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28. ピクニック、再び?

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今日は楽しいピクニックだ。
前回と同じくお弁当を作って持って行くのだが、今回は皆で朝からお弁当を作った。
みんな楽しそうにしているが少しだけピリッとした空気が漂い、私に懐いて小さな子らの手が握った儘で放してくれない。
昨日はポーションを作る日だったが中止にして爆買いした。
何となく察せられたのかも知れない。
別れたくないが迷惑も掛けたくない。

「ジュリ。大丈夫?」
「どこか痛い?」
「ジュリちゃん」

イカン、難しい顔になっていた。
私は笑顔を見せて、どこも痛くないと答えた。
笑い声が消えて、黙って歩き始める。
シスターシミナがフォローしてくれる。
シスターには匿って2人に食事を運んで貰う時に名前を言わずに事情を話した。
2人を助ける為に私だけの領地も戻る。
子供らを迎えに来るつもりだが、成人する前にどこに引き取られる子の為にプレゼンを残した。
シスターには子供らが自由民になる為のお金と、子供らのプレゼントを隠した隠し部屋の先の宝物庫の鍵を預けた。
男の子が私の前で足を止めた。

「ジュリ。お前・・・・・・・・・・・・」
「先生に向かってお前はないでしょう」
「良いんだ。大きくなったらお前を、お前を、俺は・・・・・・・・・・・・糞ぉ」

何か1人で青春している。
察しの悪い私でも気付いている。
最初は私に意地悪しようとした子だ。
揶揄って「私に気があるなら意地悪は止めなさい。嫌われて取り返しが付かなくなるわよ」と言ったら、顔を真っ赤にして意地悪を止めた。
でも、7歳の男の子を恋愛対象には見られない。
青春だ。
男の子が最後まで言わずに道を駆けて行く。
建設中の町を通り過ぎ、そのまま山を登って行く。
イリエが頭を掻いて追い掛けてくれた。
ソリンとリリーが歩みを少し落として、先頭から中央へ下がった。

「ご主人様。済みません。私達が変な事を話していたから」
「別に私達の所為ではないでしょう。事実なんだから」
「だって爆買いなんて久しぶりだったし・・・・・・・・・・・・初めて町に来た時のような顔に戻っていたから」
「ジュリ様はここの住民じゃない。ずっとここにいる保障はない。私達は付いて行くだけよ」
「リリーがそんな事を言うから」
「ジュリ様。話して貰えますか?」
「向こうに着いたら話すわ」

私がそう答えるとソリンとリリーが察してしまった。
ソリンは「出て行く訳がないでしょう」と答えてくれる事を期待していたようだ。
リリーは付いて来いと言えば付いて来てくれるようだが、イリエ達を無理矢理に連れて行く気はない。
もちろん、子供らも連れて行かない。
10歳の子が成人する5年以内に戻って来て、私の海部のマイ領地への勧誘をするつもりだ。
子供の握られた手に力が入っているのが伝わってくる。
あぁ、可愛らしいな。
皆、もふもふしたペットみたいにお持ち返りしたい。
イカン、子供はペットじゃない。
子供らの人生を私が奪って良いモノじゃない。

浜辺に帰ったら私の村を作ろう。
家を建てよう。
畑を拡充しよう。
牛や山羊や豚を飼って立派な牧場を作ろう。
船も造って漁が出来るようにしよう。
村と魔の森の間に巨大な湖を造ろう。
それで魔物が入って来られない。
安全第一だ。
教会の横の楠の枝を中央に植えて、村のシンボルにして皆を迎えに来よう。
出世は出来ないし、どこにも遊びに行けない。
でも、平和でのんびりとした村を作ってから皆を迎えに来よう。
私はそう決めた。

「イリエ。だらしないわね」
「ステータス的には余り変わらないって、ご主人様も言っていたでしょう」
「頭を使わないからよ」
「イリエもあの子に気を使っているのよ」
「あいつが?」

