獣人国王の婚約者様

棚から現ナマ

文字の大きさ
上 下
3 / 10

3― アイラの居る場所

しおりを挟む



「ケーキの食べすぎで胸やけがする……」
風呂も済ませ寝支度も済んだアイラは、ムカつく胃を押さえながらベッドに腰掛けている。

豪華な部屋は、本来ならば下位貴族のアイラなどが使っていい部屋では無い。何日経ってもアイラの緊張は解けない。
それでも接待係に選ばれた瞬間から自宅に帰ることは許されない。お仕えする方の許可がなければ寝室から出ることすら許されない。
この部屋にはべるのも今日で3日目。ウエンツが自国に帰るまで、アイラの居るべき場所はここになる。

「アイラ、入るぞ」
ウエンツが寝室へと入って来る。
ウエンツも風呂を済まされているらしく、黒々とした髪がしっとりと濡れている。

「ウエンツ様、もう少し髪をお拭きしましょうか?」
ベッドから腰を上げようとしたアイラを、ウエンツが手で制する。

「ありがとう。でも大丈夫だ」
ウエンツがそう言うと、髪がフワリと揺れサラリと乾いてしまう。
獣人は人族とは違い魔法を使うことができる。人族が決して獣人に逆らえない理由の1つでもある。

「身体は大丈夫か?」
ウエンツがアイラの隣へと腰掛けながら問いかける。

アイラはレセプション会場でウエンツと目と目が合った瞬間に抱き上げられ、そのままこの部屋へと連れてこられた。
そして、アイラはウエンツに抱かれた。

それまでのアイラは、誰とも肌を合わせたことは無かったし、性行為の知識すら、あまり無かった。
それでもアイラに拒否することなどできるはずも無く、ただただ翻弄されるままだった。
初めてのことに成すすべもないアイラは、ただウエンツに揺さぶられ続けた。

何も応えることの出来ないアイラの、どこをウエンツは気に入ったのか、その行為はアイラが耐えきれなくなって気を失った後も続けられたらしく、ウエンツはレセプションパーティーに戻るとこも無く、その次の日の歓迎行事にも参加しなかった。
そのままアイラはウエンツの寝室から出ることなく2日が過ぎてしまった。
3日目の今日、やっとアイラはウエンツと一緒に部屋を出て、お茶の席に着いたのだ。

「もう大丈夫でございます」
アイラの作る微笑みはぎこちない。
本当は全身がだるいし節々も痛い。お茶のテーブルに着いているのが精一杯だった。

「アイラに会えて嬉しすぎて暴走してしまった。歯止めが利かなくなってしい済まなかった。ああ、アイラは何て可愛いんだ」
ウエンツはアイラを抱きしめると、スリスリと頭に頬ずりしてくる。

「あの……。公式行事に参加されなくても良かったのですか?」
「気にしなくてもいい。ちゃんと部下達がいるから心配はいらない」
「そうなのですか」
「ああ、もしかしてアイラはパーティーに出たかったのかい? 次のパーティーには一緒に出るか? それとももう一度レセプションパーティーを開かせようか?」
ウエンツは造作も無いことのようにアイラに問いかける。

「いいえ、パーティーには出たくないです」
あれ程大掛かりなレセプションパーティーを、もう一度開かせようかと簡単に言うウエンツに、やはり宗主国の国王陛下なのだと思ってしまう。本気で言っているのかは分からないが。

あのレセプションパーティー会場には、アイラの知り合いも大勢呼ばれていた。
アイラが通っている学園の同級生や先輩達。それにアイラの家族や親戚達も。
会場に着いたばかりの宗主国の国王陛下が、アイラを抱え上げて会場を後にしたのだ。ウエンツの接待係にアイラが選ばれたことを皆は見ていたはずだ。
ウエンツの突然の行動に、会場は騒然となっていたから。

アイラは小さな息を吐く。
ティーナダイ王国の視察団の団員達は、多くの侍従や侍女達を自国から同行してきている。一番身近な所には獣人の使用人を置きたいのかもしれない。
人族を信用していないのかもしれないし、中には人族に近寄られることを嫌う獣人もいる。
獣人の使用人達は、団員の接待係になった人族を “お付き様” と呼ぶ。そして、閨を共にした接待係のことは “婚約者様” と呼び名を変える。
今日のお茶の席でも、アイラは侍従達に “婚約者様” と呼ばれていた。
たぶん、誰の前でもそう呼ばれるのだろう。
アイラはお手付きの接待係だと、全ての人達に知らしめられるのだ。

