6 / 17
6― 虐め
しおりを挟む※ なぜか投稿が非公開になっていました。
すみません。
――― ――― ――― ―――
接待係というのは、閨に侍るだけではなく、選んでいただいた方の身の回りの世話をするという役目がある。
それなのにアイラは、獣人の侍女や侍従達から逆に世話をされている。
どんなに断っても、ウエンツが聞きいれてはくれない。
「いいか、アイラは私の婚約者だ。お前達は私と同じようにアイラに仕えるように」
接待係として寝室に引っ張り込まれた時に、ウエンツは使用人達に命じた。
その場では全員が頭を下げたが、使用人達にすれば、アイラはウエンツのお気に入りかもしれないが人族だ。そのうえ接待係という下賤な者なのだ。仕えるどころか汚らわしいと思っているだろう。
ウエンツがいない時は、露骨にアイラを虐げてくる。
閨を共にしているから、アイラの身体に傷がつくような暴力を振るわれることはないのだが、だんだんと虐めはエスカレートしてきており、視察団が国を発つ頃には、どんな扱いをうけているのか……。
ウエンツの部屋から出ることを許されていないアイラは暗い気持ちになる。
ベチャリ。
「きゃあっ」
熱がなかなか引かず、ベッドに横たわったままだったアイラの顔に、何かが投げつけられた。いきなりのことに訳が分からずアイラは声を上げてしまう。
それは濡れたタオルのようで、絞られておらず、アイラの顔どころか枕まで濡らしてしまった。
「ああ、嫌だ嫌だ。何で私がこんな汚らわしい人族の世話なんかしなければならないのよ。具合が悪いなんて、ただの怠け者でしょうに」
侍女の愚痴が聞こえてくる。
ウエンツはディダンに公務のことで呼ばれて部屋にはいない。
出て行く際に、熱があるアイラの額を冷やすタオルが温くなっているから、新たな物を用意するよう侍女へと命じていた。
侍女はアイラに近づくのでさえ汚らわしいと、タオルを投げつけたのだ。
「本当よねぇ。寝ているだけのお仕事だなんて、なんて羨ましいのかしら」
「陛下に媚びるだけのお仕事だもの、ベッドが仕事場なのよ」
他の侍女達はクスクスと笑い合っている。
濡れたタオルをこのままにしておくわけにもいかず、タオルをテーブルへと置くために上体を起こす。枕元にあるテーブルだが、獣人仕様のためにアイラにすれば高くて手が届かない。タオルを置くのにもベッドから出なければならない。
起き上がったアイラは、熱と身体の不調からバランスを崩し、そのままベッドから落ちてしまう。
獣人用のベッドは高い。ギュッと目を瞑って衝撃に耐えようとしたが衝撃はこず、誰かに身体を支えられていた。
「婚約者様、大丈夫でございますか」
「あ、ありがとうございます」
支えてくれたのは、扉の横に控えていた男性護衛騎士だった。
名前は知らないが、ウエンツと同じ狼の耳がある。騎士だけあって、がっしりとした体格をしており、アイラを支える腕は、危なげがなかった。
「私は今日初めて婚約者様の護衛となったが、お前達の態度は何だっ! この方は陛下の婚約者様だぞ、蔑ろにしていい方ではない。このことは陛下にも余すところなく進言させていただく。沙汰を待つがいい」
護衛騎士は、ぐるりと部屋の中を見回し、ニヤニヤと笑い合っていた侍女達を睨みつける。
「何を言っているのですか! 相手は人族ですよ。陛下の視察の間だけの慰み者ではありませんか。なぜ我々獣人が、そんな下等な者にへりくだらなければならないのですかっ」
「そうですわ。陛下の寵を受けているといっても、しょせん視察の間だけ。大切にする必要などありませんわっ」
「私たちは陛下のお傍仕えなのですよ。ただの使用人ではないのです。選ばれた私達がなぜ人族ごときの世話をしなければならないのですかっ」
侍女達が騒ぎ立てる。
「陛下が婚約者様のことを、自分と同じ扱いにしろと命ぜられたと聞いている。それなのに陛下の命に従う気はないということだな。お前達の考えは良く判った」
どんなに使用人達が言い訳を口にしても、護衛騎士の態度は変わらない。
「何もそんなに目くじらを立て無くても」
「そ、そうよ。人族に何をしたからといって、そんなに怒ることはないじゃない」
「視察が終われば、そんな人族、捨てられるだけなのに」
侍女達が取り成そうと近づいて来るのを護衛騎士は、睨みつけて阻止する。
「失礼いたします」
護衛騎士は、アイラのことを抱き上げる。
「ここに居る者達全員が同罪だ。直接手を下さなくとも、婚約者様が虐げられているのを見てみぬふりをしていたのだからな」
護衛騎士は、部屋にいる者達をグルリと見回す。そのまま扉まで来ると、もう一人の護衛騎士が開けた扉から、アイラを抱いたまま部屋を出ていく。
「あ、あのどちらへ」
「驚かせてしまって申し訳ありません。あのような使用人達のいる部屋では、おくつろぎいただくことはできませんので、至急、新しい部屋を準備いたします」
護衛騎士は、一緒に部屋を出てきた、もう一人の護衛騎士へと目配せする。
「婚約者様、お辛い目に合わせてしまい申し訳ありませんでした。すぐに新しい部屋をご用意いたします」
もう一人の護衛騎士は、アイラに頭を下げると、部屋の準備をするためか、走って行ってしまった。
「あ、あの、私は大丈夫ですので。そんなお気遣いいただかなくとも」
「私たちがあの使用人達を気に喰わないだけですので、婚約者様は何も心配しないでください」
護衛騎士は、優しい笑顔を向けてくれる。
これで使用人達のアイラに対する虐めは無くなるのだろうか?