男の子が捕まらない。
タダ走っているだけなのだが、イリエが追い付かない。
リリーがだらしないと愚痴を言う。
男の子が山道をショートカットして登って行く。
イリエもそれに付いて行った。
ドンドンと先に進んで山の尾根まで進んだ所でやっとイリエに捕まった。
私達はまだ麓だ。

「(ヤバい。魔物だ)」

イリエが大声で何か叫んでいる。

「聞こえないわ。もっと大きな声で喋りなさい」

リリーも大声で答えるが向こうに届いているかも怪しい。
イリエが男の子を抱いた儘でほぼ真っ直ぐに降りて来る。
身体強化の使い方も身になって来た。

「上で待って置けば良かったのに」
「ソリン。其れ処じゃない。向こうの山から魔物が波のように押し寄せて来ている」
「イリエ。冗談でもそう言う事を言わない」
「俺が冗談を言っているように見えるか?」

イリエの顔は本気だ。
魔物がパニック状態で押し寄せて来ている?
私は索敵を最大をした。
スタンピードだ。
どうしてという疑問を叫ぶより先にする事がある。

「シスター。子供らを連れて町に戻って下さい」
「ジュリちゃんはどうするの?」
「イリエらと一緒に建設現場の人に知らせて来ます。イリエ、ヨヌツ、ソリン、リリー、異論はないわね」
「当然だ」
「急いで避難させよう」
「手分けしましょう」
「急ごう」
「シスター。お願いします」
「気を付けるのよ」

子供らを先に帰すと、建設現場に駆けて行って声を掛けた。
責任者の役人が「何の騒ぎだ」と怒鳴ってくる。
もう一度、最大の索敵を行なった。
大小様々で2万匹を超える魔物が押し寄せて来ていた。
そして、その原因も判った。
作業員は貧困層の者が多く、すぐに従ってくれた。
聖樹の薬師のカリスマは大きかった。

「聖樹様の言い付けだ」
「逃げるぞ」
「急げ」
「薬師様の言葉は絶対だ」

契約を結んでいる冒険者や傭兵は少し様子を伺い、監督する役人は逃げる作業員を止めようとしていた。
どうして伝わらないのか?
私は嘘付きの狼少女じゃないよ。
役人は融通が利かない。

「馬鹿者。勝手に持ち場を離れるな」
「薬師様。本当ですか?」
「嘘だと思うなら山の尾根まで行って確認すればいいわよ」
「俺は信じます」
「私も」
「貴様ら、クエストを放棄するつもりか?」
「嘘だったら違約金は後で払います」

教会のお得意さんの冒険者らが賛同し、自主的に逃げる作業員の護衛に付いてくれた。
イリエ達が戻って来て、一通りは声を掛けたと言う。
なら、ここでする事はない。

「私達も逃げましょう」
「そうね。こんな場所で死にたくないわ」
「皆、逃げるぞ」
「待て、待て、後で訴えぞ」
「好きにして下さい」

役人は叫んでいるが、もう無視でいいだろう。
まだ逃げ出さない勇敢な者達を放置して、私らは逃げる人の最後尾に付いた。
ウェアンの町まで峠越えがあるが10kmほどだ。
40分ほどでウェアンに着く。
かなりギリギリだ。

私達が谷間に入ると山の尾根を越えて魔物が侵入してくるのを見て、役人らが逃げ出している。
山の尾根まで人を送って確認すれば、20分は掛かる。
流石にもう間に合わない。

「ご主人様」
「ソリン、大丈夫よ。二万匹はいるけれど、こちらに向かってくるのは半分もいないわ」
「一万もこっちに来るの?」
「大丈夫。この街道を死守するくらいならば、何とかなるわよ」
「俺がすべて切り捨てる」
「イリエ。無茶よ」
「うぬ。無理だ」

舌山の麓沿いに半分は逃げて行くが、残る半分はこの谷間を通って向かってくる。
普通は無理だけれども、この谷間という状況が重要だ。
今の私が一万匹の魔物を倒すのはかなり難しい。
でも、倒すだけが戦い方じゃない。

