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2― 獣人国王の楽しみ
しおりを挟む「どうしたの? ほら、アーンして。アイラの好きなイチゴをタップリ使ったケーキだよ」
なかなか口を開かないアイラに、それでもウエンツは笑顔のままでスプーンを向けてくる。
従属国の末端貴族であるアイラが、本当だったら会うことすら出来ない尊き方なのに、しつこくフォークを近づけてくる。諦める様子は無い。
このフォークは、アイラに少しでも怪我をさせたらいけないと、先端を丸くした特注品らしい。最初からこのフォークをウエンツは使っていた。どこから持ってきたのだろうか? アイラは不思議に思うのだった。
アイラはウエンツの接待係なのだから、世話をするのは本来アイラのはずだ。
だがウエンツは手ずからアイラにケーキを食べさせようとしてくる。それどころかウエンツは、アイラをレセプション会場から連れ出した時から食事の度に、いやアイラが何か口に入れようとする度に、手ずから食べさせようとしてくる。
紅茶を飲もうとする時ですら、自分がカップを持って、アイラの口元へと持ってくるのだ。
アイラは何とか止めてもらおうと何度も言っているのだが、ウエンツに聞く耳はない。
アイラにすれば断ること自体が不敬に当たりそうで強く拒否できない。それをいいことに、ウエンツは嬉々としてアイラへとフォークやスプーンを向けるのだ。
今も二人だけのお茶の席とはいえ、周りには侍女や侍従達が何人も控えている。アイラにすれば、こんな扱いを見られて、恥ずかしさで顔が赤くなってしまうのだった。
ウエンツは大国の国王だというのに、とてもフレンドリーだ。
最初から名前を呼ぶようにと言われてアイラはとても戸惑った。その上接待係であるアイラの世話を自ら焼こうとする。
もしかしたら小柄なアイラのことを、小さな子どもだとでも思っているのかもしれない。それとも人族のことはペット扱いなのだろうか。
それに段々とお世話のグレードが上がってきているようにアイラには思えるのだった。
「ウエンツ様が私のためにケーキを用意して下さったのは嬉しいのです。嘘ではありません、本当に嬉しいのです。ですがウエンツ様のお手を煩わせるわけには……」
押せ押せのフォークを何とか避けながら、アイラは断りを入れようとする。
目の前のケーキは大ぶりの苺が目にも美しく、とても美味しそうなケーキだ。
実はアイラは甘党で、ケーキやクッキーなどに目が無い。でも、それとこれとは話が違う。
このまま流されてケーキを食べてしまったら、接待係としては失格だとアイラは思う。
「あの、ウエンツ様。私は……むぐぅ」
「アハハハ。アイラは可愛いな。ケーキを美味しそうに食べる姿は、まるで仔リスのようだ。まあ、アイラは食べている時以外でも、いつでも愛らしいのだがな」
アイラか断っているのに、お構いなしに口の中にケーキを入れたウエンツが、蕩けるような笑顔をアイラへと向けてくる。
アイラの断りなど、まるで聞こえてはいないようだ。
「ウエンツ様いけません。私などに……うぐぅ」
「アイラ安心して。ケーキは沢山用意したからね。遠慮なんかいらないよ」
止めようと開けた口に、連続でケーキを入れられてしまった。
「ほーら、ドンドン食べるがいい」
キラキラのエフェクトを纏った笑顔のウエンツが、断ろうと口を開くたびにタイミング良く、ケーキを乗せたフォークを口に入れてくる。
「で、ですから私なんかに、むぐぅっ。あの、止めてください、あむぅ」
これ以上ケーキを入れられないように、自分で自分の口に蓋をする。それなのに、さすが獣人というべきか、ウエンツは神業でケーキを口へと入れてくる。
気が付くと、目の前にあったケーキは、全てアイラの胃の中へと消えていたのだった。
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