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27.シュタ兄ぃは冒険者になりたい
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やっと菜種の収穫が終わった。
大勢の人で一気にやってしまう人海戦術は偉大だ。
一面の菜の花畑は消えた。
麻袋は『100人乗っても大丈夫』と豪語する○○○の物置を模した倉庫に仕舞った。
毎日のように奉仕と言って、シスターが交代で油を絞りにやって来ている。
俺はシスターのいる所で派手な魔法を披露する訳に行かない。
チマチマと早朝に出掛けて畑を耕し直している。
今は何を植えようかと悩んでいる最中だ。
月の終わりに冒険者が来て、菜園の開拓を進めた。
ゴロゴロと石が転がっていた荒れ地が植樹できる土地に代わって来た。
開拓もそろそろ終わりだ。
1ヶ月も放置するから雑草が伸びてしまい、別の班が草刈りをやり直している。
ススキのような雑草だ。
放置すると再び伸び出して元に戻る。
芝桜か、クラピアのような背丈が高くならない雑草を植えて抑制すればいいのに何をやっているのだろう。
だから、俺は刈った場所にはタンポポ、ヨモギ、ツクシ、ワラビ、アサのような食べられる草の種を捲いておく。
余裕がないので手入れはできないが、皆で取って美味しく食べられる。
見晴らしが良くなって問題も出て来た。
俺が魔法を使う所が目撃されそうなのだ。
距離があるので見えないと思うが、視力の強化をすれば見えなくもない。
率先して境界に植樹して貰わないといけない。
今度、担当官さんに相談してみよう。
冒険者が来る日は見学だ。
観察して思うのだが、この世界の冒険者は前衛が強い。
あくまで賢者の視点から見た所為かもしれないが、賢者の世界では魔法使いを守るガーディアンという特性が強かった印象を受けた。
勇者ですら魔王を倒す為に賢者が魔法を酷使する時間を稼いだと書いてあった。
この世界では魔法使いは弓士と同じ後衛でしかない。
前衛を補助する為にある。
開拓でも前衛の活躍ばかりが目立つ。
冒険者パーティーでは魔法使いの価値が小さい。
「アル、聞いたか。肉が食べ放題だって」
「そうみたいですね」
「なっ、俺達も冒険者になって肉を取りに行きたくないのか?」
「肉は欲しいです」
「そうだろう」
「でも、無理です」
下の兄は最近、冒険者になる事を夢見ている。
お肉を食べたいからだ。
俺も肉を食べられるようになってきたので、クズ肉ミンチ以外を食べたい。
俺も心の底から食べたいと思う。
だが、やはり無理だ。
魔力量がかなり増えた。
2歳でファイラー10発程度だった魔力量も、3歳になると25発位に増え、この一季節分で倍に近くなった。
だが、所詮はファイラーだ。
少し粘着性のある炎が相手に絡み付いて敵を倒す事もあるが、転がって火を消す魔物もいる。
ファイラー3発分でファイラーボールが撃てる。
これはパーティーエリアに炎を飛ばす魔法であり、四~五体の魔物に炎を浴びせる。
広域魔法と呼ばれるが、所詮は炎だ。
一撃必殺の魔法ではない。
ファイラー2発分でファイラーアローが撃てる。
これは弓士の矢と同じ威力だ。
余分に魔力を込めれば、威力を増すが魔力の消費が大きくなる。
それならば、一撃必殺となる四発相当の炎の槍か、六発相当の炎の柱の方が効率的だ。
今の俺では炎の槍なら一日に12発、炎の柱なら8発が限界になる。
この程度では冒険者パーティーを組まないと冒険はできない。
だが、それはできない。
魔術士から目立つなとのお達しだ。
余程、信用できる冒険者パーティーでないと秘密が漏洩する。
既存の冒険者パーティーに入れて貰えないとなると、俺が単騎で戦える必要がある。
12発の炎の槍を連発して、魔力が枯渇して全滅するイメージしか湧かない。
「シュタ兄ぃ、冒険者の登録ができるようになってからです」
「登録できればいいのか?」
「ギルドが城壁の外に出ても良いと言うまで駄目ですよ」
「ギルドが良いと言ったらいいんだな」
下の兄が何かやる気になっている。
何故、俺を巻き込む?
あのウマァ~のオバさんシスターが敵対心を持ったのは、下の兄が黒板消し落としのような悪戯を仕掛けたからだ。
下の兄は担当官さんのお土産を目当てに良い子を装い、俺に付き合って勉強したので簡単な字や計算ができる。
だから、授業が詰まらないのだ。
期待していた昼食に肉が出なくなってがっかりしたらしい。
だが、態度の悪い下の兄をウマァ~のオバさんシスターが度々に叱り、仕返しに悪戯を仕掛けた。
悪態児を目の敵にしたらしい。
つまり、あの騒ぎの元凶は下の兄だった。
下の兄の顔を見なければ、ウマァ~のオバさんシスターもあそこまで激昂しなかったとシスターから教えて貰った。
あぁ~、面倒だ。
付き合うと疲れるので放置しておこう。
冒険者の所に行って、「俺、冒険者になりたい」と騒いだ。
好意的な戦士風の冒険者が木の棒を取って相手をしてくれる事になった。
やはり相手にならない。
『坊主。腰が引けている。背筋を伸ばせ!』
横の一団で賭けが始まっていた。
どうやら冒険者らが休憩中の遊びを見つけたようだ。
下の兄が一撃でも当てられるか?
掛け率は非常に悪い。
「頑張れ坊主。そいつに一撃でも当てられたら外に出て良いと推薦してやるぞ」
変なかけ声が掛かる。
どうやら下の兄に賭けた斥候っぽい博打家だ。
的確なアドバイスを送っている。
腰の位置や目線などを指摘し、足取りや体格を補う技を伝授する。
相手をしている戦士は苦笑いだ。
戦士は下の兄に基礎を教えているのに、斥候が小手先の技術を吹き込むからだ。
「打たれて引くな! 片手を失っても、もう片手で一撃を入れる根性を見せろ。目潰し、金的攻撃、勝てば何でもいいんだ。死ぬ気で打たないと身に付かんぞ」
「お前は少し黙れ」
「五月蠅い。黙ってられるか。今夜の酒が掛かっているんだ。勝たずに得るモノもあるが、勝って得るモノの方が大きい。冒険は負ければ、死だ。死ぬより怖いモノはない」
シラフで酔っているのか?
言っている事が滅茶苦茶だ。
ずっと気になっていたが、二本の小さな小枝を持ってタイミングを計っていた。
しばらく打ち合っていると下の兄が良い感じで打ち出した。
その瞬間、斥候は持っていた二本の枝を投擲のように戦士に投げ出して、目と手を狙った。
その瞬間、戦士の気が膨らんだ。
そして、戦士はそれを無視して目を閉じて下の兄を対処した。
戦士の目の下が少し切れて血が流れていた。
露骨に邪魔をするのも褒められないが、それを澄まして無視するのも凄い。
だが、肝心の下の兄は何があったか気が付いていない。
下の兄は最後の一撃を背中に打たれて、ごほごほっと噎せて咳き込んでいる。
戦士は「一年間、剣を振り込めば、モノになる」と言っていた。
後で木刀でも造ってあげよう。
戦士がこっちに向かってくる。
「あぁ、失敗だ。済まん、済まん」
「お前の狙いなど判っていた」
「邪魔をして悪かったよ。お前にも酒を奢ってやるから許せ」
「まぁ、いいだろう」
酒で買収された。
感じの良い冒険者と思っていたが、賭けの為なら実力行使を厭わない。
パーティーの中では色々とありそうだ。
やはり冒険者パーティーを信じるのは止そう。
単騎で冒険に出られるまでは、食べきれないお肉はお預けだ。
大勢の人で一気にやってしまう人海戦術は偉大だ。
一面の菜の花畑は消えた。
麻袋は『100人乗っても大丈夫』と豪語する○○○の物置を模した倉庫に仕舞った。
毎日のように奉仕と言って、シスターが交代で油を絞りにやって来ている。
俺はシスターのいる所で派手な魔法を披露する訳に行かない。
チマチマと早朝に出掛けて畑を耕し直している。
今は何を植えようかと悩んでいる最中だ。
月の終わりに冒険者が来て、菜園の開拓を進めた。
ゴロゴロと石が転がっていた荒れ地が植樹できる土地に代わって来た。
開拓もそろそろ終わりだ。
1ヶ月も放置するから雑草が伸びてしまい、別の班が草刈りをやり直している。
ススキのような雑草だ。
放置すると再び伸び出して元に戻る。
芝桜か、クラピアのような背丈が高くならない雑草を植えて抑制すればいいのに何をやっているのだろう。
だから、俺は刈った場所にはタンポポ、ヨモギ、ツクシ、ワラビ、アサのような食べられる草の種を捲いておく。
余裕がないので手入れはできないが、皆で取って美味しく食べられる。
見晴らしが良くなって問題も出て来た。
俺が魔法を使う所が目撃されそうなのだ。
距離があるので見えないと思うが、視力の強化をすれば見えなくもない。
率先して境界に植樹して貰わないといけない。
今度、担当官さんに相談してみよう。
冒険者が来る日は見学だ。
観察して思うのだが、この世界の冒険者は前衛が強い。
あくまで賢者の視点から見た所為かもしれないが、賢者の世界では魔法使いを守るガーディアンという特性が強かった印象を受けた。
勇者ですら魔王を倒す為に賢者が魔法を酷使する時間を稼いだと書いてあった。
この世界では魔法使いは弓士と同じ後衛でしかない。
前衛を補助する為にある。
開拓でも前衛の活躍ばかりが目立つ。
冒険者パーティーでは魔法使いの価値が小さい。
「アル、聞いたか。肉が食べ放題だって」
「そうみたいですね」
「なっ、俺達も冒険者になって肉を取りに行きたくないのか?」
「肉は欲しいです」
「そうだろう」
「でも、無理です」
下の兄は最近、冒険者になる事を夢見ている。
お肉を食べたいからだ。
俺も肉を食べられるようになってきたので、クズ肉ミンチ以外を食べたい。
俺も心の底から食べたいと思う。
だが、やはり無理だ。
魔力量がかなり増えた。
2歳でファイラー10発程度だった魔力量も、3歳になると25発位に増え、この一季節分で倍に近くなった。
だが、所詮はファイラーだ。
