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1.カロリナは王宮に入る。
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カロリナはお風呂から上がるとすっきりした。
怖い夢のことなど忘れた。
嫌なことなんて覚えていてもロクなことはない。
カロリナはポジティブな侯爵令嬢だった。
朝食の美味しい物を食べて幸せになった。
「おいしいわ。どうしてこんなにおいしいのかしら?」
「お嬢様、あまり食べられますと」
「大丈夫よ。今日の料理も絶品です。料理長を褒めてあげて!」
「畏まりました」
「まだ、食べていたのですか!」
「はい、朝食はしっかり食べなさいと御婆様が言われました」
「もうお昼です」
御婆様と言うのは祖母の姉、国王のご生母様のことだ。
ご生母、あるいは王太后と呼び、カロリナ以外が『御婆様』などと呼べば首が飛んでしまう。
母にとって叔母に当たるのだが、カロリナのように『叔母様』なんて気軽に呼べない。
恐れ多かった。
カロリナが御生母と会ったのは3歳のときであった。
お気に入りに側室が亡くなって気落ちしていたので、国王の頼みでお見舞いに行く事になったのだ。
「御婆様!」
「おまえは私のことが怖くないのかい?」
「どうして?」
「どうして怖くないと思うのかい」
「だって、婆様と同じ目をしている」
「妹と一緒か、そうか、そうか!」
「カロリナは御姉様の小さい頃とよく似ておられます」
御生母様は「儂そっくりか」と呟いた。
王の側室であった妃が亡くなって以来、気落ちして精気も宿らない虚ろな目をしいた。
何かあれば癇癪を起して、誰彼なしに罰していたので誰も近づかなくなってしまったのだ。
気が付けば誰もいなくなった。
さらに、荒れていた。
国王に頼まれたのでなければ、妹でも見舞いに行きたくなかった。
そんな周囲を余所にカロリナはご生母様の手を取って微笑んだ。
無邪気な笑顔。
ご生母様の方がびっくりだ。
わずかなやり取りで御生母様の目に精気が戻っていった。
カロリナの青い目が気に入った。
「どうして御婆様なのかい」
「だって、婆様より偉いから御婆様」
「そうか、そうか、儂は偉いから御婆様か!」
ご生母はカロリナを抱きかかえると立ち上がった。
『よいか! 儂はこの者を次の王妃とする。今日よりカロリナは我が孫じゃ。これを蔑ろにする者は我の敵だ。これを内外に示せ!』
はぁっと一同が頭を下げた。
「王妃って、おいしいの?」
「おぉ、おいしいものが毎日食べられるぞ」
「じゃぁ、王妃なる!」
「そうか、そうか、カロリナは王妃になってくれるか」
カロリナの無垢な笑顔がご生母様の毒気を抜いてしまった。
気難しく、残虐で容赦ないご生母様がいい御婆ちゃんに変わってしまったのだ。
カロリナはマジ天使だった。
その天使はお腹をぽっこり膨らませた。
食べ過ぎだ。
母はお腹をさする我が子を見て目眩を覚えた。
どうしてこんな食い意地の張った子になってしまったのだろう。
動くのも苦しい。
そんなカロリナの苦情を無視して、ドレスを着せて王宮に向かう。
先頭で入場するハズだったラーコーツィ家が、随分と遅れて登場することになったのはすべてカロリナのせいである。
王宮では7歳になったオリバー第一王子とクリフ第二王子のお披露目式が用意されていた。
王家の子息・令嬢は7歳になると臣下の前に姿を現わす。
そして、生涯の友と婚約者候補が紹介されるのだ。
王宮の薔薇園を抜けて、祭殿の間の前に馬車が到着した。
出迎えがずらりと階段に並び、ラーコーツィ侯爵家の到着を待っていた。
馬車の扉が開いた。
「いいですか、カロリナ」
「はい、お母様」
「王子が手を差し出したら、手の平の上に手を置いて『はい』と答えるのですよ」
