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62 第3部隊第1小隊ジャーク

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ルロイをトニーの所に残して、もう5日が経つ。
ルロイには隣村の宿屋にいるからと伝えているが、未だに連絡は無い。
トニーの家に張りこんでいる諜報部員からは、トニーが村長から呼ばれてガイドロ辺境伯からの養子の話を聞かされたとの連絡が入った。

ガイドロ辺境伯も諦めが悪い。
冬を越すとドラゴン達の繁殖期に入る。前回で味を占めたガイドロ辺境伯は、それまでにルロイを手に入れたいのだろう。
ガイドロ辺境伯には娘がいないから養子の話になったのだろうが、ルロイに言ったところで断られることは分かっている。村長を巻き込んでのからめ手に出たか。

諜報部員達はトニーの家に近づけない。窓から覗き込むことはするが、それは何かあった時だけだ。普段は近くに寄るだけで、ルロイに感づかれて嫌がられる。
だからトニーが村長の家から戻ってから、どんな話し合いがされたのかは分からない。
まあ、どうせガイドロ辺境伯との養子縁組なんて受けないことは分かっているから、俺達が騒ぎ立てることは無い。

トニーとしっかりと話をして、王都に連れて行く承諾を取って欲しいから、ルロイ達に会いに行くのにしばらく間を置いていた。
一応 “魔の森” の調査という名目でここに来ているが、調査は終わっている。元々そんなにやることは無かった。
久しぶりにフリックとゆっくり過ごすことができたから、ありがたかったが、そろそろ会いに行くか。

フリックと一緒にトニーの家を訪れる。
離れた所から諜報部員達が手を振って挨拶してくれる。ずいぶんと家から離れているな。ルロイの感覚は優れているから、訓練を受けた諜報部員でさえ、おいそれと近づけないのだろう。
それでも、もうすぐ王都に戻れると思っているためか、皆が嬉しそうだ。やることもないだろうし。

「ルロイ居るか、ジャークだ。フリックもいる」
ノックと共に声をかけると、少ししてからルロイが出てきた。

「え……。お前、ルロイか?」
俺とフリックはルロイを見て、目を疑った。
ルロイが変わっていた。
姿形が変わったわけじゃない。色白の美形のままだ。
雰囲気がずいぶんと変わってしまっている。

今までの少し子どもっぽい雰囲気が一切無くなった。一気に大人びて色っぽい。気だるげでフェロモンが駄々洩れしている。
この5日間で一体何があったんだ?

言葉を失ったまま家に通されると、トニーに挨拶をする。
トニーは何故か下を向いたまま、こちらを見てはくれない。顔が赤いし酷く疲れているみたいだ。

「すみません、こんな椅子しかなくて。座って下さい」
トニーに促されて、俺とフリックは食事テーブルの椅子に座る。この家には2脚しか椅子がないようで、トニーとルロイは並んでベッドに腰掛ける。

トニーが身体を強張らせる。
ルロイの距離感がおかしい。トニーが身じろぎをして、ルロイと距離を取ろうとしているのだが、ベッタリと引っ付いているうえに、腰に腕を回して、トニーが逃げないようにしている。

これはルロイか?
今までのルロイは無表情で口数の少ない子だった。
トニーのことを喋る時だけは饒舌だが、それでも表情を動かすことは少なくて、ニコリともしたことは無かった。
俺達がトニーと初めて会った時、ルロイがトニーを振り回して気を失っており、ルロイは泣いていたから気づかなかったが、今のルロイは笑っている。
それも笑顔全開だ。キラキラの笑顔をトニーに向けている。
ルロイのキャラが変わってしまっている。

「ルロイ放して。あの白湯しかありませんが」
「あ、いえ、こちらが押しかけているので、お気遣い無用です。隣村から果実水を買ってきましたから、よろしかったらどうぞ」
俺は果実水の入った瓶をテーブルに置く。

