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２３ 母の愛とセンスと子どもの忍耐

またも遠い目をするリュールは馬車に揺られていた。
母よ。何がしたいのだ。
あなたの息子は、きっつい顔と、赤黒い髪を持つということに、そろそろ気づいてはいただけないだろうか。

リュールが今着せられているドレスシャツは、作りは手が込んでいるし、デザインは子どもらしく愛らしい物だ。刺繍も入っているし、フリルもタップリと付けられている。
それにドレスシャツの地の色は淡い黄色だ。初めての淡色ではないだろうか。
ここまでは良い。良かったのだ。このままだったら、キツイ顔立ちだが普通の令息に見えたはずだ。

なぜ、どうして、せっかくの淡い黄色地に、これでもかとショッキングピンクのデカイ水玉を描えがくのか。
よくこんな布地を見つけてきましたね、母上。

いや、ここで母上を責めるのは筋違いかもしれない。母は将来嫁に出さなければならない息子のことを思って、こうしてドレスシャツをあつらえてくれているのだから。
では何がいけないのか。
それは、このきっつい顔に他ならないのではないだろうか。
この顔でなければ、この黄色地にピンクの水玉ドレスシャツも、きっと着こなせたのだろう。少し無理はあるが。

馬車の中には兄のダリアスもいる。共に『小さなお茶会』に招待されているのだ。
リュールの対面に座るダリアスの格好は、ちょっとフリル多めのドレスシャツに、リュールは詳しくはないが、ブリーチズというらしい半ズボンを履いている。
色もシャツは白、ズボンは濃紺だ。普通というか地味ですらある。

なぜにダリアスとリュールでは、ここまで差があるのか。ダリアスの服も準備したのは母だろうに。
リュールだってダリアスとお揃いのドレスシャツがよかった。
そうでないならばいっそ、ダリアスにだってピンクの水玉を着せるべきだ。と、リュールは兄の不幸を願ってしまい、慌てて頭を振って考えを止める。

「リューちゃん、どうかしたの？」
考え込んでいるリュールに、ダリアスが少し心配そうな声をかける。
ただ、ダリアスの視線はリュールには向かない。微妙に顔を逸らしている。もしかしたらリュールから、ドレスシャツの感想を聞かれるのが嫌なのかもしれない。

「心配してくれてありがとう。ちょっと考え事をしていただけだよ」
「考え事？」
「そう、兄様と俺のどこが違うのかなって」
「それは髪の色とか目の色とか？」
「だよね、色が違うよね。兄様は綺麗な金髪に青い瞳だけど、俺は赤黒い髪に赤い目をしているもの」
ダリアスと話している内にリュールは気づいたのだ。なぜ母親がリュールにこんなドレスシャツを着せるのかを。

「そうだよ、兄上は綺麗な色味だけど、俺は地味だわ」
「え、地味って、リューちゃんの髪や瞳の色が地味ってこと？」
「そう。俺が地味だから、母様は派手なドレスシャツを着せたがるんだよ」
「リューちゃんが地味なわけないよ。リューちゃんの髪や瞳はとても綺麗で、とても目立っているよ。母様は……。母様のドレス選びは、その、あの、ポンコツなのでは？」
いつもポンヤリだと思っていたダリアスからですら、母のドレス選びはポンコツ呼ばわりだ。
他の人たちの目にはどう映っているのか、ちょっと恐ろしいものがある。

でも、これで謎が解けた。
母にとってリュールの色味は地味なのだろう。せめてドレスシャツぐらいは派手にしたいという親心なのかもしれない。できれば地味なままでいたかった。
そうつくづく思うリュールなのだった。