ウエンツが国に帰った後をアイラは考える。
シーシュ国からは褒められはするだろう。国王陛下のお手付きになった接待係は今までにはいなかったから。報奨が出るかもしれないけど、そんな物はいらない。
家族の元に戻っても、どんな顔をすればいいのか分からない。家族も気まずいだろう。
それに学園には、もう二度と行きたくない。

貴族の子どもは本来政略結婚をするものだが、伯爵家とはいえ、貧乏な家のアイラには、まだ婚約者がいなかった。
婚約破棄をされないだけ、よかったのかもしれない。
アイラは家庭を持ち、家族を持ちたかった。それはもう叶わぬ夢になってしまった。


「ああ、アイラはなんていい匂いがするのだろう」
ウエンツがアイラを抱きしめたまま押し倒す。ウエンツの手がアイラの夜着の中へと入って来る。
アイラはウエンツに、されるがままだ。
どんなに身体が辛くとも、何も言うことはできないし、拒否など出来るはずが無い。アイラはウエンツの接待係なのだから。
アイラの役割は、ただウエンツを受け入れることだけなのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

この度めでたく番が現れまして離婚しました。

あかね
恋愛
番の習性がある獣人と契約婚をしていた鈴音(すずね)は、ある日離婚を申し渡される。番が現れたから離婚。予定通りである。しかし、そのまま叩き出されるには問題がある。旦那様、ちゃんと払うもん払ってください! そういったら現れたのは旦那様ではなく、離婚弁護士で。よし、搾れるだけ絞ってやる!と闘志に燃える鈴音と猫の話。

龍王の番

ちゃこ
恋愛
遥か昔から人と龍は共生してきた。 龍種は神として人々の信仰を集め、龍は人間に対し加護を与え栄えてきた。 人間達の国はいくつかあれど、その全ての頂点にいるのは龍王が纏める龍王国。 そして龍とは神ではあるが、一つの種でもある為、龍特有の習性があった。 ーーーそれは番。 龍自身にも抗えぬ番を求める渇望に翻弄され身を滅ぼす龍種もいた程。それは大切な珠玉の玉。 龍に見染められれば一生を安泰に生活出来る為、人間にとっては最高の誉れであった。 しかし、龍にとってそれほど特別な存在である番もすぐに見つかるわけではなく、長寿である龍が時には狂ってしまうほど出会える確率は低かった。 同じ時、同じ時代に生まれ落ちる事がどれほど難しいか。如何に最強の種族である龍でも天に任せるしかなかったのである。 それでも番を求める龍種の嘆きは強く、出逢えたらその番を一時も離さず寵愛する為、人間達は我が娘をと龍に差し出すのだ。大陸全土から若い娘に願いを託し、番いであれと。 そして、中でも力の強い龍種に見染められれば一族の誉れであったので、人間の権力者たちは挙って差し出すのだ。 龍王もまた番は未だ見つかっていないーーーー。

くたばれ番

あいうえお
恋愛
17歳の少女「あかり」は突然異世界に召喚された上に、竜帝陛下の番認定されてしまう。 「元の世界に返して……!」あかりの悲痛な叫びは周りには届かない。 これはあかりが元の世界に帰ろうと精一杯頑張るお話。 ──────────────────────── 主人公は精神的に少し幼いところがございますが成長を楽しんでいただきたいです 不定期更新

異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。 モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。 よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。 ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。 まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。 ※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。 ※『小説家になろう』にも掲載しています。

「大嫌い」と結婚直前に婚約者に言われた私。

狼狼3
恋愛
婚約してから数年。 後少しで結婚というときに、婚約者から呼び出されて言われたことは 「大嫌い」だった。

うちの王族が詰んでると思うので、婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「婚約を解消するか、白い結婚。そうじゃなければ、愛人を認めてくれるかしら?」 わたしは、婚約者にそう切り出した。 「どうして、と聞いても?」 「……うちの王族って、詰んでると思うのよねぇ」 わたしは、重い口を開いた。 愛だけでは、どうにもならない問題があるの。お願いだから、わかってちょうだい。 設定はふわっと。

番認定された王女は愛さない

青葉めいこ
恋愛
世界最強の帝国の統治者、竜帝は、よりによって爬虫類が生理的に駄目な弱小国の王女リーヴァを番認定し求婚してきた。 人間であるリーヴァには番という概念がなく相愛の婚約者シグルズもいる。何より、本性が爬虫類もどきの竜帝を絶対に愛せない。 けれど、リーヴァの本心を無視して竜帝との結婚を決められてしまう。 竜帝と結婚するくらいなら死を選ぼうとするリーヴァにシグルスはある提案をしてきた。 番を否定する意図はありません。 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...