「大丈夫ですわ」
小鳥がさえずるように答えるカロリナであった。
怖い夢のことなど忘れた。
嫌なことなんて覚えていてもロクなことはない。
カロリナはポジティブな侯爵令嬢だった。
朝食の美味しい物を食べて幸せになった。
「おいしいわ。どうしてこんなにおいしいのかしら?」
「お嬢様、あまり食べられますと」
「大丈夫よ。今日の料理も絶品です。料理長を褒めてあげて!」
「畏まりました」
「まだ、食べていたのですか!」
「はい、朝食はしっかり食べなさいと御婆様が言われました」
「もうお昼です」
御婆様と言うのは祖母の姉、国王のご生母様のことだ。
ご生母、あるいは王太后と呼び、カロリナ以外が『御婆様』などと呼べば首が飛んでしまう。
母にとって叔母に当たるのだが、カロリナのように『叔母様』なんて気軽に呼べない。
恐れ多かった。
カロリナが御生母と会ったのは3歳のときであった。
お気に入りに側室が亡くなって気落ちしていたので、国王の頼みでお見舞いに行く事になったのだ。
「御婆様!」
「おまえは私のことが怖くないのかい?」
「どうして?」
「どうして怖くないと思うのかい」
「だって、婆様と同じ目をしている」
「妹と一緒か、そうか、そうか!」
「カロリナは御姉様の小さい頃とよく似ておられます」
御生母様は「儂そっくりか」と呟いた。
王の側室であった妃が亡くなって以来、気落ちして精気も宿らない虚ろな目をしいた。
何かあれば癇癪を起して、誰彼なしに罰していたので誰も近づかなくなってしまったのだ。
気が付けば誰もいなくなった。
さらに、荒れていた。
国王に頼まれたのでなければ、妹でも見舞いに行きたくなかった。
そんな周囲を余所にカロリナはご生母様の手を取って微笑んだ。
無邪気な笑顔。
ご生母様の方がびっくりだ。
わずかなやり取りで御生母様の目に精気が戻っていった。
カロリナの青い目が気に入った。
「どうして御婆様なのかい」
「だって、婆様より偉いから御婆様」
「そうか、そうか、儂は偉いから御婆様か!」
ご生母はカロリナを抱きかかえると立ち上がった。
『よいか! 儂はこの者を次の王妃とする。今日よりカロリナは我が孫じゃ。これを蔑ろにする者は我の敵だ。これを内外に示せ!』
はぁっと一同が頭を下げた。
「王妃って、おいしいの?」
「おぉ、おいしいものが毎日食べられるぞ」
「じゃぁ、王妃なる!」
「そうか、そうか、カロリナは王妃になってくれるか」
カロリナの無垢な笑顔がご生母様の毒気を抜いてしまった。
気難しく、残虐で容赦ないご生母様がいい御婆ちゃんに変わってしまったのだ。
カロリナはマジ天使だった。
その天使はお腹をぽっこり膨らませた。
食べ過ぎだ。
母はお腹をさする我が子を見て目眩を覚えた。
どうしてこんな食い意地の張った子になってしまったのだろう。
動くのも苦しい。
そんなカロリナの苦情を無視して、ドレスを着せて王宮に向かう。
先頭で入場するハズだったラーコーツィ家が、随分と遅れて登場することになったのはすべてカロリナのせいである。
王宮では7歳になったオリバー第一王子とクリフ第二王子のお披露目式が用意されていた。
王家の子息・令嬢は7歳になると臣下の前に姿を現わす。
そして、生涯の友と婚約者候補が紹介されるのだ。
王宮の薔薇園を抜けて、祭殿の間の前に馬車が到着した。
出迎えがずらりと階段に並び、ラーコーツィ侯爵家の到着を待っていた。
馬車の扉が開いた。
「いいですか、カロリナ」
「はい、お母様」
「王子が手を差し出したら、手の平の上に手を置いて『はい』と答えるのですよ」
「大丈夫ですわ」
小鳥がさえずるように答えるカロリナであった。
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