「ご主人様。大丈夫ですか?」
「安心しなさい。こういうのは慣れているのよ」
「俺の出番はあるのか?」
「最後に用意して上げるわ」
「任せろ」

イリエはどんなに不利でも立ち向かえる勇気を持っている。
勇者のパーティーには必要な素質だ。
馬鹿だけど。
ヨヌツは冷静なリーダーだ。
彼の言う事を聞いている分にはパーティーが崩壊する事はないだろう。
ソリンはおっとりで紅一点という感じだ。
水の癒やしだ。
リリーは性格が悪く、話術と悪巧みが得意だ。
このパーティーの参謀役でもあり、火の魔法が得意で一点突破の火力を持てそうだ。
良いパーティーになって来た。

「来たぞ」

建設現場を飲み込んだスタンピードがこちらに逃げていた。
下手の8,000匹が舌山の方に流れ、上手の2,000匹が連なる山越えを選択する。
最大数の魔物が谷間の街道に集まり、一万匹の魔物が押し寄せて来た。
逃げてくる役人や傭兵をぷちっと踏み倒した。

「リリー。横一列に手前の地面に火の弾ファイラーボールを五発打って」
「判ったわよ」

リリーの『火の弾ファイラーボール』が開戦の合図だ。
護衛をしていた半数の冒険者が戻って来た。
お人好しだ。
一緒に逃げればいいのに。

「子供に戦わせて。大人が戦わないのはカッコ悪いだろ」
「死んでも知りませんよ」
「冒険者になった時から覚悟している」
「リリー」
「判った」

リリーの魔力が収束し、同時5発の火の弾ファイラーボールが先頭に炸裂した。

闇収納ダーク・ストレンジ

闇系の影魔法だ。
長さ50m、深さ5mのプールのような落とし穴が突然に現れる。
微生物や小動物がいるので魔力の消費が大きい。
それでも所詮はいつも使っている影収納だ。
これだけ大きな収納でもリリーの魔力消費と同じくらいだ。

ぐもぉぉぉぉぉ、
火の弾ファイラーボールが作った砂埃が煙幕となり、先頭の魔物からバタバタ落ち行く。
まぁ、落ちたくらいで死ぬ魔物はいない。
死んでいないが、上から積み上げられて、後ろの魔物に踏まれて死に絶える。
だが、50mプールで倒せる数など知れている。

「撤退」
「俺の活躍の場は?」
「まだ、先よ」

100mほど撤退して、リリーが再び火の弾ファイラーボールを放ち、私が影収納を発動する。
狭い谷間だから出来る策だ。
そして、完成と同時に撤退し、それを幾度が繰り返す。
2km近くあった距離が200mまで接近した頃、峠が近づいて来た。

「ジュリ。もう後がないわよ」
「ここで仕上げる」

峠に近づくほど横に広がってくるので影収納も横に広げた。
峠の手前で左手の山を抉り取って断崖絶壁を造り出し、右手はなだらかスロープになるように切り取った。
親指山の方へ押し流す。

「なるほど。別に倒す必要はないのか」
「リリー。どういう意味だ?」
「流れを南に変えて、魔の森へ押し出すのよ。でも、正面はどうするの?」
「こうするわ」

私は貯めていた土を一気に開放する。

闇展開ダーク・デプロイメント

峠の頂上から切り取った所までに切り取った土を一ヶ所に集めた。
一瞬で50m近い断崖が生まれる。
魔物が壁にぶつかって玉突き衝突だ。

この2kmでどれだけが削れたかは判らないが、2,000匹に達している事はないだろう。
だが、残り8,000匹が親指山の方へ進路を変えた。
城壁町ウェアンの壊滅の危機は去った。
すると、その張本人が姿を現す。
魔物らの進路を変える為だ。

「お前らはそのまま黙っていろ」

取り出した短槍を力一杯に放り投げると、低空飛行で山影から姿を現したワイバーンの心臓を突き刺した。
圧倒的な力がありながら、こんな小細工をするワイバーンらを私は睨み付けた。
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