」
「そうでしょう。これで木苺をおいしく頂く方法が見つかってよかったわ。今日はあの木苺を大量にとってジャムを作りましょう」
「カロリナ様、砂糖など高価な物はどこにも売っておりません」
「そうなの?」
「はい。砂糖は金貨と同額で取引され、交易商会でしか手に入りません」
「では、帰りに交易商会に寄りましょう」

交易商会では、注文してから3ヶ月以上も掛かると聞かされた。
カロリナはショックを受けた。
木苺が腐ってしまう。
問題はそこではないが、カロリナにとってどうでもよかった。
カロリナは今日のジャム作りは諦めた。

「おぃ、カロリナ様は何をされているのだ?」
「イェネー、そんなことも判らんのか!」
「クリシュトーフ、貴様は判っていると言うのか?」
「当然だ。カロリナ様は民の食の改善を考えておられる。あのニナという子を見て見ろ!10歳だというのにカロリナ様より小さい。他にも小さい子が沢山死んでいると聞いた。カロリナ様は食を改善し、それをどうにかされようとしているのだ」
「そういうことなら判っている」
「なら、聞くな!」
「カロリナ様はお優しいです」
「あぁ、見習おう!」
「はい」

どうしてそんな解釈になるかの?
とても疑問だ。
ともかく、イェネー、クリシュトーフ、カールの三人の忠誠心は上げていった。

ジクとニナは貴族の味覚は自分達と違うと思った。
だから、自分達が食べる物も美味しく食べると思い込んでいた。
肉串は美味しい。
カロリナ様に提案すると喜んでくれた。
ニナも嬉しい。
全然、疑っていなかった。

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