「ありがとうございます。ルロイ、コップを出して」
ルロイは頷くと、コップを取りにベッドから離れる。トニーはホッと息を吐いている。
たが、すぐにルロイはコップをテーブルに置くと、今度は抱き着く勢いでトニーの隣に座る。
いくら久しぶりに養父に会えたとはいえ、甘え過ぎだ。

「そろそろ王都に戻ろうかと思うのですが、トニーさんはどうされますか? ルロイからは、トニーさんも一緒に王都に行かれると聞いているのですが、よろしければ、ご一緒しませんか? 私達は馬車できているので、貸し馬車で行くよりも便利で早いですよ。もちろん途中で宿に泊まるので、野宿なんてしません」
「はい……。俺も、もうルロイと離れたくはないので、一緒に王都に行こと思っています。ですがご迷惑じゃ?」
「いえいえ、ぜひご一緒しましょう。遠慮なんて必要ありませんよ。トニーさんと一緒なら、私達も楽しいです」
俺はにこやかに答える。

やった! トニーが王都に来てくれる。俺とフリックは心の中でガッツポーズをとる。
村に残ると言われたら、ルロイも残ると言い出すだろうから、どうやって説得するか考えていた。
良かった、本当に良かった。

「そうだよ、俺達は夫夫だから離れたりしないんだ。王都の家で一緒に暮らすんだ。楽しみ」
「ルロイっ」
「「え……」」
ルロイは嬉しそうな顔で、俯いたままのトニーの顔を覗き込んでいる。
トニーは驚いて声を上げ、俺達は声を失った。

「夫夫って、ルロイとトニーさんが?」
「そうだよ。言ってたじゃないか、俺は結婚しているって」
「聞いていたけど、まさか相手がトニーさんだとは……」
「養父じゃなかったのか……」
「やだなぁ、同性同士の結婚の時は、そうするんだろう。ジャーク達だって、そうだろう」
「いや、そうだけど……」
ただのパパっ子だと思っていたが、入籍って、そっちだったのか。思いもしなかった。
結婚していたと言っていたのは、てっきり言い逃れの嘘だと思っていた。

「ちょっと待て。入籍したのは10歳の頃だって言っていたよな、まさかそんな小さい子ども相手に……」
「ち、違いますっ。そんなことしていないですっ」
善良そうに見えるトニーだが、まさか幼いルロイに手を出していたのか? 子どもに手を出す奴は最低だ。
思わずトニーを睨みつけると、トニーは慌てて両手を振って否定してくる。

「やだなぁ、やったのは俺だよ。フリックが誘うのがヤル方って教えてくれたじゃないか。やっと本当の夫夫になれたんだ。長かったなぁ、もう離れたりなんかしない」
ルロイは、それはそれは嬉しそうに笑うと、トニーに抱き着いている。
恥ずかしがって、ルロイを押しのけようとしているトニーの首筋にうっ血の後が見える。それも何カ所も。

全てが腑に落ちた。
いきなりルロイが大人びたのも、トニーが気怠そうにしているのも。

「やったのか……。そうか、大人になったんだな」
隣でフリックが呟く。

「うわーっ!」
フリックの要らない言葉が聞こえてしまったのだろう。いきなりトニーが叫ぶと、ルロイを押しのけて、掛布団を被ってしまった。
火事場のクソ力ってやつだな。

「え、え、どうしたの? 具合が悪いの?」
「うるさい、うるさいっ。もうルロイなんて知らないっ!」
「そんな、何に怒ってるの? どうしたんだよ?」
布団団子にルロイがオロオロと声をかけているが、布団団子はかたくなだった。頑として丸まったままだ。

合意だよな?
そんな嫌な思いが頭をかすめるが、二人を見ていると、トニーは恥ずかしがっているだけで、拒否はしていない……。と、思う。心配はしなくていいだろう。

「知らないだってよ、初々しいな」
フリックも同じように感じているようだ。

「えっと、俺達はおいとまします。あの、出発の日程は、また改めて相談させてください。失礼しました」
俺達は、見えてないだろうがトニーに一礼すると、その場を後にしたのだった。





――― ――― ――― ―――


※ 次回、最終回です。
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