少し粘着性のある炎が相手に絡み付いて敵を倒す事もあるが、転がって火を消す魔物もいる。
ファイラー3発分でファイラーボールが撃てる。
これはパーティーエリアに炎を飛ばす魔法であり、四~五体の魔物に炎を浴びせる。
広域魔法と呼ばれるが、所詮は炎だ。
一撃必殺の魔法ではない。
ファイラー2発分でファイラーアローが撃てる。
これは弓士の矢と同じ威力だ。
余分に魔力を込めれば、威力を増すが魔力の消費が大きくなる。
それならば、一撃必殺となる四発相当の炎の槍か、六発相当の炎の柱の方が効率的だ。
今の俺では炎の槍なら一日に12発、炎の柱なら8発が限界になる。
この程度では冒険者パーティーを組まないと冒険はできない。
だが、それはできない。
魔術士から目立つなとのお達しだ。
余程、信用できる冒険者パーティーでないと秘密が漏洩する。
既存の冒険者パーティーに入れて貰えないとなると、俺が単騎で戦える必要がある。
12発の炎の槍を連発して、魔力が枯渇して全滅するイメージしか湧かない。
「シュタ兄ぃ、冒険者の登録ができるようになってからです」
「登録できればいいのか?」
「ギルドが城壁の外に出ても良いと言うまで駄目ですよ」
「ギルドが良いと言ったらいいんだな」
下の兄が何かやる気になっている。
何故、俺を巻き込む?
あのウマァ~のオバさんシスターが敵対心を持ったのは、下の兄が黒板消し落としのような悪戯を仕掛けたからだ。
下の兄は担当官さんのお土産を目当てに良い子を装い、俺に付き合って勉強したので簡単な字や計算ができる。
だから、授業が詰まらないのだ。
期待していた昼食に肉が出なくなってがっかりしたらしい。
だが、態度の悪い下の兄をウマァ~のオバさんシスターが度々に叱り、仕返しに悪戯を仕掛けた。
悪態児を目の敵にしたらしい。
つまり、あの騒ぎの元凶は下の兄だった。
下の兄の顔を見なければ、ウマァ~のオバさんシスターもあそこまで激昂しなかったとシスターから教えて貰った。
あぁ~、面倒だ。
付き合うと疲れるので放置しておこう。
冒険者の所に行って、「俺、冒険者になりたい」と騒いだ。
好意的な戦士風の冒険者が木の棒を取って相手をしてくれる事になった。
やはり相手にならない。
『坊主。腰が引けている。背筋を伸ばせ!』
横の一団で賭けが始まっていた。
どうやら冒険者らが休憩中の遊びを見つけたようだ。
下の兄が一撃でも当てられるか?
掛け率は非常に悪い。
「頑張れ坊主。そいつに一撃でも当てられたら外に出て良いと推薦してやるぞ」
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どうやら下の兄に賭けた斥候っぽい博打家だ。
的確なアドバイスを送っている。
腰の位置や目線などを指摘し、足取りや体格を補う技を伝授する。
相手をしている戦士は苦笑いだ。
戦士は下の兄に基礎を教えているのに、斥候が小手先の技術を吹き込むからだ。
「打たれて引くな! 片手を失っても、もう片手で一撃を入れる根性を見せろ。目潰し、金的攻撃、勝てば何でもいいんだ。死ぬ気で打たないと身に付かんぞ」
「お前は少し黙れ」
「五月蠅い。黙ってられるか。今夜の酒が掛かっているんだ。勝たずに得るモノもあるが、勝って得るモノの方が大きい。冒険は負ければ、死だ。死ぬより怖いモノはない」
シラフで酔っているのか?
言っている事が滅茶苦茶だ。
ずっと気になっていたが、二本の小さな小枝を持ってタイミングを計っていた。
しばらく打ち合っていると下の兄が良い感じで打ち出した。
その瞬間、斥候は持っていた二本の枝を投擲のように戦士に投げ出して、目と手を狙った。
その瞬間、戦士の気が膨らんだ。
そして、戦士はそれを無視して目を閉じて下の兄を対処した。
戦士の目の下が少し切れて血が流れていた。
露骨に邪魔をするのも褒められないが、それを澄まして無視するのも凄い。
だが、肝心の下の兄は何があったか気が付いていない。
下の兄は最後の一撃を背中に打たれて、ごほごほっと噎せて咳き込んでいる。
戦士は「一年間、剣を振り込めば、モノになる」と言っていた。
後で木刀でも造ってあげよう。
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「あぁ、失敗だ。済まん、済まん」
「お前の狙いなど判っていた」
「邪魔をして悪かったよ。お前にも酒を奢ってやるから許せ」
「まぁ、いいだろう」
酒で買収された。
感じの良い冒険者と思っていたが、賭けの為なら実力行使を厭わない。
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