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27 お見舞いに行きたい
しおりを挟むさて、エルヴィンのお見舞いに行こうと思う。
友人のお見舞いに行くのはいいことだ。お見舞いというよりも、こちらから行って黙らせようと思っているのだ。だが思っていることを口にはしない、実行するだけだ。不敬だからな。
あの王子兄弟はリュールに服を贈ると言い出してから、まあ面倒くさい。
リュールが自分の好みから離れた服は受け取らないと、キッパリと言ったから、王子兄弟はリュールを王宮に呼ぼうと躍起になっている。
やれデザイナーを決めるから王宮に来いとか、やれ布地を商人に持ってこさせるから王宮に来いとか。
王宮にいちいち呼ぶな。誰が行くか。
お前達にすれば、自分ちに友達を呼んでいるだけかもしれないが、子どものリュールが王宮に行くには付添人が必要なんじゃ。毎回毎回親に迷惑かけさせるんじゃねーよ。
行きたくはないが、それでもリュールは王宮に行くことになった。違う、こっちから行くことにしたのだ。
行かないとクラウスが勝手にジージャ公爵家にやって来る。今まで散々来ていたのだから、クラウスの行動には遠慮というものは存在しない。
するとエルヴィンが拗ねる。
エルヴィンは本宮の庭で行われていたクラウスの茶会に参加した次の日に熱を出してしまったらしい。
今まで寝室からなかなか出ることができなかったエルヴィンが、本宮まで来たのは無理があったようだ。
ジージャ公爵家に来ることなんか、絶対に無理だ。
おかげで拗ねたエルヴィンは、自分がリュールに会いに行けない悲しみとか寂しさを切々と手紙に書いて送って来る。
それも毎日!
俺が行けばいいんだろう。
やさぐれてしまったリュールだった。
そう言う訳で、クラウスと一緒にエルヴィンのお見舞いに行くことにしたのだが、やはりマーガレットに会うのは気が引ける。
なんせマーガレットから嫌われているのは重々分かっているから。
エルヴィンの診察に口出し禁止になったマーガレットだが、未だエルヴィンのお世話はマーガレットが主体でやっている。
いつもエルヴィンにはマーガレットが付き添っているということだ。
茶会の時のように、ゴーイル医師が診療の一環としてエルヴィンを連れ出してくれるといいのだが、茶会の後にエルヴィンが熱を出したから、外出は早すぎたということになってしまった。
リュール達が会いに行くしかないのだが、そうなるとマーガレットに会ってしまうことになる。
どうしたものか……。
マーガレットに会うのは避けられない。それはどうしようもないこととして受け入れるしかないか。
リュールはそう割り切ったのだが、それでもどうしてもエルヴィンの部屋には行きたくない。
逃げ場のない部屋の中で、嫌われていると分かっている人と同じ空間はキツイ。
どうにかできないものか。
ポン!
リュールは手を打つ。
部屋に入るのが嫌なら入らなければいいじゃないか。
前回エルヴィンの熱が出たのは本宮まで移動したからだ。と思う。
じゃあ、エルヴィンの部屋にあるバルコニーならどうだろうか。もしかしたら西の宮の庭なら出ることができるんじゃないか?
部屋じゃなくて室外でお見舞いしよう。
「クラウス、バーベキューをしよう」
いつものようにジージャ公爵家に遊びに来て、勝手にくつろいでいるクラウスに提案する。
「バーベキューとは、ピクニックの時に約束したやつか」
「ああそうだ。肉を焼いたり、野菜を焼いたり。みんなでやれば楽しいぞ。エルヴィンの西の宮でやろう」
「それなら兄上もご一緒できるな。楽しみだ!」
クラウスは笑顔だ。
あれだけ張り合っている兄弟だが仲はいい。
今までは関りの薄い兄弟だったが、せっかくエルヴィンの体調が良くなってきているのだから、もっと仲良くなってほしい。
どこでするかはゴーイル医師と要相談だな。
それにバーベキューとは言っても、エルヴィンが食べられない物とかあるかもしれない。
西の宮を借りることに、リュールからマーガレットへとお願いしても、断られるのは分かり切っている。だからクラウスから国王陛下に西の宮を借りることができないか打診してもらおう。
それならば大丈夫だろう。リュールは一人頷く。
「なあリュール、なぜジージャ公爵家にデザイナーを連れてくるのはダメなのだ? 母上が贔屓にしているデザイナーだから、きっとリュールも気に入ると思う」
バーベキューの段取りを考えているリュールにクラウスが問いかける。
王宮に呼び出してもリュールが来ないから、とうとうクラウスは、ジージャ公爵家へと場を移そうと考えているようだ。
「だーめっ。俺はクラウスからだけ服を貰う気は無いんだよ。クラウスとエルヴィンが俺に服を贈ってくれるって言うのなら、二人から一着でいいんだ。二人で一緒に考えた服をくれるっていうのなら、俺は喜んで服を貰って着させてもらうよ」
「むー」
兄よりも先にリュールに服を贈りたいと思っているクラウスは膨れる。
金髪碧眼の美童が頬を膨らませている姿は、とても愛くるしい。だがリュールには通じない。だって見慣れているから。なんならダリアスの方が金髪碧眼プラスのタヌキ顔だからよっぽど可愛らしい。
「苦手な野菜はあるか?」
膨れるクラウスよりも、バーベキューの材料を考えているリュールだった。
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