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28 またも王宮へ①

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王宮より呼び出しを受けた。
王子兄弟からではない。国王陛下から直々にだ。
リュールには、なぜ呼び出されたのか、まるで予測がたたない。

エルヴィンのお見舞いで、ちょっと騒ぎを起こしたが、あれはクラウスと共同戦犯だ、リュールだけが罰を受けるならば、強く抗議したい。

それにいきなりの呼び出しだから、応じることができない。
なんせ付添人がいないのだ。こちとら10歳の子どもだから一人で王宮に行くことはできない。
父は仕事に出かけているし、母は実家に用事があるとかで家にいなかった。
兄のダリアスは11歳。保護者にはなれない。

王宮からの呼び出しだが、誰もいないんだからブッチするか。
いやぁ、しょうがないよねぇ。
本当は行きたいんだよ。国王陛下からの呼び出しなんだから、ものすっごく行きたいんだよ。嘘だけど。
どうしようもないじゃん。俺一人じゃ行けないしねぇ。なーんてナイスなタイミング。
リュールは思わず笑顔になりそうになり、慌てて顔を引き締める。

「リュール様、私がお迎えに参りました。王宮までお連れ致します」
「ザッファ卿……」
王宮からの呼び出しに行かなくてもいい言い訳があると喜んでいたリュールの前に、爽やかなイケメンが現れた。
ライド=ザッファ。近衛騎士団の副団長をしている若きエリート騎士だ。

「なぜザッファ卿ほどの方が、子どもの送迎なんかをしているのですか」
「リュール様のお手伝いが出来るのならばと、私自ら名乗り出ました。ちゃんとお父上様からの依頼を受けておりますのでご安心ください。さあ、陛下の元へ参りましょう」
すっごい笑顔だ。

近衛騎士の副団長が暇なわけがない。誰が指示したんだ。
本当に父様が? まさか国王陛下が?
もう王宮に行くしかないのだ。考えることを止めたリュールだった。

王家の紋章が付いた派手な馬車に乗り、リュールは王宮へと向かったのだが、王宮に着くまでの間、馬車の中でザッファとの会話にリュールは疲れてしまった。
ザッファは言葉巧みにリュールが魔法を使うことが出来るのか。どんな魔法を使うのかを聞いてくる。
こちとら小学生男子の皮を被った前世持ちだ。全てを笑顔ではぐらかす。
狸と狐の会話が繰り広げられているのだ。そりゃあ疲れる。

ザッファがリュールをわざわざ呼びに来たのは、リュールへの聞き取り調査のためのようだ。
あの “熊襲撃事件” では、重傷を負ったリュールへの事情聴取はできなかったから。

将来嫁に出されるだろうリュールは、嫁にはなりたくないから成人したら家を出ようと思っている。ここで魔力量が少ないのに魔法が使え、それがオリジナル魔法だと分かったら、付加価値が付いてしまい、嫁の貰い手が出てきてしまう。これ幸いと嫁に出そうとジージャ公爵家はするだろう。家出しにくくなってしまう。
親の言うことが当たり前だと洗脳教育を受けている、生粋の貴族令息であるリュールにすれば、親の指示に反発することは中々難しい。
魔法が使えることは知られたくない。

「リュール様はクラウス殿下とエルヴィン殿下のお見舞いに行かれたそうですね」
ザッファが熊の話では埒が明かないと思ったのか、お見舞い話にシフトチェンジしたようだ。

「ザッファ卿、俺のことはリュールとお呼びください」
いくら公爵家の息子とはいえ、親のすねかじりでしかない。
年上の、それも副団長という肩書のある人に “様” 呼びされているといたたまれない。

「ありがとうございます。では俺のことはライドと呼んでください」
「えぇ、なんでいきなり名前呼び」
「親しい感じがしていいじゃないですか」
「いえ年長者に対して、名前呼びはちょっ「年齢なんて関係ないでしょう。ぜひぜひ。あ、もちろん呼び捨てで」
人が断ろうとするのに被せてきやがった。

「なにグイグイ来るんですか!」
「敬語も止めてね」
「いきなり遠慮が無くなった」
「リュールと話していると、年齢は関係ないと感じるからね。それどころか自分の方が年下みたいに思えてしまう」
ザッファの言葉に、そりゃあ前世持ちで、中身おじさんですから。とは、リュールは言えない。

「本当に凄いと思っているんだよ。あの誰が何を言っても言うことを聞かなかったマーガレット側妃様を言い負かしたって」
「違うし。言い負かしたりなんかしてないし。ただ、窓を開けさせて下さいって、お願いしただけだよ。それに何でそんなことを知っているんだ」
「リュール達がお見舞いに行った日のエルヴィン殿下の警備担当だった騎士が俺の同期だったんだ。感心していたよ。いや感動していたな」
「守秘義務!」
「ほめていたんだよ」
「ほめればいいってもんじゃない」
護衛騎士が外で勤務中にあったことを話してはいかん。もしかして侍従や侍女もペラペラと話をしているのか?

やばいんじゃないか。
マーガレットのメンツを潰すことになる。
マーガレットは病弱なエルヴィンの看病を真摯にしている聖母とすら呼ばれている人なのだから。

冷汗が流れるリュールなのだった。

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