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42 国王陛下からの礼ふたたび②
しおりを挟む「じゃあ俺から自己紹介をしますねぇ」
国王陛下からの手紙を読み、王家への悪感情を抱いて震えているリュールに、ミルが片手を上げて喋り出した。
「ミル=ポワルです。年齢はヒミツでーす。嫁と子どもが二人いま「ちょっと待てっ!」
ミルの自己紹介は、まだ続きそうだったが、リュールは思わず大声でストップをかける。
国王陛下への心の中での罵倒は一旦止める。ミルの自己紹介を聞いて、それどころではなくなった。
「酷いですぅ。まだ途中なのにぃ」
「いや待てっ。待て待て。どうしても確認しなければならないことがある。嫁がいるって言ったな、嫁じゃなくて夫だろう」
「えー、そんな所を突っ込むんですかぁ。何処をどう見ても俺は夫側にしか見えないでしょう」
ミルは不満なのか頬を膨らませる。滅茶苦茶可愛いし似合っている。
ミルはザ・嫁側男子という外見をしている。何処をどう見ても夫側には見えない。可愛らしい顔に身長は低めで華奢だ。それに外見だけではなく、声も高めで仕草がいちいちあざと可愛い。可愛いが渋滞しているのだ。
「ちゃんと嫁を貰ってますぅ。嫁には子どもを産んでもらいました」
「子どもを産んでもらっただとぅ、本当の夫側じゃないか……分かった! ミルは家の跡継ぎで政略結婚したんだな」
「もう、違いますってばぁ。俺は苗字がありますが平民ですぅ、嫁とはバリバリの恋愛結婚で、未だにラブラブでーす」
「なん、だと……」
リュールは愕然として次の言葉が出てこない。
ミルが夫側だというのか。
どう見てもチワワ系男子なのに。因みにこの世界に犬はいるがチワワはいない。
「本当に?」
「本当ですぅ」
「信じていいんだな」
「もう、疑り深いなぁ」
ミルは苦笑いを浮かべている。
ミルが夫側だなんて……。
ミルでも夫側。ミルでさえ夫側。ミルなのに夫側。
パァッとリュールの目の前に一筋の光が差し込んできた。
やれる! やれるぞっ、リュールは自分も夫側になれると確信を得た。
今まで散々嫁側男子扱いをされてきたが、ミルが夫側ならリュールも夫側になれるはずだ。いや、絶対なって見せる!
リュールはぐっと拳を握りしめる。
「じゃあ、自己紹介の続きを始めます。えっとぉ、特技は変装、潜入、暗殺です。気に入らないヤツがいたら言ってくださいね、すぐに始末してあげますよー」
グーにした両手を口元に当てて、可愛らしく小首をキュルンと傾ける。あざと可愛い。夫側男子がしていい態度では無いが、似合っているから文句は言えない。
「いや待て、ちょっと待て。暗殺って何だ、始末ってなんだ。ミルは西の宮勤務の使用人じゃないのか?」
「嫌だなぁ、言いましたでしょう。特技は潜入ですって。バーベキューの時は西の宮に潜入していただけですよぉ。でも心配しないで下さいね、周りに不審がられるようなヘマはしませんから」
ミルはエッヘンと胸を張る。
いや言った。国王陛下直属の部下を貸してくれとリュールは言った。
国王陛下直属の部下が、ただの使用人の訳はない。だがそれを10歳の子どもに察しろというのは無理な話だ。そんなことが分かるわけがないだろうがっ。
国王も国王だ。子どもに暗殺者を貸し与えるな!
「で、では次に私が……わ、私はシン=ホイです。と、特技は毒を作ります。毒専門なので、解毒はできませんが確実に殺れる毒をつくれます。料理もできますから、料理に毒を混入することができます。無味無臭の毒ですから証拠は残りません。し、心配しないで下さい」
シンは人見知りなのか、緊張した面持ちで、つっかえながら自己紹介する。
いや、心配しないで下さいって何に心配するんだよ。
ミルもシンも暗部といわれる者達なのだろう。それも国王直属だから凄腕の。そんなエリート暗部なんて要らない。
だから俺は10歳だって言っているだろうが。子どもなんだよっ。子どもの俺に何をさせる気だーっ!!
リュールは叫びたい。思いっきり叫びたい。
できることなら国王陛下の胸ぐらを掴んで叫びたい。できないからリュールはストレスでやさぐれてしまいそうだ。
「次は俺ですね。ブレッド=ウオール、近衛騎士です。特技は情報収集、魔法は風です」
フレッドがペコリと頭を下げる。
こいつが色々とリュールのことをライドにチクっていたやつだな。一度守秘義務について話をしなければならないな。
そういえば、マーガレット側妃に噂話を届けたのはブレッドの風魔法を使ったのだと言っていた。
「えっとぉ、カーティス=ナジルです。近衛騎士です。特技はしいて言えば剣技ですかね。よろしくお願いします」
カーティスは6人の中で一番体格がいい。でも顔は童顔で可愛い系だ。
炎の魔法を使えるそうで、バーベキューの時は火付け役、ご苦労様でした。
「俺はアイザック=ボスレーです。近衛騎士です。魔力量が少なめなので、事務処理なんかもやっています」
アイザックは笑顔を浮かべる。
6人の中で一番線が細いし綺麗系だ。だが決して嫁側ではなく体格はしっかりしている。
水の魔法を使えるそうで、バーベキューの時は安全対策用のバケツに水をありがとう。
「ジャレット=ノイズです。近衛騎士です。リュール様のハンバーガーが凄く美味しかったから、また食べられたらって期待しています。痛っ!」
「こらっ、自己紹介じゃないじゃないか」
キラキラの目をリュールに向けるジャレッドを、隣のアイザックがポカリと殴っている。
そういえば、そんなこともあったなぁ。リュールは遠い目をする。近頃濃い生活を送っているからピクニックのことが遠い昔のようだ。
「俺も俺も! 俺はアイスクリームもすっごく好きでした。あ、俺はコンラート=ロートルです。えっと特技はよく食べることです。リュール様、また何か作ってください!」
「コンラート、黙りなさい」
「ひうっ」
コンラートは隣の騎士に耳を引っ張られ、怯えたように固まってしまった。
「リュール様、ご挨拶が遅くなりました。リュール様にお仕えすることになった者達の取りまとめをしております、オーギュスト=エンダールです。何かありましたら私にご下命下さい」
オーギュストは丁寧に頭を下げる。
騎士達の中では一番年長者のようだ。とはいっても三十代前半ぐらいに見える。
総勢八名。それも全員が国王陛下直属のエリート達だ。
そんな奴らを押し付けられて、俺はどうすればいいんだ?
途方に暮れるリュールだった。
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