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41 国王陛下からの礼ふたたび①
しおりを挟む「本日より、お世話になります」
リュールを前に、ミルがペコリと頭を下げる。
「なぜ?」
疑問に頭を傾げるリュールの前には、ズラリと大人達が並んでいる。
ミル、バーベキューで涙を流していた料理人、熊襲撃事件でお世話になった6人の騎士達。
バーベキューの時に国王陛下に頼んで借りた、国王陛下直属の部下達だ。
「嫌だなぁ、国王陛下に言われたのでしょう。礼として国王陛下の部下を貸して下さいって。忘れたんですか?」
「いや、言ったのは言ったけど……」
エルヴィンの病気が快方に向かう手伝いをしたということで、国王陛下から褒美を貰うことになった。リュールはマーガレットがエルヴィンに毒を盛っている証拠を掴むため、国王陛下直属の部下を貸してくれと願い出た。
それはバーベキューの時。というかマーガレットが捕らえられた時点で終わっているはずだ。
「俺を監視するため? 俺ってば何かした?」
総勢8名もの監視を付けられるようなことを俺はやらかしただろうか?
マーガレットの件では、俺にお咎めは無いとクラウスは請け負ってくれたのに。それに監視に料理人までいるのはおかしくないか。
「ですからぁ、私達は褒美ですよ。リュール様に末永くお仕えさせていただきます」
ミルが他の者達の方を見ると、皆は笑顔を浮かべ頷く。
笑顔が爽やかだな……って、違う!
「いやいや、俺が頼んだのは国王陛下の部下を貸してくれって言ったんだよ。部下をくれとは言ってない」
「ええ、ですから俺達は国王陛下からリュール様に褒美として貸し出されるのです。ご安心下さい、私達は貸し出しですから給料も残業代も特別手当も、ぜーんぶ国王陛下のポケットマネーから出ます。リュール様のご負担は一切ありません。存分にこき使ってください。あっ、国王陛下から、お手紙をお預かりしています」
ミルは一通の手紙をリュールへと差し出す。
言われた言葉の意味が理解できず、ただ口を開けているリュールは、反射的に手紙を受け取ってしまう。
リュールは手紙を読み進めていくうちに、手紙を持つ両手がフルフルと震え出す。
手紙にはリュールの望んだ報奨として、国王陛下直属の部下を貸し与えるとある。
貸出料は報奨だから必要ない。貸し出しているのだから費用は全て国王負担となっている。
「違うっ。そうじゃないっ!!」
手紙を床に叩きつけ、リュールは地団駄を踏む。
又も、あのすっとぼけ国王は、リュールに訳の分からない報奨を押し付けてきたのだ。
国王からの手紙は、一枚目には第1王子エルヴィンの健康促進に貢献したとして、国王からリュールに褒美を与えるということを、ご丁寧にサイン入りで書かれている。玉璽を押すな!
二枚目には経費が掛からないことや貸し出し期間などの詳細が宰相クロイツにより書かれていた。
憤ったリュールは手紙を踏みつけてしまいたいが、人前ではできない。
「リュール様、手紙は三枚ありますよ」
「三枚……」
ミルから指摘され、リュールは叩きつけて床に落ちたままの手紙を嫌々拾い上げる。
見落としていた三枚目の手紙を読み進めていくうちに、またもリュールの手紙を持つ両手はフルフルと震え出す。
「なんじゃこりゃー!」
またも手紙を床に叩きつけ、とうとう踏みにじってしまった。
便箋はちゃんと封筒に戻したから、少々踏みにじってもいいはずだ。
三枚目の手紙には国王陛下から、息子達がリュールに別々に服をプレゼントするのを許可したこと。
リュールには、プレゼントされた服を着て、初等学院の入学式に参列すること。と書かれていた。
「陛下めぇ……はげてしまえぇ」
リュールの口から呪詛が零れる。
入学式に贈られた服を着るということは、エルヴィンかクラウスかのどちらかを選べということだ。着る服は自分で選んでいいと書いてある。
リュールはクラウスの『小さなお茶会』に最後まで残っていた。クラウスは、まだ婚約者が決まっていないので、リュールは婚約者候補のままだ。
そのうえエルヴィンには婚約者どころか、婚約者候補すらいない。
入学式に贈られた服を着れば、リュールが婚約者に確定したと周りからは思われてしまう。
そうなると、もうリュールに縁談を持ってくる家は無くなる。
女性と結婚したいから家を出ようと思っているリュールにすれば、それは有り難いことではあるが、そうじゃない。
王家の思惑に反吐が出る。
国王の考えは、リュールをどちらかの王子の婚約者候補のままでキープしておくことだろう。
リュールは力のあるジージャ公爵家の息子だから手放すのは惜しい。でも魔力量の少ないリュールを正妃には迎え入れたくはない。
だから婚約者候補として飼い殺しにするのだ。
この国の女子や嫁側男子の婚期は早い。
成人(18歳)すれば、すぐに結婚する。特に嫁側男子は女性よりも早く嫁に行く傾向がある。
それは女性に比べて妊娠するのに時間がかかるから。疑似子宮を体内に作るのに時間がかかるらしい。リュールはまだ詳しくは知らないけど。
だからこそ、王子の婚約者選定が終わった初等学院に入学する頃から、皆さっさと婚約する。早く相手を捕まえないと、ロクな相手が残っていないということになってしまうから。
国王とすれば、時が経ち王子が成人すれば、あらかじめ決めておいた魔力量の多い相手と王子を結婚させる。婚約者候補としておけばリュール以外に何人相手がいてもいいからだ。そしてリュールは切り捨てられる。
その時にリュールは立派な行き遅れとなっており、結婚どころか婚約する相手すらいないだろう。修道院に入るか、どこかの後妻になるかしかない。
王家はそんな立場になったリュールを憐れんで側妃にしてやると手を伸ばすのかもしれない。嫁ぎ先の無いリュールを救ってやるのだと。
公爵家の息子であるリュールは側妃になるしかない。正妃は自分よりも身分が低い出自の者だろう。どれだけの屈辱なのか。
その上、側妃となったリュールの産んだ子は、魔力量が多ければ王族として認められるかもしれないが、リュールに似て魔力量が少なければ、王位継承権を与えないどころか、王宮から追い出されてしまうかもしれない。
ここまで一気にリュールは考えてしまった。超ネガティブ思考だ。
だがこの考え以外、どちらかの王子を選べという国王の意図が分からない。
考えすぎかもしれないし、間違っているかもしれない。
しかし、魔力量の少ないリュールを王家は認めないはずだ。
どうすればいいのか。
初等学院の入学は迫ってきている。リュールは考え込むのだった。
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