上 下
7 / 34

6.河を渡るのも一苦労。

しおりを挟む
海も広いが河も広い。
アマゾン川の河口幅である300~400kmには程遠いが、河口幅が40kmもある揚子江ようすこうに負けない広さだった。
霧が掛かって向こう岸が霞む。
水の上に魔力の膜を張って歩いているが、ぷにょぷにょして歩き難い。
でも、仕方ない。
河が広く、長丁場だ。
分厚い魔力を張ると魔力が尽きる。
ぬかるみを歩くようにたっぷん、たっぷんと歩いて行く。
日が暮れる前に向こう岸に辿り着けるだろうか?

“索敵”

やっぱり、索敵を飛ばすと地上と同じて魔魚が消滅した。
魔石を持つ生きている魔魚は河を遡って消えていた。
ここより1kmほど降ると海に出るが、魔魚は海に出ようとしない。
不思議な世界だ。
今も魔力回復ポーションをチビチビと飲みながら歩いている。
河は広いな~大きいな~、月は・・・・・・・・・・・・などと訳の判らない替え歌を歌って気を紛らわせた。

 ◇◇◇

私はこの無人の浜辺が北の果てと思った。
5年ほど過ごし、魔力が十分に確保できてから南に戻ろうと決めた。
拠点となる洞窟を見つけて穴を掘って住居を造った。
食料の確保も頑張った。
特に、甘みである海草を育成して、根っこから『葛粉くずこ』を作った。
どうやら私は植物と相性がいいらしい。
育成を促進する魔法は10倍から20倍の速度に成長を加速するが、私がすると1,000倍を超える。
もちろん、栄養がなければ成長しないので魔の森の木を切って焼くと、土ごと肥料として使って急成長させた。
葛粉を使って甘いポーションの改良だ。

そうは言っても魔力に限りがある。
そこで普通のポーション作りに挑戦した。
洞窟の入り口に台所を造り、大きな窯で薬草を煮る。
火加減は火の精霊に命じ、かき混ぜるのは水の精霊に手伝わせるので焦げ付く心配はない。
薪は森に幾らでもある。
グツグツと煮ると細胞核が割れて魔力水がしみ出してくる。
出汁殻になった薬草を採りだして、冷ますと分離する。
本来は秘薬を混ぜて分離を促進するが、ここは魔法で魔法水だけ取り出した。
取り出した魔力水をグツグツと煮て水分を飛ばす。
最後に残った水分も魔力で飛ばし、葛水を混ぜて完成だ。

超々最上級回復ポーションに葛水を入れると最上級回復ポーションに劣化する。
だが、激マズの回復ポーションなんて飲みたくない。
俺のお腹の消化が悪く、我慢して飲んでいたが、少しずつ成長しており、最上級回復ポーションでも効果が出るようになった。
しかも、葛粉には沢山のミネラルと糖度がある。
小腹が満たされるし、成長の助けになる。

因みに、葛粉の作り方は薬草とほぼ同じだ。
茹でて洗った根っこを叩いて潰す代わりに、魔力を通して細胞が分裂し易くする。
後は煮込んで分離させる。
根っこの固形物を魔法で濾過して取り除くと水分を飛ばして葛粉の完成だ。
不純物のない完全無欠の葛粉だ。
ここから純度を高めると砂糖になるが、折角のミネラルを飛ばすのは勿体ないのでそのまま回復ポーションに混ぜた。

食べられそうな海藻も見つけた。
イカや貝や昆布の干物は私のおやつだ。
カニを探したが、小指サイズの小さいカニしか見つからなかった。
残念だ。
他にも魔物や鯨の肉や大量の魚も影収納に入っている。
これだけ大量の食料を持ちながら、離乳食代わりの栄養ドリンクが私の食事だ。
実に味気ないな。

最近の悩みは魔石だ。
魔力の少なさを補う魔法具を造りたいが、肝心の魔石が手に入らない。
索敵魔法で魔物は逃げるなんて初めてだ。
しかし、魔石は魔道具に欠かせないアイテムだ。
唯一の長牙の虎の魔石は上物だった。
その割れた魔石を使って影収納を誤魔化す為の収納ポーチを作成した。
空間拡張した本物の魔道具だ。
他にも魔力消費が軽減される腕輪などを作成した。
まだ魔力量が少ない私の底上げだ。

次は魔法の杖でも造りたいが魔石がない。
だからと言って、逃げない碑石を護る魔物には手を出したくない。
あれはヤバい奴だ。
おそらく何らかの結界になっており、私はその結界の内側に入るのは躊躇って、その外側を移動していた。

日が暮れてやっと対岸が近づいて来た。
今晩は川沿いで野宿になる。
火事があった場所までまだまだ遠い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『聖女』の覚醒

いぬい たすく
ファンタジー
その国は聖女の結界に守られ、魔物の脅威とも戦火とも無縁だった。 安寧と繁栄の中で人々はそれを当然のことと思うようになる。 王太子ベルナルドは婚約者である聖女クロエを疎んじ、衆人環視の中で婚約破棄を宣言しようともくろんでいた。 ※序盤は主人公がほぼ不在。複数の人物の視点で物語が進行します。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...