たぶんウエンツや護衛騎士達がいない所で、また同じことが繰り返されるだけだろう。
アイラはそっとため息を吐き、熱が下がらずだるい身体から力を抜くのだった。
39
お気に入りに追加
138
あなたにおすすめの小説
番認定された王女は愛さない
青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。
人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。
けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。
竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。
番を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?
【完結】私の番には飼い主がいる
堀 和三盆
恋愛
獣人には番と呼ばれる、生まれながらに決められた伴侶がどこかにいる。番が番に持つ愛情は深く、出会ったが最後その相手しか愛せない。
私――猫獣人のフルールも幼馴染で同じ猫獣人であるヴァイスが番であることになんとなく気が付いていた。精神と体の成長と共に、少しずつお互いの番としての自覚が芽生え、信頼関係と愛情を同時に育てていくことが出来る幼馴染の番は理想的だと言われている。お互いがお互いだけを愛しながら、選択を間違えることなく人生の多くを共に過ごせるのだから。
だから、わたしもツイていると、幸せになれると思っていた。しかし――全てにおいて『番』が優先される獣人社会。その中で唯一その序列を崩す例外がある。
『飼い主』の存在だ。
獣の本性か、人間としての理性か。獣人は受けた恩を忘れない。特に命を助けられたりすると、恩を返そうと相手に忠誠を尽くす。まるで、騎士が主に剣を捧げるように。命を助けられた獣人は飼い主に忠誠を尽くすのだ。
この世界においての飼い主は番の存在を脅かすことはない。ただし――。ごく稀に前世の記憶を持って産まれてくる獣人がいる。そして、アチラでは飼い主が庇護下にある獣の『番』を選ぶ権限があるのだそうだ。
例え生まれ変わっても。飼い主に忠誠を誓った獣人は飼い主に許可をされないと番えない。
そう。私の番は前世持ち。
そして。
―――『私の番には飼い主がいる』
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』
伊織愁
恋愛
人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。
実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。
二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』
彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~
春風由実
恋愛
当代のアルメスタ公爵、ジェラルド・サン・アルメスタ。
彼は幼くして番に出会う幸運に恵まれた。
けれどもその番を奪われて、十年も辛い日々を過ごすことになる。
やっと見つかった番。
ところがアルメスタ公爵はそれからも苦悩することになった。
彼女が囚われた十年の間に虐げられてすっかり心を失っていたからである。
番であるセイディは、ジェラルドがいくら愛でても心を動かさない。
情緒が育っていないなら、今から育てていけばいい。
これは十年虐げられて心を止めてしまった一人の女性が、愛されながら失った心を取り戻すまでの記録だ。
「せいでぃ、ぷりんたべる」
「せいでぃ、たのちっ」
「せいでぃ、るどといっしょです」
次第にアルメスタ公爵邸に明るい声が響くようになってきた。
なお彼女の知らないところで、十年前に彼女を奪った者たちは制裁を受けていく。
※R15は念のためです。
※カクヨム、小説家になろう、にも掲載しています。
シリアスなお話になる予定だったのですけれどね……。これいかに。
★★★★★
お休みばかりで申し訳ありません。完結させましょう。今度こそ……。
お待ちいただいたみなさま、本当にありがとうございます。最後まで頑張ります。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる