かみたま降臨 -神様の卵が降臨、生後30分で侯爵家を追放で生命の危機とか、酷いじゃないですか?-

牛一/冬星明

文字の大きさ
上 下
6 / 34

5.北の海岸の少女ジュリアーナ。

しおりを挟む
海だ。
魔の森を抜け出した私はざぶんと海に飛び込んだ。
口がしょっぱい。
本当の海だ。
魔の海だったらどうしようかと心配したが、普通の海で助かった。
海岸には草が生えており、海藻も見つけた。
お魚も一杯で食料問題が解決だ。
あははは、私は自然と笑いが出ていた。
こうして私は潮風を頬に受けて裸足で海岸を歩く。
南の無人島ならぬ、北の海岸に住む少女となった。

森を抜けるのに20日を要し、岬の根元に洞窟を掘って住居を造るのに10日も掛かった。
お魚、お魚、お刺身だ。
小躍りしながら海を駆けると魚に目が眩んで乱獲し、塩たれで刺身を食べた。
う~ん、美味しい。
頬を震わせて、満遍の笑みを浮かべて刺身を食べた。
そして、お約束だ。
ゲロロロッロと吐いた。
乱獲で魔力を消費して回復魔法も使えない。
吐き気が込み上げるので、体を正常に戻す解毒ポーションも使えずに最低の気分で過ごす。
敵が襲って来たら抵抗できずに終わるような醜態を晒した。
お魚の魔力に魅せられた結果だった。

「くぅ」

クーちゃんに学習力がないのかと責められる。
お魚の魅力に勝たなかったのよ。
私は悪くない。
みんな、美味しすぎるお刺身が悪いの!
固形物が食べられるようになったら絶対に食べるぞ。
私は反省もせず、お刺身をいつか食べる事を誓った。

頭が覚めると冷静に食の改善に努めた。
甘みがなく薬草の苦みしかしない肉汁サプリを改良し、何とか飲めるモノにした。
海岸の草からデンプンを採取して葛粉を作り、栄養サプリを飲んだ後のデザートである葛湯が楽しみにしている。
固形物が食べられるようになるのはいつの事だろうか?
この一ヶ月で一度の睡眠が6時間に伸び、活動時間が3時間を越えた。
ベッドの上でクーちゃんに話し掛ける。

「クーちゃんがいて助かったよ」
「くぅ」
「私はこのまま一人寂しく暮らしてゆくのね」
「くぅぅ?」

私はベッドを作り、生活用品を整え、迷彩柄の布団に寝転がってクーちゃんと話す。
ヤル事は多いが出来る事は少ない。
魔力量もじわじわと伸びているが、全然に足りない。
土魔法の『クリエイト』を使えば、城のような白い神殿を造れるのだが魔力量が足りずに穴を掘っただけの洞窟暮らしだ。

「明日はもう一度、くじら獲りに挑戦しようか」
「くぅ」

クーちゃんも同意してくれた。
沖には魚も多いがさめが多い。
魚を追って鯨もやって来る。
私が沖に出ると、さっそく鮫が寄ってきた。
鮫は魔物でもなく、魚類の中でも優秀な様だった。
ここの鮫達は数百頭単位で縄張りを持って活動しており、とても数が多くて厄介だ。
初めての乱獲でも邪魔をした。
この鮫は雑食なのか、私を襲ってくる。
近づいてきた鮫に木を素材に軽くて丈夫な樹脂カーボン状にしたもりに似た短槍たんそうを造って、それでさめを仕留めてゆく。
短槍たんそうの先の刃は魔力の通りが良い、カンカン石 (サヌカイト、讃岐岩)を使った。
鉄に劣るが、貫通力に優れているのだ。
加えて、魔力の通りが銀並に良いのが特徴だった。
当然だが、鯨や鮫に神力は使わない。

犠牲になった鮫に他の鮫らが群がって喰っている間に、索敵魔法で鯨の位置を確認する。

『いた!』

私は全力で駆けだした。
小回りが利かず、速度がでない船などは使わない。
私は魔力の網を足場にして、水上を歩く水上歩行も得意なのだ。
たたたたと鯨のいる方向に走った。
浮上してくる鯨にタイミングを合わせて、短槍で脳天に突き刺した。
図体がデカいので中々に死なない。
前回は、鯨の血で鮫がすぐに寄って来た。
数が多すぎた。
鮫を仕留めていったが、魔力が減ってゆく戦略的撤退を余儀なくされたのだ。

今回は初めにおとりを用意した。
向こうの餌に喰い付いている。
短槍を刺されたくじらが一度海に潜ったので、私は“アンカー”の魔法を作動でさせる。
もちろん、体格の大きい鯨を引き上げる魔力はないが、私を引き連れて逃げようとする。
私は暫しの水上スキーを楽しむ。
前回はここで鮫が群がってきた。
今回も寄って来た・・・・・・・・・・・・が大丈夫だ。
まだ、数が少ない。
鯨も苦しくなったのか、再度、浮上してきた。
私は一気に駆け出して距離を縮めた。

『スラッシュ擬き』

私は腰のショートソードを抜いて、浮上とタイミングを合わせる。
スラッシュは闘気を剣に這わせて、その闘気を撃ち出す武技だ。
闘気を纏う事ができても、それを撃ち出せるまでには長い年月の修行がいる。
一度、コツを覚えると誰でもできる技だ。
そのコツが覚えれば、初心者の冒険者でも簡単で使用できる。
スキル『スラッシュ』は神々が与える定番の祝福である。

だがしかし、魔法使いは体得が難しい。
魔力と気は紛らわしく、魔力を持つ者は闘気を得られ難いのだ。
スラッシュ擬きは闘気の代わりに魔力を放つ技だ。
魔法使いで接近戦を好む者は少ないので、私のオリジナルだ。
兜割りのように鯨の脳天が砕け散った。

衝撃で鯨が一度沈む。
大量の血の匂いで鮫が群がって来た。
前回、初手でスラッシュ擬きで鯨を倒すと、上がって来た時には骨と皮になっていた。
鮫に喰い荒らされた鯨を料理しようと思わなかった。
その対策がこの短槍だ。
私は“アンカー”の魔法を作動でさせて鯨が死んでいるのを確認すると、影収納で鯨を仕舞った。

「生きていると魔力を沢山使うのよね」
「くぅ」

影収納に容量の制限はないが万能ではない。
生き物を入れると収納時に魔力を喰われ、収納中もずっと魔力を消費させられる。
影移動も得意技の1つだったが、今の私にはできない。
何もかもが羨ましい。

くぅくぅくぅとクーちゃんが叫んで西の空を指さした。
鯨が消えて戸惑っている鮫を無視して、すたこらさっさと海岸へ引き上げている途中で目に入った。
森の向こう?
遠くの山の麓で森が燃えている。
魔の森は燃えない。
木々の抵抗力が高く、火の魔法を使ってもすぐに鎮火する。
魔の森では大規模な大火事など起こらない。

「くぅ」

クーちゃんが油を蒔いたのではないかと言う。
森を燃やすと、その瘴気に誘われて魔物が寄って来る。

人為的な魔物氾濫スタンピードが発生する。
だが、それを凌げば魔の森は縮小して行く。
魔の森を開拓する場合の人族の常套手段だと記憶していた。
でも、それは別の世界の話だ。

「確かめに行こうか?」
「くぅ」

クーちゃんも賛成してくれた。
私は北の海岸の少女ジュリアーナごっこを止めて、ジュリアーナの大冒険に切り替えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...