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最終回 ルロイ
しおりを挟む「どうしたの? 何が嫌だった?」
掛布団団子になっているトニーに声をかける。団子になったまま顔を見せてくれない。
俺が気づかなかっただけで、ジャークとフリックから、嫌なことをされたのだろうか?
それなら二人をボコるけど。
「ル、ルロイのばかぁ。ふ、夫夫生活を他人に言うのは止めろ。絶対に止めろ!」
「夫夫生活ってHのこと? そんなこと言ったっけ?」
「言った。ハッキリと分かるように言った! 二人に知られた!」
「いいじゃん。本当のことだから」
「ふ、夫夫だって言うのは……。い、いいけど。しかたがないけど……。夫夫生活を言うのは駄目だ。絶対駄目!」
どうやら団子の原因は俺だったらしい。
少し浮かれ過ぎていた。反省しないと。
トニーがこんなにはっきりと拗ねることは珍しい。このまま拗らせて俺のことを嫌いになったとか言われたら困る。
「ゴメン。もうしない。気をつける」
「……。本当に?」
「うん」
塊が少し解けて、上目遣いのトニーの顔が半分見える。
カワイイ。思わず抱きしめようとして、なんとか堪える。
やっとトニーと本当の夫夫になれたのだから、浮かれすぎても仕方が無いと思う。
俺は思う存分イチャイチャしたいのに、トニーは恥ずかしがって、すぐに逃げる。そこがまたカワイイけど。
10歳のあの時、トニーと入籍したから結婚できたと思い込んでいた。
だけど時と共に違うんじゃないかと気づいていった。
トニーは俺に対して、少しもそれらしいことをしない。してくれない。
俺がそれとなく身体を寄せたり、トニーに触れたりしても、何も感じてはくれない。
俺が精通すればと思っていたけど、そんなことは関係無いのだと、うすうす分かっていた。
だから仕事をするために家を出た。
自分の心を知るために。
トニーが言ったように、俺を助けてくれたから、トニーを好きになったと勘違いしているんじゃないかと思って。
少しトニーと距離を置けば、気持ちが変わるかもしれないと思ったから。
だからイジザの町の自警団本部で働こうと思った。そこだったらすぐにトニーの元に帰れるから。
そんなことをする必要なんてなかったのに。自分の心を鼻で嗤ってしまった。
その日からトニーの元に帰りたくて堪らなくなった。トニーが恋しくて。
自分の気持ちが勘違いかもしれないなんて、なんでそんなことを思えたのか馬鹿らしくなるほど、トニーのことが好きだった。
それからはトニーから離れれば離れるほど、トニーの好きが大きくなっていったし、好きの種類も変わっていった。
ただトニーと一緒にいたい、トニーと触れ合いたいという可愛いものから、トニーを組み敷いて、自分のものにしたいというドロドロとした思いになっていった。
俺の心の中なんて周りの皆は知らないから、色々な奴らが言い寄ってきた。襲ってきた奴もいた。
ムカつくだけだ。
女性には手を上げなかったけど、男の場合は叩きのめした。
俺はトニーが好きだ。トニーしか好きじゃない。
だからトニーは俺のものだ。トニーと入籍したのだから、間違っちゃいないはずだ。
トニーが何と言おうと聞かない。勘違いなんて言わせない。
俺はトニーと結婚している。そう決めた。
トニーに拒否されたって逃がさない。
「トニー、今日は隣村に買い物に行こうと思うんだ。一緒に行こう」
「隣村に? いいけど、何を買うんだ」
「うん。オイルが無くなったから」
「ブフォッ」
トニーが急に咳き込む。俺は慌てて掛布団の上からトニーの背中をさする。
シーラから貰っていたオイルが無くなってしまった。
シーラから、相手の負担を考えて、オイルはタップリ使うようにと言われていた。だから何本も貰ってきていたけど、もう使い切った。
予定よりも、うんと早かった。
トニーと本当の夫夫になるために身体を繋げたいと思っていた。
俺は小さい頃から両親の性行為を見ていたし、色々な奴に言い寄られて、性行為自体に嫌悪感があった。
だから、トニーと肌を合わせることは、本当の夫夫になるために、やらなければならない義務だと感じていた。
それなのに……。
心から好きな相手との行為が、これほどの快感と幸福感をもたらしてくれるなんて、思ってもいなかった。驚いたし凄く嬉しかった。
トニーを腕の中に閉じ込めると幸せが心を満たしてくれる。トニーを貫くと快感が身体中を駆け抜ける。
トニーのことが、もっともっと好きになる。
シーラから相手の負担を考えろと、何度も教えられていたけど……。無理だ。
トニーに触れるだけで俺の頭はバカになる。もうトニーをくらい尽くすことしか考えられなくなる。
毎日トニーに触れたいし、一度でなんか終われない。
オイルを買いに行かないと。
「トニー、愛してる。ずっと一緒にいてね」
俺の告白に、掛布団から除く瞳が丸くなる。
「うん。俺も一緒にいたい」
そう言ってくれるトニーを、掛布団ごと抱きしめる。
可哀そうなトニー。
もう俺からは逃げられない。俺はトニーを何があっても離さない。
だって俺達は、正式に入籍をした夫夫だから。
一生二人で暮らして幸せになる。
俺はうっとりと微笑むのだった。
――― ――― ―――― ―――
※ これにて終わりです。
自分で的には、50話ぐらいで終わるはずだったんですけど、あれ、60話を超えた? という感覚です。
最後まで、ヘタることなく続けることができて、とても嬉しいです。
お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
※※※
明日(10月10日)より、新作『乙女ゲームの強制力を舐めていました。このまま立派な悪役令息になってしまいそうです。』を投稿スタートします。
午後8時過ぎぐらいを予定しています。
5~7話くらいの短編になる予定です。
BLです。
安定のハッピーエンドですので、よろしければ見てやってください。
よろしくお願いします。
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楽しく読ませて頂きました!完結おめでとうございます!
ルロイとトニー、フリックとジャークに幸あれ!!かわいい二組でした!
感想をありがとうございます。
完結できて良かったです。
次のお話でお会いできることをお待ちしています。
よろしくお願いします。
やっとご夫夫に✨️
感想をありがとうございます。
本当に長かったですねぇ。しみじみ。
村長…アンタ命惜しくないのか?
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感想をありがとうございます。
村長は良かれと思って。
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